"愛してる"の想いを   作:燕尾

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ども、燕尾です。
番外編二つ目は、タイトルからわかりますかね?





アイドルを学ぼう

 

 

 

 

 

「遅いわよ春人!」

 

夏物のワンピースと羽織物を着て麦藁帽子を被った少女は少し怒り気味に言った。

 

「いや、にこが早すぎるだけだろう」

 

「男のクセに言い訳するのは見苦しいわよ、春人」

 

「言い訳もなにも――集合時間の15分前に着たんだぞ? 俺の前に来ていたにこが早いだけだ」

 

「あんたねぇ。そんなんじゃモテないわよ」

 

なんて言い草だ。いや、別にモテたいとかそういうのはないのだが。

 

「こういうときは女の子を待たせてしまったというところを気にしないといけないのよ」

 

「なら聞かせてもらうが、にこはいつ来たんだ?」

 

「今から15分前ね」

 

ということはにこは集合時間の30分前に来たことになる。さすがに早すぎるだろう。

俺が30分より前にここに来るためにはそれこそ集合時間の一時間ぐらい前に家を出なければならないというのに。だが――

 

「なによ、そんなじっと見つめて」

 

にこの家がどこにあるのかは分らないが、彼女は出かけるための準備をしっかりしてきたというのはこの姿を見れば分る。

穂乃果やことりたちから女の子の準備は時間が掛かるというのはよく聞かされてきた。それはにこも例外ではないだろう。しかしこうして30分前にここにきたということはかなり早起きをして準備したはずだ。

 

今日、この時間のために。

そこに対する姿勢というのは見習わないといけないだろう。なにより、

 

「にこはそこまではりきっていたんだな」

 

「な――」

 

彼女の顔が一瞬にして赤く染まる。

 

「べ、別に違うわよ! あんたを振り回せる機会なんて早々ないから、時間を無駄にしたくなかっただけ!」

 

「そうか」

 

「笑うな!!」

 

うがー、と噛み付いてくるにこ。それはまた誤魔化しているようで微笑ましく思ってしまう。

 

「ほら! せっかく早く来たんだからもう行くわよ!」

 

顔を見られたくないのか、にこはずんずんと先に進み始める。

俺は小さく笑って、顔を見ないようににこの隣に並ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にことやってきたのは秋葉原。そこでは、

 

『みんなー! 今日は来てくれてありがとう!!』

 

中央のステージにやってきた少女三人に会場の人たち全員が沸きあがっていた。

 

『短い時間だけど目一杯楽しんで行ってねー!!』

 

 

『―――――!!!!!』

 

 

大きな歓声に俺は気おされてしまう。

 

「凄い盛り上がりだな」

 

「当たり前でしょう!」

 

にこもその盛り上がりの一部となっているように興奮しながら言う。

 

 

「――なんたって、A-RISEのライブなんだから!!」

 

 

秋葉原にやってきたのはスクールアイドルとして最も注目されている、A-RISEのライブの付き添いだった。

 

「ほら、あんたも盛り上がりなさい!!

 

「いや、俺は……こうして見ているだけでも十分楽しめているから」

 

それに盛り上がれと言われても、俺には難しい。こういうことには慣れていないのだから。

彼女たち(A-RISE)の楽しそうな姿や、にこやそのほかの観客たちの楽しそうな笑顔で俺の分まで賄って欲しい。

 

「……ま、楽しみ方は人それぞれだからいいわ」

 

少し不満げだが俺を尊重してくれるあたり、にこも成長していた。以前までの彼女であれば、無理やりにでもやらせようとしていただろう。

だがにこはそれだけを言ってA-RISEのライブに集中し始める。

 

『――――!!!!』

そしてサビに差し掛かるところでに観客と共に、大はしゃぎするにこ。

そんなにこに、俺はまた小さく笑ってステージ上の彼女たちを見るのだった。

 

 

 

 

 

「すごいライブだったな……」

 

A-RISEのライブが終わった後はなんとも言いえない高揚感があった。

 

「当たり前じゃない。A-RISEなんだから」

 

隣を歩いているにこはない胸を張ってそういった。それは別にいいのだが、

 

「…何でにこが威張っているんだ?」

 

「いいのよそんなことはどうでも! ほら、早くしなさい」

 

