"愛してる"の想いを   作:燕尾

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ども、燕尾です
もう一つのほうの更新ばかりしていたため、一ヶ月あいてしまいました。

今回も番外編ということで誰なのかは……わかりますよね?






いざ、ラーメン巡り

 

 

 

 

 

「春人くーん!」

 

待ち合わせの駅前で元気に手をブンブン振って、俺を呼ぶ少女。

 

「早いな凛。待たせたか?」

 

「ううん! 凛もちょっと前に来たばっかりだから大丈夫だよ!」

 

待ち合わせの10分前には来たのだが、それよりも早く来ていた凛。

 

「ならよかったが…気を使ってないか?」

 

「もー、本当だってばー」

 

どうやら本当に待っていなかったらしく、呆れたように言われる。

 

「そ、そうか…悪い……」

 

「どうしたの、そんなに気にして?」

 

「いや、以前にこに注意されてな…」

 

以前にこと出かけたときに、どんなことであれ待たせるのは駄目だと言われたことの話をすると凛はああ、と納得した。

 

「にこちゃんの言うことは気にしちゃ駄目にゃ。気にするだけ無駄だもん」

 

――なんだか、先輩と後輩の垣根がなくなってから、凛のにこに対する扱いが結構雑になったような気がする。

 

まあ、にこもそれを受け入れている節があるからいいのだろうけど。

 

「そんなことよりも、早く集まったのなら早くいこうよ! 時間がもったいないにゃ!」

 

でもこういうところは似たもの同士というか、なんというか、なんだかんだでバランスが取れているのだろう。

 

「今日は春人くんに"ラーメン"の良さを教えてあげるにゃ!」

 

今回、凛が俺にやって欲しいということは一緒にラーメンを食べに行くというものだった。

ラーメンを食べたことが殆どないと話した俺に、もったいないと凛が声を上げた。

そして、

 

――じゃあ、春人くんには凛のラーメンめぐりに付き合ってもらうにゃ! それが凛からのお願いにゃ!!

 

半ば勢いのような形で彼女の願い事が決まったのだ。

本当にそれで良いのか? と聞いた俺に凛は問題ないにゃ、と断言した。

凛曰く、元々特別なことを頼むわけでもなく体を動かしに遊びに行こうというもので、一緒に何かをするということは変わらないから別に良いということだった。

 

「今日はラーメンを食べまくるにゃ!!」

 

そう言って張り切る凛に手を引かれながら俺たちは目的地へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「まずはここ! ぽん田にゃ!!」

 

最初にやってきたのは秋葉原駅近くのラーメン店。

数年前までは別なところで営業していたのだが、秋葉原が発展することを見込んで移転したらしい。

俺たちはポン田の暖簾をくぐり、案内に従って席に座る。

 

「ここのおすすめは醤油ラーメンだよ春人くん! ここの醤油ラーメンを食べないで醤油ラーメンを語ることはできないにゃ!」

 

「じゃあ、その醤油ラーメンを頼んでみるよ」

 

「凛はトッピングにネギを追加するにゃ。大将っ、お願いするにゃ!!」

 

「あいよ、凛ちゃん!」

 

元気な注文に元気に答える店主。なんだか、友達とするようなやり取り。

 

「凛はよくこの店に来るのか?」

 

「うん、かよちんとよく来てるよ。ここのラーメンだけじゃなくてご飯も美味しいから!」

 

なるほど、お互いの好きなものが揃っているのか。

 

「凛ちゃんと花陽ちゃんは飽きずに毎回美味しそうに食べてくれるから、こっちも作り甲斐があるってもんよ」

 

話に入ってくる店主。

でもその気持ちはよく分かるかもしれない。合宿のときも、皆が美味しそうに食べてくれたのを見て、俺も同じように思ったから。

 

「美味しそうに食べてくれる女の子は魅力的ですよね。それも、ここのラーメンやご飯が美味しいからだと思いますけど」

 

「分っているなぁ、彼氏さんよぉ!!」

 

「にゃ!?」

 

