"愛してる"の想いを   作:燕尾

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燕尾です。四話目です。





4.友達

 

新年度が始まり、二年生となって最初の登校日。俺はクラス替えの掲示を見る。

周りでは今年も一緒だった、とか、違うクラスになった、とか騒いでいるなか、親しい友人もおらず、特に興味もなかった俺はクラスだけ確認して教室へと向かう。

二年生のクラスは二クラスある。ちなみに三年生は三クラス。そして、今年の一年生は話によると一クラスしかないらしい。

少子化の(あお)りを受けて、少し前に男子を取り入れて共学となった音ノ木坂学院。だが実りは少なく、こうして学年が下がっていくに連れてクラスが少なくなっている。このままだとおそらくは――

ふと頭にある考えが過ぎる。だが正直に言うと関係ない話だ。それに、俺が出来るのは未来を考えるのではなく、今を生きることだけ。

そう結論付けた俺は教室へとたどり着いた。

これから始まる二年生の学園生活に心を躍らせることもなく、中へと入る。その瞬間クラスの人達の視線がこちらへと集まる。だが、それは反射的な行動で、俺を確認したクラスメイトたちは元の会話へと戻る。

 

「あー! 春人くんだ!!」

 

その中でも俺の顔を見て声を上げた人間が一人。先日出会った高坂だった。その場には南と園田もいた。どうやら今年もあの三人は一緒のようだ。

おはようと挨拶し、自分の席へと向かう。その場所はなんと高坂の隣だった。

 

「穂乃果とお隣だね! よろしく、春人くん!!」

 

「ああ、よろしくな高坂。園田も南もよろしく」

 

 

 

 

 

「……高坂?」

 

「園田?」

 

「南……?」

 

 

 

 

 

新年度の無難な挨拶のはずなのに、三人は不機嫌そうな顔をする。むーっと睨んでくる原因は俺にあるみたいなのだが、よくわからない。

 

「春人くん? 穂乃果たちのことは名前で呼んでっていったよね……」

 

あ、と声を洩らしてしまう。そういえばそうだった。

初めて会ったときに名前で呼んでほしいといわれたのをつい忘れていた。

 

「やっぱり穂乃果たちの名前を呼びたくないんだね……」

 

不機嫌から一転、悲しげな顔をする高――穂乃果たち。俺は慌てて言い直した。

 

「呼びたくないわけじゃない。忘れてたんだ。悪いな、穂乃果、海未、ことり。改めてこれから一年よろしく」

 

「うん、ばっちりだよ! 春人くん!」

 

「はい、よろしくお願いしますね。春人」

 

「春人くん、よろしくね♪」

 

表情がコロコロ変わる三人。不機嫌そうな表情や悲しげな表情に嘘臭い感じもするのだが、そこは気にしない。

 

「まさか、四人みんな一緒のクラスになるなんて思わなかったよ!」

 

「ここまで(そろ)うのは珍しいですね」

 

「そうか? 俺からしてみたら三人がずっと一緒って言うのがすごいと思うんだが」

 

前聞いた話では穂乃果たち三人は小学校一年からずっと同じクラスだという。ということは今年で十年目。十年連続一緒というのは珍しいというより奇跡に近い。

 

「今年は春人くんもいるし学院生活が楽しくなりそうだよ」

 

なんの曇りもない穂乃果の言葉に笑顔で同意する海未やことり。そんな彼女らに少し照れくさかった俺は顔を背け、頬を掻く。

でも穂乃果の言う通り、俺の学院生活も去年と変わって少し楽しくなるだろうと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後からは入学式で、生徒会など役職がある人達以外の在校生は午前までだ。

加えて、新年度の最初は授業らしい授業などしないので、クラスの顔合わせのような一日だった。

 

「さて……」

 

荷物をまとめ、教室を後にする。後ろから騒がしい声が聞こえるものの、特に気にしない。

 

「今日の夜はなにを作ろうか」

 

頭の中で今日の献立を考える。あれこれと考えているうちに玄関へと付いた。

 

「春人くん!!」

 

靴を履き替えて、校舎から出ようとしたところで呼び止められた。振り向けばそこには穂乃果がまたもや不機嫌そうに立っていた。

 

「え、えーと、どうした……? 何かあったのか?」

 

朝の名前の一件とは違い、今回はまったく心当たりのない俺は恐る恐る尋ねる。

 

「なんで先に行っちゃうの? 教室でも声をかけたのに……」

 

「えっ?」

 

まさか、さっきの声って穂乃果のだったのか……? しかも俺を呼んでいた……!?