催促するにこ。行き先を知らない俺はただ彼女の後ろをついていく。

そしてやってきたのは長蛇の列の最後尾。

しかし俺たちが並んだ瞬間にも後ろにまた人が並び、列が伸びていく。

最終的に出来上がったのはとんでもない長蛇の列だった。

 

「これから何が起きるんだ?」

 

「もうすぐでわかるからおとなしくしてなさい」

 

にこの言葉通り、俺の疑問はすぐに解消された。

 

『今からA-RISEとの握手会を行います! 一人ずつお願いします!!』

 

ライブを運営していたスタッフの一声にまた沸きあがった。

ここまでくると凄いを通り越して恐いと思ってしまう。

 

「握手会って、本物のアイドルさながらだな……」

 

「まあ、A-RISEだから」

 

そう言うにこ。なんだか、その言葉で押し切ろうとしているように思えてくる。

確かにここまでの人気が出ているのならこういうことをやってもおかしくはないとは思うが、なんか釈然としない。

にこと他愛ない話をしながら順番を待つ。だが、そのときはすぐにやってきた。

 

「あの、これ!」

 

「……でかいな」

 

どこに仕舞っていたか分らない花束を手品のように取り出すにこに、俺は思わずそう言ってしまった。

というか、そんなでかい花束って逆に迷惑じゃないのか?

 

「いつも応援してます! これからも頑張ってください!!」

 

しかも目が血走っているし、まるで不審者にしか見えない。

 

「ありがとう。大切に飾らせてもらうわね」

 

だが興奮気味のにこをあのステージで見せたような笑顔で対応するA-RISEたち。

さすがというか、こういう手のものによく慣れている。

にこは握手して更にテンションが上がっている。

そんなにこに俺は苦笑いしながら、次の番の俺は手を差し出した。

 

「連れがすみません」

 

「いつものことだから大丈夫よ」

 

応対したのは、リーダーをしている綺羅つばさだった。

いつも、か。A-RISEの前ではいつもにこはあんな感じなのか。

 

「迷惑なんて思っていないわ。彼女から私たちも元気をもらっているもの。本人には内緒だけどね?」

 

口に人差し指を持ってウィンクする綺羅さん。その仕草はなかなか様になっていて、何より魅力的だった。

そしてなにより彼女の言葉に嘘はない。本心で言っているのが感じ取れた。

こういうところが人を惹きつけているのだろう。

 

「そんなにじっと見つめて、私に何かついてる?」

 

そういわれて、俺ははっとする。

 

「すみません。少し考え事をしてたので」

 

「あら、目の前にA-RISEがいるのに? 彼女さんのことでも考えてた?」

 

綺羅さんはどこか意地の悪いような笑みを浮かべるが、断じて違う。そもそもそんな彼女なんていないのだから。

急にそんなこと言うもんだから俺は少し面を食らってしまった。

 

「ごめんなさい。冗談が過ぎたわ」

 

俺の雰囲気を察してか、綺羅さんはからからと笑いながら謝る。

 

「それでどうだったかしら、今日のライブは? あなた初めてでしょう?」

 

「よく分かりましたね」

 

「あの人があなたを連れてきたのは今日が初めてですもの。それに、今まででもあなたぐらいだったから」

 

「なにがです?」

 

「――私たちのライブを静かに見ていた人は」

 

「…よく分かりましたね」

 

「ステージからよく見えるのよ。目立つ人は」

 

「すみません。盛り上がるとか、あまり得意ではないほうなので」

 

「それをライブをしていた本人の目の前で言うとか、あなたかなり肝が据わっているわね」

 

「嘘を言っても仕方がないので。でもそんな俺でもライブを楽しめたし、来てよかったと思っています。そこに嘘はありません」

 

「……なるほど。こういう人だから彼女たちからの信頼があるのね」

 

「? どうかしましたか?」

 

観察するように俺を見る彼女に問いかけるも、なんでもない、と首を横に振る。

 

「あなたの名前を聞いてもいいかしら?」

 

「…桜坂春人です」

 

唐突に名前を聞いて来る綺羅さんに俺はいいのかと思いつつも答えないのも失礼だろうと思い自分の名を口にする。

 

「それじゃあ春人君。またね(・・・)

 

「ええ。また機会があれば」

 

お互いしっかりと握手してから俺はその場を離れた。

 

 

 

 

 

「結構長かったわね」

 

