"愛してる"の想いを   作:燕尾

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どうも、燕尾です。

今日は夜にもう一話出来たら投稿したいと思います。





12.これから

 

 

 

「それで、曲のほうはどうなりました?」

 

正気に戻った海未は穂乃果とことりの対面に座り、お茶で一息ついてから、改めて現状を聞く。

 

「うん、一年生の子にすっごく歌の上手い子がいるの。ピアノも上手で、きっと作曲も出来るんじゃないかなって。明日聞いてみようと思うんだ!」

 

歌とピアノが上手い一年生――音楽室で会ったあの赤毛の少女のことだろう。そういえば名前を聞くのを忘れていたと今更ながらに思い出す。

 

「もし、作曲をしてもらえるなら、作詞の方はなんとかなるよねって穂乃果ちゃんと話してたんだ」

 

「なんとか、ですか……」

 

心当たりの無い俺と海未は首を傾げる。それに対して、穂乃果とことりは顔を見合わせてねー、と頷いている。そして、テーブルから身を乗り出して二人は海未に迫った。

 

「な、なんですか!?」

 

何かを期待するような二人の瞳に戸惑う海未。そんな彼女に穂乃果が言った。

 

「海未ちゃんさぁ、中学のときポエムとか書いたこと……あったよね?」

 

「え゛っ!?」

 

穂乃果の告白に海未の顔が引き攣る。さらに、そこにことりが畳み掛ける。

 

「読ませてもらったことも、あったよねー?」

 

まあ、中学生は多感な時期だから、自分の気持ちや情景を文字に起こしたいときもあるに違いない、そういうことしても可笑しくは無いだろう。決して、面白いという分けではなく、俺の頬が緩んでいることなんてない。

笑顔の二人に嫌な予感がしたのか正座の状態で器用にずるずると後ろに下がる海未。そして、

 

「あっ、」

 

「逃げた!!」

 

バッ、と立ち上がり海未は穂乃果の部屋から逃走し始めた。その後を穂乃果とことりが追いかける。

 

「待って……海、未ちゃん……!」

 

「やめてください! 帰ります!!」

 

「やーん、海未ちゃーん」

 

「いいからいいから!」

 

「よくありません!!」

 

玄関付近で捕まったのか、ギャアギャアと騒がしい声が下から聞こえてくる。

そんな彼女らを尻目に俺は一人、ことりの淹れてくれたお茶に口をつけて、置いてある新作らしい団子に手をつける。

 

「うん、美味しい」

 

暢気にそんなこと呟いて一息ついて約数分、下から聞こえてくる騒がしい声が止んだ。その代わりに聞こえてくるのは階段を上がってくる三人の音。

 

「お帰り」

 

「ただいま~」

 

扉が開くと穂乃果とことりが連行するように海未の両脇を固めていた。二人から逃げ切れなかった海未はガックリと項垂れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お断りします」

 

再び腰を落ち着かせて、交渉の場へとついた早々、海未はスパッと言い切った。

 

「ええっ、なんでなんで!?」

 

「えー……」

 

「絶対に嫌です! 中学のときのだって、思い出したくないくらい恥ずかしいんですよ……」

 

「ほら、アイドルの恥は掻き捨てっていうじゃない」

 

「言いません!!」

 

それを言うなら"旅の恥"だろ。しかも、アイドルをやれば少なからず周りに覚えられるから恥も捨てられなくなるし。

 

「でも、私も衣装作るので精一杯だし……」

 

裁縫が得意だということりは衣装を担当することになる。

こういうのに関して一人に負担を掛けるのはあまりよくない。適材適所はあるが、いま出来なくても慣れの問題もあるし、負担はなるべく分散したほうがいいだろう。

 

「でしたら、穂乃果がいるじゃないですか。言い出したのは貴女なんですよ」

 

「いやぁ~、私は……」

 

海未に目を向けられて言い淀む穂乃果。

 

「無理だと思わない?」

 

「うっ、それは……」

 

ことりの一言に穂乃果が苦笑いを浮べ、海未も苦虫を噛み潰した表情をする。

なんのことかわからない俺はことりに聞いた。

 

「悪い、どういうことだ? だいたい穂乃果の詩的センスが壊滅的なんだろうとは思っているが」

 

「その言い方はちょっと酷いんじゃないかな、春人くんっ!?」

 

俺の言い分に抗議する穂乃果だが、話が進まないからスルーする。

 

「えっとね、穂乃果ちゃんの小学生の頃の話なんだけど――」

 

ことりの話によると、大方俺の予想は外れてなかったようだ。

国語の授業の時間に"おまんじゅう、うぐいすだんご、もうあきた"なんて堂々と発表するのは穂乃果くらいなものだろう。さすがだと思う。

 

「それなら、春人はどうなんですか?」

 

突然に海未の矛先が俺に向く。

 

