"愛してる"の想いを 作:燕尾
どうも、燕尾です。
二話目です。
桜坂春人は桜の大樹を見上げている。
綺麗なピンク色の花びらがヒラヒラと舞い落ちる様を観賞していた。
「
ふと、無意識にそんな言葉が出る。
満開から数日もしないうちに散りゆく様はよく人の命や生き様に結びつけれることが多い。
短い期間に綺麗に咲き誇り、そして散っていく姿は儚くも美しいーーという感情を人の生きる道と重ね合わせているのだ。
人の一生は短く、だからこそどういう風に生きて、どういう風に終えるのかが重要となってくる。それは人生という
正直、俺は人間と桜を結びつけるのは人間の自己満足だと思っている。
「あと一年か……」
今日死にゆく桜の花が次に生まれるのは約一年後。その時の桜を俺は見ることができるのだろうか。
「……帰ろう」
感傷に
「わあああ!? どいてどいてー!!」
響いた声に反応して後ろを見る。猛スピードで走ってくる少女がいた。そしてそのルート上には――俺。
普段なら避けるなんて造作もないことだ。しかし、このときの俺はぼけっとしていたせいで反応が遅れ、そして――少女と見事にぶつかった。
ぶつかった反動で息が吐き出されるも倒れるまでとはならない。しかし、華奢な少女はそうはいかなかった。
「――あぶない!」
少女は背中から地面へとダイビングしそうになっていた。俺は咄嗟に少女の手を取る。が、予想以上に少女のほうに状態が傾いていたため引き摺られるように俺も引っ張られてしまった。
「うお!?」
「うわあ!?」
ドッシャーン、とマンガのように二人揃って倒れる。
「痛~……あっ! ごめんなさい!! 大丈夫ですか!?」
「ああ、なんとか。そっちは?」
「あなたが引っ張ってくれたおかげで痛みはあまりなかったよ! ごめんなさい、わたしが余所見していたせいで……」
「いや……俺もぼさっとしていたのが悪かっ……た……」
「? どうしたんですか?」
歯切れが悪くなった俺を不思議に思ったのか少女が首を傾げる。言葉が途切れたその原因は体勢にあった。
少女の顔の真横に手を付いて覆いかぶさり、彼女の脚の間に俺の脚が納まっている。あたかも俺が少女を押し倒しているように見えるのだ。
「あ……」
少女も気がついたのか、あはは、と笑いながら顔を紅くしていた。
「悪い、すぐ退ける」
少女から
「えへへ、ありがとね。それと改めて、ごめんなさい」
「三回も謝らなくても大丈夫だ。それより、怪我はあるか?」
「うん、君のおかげで無傷だよ!! 君は怪我とかない?」
「俺も――」
大丈夫――そう言おうとした瞬間、
「穂乃果から離れなさい! この悪漢!!」
強い衝撃を受け、体内の空気が無理やり外へと押し上げられる。
「海未ちゃん!?」
なにをされたか理解したときには空を見上げていた。そして、追撃のように竹刀が顔前に迫る。俺はそれを間一髪、両手で受け止めた。
「な、なんで止めるのですか!?」
海未と呼ばれた少女が怒りと戸惑いが入り混じったように叫ぶ。
「なんなんだ!? いきなり襲ってきやがって!」
「襲ったのはあなたでしょう!? 穂乃果に覆いかぶさるようにして……は、ははははは破廉恥です!!」
見られていたのか、しかも口ぶりからすると
「勘違いも
「問答無用! あなたのような悪漢は私が成敗します!!」
竹刀を引き抜き、叫びながらもう一度振りかぶる海未少女。
聞く耳持たない少女に溜息をついてしまう。
俺は自分に当たる前に再び受け止め、海未少女に向かって竹刀を押し返す。掴んでいるものを唐突に自分の手元に寄せられると人間は反射的に押してしまい順方向では力が入らない。その瞬間を狙って、俺は竹刀を奪った。そして海未少女が怯んでいる間に、体勢を整える。
「くっ、竹刀がなくても……」
形勢が不利になっても立ち向かって来る姿勢は褒めるが、いい加減にしてほしい。
うんざりしていると、俺と海未少女の間にさっきの――穂乃果? という少女が俺を庇うように割り込んでくる。
「海未ちゃんストップストップ!」
「穂乃果……?」
穂乃果少女に止められた海未少女はとりあえず襲ってくるような体勢ではなくなった。だが、まだ
「どういうことですか、なぜそこの悪漢を庇うのですか?」
今更だが悪漢って言う人、久しぶりに見た。
現実逃避するようにそんなことを考える。
「海未ちゃん誤解だから! この人はなにも悪くないから!!」
「……どういう意味ですか?」
射抜くような視線に怯える穂乃果少女。海未少女、君の知り合いは悪くないからそんな目しなくても。いや、俺も悪くないんだけど。
