"愛してる"の想いを   作:燕尾

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燕尾です。

九話目です。





9.前途多難

 

 

海未とことりが加わり、改めて四人でのスタートを切る俺達はアイドル部を作るために生徒会へと踏み込んだ。だが、

 

「アイドル部、ね……」

 

書類を見た会長が息を吐く。緊迫した空気が場を支配しているのか穂乃果たちも緊張気味だ。

 

「はい、私たち三人でアイドルをやりたいと思っています!」

 

「そこの彼は?」

 

「俺はおまけとでも思っていてくれ。やることはしっかりやるけど」

 

おまけじゃないよ! と声をあげて否定する穂乃果。そこはいま重要じゃないのでスルーする。

 

「なぜ、いま二年生の貴方たちがこの時期に創部しようとするのかしら?」

 

「それは、やってみたいと思ったからです。後、私たちが人気になれれば廃校も阻止できるかもしれないからです!」

 

穂乃果の返答に会長はそう、とだけ呟いて、再び書類に目を落とす。そして、

 

「残念だけど、部活創部には最低六人は必要なの。だからこれじゃ認めることができないわ」

 

規則を知らなかった三人は会長の言葉に落胆する。しかし、それだけではなかった。

 

「それに、仮に六人集めたとしてもアイドル部の設立は認めないわ」

 

唐突に言い放たれた宣言に俺達は目を()いた。

会長は"認めることができない"ではなく"認めない"と言ったのだ。

 

「どうしてですか!?」

 

当然納得のいかない穂乃果は問い詰める。会長は俺達全員に(にら)みを()かせる。

 

「スクールアイドルで廃校を阻止しよう、なんて活動は認めないわ」

 

成る程な、と俺は合点がいったが、穂乃果たちは会長の意図が分からず怪訝そうな表情だ。

 

「いい? 廃校を阻止するということは学院の名を背負うってことなの。スクールアイドルなんてお遊びに学院の名を負わせるわけにはいかない。むしろマイナスにしかならない。だから認めないわ」

 

そこまで言うのかと思うほどに会長は否定的だった。

 

「部活は生徒を集めるための手段じゃない。限られたなかでもっと有意義な時間の使い方を考えるべきよ」

 

会長に返す言葉がない穂乃果たち。ここは引いた方が良さそうだ。

 

「穂乃果、一旦下がるぞ。今日は分が悪い」

 

俺の提案に頷いた彼女たちは生徒会室から出ようとする。

 

「あれ? 春人くんは行かないの?」

 

「ああ、ちょっと個人的な用で。先に戻っててくれ」

 

「わかりました、ではまた後で、春人」

 

こうして一人残った俺は改めて会長と対峙する。

 

「それで、個人的な用って何かしら?」

 

「理由を聞きたい。穂乃果たちの活動を認めないわけを」

 

理由次第では今後この人とどう接するかが決まる

 

「それはいま言ったばかりじゃない。あの子達の――」

 

「そういうことじゃない、なんでスクールアイドル活動が"お遊び"なんだ? どうして会長は穂乃果たちの活動が学院にとってマイナスだと判断したんだ? 俺が知りたいのはそこだ」

 

プラスかマイナスかなんて蓋を開けてみなければわからない。つまりはそういうことだ。

 

「決まってるじゃない。スクールアイドルなんて無意味だからよ。伊達や酔狂で学院の名前を背負わすのを認めるとでも思う?」

 

価値観の違い――一言で言えばそれだ。会長と俺たちのものに対する見方が違う。

だが、それだけではない。会長の認めたくない本当の理由は別にある。その理由を彼女がここで語ることはなかった。

 

「もう少し、マシだと思っていたんだけどな」

 

「――それはどういう意味?」

 

言葉に怒気をはらませて問いかけてくる会長。しかし、ここで俺が丁寧に答える義理はない。

 

「知りたいなら自分で考えてくれ。答え合わせならしてやるから。それじゃ、失礼しました」

 

無言の会長と副会長を尻目に俺は生徒会室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからどうしよう……」

 

気落ちしたような声で穂乃果が洩らす。

 

「がっかりしないで、穂乃果ちゃんが悪いわけじゃないんだし……」

 

穂乃果を励ますことりもどこか元気がない。まあ、あそこまで否定されたのだから無理もないし、気持ちもわかる。

 

「でも、部活として認められないと講堂も借りられませんし、部室ももらえません。そうなると練習場所さえ……」

 

海未の言う通り、部活でない限り部室もないし、行動できる範囲に限りが出来てしまう。だが、

 

「あきらめるのは早いと思うが」

 

何も出来ないわけじゃない。今回はただ、生徒会に理解されなかっただけだ。

 

「そもそも、生徒会の許可なんて必要ないだろ」

 

「「「ええっ!?」」」

 

俺の言葉に三人は声を上げる。

 

「穂乃果たち"部活"をしたいんじゃない。"スクールアイドル"をしたいんだろう? だったらやりようはいくらでもある」

 

「春人くん、悪い顔してるよ……」

 

「失礼な」

 

随分なことを言う穂乃果に俺はムッとしてしまう。

 

「ですが一体、どうするのですか? 先ほども言いましたが、部活動でないと――」

 

「それがまず間違いだ。生徒なら誰だって講堂を借りられる。練習場所だって空いてる場所がどこかはあるはずだし、話し合いなら教室でだって出来る。いま部活にこだわる必要なんてない」

 

いずれは必要になってはくるけどな、と付け加える。しかし、人数も揃っていない今は考えても仕方のないことだ。

 

「だから生徒会にいまとやかく言われる筋合いはない。第一、生徒会は生徒が楽しい学院生活を送るためにサポートする組織だ。その生徒会が生徒を縛ってどうする」

 

「それは屁理屈というものでは……」

 

「屁理屈じゃない。しっかり道理に適っている。俺がいま言ったことはどこも校則に違反してないし」

 

講堂は借りられるし、許可の必要ないところや立ち入り禁止ではない場所なら誰がいつ使っても問題ない。

 

「確かにそうだけど……」

 

ことりと海未はどこか迷っている。だが、穂乃果は何か考え込んでいた。

 

「春人くん」

 

「なんだ?」

 

そして彼女は何か決意したように俺を真っ直ぐ見つめてくる。

 

「私たち、出来るかな? スクールアイドル」

 

確認のような彼女の問いかけに俺は頷いた。

 

「出来るかじゃない、やるんだろ?」

 

俺の言葉をかみ締めるように受け取った穂乃果は前を向いた。

 

「そうだね……うん! やろう、スクールアイドル!!」

 

こうして、前途多難なスクールアイドルの活動が始まる。

 

 

 

 

 






いかがでしたでしょうか?

ではまた次回にお会いしましょう



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