彼氏、という単語に驚く凛だが店主はなにも気付かずに豪快に笑う。

 

「俺と凛は、そういう関係じゃないんですが…」

 

「照れるな照れるな! 俺はわかってるから!!」

 

なにもわかっておらず、ラーメンを両手に持ってやってくる店主に苦笑いしてしまう。

ここは無理に言わずそのまま過ごしたほうがいいだろう。

 

「ほら、おまちどう! 凛ちゃんはネギのトッピングとサービスで味玉追加、彼氏にはチャーシューの追加だ!!」

 

「にゃ、にゃあ~……」

 

「心遣い、ありがとうございます」

 

「なんのなんの気にすんな! じゃ、ごゆっくり!!」

 

そう言って、店主は他の客の分のラーメンに取り掛かる。

 

「……」

 

顔を赤らめて、下を向く凛は一向に箸を持たない。

 

「…恥ずかしいのは分るけど、ラーメンを食べないか?」

 

「う、うん……」

 

少し気まずくなりながらも俺たちはラーメンを食べる。

凛がすすめるだけあって、ラーメンは美味しかった。

 

 

 

 

 

ポン田を出た俺たちは次の場所へと向かう。

 

「ラーメン、美味しかったな。凛」

 

「……うん」

 

だが、凛はさっきのこともあってか俯いたままで会話一つ起こらない。最初の元気はどこへやら。

どうしたものか、と頭を掻く。

 

「ああいうのは冗談半分からかい半分って思っておけば大丈夫だろう。あまり気にしないほうが――」

 

「――春人くんは」

 

「ん…?」

 

話を遮って凛は俺を見つめる。

 

「り、凛とその、こ、恋人って言われて、ど、どう思った……?」

 

その問いかけにどういう意味を含んでいるのか、俺には分らない。

 

「そうだな…困りはした」

 

「そ、そうだよね! 凛と恋人なんて、困るよね!!」

 

自虐を交えて強く言う凛。それはどこかそうであって欲しいと願うような、そんな言い方。

 

だが――

 

「違う。凛と恋人なのが困るんじゃない」

 

「え…?」

 

「恋人じゃないのに周囲に言われる状況が困るっていうだけだ」

 

「えっと…何が違うの……?」

 

上手く伝わってない様子。なんて言えばいいのだろうか。

穂乃果の家でも、西木野病院でも、いろんなところでこういうことを言われてきたのだが、そうでもないのに周りで騒がれてしまうというのが少し困る。

 

「なにより、そんなの凛に失礼だろう?」

 

「そ、そんなっ、凛は、別に……」

 

指先をツンツンと合わせながら口篭る凛。それはどこか出会った頃の花陽を思い起こさせるような姿。

 

「春人くんは…凛と恋人になるのは、嫌じゃないの……?」

 

「凛と恋人になったら、色々起きそうで毎日が楽しそうだ」

 

「それって、凛が問題を起こしているってこと!?」

 

憤慨している凛に俺は明言を避けておく。

 

「凛と恋人なのが嫌だって言うほど凛のことを嫌っていない。凛はどうなんだ?」

 

「……凛も同じ。でも、やっぱり恋人はまだ分らないよ」

 

「分らないって言うのも俺も同じだよ。自分が分ってもいないのに、周りが勝手に盛り上がっているのにどう対処していいのか分らなくなる。困るっていうのはそういうことだ」

凛の頭に手を伸ばし、彼女の頭を撫でる。

 

「凛には凛にしかない女の子(・・・)としての魅力があるんだ。だから自分をそう貶めるな」

 

「……っ、春人くんはずるいよ……」

 

「ずるいって…どういうことだ?」

 

「なんでもないっ!」

 

なんでもなくはないような態度。今度は俺が凛のことが分からなくなってしまう。

 

「ほらっ、次行くにゃ!! 時間は待ってくれないにゃ!」

 

誤魔化すように、そして、先ほどまでの大人しさが嘘のように、凛は俺の手をぐいっと引っ張って次の場所へと連れて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぷ……少し、食べ過ぎた……」

 