「俺は穂乃果みたいに壊滅的じゃないと思っているが――」

 

「何でそこで穂乃果の名前を出すのっ!?」

 

「手伝いは出来ても、俺主体で歌詞を作るのは無理だ」

 

「まさかのスルー!?」

 

「少しは静かにしなさい、穂乃果」

 

「なんで怒られてるの、私!?」

 

穂乃果はからかい甲斐がある。彼女も彼女で乗ってきてくれることもあるので退屈はしない。

 

「春人くん、今は真面目に話そうね♪」

 

ことりの笑顔の脅しに、俺は、はい、と頷くことしかできなかった。

 

「それで、どうしてですか?」

 

「いま俺は一人暮らしなんだ。掃除や炊事、家のことをしながら歌詞を作るのは無理だ」

 

本当の理由はもっと別にあるのだが、ここで言う必要も無い。

 

「お願い、海未ちゃんしかいないの!」

 

「私たちも手伝うから、なにか基になるものだけでも!」

 

真剣に懇願する二人に先ほどまでの海未の意思が揺らぐ。そんな彼女に止めを刺したのはことりだった。

 

「海未ちゃん――」

 

グッ、と胸に手を当てて握り締める。目を伏せて、潤んだ瞳はどこか色香を感じる。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おねがぁい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はうっ!?」

 

残響するようなことりの声で海未の心は完全に折れたようだ。

 

「……もう。ずるいですよ、ことり……」

 

そう言って肩を落とす海未。

 

「やったあ! 海未ちゃんならそう言ってくれるとおもったんだー!」

 

「よかったぁ~」

 

歌詞の担当が決まったことに穂乃果とことりは声をそろえて喜ぶ。

 

「ただし、条件があります」

 

「「条件?」」

 

首を傾げる二人に海未は頷いて立ち上がった。

 

「はい、ライブまでの練習メニューは、私が決めます」

 

「「練習メニュー?」」

 

またもや声をそろえて首を反対に捻る穂乃果とことり。

いや、そこは首を傾げちゃいけないだろう。

同じことを思った海未はため息をつき、ことりが持ってきたパソコンを開く。そして、動画サイトである動画を再生して、穂乃果とことりに見せるように画面を向けた。

その動画は、現在スクールアイドルとして絶大な人気を誇るA-RISEのPVだった。

 

「わかりますか? 楽しそうに歌っているようですが、ずっと動きっぱなしです」

 

画面の彼女たちは海未の言う通りとても楽しそう見える。だが、これは言い方を換えれば笑顔を絶やさず、息を切らすことなく歌って踊っているということだ。これを行うのには相当な体力が必要となってくる。

 

「「?」」

 

イメージしづらいのか首を曲げる二人。海未は仕方が無いと一度息を吐く。

 

「穂乃果、少し腕立て伏せしてもらえますか?」

 

「えっ?」

 

突然言われたものの穂乃果は海未の指示通り、腕立て伏せの体勢をとる。

 

「こう?」

 

「それで笑顔を作って」

 

「こーう?」

 

可愛らしい笑顔を浮べる穂乃果。

 

「そのまま腕立て伏せ、出来ますか?」

 

言われるがまま、笑顔を保ちながら身体を下げていく穂乃果。

最初こそは笑顔のままだったが、段々と顔が引き攣っていって、腕と身体がプルプルと震えだす。そして、

 

「ふぎゃ!」

 

耐えられなくなったのか体制が崩れ、穂乃果は顔面から床へダイブした。

 

「痛っ~!!」

 

顔を打ちつけた痛みにジタバタする穂乃果。

 

「無理だったら止めるとかしておけばよかっただろう……ちょっと見せてみろ」

 

俺はゴロゴロとしている穂乃果を受け止めて、前髪を上げて確認する。

打ちつけたデコと鼻先は赤くはなっていたものの、傷は無く、鼻血が出ているということもなかった。

 

「うん、大丈夫そうだな――まったく、穂乃果だって女の子なんだから少しは気をつけろよ」

 

そういいながら額を優しく撫でてやる。

 

「う、うん……ごめん、ね?」

 

「謝らなくていい。傷が無いなら何よりだ」

 

うん、と小さく頷いた穂乃果はすすす、と俺からそそくさと離れた。

 

「んん゛っ……とにかく、弓道部で鍛えている私はともかく、穂乃果とことりは楽しく歌えるだけの体力をつけなくてはなりません」

 

海未は俺を軽く睨みながら咳払いする。なんで睨まれたのかはよくわからない。

 

「そっか……アイドルって大変なんだね」

 

暢気に今更ながらなことを言うことり。アイドルに限らず、何かをするってことは基本的には大変だ。

だが、今日の話でこれからするべきことは決まった。

 

「はい、ですから――明日から体力づくりをはじめますよ!」

 

 

 

 






いかがでしたでしょうか?

ではまた。



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