"愛してる"の想いを   作:燕尾

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どうも燕尾です。
二十一話目ですね。





21.前日

 

 

「おはよう。穂乃果、海未、ことり」

 

「おはよっ、春人くん!」

 

「おはようございます、春人」

 

「おはよう、春人くん」

 

停学が期間が終わった日の朝。俺たちはいつもの集合場所で待ち合わせていた。いつもなら決まって穂乃果が最後なのだが、今日は俺が一番最後の到着だった。

 

「穂乃果が俺より早いなんて、今日は嵐でも来るのか?」

 

「みんなして酷くない!? 穂乃果が早く来るのがそんなにおかしいの!?」

 

犬のようにキャンキャン吠える穂乃果。

皆、という言葉に引っかかった俺はことりと海未を見る。俺の視線に二人は苦笑いしていた。

 

「今日一番最初に来たのは穂乃果だったんです。私が二番目だったんですけど来たときは目を疑いました」

 

「そんな言い方しなくても良いじゃん、悪いことしてるわけじゃないんだから!!」

 

「それはそうだが。なら、どうして今日は早いんだ?」

 

「えっ!? それは、その……」

 

穂乃果はあからさまに言葉に詰まる。指をつんつんとさせて顔を赤らめていた。

そんな穂乃果の顔を見たことりがにやりと笑った。そして彼女の耳元で小さく囁いた。

 

「穂乃果ちゃん。もしかして今日から堂々と春人くんと登校できるから嬉しくて早く来すぎちゃった……とか?」

 

「そ、そんなことないよ!? ぜんぜん違うから!!」

 

「やーん、穂乃果ちゃんってば、可愛いー♪」

 

先ほどよりも顔を赤くさせる穂乃果に、ことりが身悶える。俺と海未は不思議に思うばかりだ。

 

「結局のところ、穂乃果が早かった理由はなんだ?」

 

「えっとね、それは――」

 

「わあああ!? なんでもない、なんでもないから! ただいつもより早く目覚めちゃっただけだから、それだけだからぁ――!!」

 

「むぐぅ!? んんー! んぅ――!!」

 

話そうとしたことりを塞ぐ穂乃果。口どころか鼻まで塞がれたことりが苦しそうな声でバタバタする。

 

「穂乃果、ことりを放してやれ。苦しそうだ」

 

「――ぷはぁ!! もう、苦しいよ、穂乃果ちゃん!」

 

自力で穂乃果の手を引き剥がしたことりが抗議する。

 

「ことりちゃんが変なこというからでしょ!?」

 

「だって本当のことじゃない。春人くんと――」

 

「こ~と~り~ちゃ~ん~?」

 

「穂乃果ちゃん、ちょっと顔が怖いかな……」

 

笑顔で凄む穂乃果にことりが苦笑いしながら後ずさる。視線だけで、ごめんねと語りかけてくることり。

 

「まあ、穂乃果だって目が覚めることだってあるだろう。これが今日だけじゃなくて毎日できるようになればいいな」 

 

「えっ? それって、私と――」

 

 

 

「そうなれば時間に余裕もって登校できるだろ?」

 

 

 

「……」

 

「ほら、せっかく早く来たんだから遅刻しないように行く――って、穂乃果、痛い」

 

促しただけなのにいつもの膨れ面で俺の体を抓ってくる穂乃果。

 

「ふんだ! 春人くんの馬鹿!!」

 

わけもわからず立ち尽くす俺を放って穂乃果がズンズン先へと進んでいく。

 

「俺、気に触るようなことしたか?」

 

「あはは……したようなしてないような」

 

「春人はもう少し理解力を鍛えるべきですね」

 

ことりと海未に呆れられながらも一緒に登校するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以前より視線は少なくなったもののやはり停学を喰らった人物は注目を浴びる。

クラスでも手を出してきた生徒が同じクラスだったこともあり、俺だけこんなに早く登校していることを不思議に思っていた生徒もいた。

まだそれなりに日が経っていないこともあるせいか、担任の山田先生が来るまで、何度かこちらをちら見しては内緒話をする人間もいた。多少の邪推が飛び交うのは分かりきっていたことだ。だからいまさらどうということはないし、実害がない以上、俺から動くこともない。だが、裏ではいろいろな人が動いていてくれたのも事実。

そこで改めてお礼をしに、昼休み、俺は学院を回っていた。

 

まずは事態の鎮静化を図った学院側の理事長や山田先生。二人は、当然のことしたまでで君が悪いことはしていないのに何を謝る必要がある、といろいろ大変だったのに逆に気を使われてしまった。ここら辺はさすが大人というべきか、本当に頭が上がらない。

 

 

続けて小泉さんと星空さん。彼女たちは一部暴徒と化した一年生たちを抑えてくれていた。いや、抑えていたというより押さえ込んでいたというべきか。

一年生の間でも余程悪く伝わっていたのだろう。話を聞いて小泉さんが泣いてしまったとこを見ていた一年の目撃者が俺をもっと糾弾するべきだと、周りに風潮していたらしい。それに便乗して騒ぎ始めた生徒たちに、ついに小泉さんがキレたのだ。

星空さんいわく、あんなに怒った小泉さんは始めてで、すごく怖かった、とのことだった。この日から小泉さんはクラスの"女帝"として君臨し始めたらしい。

そのことを小泉さんに聞いてみると、彼女は苦笑いしていた。

 