俺はグロッキーになっていた。

 

「春人くんだらしないにゃ」

 

「いや、あれだけ店を巡って食べれば、殆どがそうなる…」

 

あれから、俺らはラーメン屋を巡りに巡った。

個人営業をしているラーメン店から、チェーン店、ファミレスのラーメンに果てにはカップラーメンまで、一生分のラーメンを食べたような気がする。

 

「むしろ凛が平気なのに驚いているよ、俺は」

 

「凛は普段から運動してるから!」

 

いや、運動してたとしても普通の人は食べられる量は限られている。

失礼だが、凛の燃費が悪いのだろう。

 

「春人くんも運動すれば同じになるよ! 今から身体動かしに行くっ?」

 

「遠慮しておく…ラーメンも、運動も……」

 

今から運動したらどうなるかなんて分りきっている。

 

「あ……」

 

さっきはだらしないと言っていたが、本気できつそうにしている俺に、凛が次第に不安そうな表情になっていく。

 

「え、えっと春人くん…大丈、夫……?」

 

「ああ…ちょっと休めば、大丈夫だ……だが悪いが今日はここまでにしてくれ……」

 

「うん。そうしたほうがよさそうだね」

 

ちょっと残念さも含んでいるような声色。

 

「もしかして、まだ他に廻るところがあったか?」

 

「う、ううん! さっきのところで最後だよ!」

 

「……」

 

気遣ってか、誤魔化すように言う凛。

そんな彼女に俺はため息を吐く。

 

「――残っているところはまた今度、な?」

 

「えっと…また付き合ってくれるの……?」

 

「今日みたいに一気にじゃないなら」

 

さすがに、苦しくなるほど廻るのは今回限りにして欲しい。だけど、そうじゃなければ拒否などしない。

 

「まあ、凛がよければの話だけど――」

 

「う、うん! 全然良い! また一緒に行きたい!」

 

前のめりになって声を上げる凛に俺は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでで良いよ!」

 

「そうか。それじゃあ、気をつけてな」

 

「うん、今日はありがとね!」

 

「こちらこそ、今日は楽しかった」

 

「また今度、絶対行こうねっ! ラーメン巡り!!」

 

「ああ。約束する――それじゃあ、また学校で」

 

「うん! ばいばい!!」

 

私を家の近くまで送ってくれた春人くんの背が見えなくなるまで見つめる。

テストのご褒美として、一日中春人くんとしたラーメン巡りはとっても楽しかった。

店を廻りすぎて、春人くんの体調が崩れちゃったのはちょっと申し訳なかったけど。

 

でも、また一緒に凛のしたいことに付き合ってくれるって言ってくれたのはとっても嬉しかった。

それに、

 

 

――凛には凛にしかない女の子としての魅力があるんだ

 

 

――だから自分をそう貶めるな

 

 

「凛が、女の子……~~ッ!!」

 

顔が熱くなる。いや、顔だけじゃなくて全身が熱くなる。

今までいなかったことだ。私のことを女の子としてみてくれた人は。

 

言い方からして春人くんはなにも意識していなかった。ということは普段からそう思っていてくれてたってことになる。

だけど、

 

「ずるい…ずるいよ、春人くん……」

 

本当は私はそんなのじゃない。

なのに、そんな扱いをしてくれていることに、私はどうしたらいいのかわからなくなる。

 

「でも…嫌じゃなかった」

 

むしろ嬉しいって思う自分がいることに、驚いている。

ちょっと女の子と扱いしてくれたからって、こんな感情が沸くなんてちょろ過ぎやしないだろうか。

 

「まったく…本当に春人くんはたらしにゃ。穂乃果ちゃんがいるのに」

 

恨めしそうな私の、そんな呟きは空に溶けていく。

 

「今が夕方でよかった」

 

顔の紅さが誤魔化せる夕日に感謝しながら、私は帰路を歩いていくのだった。

 

 

 

 

 






あれ?
見返したら巡ったダイジェストすらない……

でもまあいいや! 凛ちゃんが春人二人でいるところを書きたかったから!



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