"愛してる"の想いを 作:燕尾
どうも燕尾です
10話目です。
「失礼します!」
翌日、俺たちは再び生徒会室へと乗り込んだ。
会長は俺たちの姿を見てあからさまに息を吐く。
「なに? 朝から。私たちも暇じゃないんだけど」
当たり前だが、明らかに会長は警戒していた。
「講堂の使用許可を貰いにきました!」
穂乃果の言う通り、今回俺たちが生徒会に来たのは講堂の使用許可、つまりはライブ場所の確保だ。
「部活に入っていない生徒でも空いていれば使えると生徒手帳にも書いてありましたので使わせてほしいなと思いまして」
海未が穂乃果のフォローに入る。これで素直に頷いてくれるならそれで良いのだが。
「講堂で何をするつもりなの?」
あまりいい反応ではなかった。昨日の今日では当たり前のことだ。
「それは……」
海未は言葉に
打ち合わせでは内容は伏せておいて場所を取るだけ取るつもりだったのだが、そう簡単にことは運ばない。
視線で海未が助けを求めてくる。俺は仕方がないと一息入れる。
本当は俺が前に出ることはよくないのだが、手助けをするぐらいなら問題はないだろう。
「俺たちは――」
「ライブをします!!」
俺の言葉を遮った穂乃果の宣言。生徒会室に静寂が訪れる。
昨日打ち合わせたことの話を全く聞いていなかった穂乃果に俺は頭を抱え、海未は
「私たちは新入生歓迎会でライブをしたいと思ってます。その場所として講堂を使いたいんです!」
「ほ、穂乃果! まだやるとは決めてないんですよ!?」
「ええ!? やるよ! そのために来たんじゃん!!」
「まだ何一つ決まってないんだけど……」
生徒会の二人プラス俺をそっちのけで話し合う三人。痺れを切らした会長が口を挟む。
「本当にそんな状態で出来るの?」
「そ、それは……」
口ごもる穂乃果に、会長は追い討ちをかける。
「新入生歓迎会は遊びじゃないのよ」
完全に言い負かされている穂乃果たち。もともと彼女たちは口が回るほうじゃないから仕方が無い。俺がついてきたのもそのためだ。
「――別に遊んだって良いじゃないか」
俺の言葉で空気が変わる。
「どういうことよ」
会長が俺を睨んでくるが、俺は
「せっかく数少ない新入生を歓迎しようっていうんだ。楽しくなかったら意味が無い。それに――花火を打ち上げるのも悪くないだろ」
「……花火の準備は生徒会が主導なのよ。あなたたちがやることじゃない」
「俺たちは講堂の使用の件について来たんだ。そもそも、俺たちは部活動じゃない。だから内容を会長にぐだぐだ文句言われる筋合いも無い」
「そういうことじゃ――」
「――まあまあ、えりち。そこまでにしとき」
食い下がってくる会長を止めたのは副会長だった。
「希……」
「そこの彼の言う通りや。部活じゃない彼女らに生徒会が内容をとやかく言う権利は無いと思うんやけど?」
「それは、そうだけど……」
「この場合は使えるか使えないか、それを答えるべきや」
副会長に諭されて、どこか悔しそうな表情をする会長。
そして、俺たちは講堂の使用する権利を手に入れた。
なのだが、
「ちゃんと話したじゃないですか!! アイドルの話は
昼前の中休み、海未は穂乃果に説教をしていた。穂乃果は顔を伏せておちこんでいるようだった。
「春人が上手く口添えしてくれたから良かったものの、あのままだったら認めてもらえなかったんですよ!?」
「ふぇ? なんで?」
「……パンを食べていたのか」
顔を上げた穂乃果の口元にはパンが見える。
落ち込んでいるのではなくただパンに齧り付いていただけだった。
「またパンですか?」
「うち和菓子屋だからね。パンが珍しいのは知ってるでしょ?」
「太りますよ、まったく……」
「そうだよね~」
まったく反省するそぶりも無いまま再びパンを食べる穂乃果。そんな彼女の隣に海未は腰をかける。
「とりあえず講堂を借りられたのはいいが、どうするつもりだ?」
座って落ち着いた二人に俺は問いかける。
「なにが~?」
俺の質問の意図がわかっていない穂乃果はキョトンと聞き返してきた。
「この後のことだ。穂乃果たちはまだ何も――」
