"愛してる"の想いを   作:燕尾

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おひさしぶりどす

大学院の志望理由書やらゼミ発表の準備やらで全然更新できなかったです




6.廃校2

 

 

 

「うぅー……どうしよー……まさか廃校が本当だったなんて……」

 

教室に戻ってきて穂乃果は頭を抱えていた。

保健室では最初、俺から伝えられた全校集会の内容を信じられなかった穂乃果だったが、教室までの道のりの途中の掲示板に張ってあった「廃校の知らせ」に一気に現実に引き戻された様子だった。

 

「仕方のないこととはいえ、少し残念ですね」

 

「お母さん、ここ数日思いつめた様子だったのはそういうことだったんだ」

 

海未とことりの言葉もどこか元気がない。

かくいう俺はそこまで落ち込んではいない。そもそも、この学校に想い入れみたいなのがないからだ。

 

「海未ちゃんやことりちゃんはまだいいよ……春人くんは……」

 

穂乃果が、二人をうらやましそうに(にら)む。(いわ)れのない不満をぶつけられた二人は戸惑っていた。俺にも意味ありげな視線を送ってきて俺の反応を待っている穂乃果。なにを聞きたいのか大体予想できた俺は穂乃果に向かって言い放った。

 

「……俺の成績は学年で十位以内だと言っておく」

 

「春人くんの裏切り者ー!!」

 

穂乃果は叫び、頭をわしゃわしゃと()(むし)った。話が見えてこない海未とことりはポカンとする。

 

「えっと、どういうことですか?」

 

「だって、海未ちゃんやことりちゃんはそこそこ成績いいし、編入試験とか楽勝じゃん! 私なんて、私なんて……うわーん! 勉強どうしよー!? 海未ちゃーん、助けてー!」

 

そう叫んで海未に(すが)る穂乃果に海未は呆れたような顔をする。穂乃果の勘違いに気づいたのだろう。ことりも気づいたのか、俺のほうを見てくる。

 

「落ち着きなさい穂乃果。学校がなくなるのは私たちが卒業した後のことですよ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「そうだよ。いまの一年生が卒業してからだから、早くても三年後だね」

 

「ええ、ことりの言う通りです。だいたい、普段から勉強していればそんなに慌てることないでしょうに……」

 

「うっ……海未ちゃん、こんなときにお説教はやめてよぉ~」

 

涙目で海未の机にかじりついている穂乃果。そんな穂乃果に小言を言い続ける海未。

 

「本当に春人くんの言う通りになっちゃったね……」

 

「自分で言っておいてなんだが、まさかこうなるとは思わなかった」

 

保健室で話をしたことりと俺は苦笑いしてその光景を見ていた。

 

「春人くん、助けてー! 海未ちゃんが怖いよ~」

 

「お、おい。いきなりこっちにくるな……」

 

すると海未から逃げるように今度は俺に縋って服を掴んでくる穂乃果。ぐい、ぐい、と服を引っ張る穂乃果の手を離そうとするけど、決して穂乃果ははなそうとしなかった。

 

「穂乃果! 春人の服を掴むのをやめなさい!! 春人も穂乃果を甘やかすのはやめてください!!」

 

「俺は何もしていないんだが……!?」

 

とんだとばっちりを受ける俺。

この混沌とした状況は先生が来るまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、俺たちは中庭で昼食を取っていた。

 

「いやぁ~今日もパンが美味い!!」

 

編入試験の心配がなくなった穂乃果は、はむっ、と大きく口をあけて笑顔でパンをくわえる。

 

暢気(のんき)なものですね。太りますよ」

 

海未はジト目で注意する。穂乃果は女の子の中では食欲旺盛なほうで、いま食べているパンは二袋目だった。

 

「それにしても新年度始まってまだ少ししか経っていないのに廃校の知らせとは驚きましたね」

 

「まだ正式に廃校するって決まったわけじゃないけどな」

 

理事会が来年の生徒の増加が見込めないと判断したときだ。それでも、今の状況を(かんが)みれば学院がなくなるのは確実だろう。

 

「でも、正式に廃校が決まれば新しい一年生が入ってこないで二年生と三年生だけになるってことだよね」

 

「いまの一年生にはずっと後輩ができなくなりますね……」

 

「そっか……それはちょっと寂しいね……」

 

今いる後輩のことを考えた三人が沈んだ気持ちになっていた。

春の陽気よりも沈みこむような空気が場を支配している。そんな中二つの雑踏が近寄ってきた。

 

「ちょっといいかしら」

 

声をかけてきたのは女の子にしては身長が高めの金髪の少女だった。後ろには付き添いの少女もいた。

 

「誰?」

 

「知らないのですか!? 生徒会長と副会長ですよ!!」

 

「ああ、この人たちが……」

 

「春人くん、全く興味無いんだね」

 

ことりが苦笑いする。

興味がないと言えばないが、どちらかというと気にしていられなかったというのが正しい。

 

「面白い子やね」

 

副会長が本場にも似つかないエセ関西弁で俺を笑う。

 

「別にこの子に知られてなくても構わないわ。それより――南ことりさん、ちょっと聞きたいのだけれど」

 

「は、はい! なんでしょうか」

 

会長に直に指名されたことりが緊張した面持ちで返事する。

 

「貴女は今回のことについてなにも知らなかったのかしら?」

 

「今回のことというと、廃校のことですか?」

 

聞き返したことりに静かに頷いた会長。

会長の問いに対してことりは静かに首を横に振った。

 

「お母さんからは何も聞いていません。わたしも廃校のことは今日初めて知りました」

 

「そう……ならいいわ……」

 

確認のためだけに話しかけてきた会長はそれだけ言って立ち去ろうとする。

すると、穂乃果がいきなり立ち上がり、その背中に投げ掛けた。

 

「あの! 本当に学校、なくなっちゃうんですか!?」

 

生徒会長はピタリた足を止める。そして、瞬巡したのち振り返った。

 

「貴方たちには関係のないことよ」

 

冷たいとも捉えられる態度でそう言って今度こそ会長は去っていった。

会長に付き添っていた副会長は俺だけに見えるように口元に人差し指を当てる仕草を見せてウィンクして会長の後を追った。

 

「何も言わないで、か……」

 

「春人? なにか言いましたか?」

 

いや、何でもない、とごまかしつつ生徒会の二人が見えなくなるまでその背中を眺めていた。

 

 

 






いかがでしたでしょうか?

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ではまた次回に



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