「ああ…どうやら静かに見ていたのが目立ってたみたいでな。覚えられてたから少し話をしてた」

 

「そんな簡単に言うけどあんたそれ、かなり凄いことよ!?」

 

「そうなのか?」

 

「自覚していないところがまたムカつくわね…」

 

そんな理不尽なこと言われても困る。A-RISEの方から話しかけてきたところもあるのだから。

 

「まあ、いいわ。どうだったからしら、A-RISEのライブは」

 

「さっきも言ったが、凄かった」

 

「……それだけ?」

 

「そうだが…だめか?」

 

「全っ然だめね。ダメダメよ。0点ね」

 

……にこにとっての100点がどれだけできればいいのかわからないが、0点というのは辛口すぎるのではないだろうか。

 

「小さい子でももっとましな感想が出てくるわよ」

 

「そこまで言われるのは心外だ」

 

不満げにする俺に対し、にこははぁ、とため息を吐いた。

 

「これはまだまだ指導が必要ね」

 

「まだやるのか?」

 

「当然よ! 私たちのマネージャーが、スクールアイドルについてなにも知らないというのはありえないんだから!!」

 

「そ、そうか……」

 

迫るにこに俺は仰け反ってしまう。

 

「なら次はどこに行くんだ?」

 

首を傾げる俺ににこはまたない胸を張って、

 

「次に行くのは、スクールアイドルショップよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは俺は最初に言われたとおり、にこに振り回された。

以前皆で行ったスクールアイドルショップや別なところにあるショップを数店舗巡り、更には秋葉原のメイド喫茶を数店舗連れてかれた。

そこではアイドルに関することや可愛いというのはどういうものか、またそれを実行するために必要な要素や心がけなどのにこの講義が行われた。

そしてそれらが終わったときにはかなり日が落ちていた。

 

「んー、久々に充実した日を過ごしたわー!」

 

「……そうか、それはよかったな」

 

満足したように伸びをするにことは対称的に、俺は少し疲れたように肩を落としていた。

そんな様子の俺ににこは、呆れたようにする。

 

「まったくだらしないわね。もう少し体力をつけた方がいいんじゃない?」

 

「俺の体力の問題じゃないだろう……!?」

 

にこの好きなものに対する時のポテンシャルが上がっているだけだ。

 

「これが勉強だったらにこはすぐにバテるだろう?」

 

「なによそれ!? てかあんたにとって私と過ごすことは私にとっての勉強だって言いたいの!?」

 

「そうじゃ――」

 

そうじゃない、と俺が否定しようとした瞬間、別の方から声が聞こえた。

 

 

 

「あら、聞きなれた大きな声が聞こえたと思ったらにこじゃない」

 

 

 

俺たちの間に入ってきたのはスーツ姿の女性。しかしその女性はどこかにこの面影があった。

 

「あ~おねーちゃんだ~」

 

「おねえちゃん!」

 

「お姉さま!!」

 

そしてその女性の影から飛び出してきたのは、三つの小さな影。

お姉さまと口を揃えて、にこによったのはこれまたにこをそのまま幼くしたような子供たち。

 

「ママ!? それに虎太郎、ここあ、こころまで!?」

 

驚愕するにこ。俺も突然のことに驚く。

しかし、俺が一番驚いたのはにこにママと呼ばれた目の前の女性だ。

 

「母、親……? 姉とかじゃなくてか?」

 

にこの年上であれば働いていてもおかしくはない。見た目的にも姉といっても違和感がないからついそう口に出してしまった。

 

「あらあら、嬉しいこと言ってくれるわね。彼氏さん」

 

「かれっ!?」

 

「……」

 

なんだかこの感じ久しぶりだ。やはりこの人も母親だ。

 

「はじめまして。にこの母親の加奈です。加奈と呼んで下さいね」

 

「丁寧にありがとうございます、加奈さん。桜坂春人です。すみませんが、俺は娘さんの彼氏ではありませんよ」

 

「そうよ変なこと言わないでよママ!! こいつが私の彼氏なんて――」

 

「あら、でもにこってこうして男の子と出かけるのって初めてのことじゃない。だからデートをしているのかなって」

 

「もー! そういうことは言わないでよ!!」

 

すごい。いつも強引に誤魔化して有耶無耶にしているにこがここまで一方的にさらされているのは初めてだ。

 