「あ、お二人さん。こんなところにいたんだ!」
決めていないんだぞ、という俺の言葉は後ろからやってきた声に
後ろから声をかけてきたのは三人組の女子生徒だった。当然俺の知り合いではなく穂乃果たちの知り合いだ。
「誰だ?」
三人に聞こえない程度に小さく海未に聞く。彼女は知らなかった俺に驚きの目を向けた。
「クラスメイトですよ!?」
「そんなこと言われてもな……知らないのは仕方が無いだろう?」
「左からヒデコ、ミカ、フミコですよ」
「略してヒフミか」
「略さないでください!」
駄目か? と言う俺に海未はキッパリ、駄目です、と頷いた。
小声で話す俺たち二人を不思議そうに見つめる三人だったが、穂乃果に向き直った。
「それよりも、掲示板見たよ!」
「……掲示板?」
聞き覚えの無い単語に首を傾げる。海未も同じようで俺と海未は顔を見合わせた。
「スクールアイドル、始めるんだって?」
「海未ちゃんがやるなんて思わなかったけど」
三人の言葉に混乱する。
穂乃果たちがスクールアイドルをやることを知っているのは今のところ本人たちと、俺、生徒会長と副会長だけのはずだ。それ以外には告知もしていなかった。
それを知っているという事は、見たと言っていた掲示板に何かしらのものが貼り出されているということだ。
「掲示板になにか貼ったのですかっ?」
海未も同じことを思ったようで責めるように穂乃果に問い詰める。
「うん、ライブの告知!」
渋い顔の海未とは反対に穂乃果は満面の笑みで頷いた。曇りの無い笑みに対して、俺と海未は血の気が引く。
三人との会話を打ち切って海未は穂乃果の腕を掴み掲示板を確認しに行った。俺も後についていく。
「……」
掲示板を見たとき、俺は何も言葉が出なかった。そこには穂乃果が言ったとおりの言葉が書かれたポスターが。
「な、な……なにやっているんですかぁ!!」
色々な声が飛び交って騒がしい学校の廊下で海未の声が一番大きく響くのだった。
「まったく。まだ何一つ決まっていないのに、穂乃果は見通しが甘すぎます!」
教室へと向かいながら本日二度目の小言を述べる海未。だが、今回ばかりは俺も海未に同意せざるを得ない。
「え~、ことりちゃんだっていいって言ってたよ?」
「どうしてそこで海未に聞かなかったんだ?」
そして、この現状の原因となったもう一人、ことりはというと――
「うーん、こうかな……」
ペンを握ってなにやらイラストブックに書き込んでいた。そして俺らが近づくと同時にこんなものかな、と満足そうに頷いた。
「ことり? なんですかそれは?」
「見て! これ、ステージ衣装考えてみたの!」
バッ、と見せてきたイラストブックにはことりが考えたステージ衣装を着た穂乃果の絵だった。
「おー、可愛い!」
「本当? このカーブのラインが難しいんだけど何とか作ってみようかと思ってるんだ」
ステージ衣装の話で盛り上がる二人とは対象に、海未は戸惑ったようにイラストを見ていた。
「海未ちゃんはどう思う?」
ことりから意見を求められた海未は手を震わせてイラストのある一部を指差した。
「ことり……? ここのすーっと伸びているものはなんですか?」
「足よ♪」
「ではこの短いスカートは……?」
「アイドルだもん♪」
ニッコリと即答することり。海未はイラストの衣装を自分が纏ったところを想像したのか、足をモジモジさせている。
そこまで恥ずかしがる必要は無いと俺は思っていた。海未もことり、穂乃果も別にスタイルが悪いわけじゃない。
「大丈夫だよ! 海未ちゃんの足はそんなに太くないから!!」
「人のこと言えるのですかっ? さっきまで間食のパンを食べていたあなたが!」
海未に指摘された穂乃果は自分の身体をペタペタと確認するように触れる。そして、
「よしっ、ダイエットだ!!」
「二人とも大丈夫だと思うけど……」
俺もことりと同意見なのだが、俺が言うのはおかしいと思い、口を
「はぁ、他にも決めておかないといけないことがたくさんあるよね~」
「穂乃果の口からそんな言葉が出るとは思わなかった」
「失礼だよ、春人くん! 私だって色々考えているんだから」