「そこの人は倒れそうになった穂乃果を助けてくれようとしただけだから、むしろ穂乃果がぶつかっちゃったのが悪いの!」
「えっ……?」
こうして、誤解は解けたのだった。
「本当に申し訳ございませんでした!!」
海未少女が頭を深々と下げる。
穂乃果少女が、経緯の説明をすること数分。状況を理解した海未少女が、次第に顔を紅くしていき説明が終わった直後、謝ってきたのだ。
「いや、誤解が解けたならそれでいいし、気にすることはない――といっても無理あるか」
話を要約すると、穂乃果少女が海未少女を怒らせて、追いかけられて逃げている最中に俺とぶつかってしまった――ということらしい。
元を辿れば自分も関係あっただなんて知れば、罪悪感の一つも覚えるだろう。まあ、大半は、たはは、と笑っているそこの穂乃果少女が悪いのだが。
「とにかく、なるべく気にしないようにな?」
「ほら海未ちゃん。この人もそういっているんだから、気にしないで、ね? それと穂乃果のことも許してくれると嬉しいな……?」
「ほ~の~かぁ~?」
「ひっ!?」
凄まじいオーラを纏い穂乃果少女ににじり寄る海未少女。ここから顔は見えないが、相当怖い顔をしているのだろう。穂乃果少女はしてはならない顔で怯えている。
「あなたが言える立場ですか!」
「いふぁい! いふぁいよふひひゃーん!」
むにょん、と、頬を引っ張られ涙目になっている穂乃果少女。なんとも微笑ましい光景なのだろうか。当の本人たちは笑い話じゃないのだろうけど。
ひとしきり制裁を加えた海未少女がその手を離した。そしてこちらを向くともう一度腰を折った。
「この度は私や穂乃果共々、あなたにはとんだ失礼をしました」
謝られるのはこれで何度目なのだろうか。さっきとは違う意味でうんざりする。というか、なんか疲れてきた。
「だから、俺は気にしていない――ああ、わかった。うん。確かに失礼なことされた。だけどきみたちは謝ってくれた」
だからこれでこの件は終わりだ。
そう言う俺に、二人は顔を背け、顔を合わせなくなった。よくよく見ると二人の耳が紅く染まっていた。
「あー、なんか、その、悪い……」
なぜか俺まで謝ってしまい、微妙な空気が場を支配する。
そんな空気を壊したのは一つの声だった。
「穂乃果ちゃーん、海未ちゃーん!」
二人の名前を呼びながらこちらへと走ってくる人影が一つ。
「あっ、ことりちゃーん!」
穂乃果少女がぶんぶんと手を大きく振る。それにあわせてことりと呼ばれた少女も笑顔で応じるが、体力がないのか若干辛そうだ。
俺たちのところへ辿り着くも、肩で息をしていた。
「はあ、はあ……もう、穂乃果ちゃんも海未ちゃんも急にいなくなっちゃうんだもん。ことり、あちこち探し回ったんだよ?」
ちょっと批難するような声色に二人ともバツが悪そうな顔をする。
「す、すみません、ことり。穂乃果の逃げ足が速かったもので」
「穂乃果のせいにしないでよ、海未ちゃん!?」
「穂乃果が逃げなければ済んだ話じゃないですか!?」
そしてそのまま言い合いに発展する穂乃果少女と海未少女。そんな二人に対して、ことり少女はニッコリと笑った。
「穂乃果ちゃん、海未ちゃん。喧嘩はほどほどにね♪」
「ご、ごめんなさい……」
「す、すみません……」
後ろに
うんうん、と満足そうに頷いたことり少女は俺のほうに顔を向けた。
「それで、あなたはどちら様ですか?」
「ことりちゃん! この人は……えっと……?」
俺のこと紹介しようとした穂乃果少女が言葉に詰まる。
無理もない。色々重なってまだ一度も名乗っていないのだから。
「そういえばちゃんとした自己紹介をしていませんでしたね……」
海未少女も気づいたのか溜息をつく。このぐだぐだな状況にことり少女はあはは、と苦笑いしていた。
すると穂乃果少女がパンッ、と手を叩いた。
「というわけで改めて自己紹介しようよ!」
穂乃果少女の提案に誰も否定はしなかった。そして――
「わたしは高坂穂乃果! 今度から音ノ木坂学院二年生で、実家は和菓子店をやっているよ!!」
元気いっぱい犬系少女――穂乃果少女こと高坂穂乃果。
「私は園田海未です。穂乃果と同じで今度から音ノ木坂学院二年生になります。剣道や弓道、日舞などの武道をやっています。よろしくお願いします」
礼儀正しい大和撫子――海未少女こと園田海未。
「わたしは南ことり。穂乃果ちゃんと海未ちゃんと同じ音ノ木坂学院二年生です。手芸が得意で好きなものはチーズケーキです。よろしくおねがいします♪」
ふわふわ
「俺は、桜坂春人。音ノ木坂学院二年だ。まあ、よろしく」
俺こと――桜坂春人。
この三人との出会いは俺の
いかがでしたでしょうか。
今日も一日お疲れ様でした。