「こいつは私の僕なの! トップアイドルのにこについていながらアイドルについてなにも知らないから、今日はこいつにスクールアイドルがなんたるかというものを教えていたのよ!」

 

「僕って…いまどきそんな人なんていないだろうに」

 

スクールアイドルについて教えてもらっていたのはそうだが、にこの僕になった覚えはない。

こんな嘘、小さい子達でもすぐに分るはず――だと思っていたのだが。

 

「流石お姉さまです! 皆から愛されているのですね!!」

 

「さすがおねえちゃん、面倒見がいい!」

 

「しもべ~」

 

妹たちはキラキラした目で姉を見つめ、弟は僕を連呼しながら俺の袖を引っ張る。まったく姉の言うことを疑っていない。

恐らく今までこうして妹たちに言い続けてきたのだろう。それはあまり褒められたことではない。

 

「あらあら」

 

だが、加奈さんは面白おかしいというように笑う。

どうやらこの場には誰もにこの嘘を訂正する人はいないようだ。

 

「おい。にこ?」

 

この状況をどうするんだといわんばかりの俺に、にこは少し汗をたらして気まずそうにする。

 

「……悪かったとは思ってるわよ。でもお願い、合わせて」

 

そう言うのは姉として妹たちの手前、見栄を張り続けてきたからなのだろう。

この子達のにこに対する理想を俺が壊すのはさすがに忍びない。

 

「そうだな。君たちのお姉さんを色々手助けをしているよ」

 

「「「お~」」」

 

姉に憧れの眼差しを向ける弟妹たち。

 

「……あら」

 

それに対して、加奈さんは俺に意外そうな視線を向けてきた。

 

「なんですか?」

 

「いえ、ね」

 

首を傾げる俺に加奈さんは小さく笑う。

それはさっきまでの面白がるようなものではない、優しい笑みだった。

 

「にこのわがまま(見栄)に付き合ってくれるとは思っていなかったから」

 

「まあ、にこの立場もあるでしょうし。こういうのを俺が言うのは違いますから」

 

俺の言葉に加奈さんは、そう、と感心したように呟いた。

 

そして妹たちの対応をしていたにこに、加奈さんは笑顔で言った。

 

「いい人見つけたわね、にこ。手放しちゃ駄目よ?」

 

「だから、そういうのじゃないってば!」

 

「あら、そういうのって何かしら? お母さんはお友達として言っただけで、別にそういう意味で言ったんじゃないんだけれど?」

 

「うぐっ!?」

 

「なんだかんだ言いながらもにこも意識しているんじゃない」

 

「~~~~ッ!!」

 

加奈さんにからかわれて、言葉にならない声を発するにこ。

 

「皆で帰ってるんでしょ! 早く行くわよ!!」

 

「あら、春人くんと帰らなくていいの? 何なら送ってもらえば良いじゃない」

 

「必要ない! 今日はもう終わり、解散よ!! ほらあんたたちも行くわよ!!」

 

「「「はーい」」」

 

「ほら、ママも!!」

 

「ふふ…はいはい。それじゃあ春人くん。これからもにこと仲良くしてあげてね」

 

「はい。お気をつけて――それと、にこ」

 

母親の背を押すにこに俺は声を掛ける。

 

「なによ?」

 

「こういうのは初めてだったけど…経験できてよかったって思ってる。今日は色々と連れてくれてありがとう」

 

「……ふん、今日教えたことはちゃんと覚えておきなさいよ。それとこれで終わったとは思わないこと、いいわね?」

 

「ああ、わかった。気をつけてな」

 

「ええ。またね」

 

こうして、にこは家族の皆と岐路についていった。

 

 

 

 

 

「春人くん、いい子ね」

 

春人と別れて姿が完全に見えなくなった頃、隣を歩いているママがそう言った。

 

「大切にしなさいね。彼との繋がりを」

 

「……わかってるわよ。そのくらいは」

 

「できれば今度は彼氏として会わせてくれることを願うわ」

 

「だから、そんなんじゃないってば!!」

 

「今はそうじゃなくても、これから……ね?」

 

「もぉー!!」

 

私の声は夕暮れに染まった空に溶けていくのだった。

 

 

 







はい、ということで今回はにこでした。
彼女の場合はお願いを聞いてもらうというより、なんと言うか、振り回すことに極振りさせましたw
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