さっきの掲示板の一件からして、穂乃果は行動が先に来るのだと思っていたが、どうやら違ったらしい。俺は試しに聞いてみる。
「じゃあ、まず何を決めるつもりだ?」
「えっと……サインでしょ? 街を歩くときの変装でしょ? それに――」
穂乃果はやっぱり穂乃果だった。考えるべきことがわかっていなかった。
「そんなものは必要ありません。他に決めることあるでしょう!」
「そうだね、それに今は何より――」
「何より?」
「――グループ名。決まってないし」
ことりの指摘に、俺たちは全員虚を突かれた。
そして、放課後――
「はぁ~、なかなかいいのが思い浮かばないね……」
穂乃果が机にへばる。
午後の授業が終わってから図書室へと行き、グループ名を考えていたのだが、いいのが思いつかなかった。
「何かわたしたちに特徴があればいいんだけど」
「性格もなにもかもバラバラですからね、私たち」
「じゃあ、単純に三人の名前で"ほのかうみことり"とか?」
「……微妙だな。芸名みたいだぞ」
「じゃあじゃあ、海未ちゃんは海、ことりちゃんは空、穂乃果が陸で"陸・海・空"とか?」
「全然アイドルとは思えない……自衛隊じゃないんだぞ?」
「むー……じゃあ、春人くんは何か言いの思いつくの?」
「お、俺か……?」
不満げな唸りからの穂乃果の要求に俺は戸惑いを覚える。
「そうですね、春人の意見も聞きたいです」
「確かに、わたしも春人くんのネーミングセンスが気になる」
「ことり……!? それは関係ないんじゃないのか……!?」
「穂乃果の案を否定したんだから春人くんはきっといいグループ名があるはずだよね?」
「……」
いじけた声で、追い詰めてくる穂乃果。俺はしばらくの間考え込む。そして、たまたま頭に浮かんだものをそのまま言った。
「――
「小夜啼鳥? ナイチンゲール……?」
穂乃果は聴いたことがないらしく、頭に疑問視を浮かべて首を傾げる。
「ヨーロッパなどに生息する鳥ですね、鳴く声が美しいことから"西洋の
「おお、いいんじゃないかなっ? 歌が綺麗なイメージのグループ名!」
なかなかの好感触に俺は少しほっとする。それに対して海未は少し苦い顔をした。
「ですが……」
「ん? どうしたの、海未ちゃん?」
「確かに綺麗な鳴き声を持つ鳥なのなのは間違いないのですが別名が確か……」
俺をちらちら見て、言いづらそうにする海未。ここで隠しても後々問題になるだろう。
「ナイチンゲール――小夜啼鳥は別名"墓場鳥"なんて呼ばれてる」
「墓場!? 駄目だよ! そんなの絶対駄目!!」
一転して否定された俺は少し残念に思ってしまった。
「その説明はいらなかったんじゃないのかな……?」
ことりの言う通りだが、海未が気づいていた以上どうしようもなかった話だ。
「はぁ~……どうしようっか、グループ名……」
結局話は振り出しに戻り、納得するものが出てこないまま行き詰ってしまう。
「もう少し頑張ってみましょう」
「そうはいっても私たちだけじゃ限界――って、そうだ!」
そこまで言って、穂乃果は何か閃いたのかおもむろに立ち上がった。
「穂乃果ちゃん、どこ行くの?」
「皆、私についてきて!」
穂乃果はペンを持って図書室から出て行った。言われるがまま穂乃果についていった先はポスターが貼ってある掲示板だった。
そして、穂乃果はポスターに何かを書き込み、その下に箱を置く。
「これでよし!」
満足げに頷く穂乃果。覗き込むと穂乃果が置いたのは投書箱だというのがわかる。
「……グループ名募集?」
「丸投げですか……」
ライブの告知の紙の下に書かれたグループ名募集。完全に人任せだった。
「こっちのほうが皆も興味もってくれそうじゃない?」
「まあ、そうかもしれないな」
頷く俺に、そうでしょ? と言わんばかりの表情をする穂乃果。
「さて、これでグループ名はいいとして――次は歌と踊りの練習だー!!」
穂乃果が気合の入った声を上げる。それに続いて、ことりと海未も頷いた。
まだまだやるべきことは多い。
いかがでしたでしょうか?
次回更新ははやくできたらいいなぁと思います。