 

「みんなで一緒に帰ろうと思って声かけたのに、春人くん、無視してすぐにいなくなっちゃってさ。穂乃果たちと帰るのが嫌なの?」

 

「わ、悪い。そういうわけじゃなかったんだ」

 

「じゃあ、どうして無視したの?」

 

責めるような穂乃果の視線に冷や汗が落ちる。下手なことを言えばさらに怒らせるのは必至だ。

ここは正直に言うしかない。

 

「俺は今まで誰かと一緒に、なんてなくて、いつも一人で過ごしていたんだ。だから人の声とかに疎くて、俺が呼ばれてるなんて思いもしなかった」

 

友人らしい友人もおらず、去年偶然聞いたクラスメイト達からの評価は"幽霊のような男子"だ。周りからしたら、気づけばいつの間にかいて、気づけばいつの間にか消えている、という認識だ。俺自身、自分から話しかけることも無ければ、誰かから話をかけられることもなかった。

周りと関わってこなかった俺にとってはいつも通りの平常運転なのだ。

 

「――なんてただの言い分けか。ごめんな、無視して」

 

穂乃果はなにも言わず、言葉の続きを待っていた。

 

「でも、わからないんだ。どういう風に付き合っていけばいいのか。誰かと過ごすことなんてなかったから。だから、本当に気を悪くする前に俺から――」

 

離れたほうがいいぞ、そう言おうとしたが、穂乃果に(さえぎ)られた。

 

「春人くん、それ以上言ったら本気で怒るよ?」

 

ギュッと俺の右手が穂乃果の両手に包まれる。彼女の柔らかさにどぎまぎしてしまう。

 

「ほ、穂乃果……?」

 

「春人くん。穂乃果は――ううん、穂乃果だけじゃない。海未ちゃんやことりちゃんも春人くんとは友達だと思ってた。そう思ってたのは穂乃果たちだけなのかな?」

 

「……」

 

まっすぐで何の恥じらいも持たずに言う穂乃果に返す言葉が出ない。

 

「まだ出会ってから少ししか経ってないけど私たちは春人くんの友達だよ」

 

やわらかな笑顔を浮べる穂乃果に、言われたことの無い言葉に胸が高鳴る。この子は本気でそう思ってくれている、そう感じた。

友人だと言ってくれる人がいるのはこんなにも嬉しいのか。

 

「ごめん、穂乃果。俺には友達がなんなのかよくわからない」

 

「春人くん……」

 

表情を歪ませる穂乃果。俺は余っている手で穂乃果の手に触れた。

 

「でも、穂乃果のおかげで少しは知ることが出来た。こんな俺だけど、これからは穂乃果たちの友達と言ってもいいか?」

 

最初はキョトンとしていたが、次第にパァァ、と彼女の表情が晴れる。

 

「うん、もちろんだよ!!」

 

笑顔の彼女に釣られて俺も微笑んだ。

優しい空気が流れる中、バックが落ちる音がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、穂乃果……春人……なにをしているのですか……?」

 

 

 

 

 

「わあ、穂乃果ちゃんも春人くんも大胆!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには顔を真っ赤にしている海未と、ニコニコしていることりがいた。

 

「こんな場所で二人して手を繋いでいるなんて、は、ははは破廉恥です!!」

 

海未の指摘に大分恥ずかしいことをしていたことに気づいた俺たちはバッ、と手を離す。

 

「う、海未ちゃん、落ち着いて! ね!?」

 

「穂乃果の言う通りだ、俺たちの話を――」

 

「二人ともそこに正座しなさい!!」

 

この後、下校時間がすぎて先生に怒られるまで海未のありがたい話が続いた。

こうして、俺に友人と呼べる人達が出来たのだった。

 

 





いかがでしたでしょうか?

ではまた次回にお会いしましょう。



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