「そんなつもりはなかったんですけどね、ただ必死に"説得"しただけですよ。皆も分かってくれたみたいですし、なにより――次はありませんからね」

 

「そ、そうか……」

 

以前本で読んだ"闇堕ち"とはこういうことを指すのだろうか。俺はありがとう以外なにも言えなかった。

 

 

あとは生徒会長と副会長。二人にもかなり迷惑をかけてしまっていたらしい。というのも、停学処分を喰らった生徒たちが俺を処罰しろと何度も生徒会室へと迫っていたというのだ。二人は先生から事情聞き、当事者の小泉さんから話しを聞いて、生徒会はなにもしないという姿勢を貫いたのだ。いざ挨拶しに行ったときは、

 

「正しい判断をしたまでよ。そもそも生徒が生徒を罰するなんて、できるはずないのだから」

 

「えりちは素直やないな~。そういいながら、三年生で悪口言っていた人を注意して周っていたやろ?」

 

「の、希! それ、どこで見たのよっ!?」

 

「えりちのことならなんでもお見通しや……まあ、そういうことや。うちらも噂は知っていたけどあの子らがいるのに君がそういう悲しませることせえへんって信じとったからな」

 

と、少しむず痒くもいたって普通の対応を受けた。

 

そういう周りからの支援もあって、以前のような無責任な誹謗中傷はほとんどなくなっており、実に平和な一日を過ごすことができた。

 

「まあ、本来はそれが普通のはずなんだがな……」

 

「どうかしたの、春人くん?」

 

隣を歩くことりが俺の呟きに反応する。

 

「いや、なんでもない」

 

「そう――それより、ごめんね? 一緒に来てもらっちゃって」

 

ガサリ、と紙袋が揺れる。今俺たちが手に持っているのは、明日の衣装だ。

店に頼んでいた衣装の仕上げが出来上がったということで、今日、受け取りに行っていたのだ。三人分ということで結構かさばるため、俺は荷物持ちとしてついてきていた。このあとは穂乃果の家でお披露目だ。

ただ――海未がなんと言うか、俺は少し不安に思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔します」

 

「お邪魔する」

 

穂乃果の部屋に入ると、穂乃果と海未がパソコンを食い入るように見ていた。

 

「あ、お疲れ~」

 

「お疲れ様です。二人とも」

 

「またA-RISEの動画を見ていたのか?」

 

二人が見ていたのは現在スクールアイドルのトップとも言えるA-RISEのプロモーションビデオだった。

 

「んー、やっぱり動きのキレが違うよね。どうしたらここまでできるんだろう」

 

こうかな、こんな感じなのかな、と彼女たちのポーズを真似する穂乃果。

少しでも彼女たちに近づこうと努力する気持ちは良いと思う。が、

 

「穂乃果、参考程度にするならともかく、彼女たちを目標にするのはよくない」

 

「ふぇ? どういうこと?」

 

「目標にしても意味はない、ということだ。穂乃果たちが彼女たちのようにやろうとしても無駄な努力というやつだ」

 

「それは、やってみないとわからないでしょう」

 

少し言葉が悪かったか、ムッとした海未が噛み付いてくる。

 

「悪い、説明が下手だった。なんて言えばいいか……穂乃果たちはA-RISEじゃない。彼女たちはどうすれば自分たちの魅力が発揮できるかを考えて、そういう風に練習してこういうパフォーマンスができているんだ。誰かが真似してできるようなことじゃない」

 

「そっか。たとえできたとしても、それは真似になっちゃうってことだよね」

 

理解力の早いことりは俺の言いたいことが分かったようだ。

 

「そういうことだ。穂乃果たちは彼女たちにはない自分たちなりの魅力がある。それを理解してどうやって伸ばしていくか、それを考えていかないといけない」

 

体運びや重心移動の仕方などの動き方は大いに参考するべきだと思うが、と付け足しておく。

 

「私たちの魅力を、引き出す……」

 

穂乃果は小さく呟いた。おそらく考えているのだろう、自分たちの魅力について。俺はほのかの頭に手を置いた。

 

「まあ、そこまで思いつめて考えるものじゃない。俺が言いたかったのは心構えの話だから」

 

「うん……」

 

「まだ実感がないもしれないが、いずれ分かってくる。慌てることはない」

 

そういいながら、俺は紙袋を持ち上げる。

 

「とりあえずは――ほら、明日の衣装を確認したらどうだ?」

 

紙袋を受け取った三人は自分の衣装を取り出す。

 

「可愛い! 本物のアイドルみたい!!」

 

「本当!? 本物ってわけにはいかないけど、なるべくそれに近く見えるようにしたつもり」

 

「すごい、すごいよ、ことりちゃん!!」

 

穂乃果とことりは興奮したように語っている。その中でただ一人、海未は固まっていた。

 

「さすがだよ、ことりちゃん!! ね、春人くんもそう思うよねっ?」

 

「わかったから、少し落ち着いてくれ」

 

衣装を押し付けて確認を迫ってくる穂乃果。さすがに男の俺がいろいろ触って確認するわけにはいかないので、両手で穂乃果を制す。

 

「手作りでここまでのクオリティーはすごいと思う。ことりの頑張りが分かる」

 

「ふふふ、ありがと穂乃果ちゃん、春人くん」

 

照れ笑いすることり。ただ、一つだけ言わせてもらうなら――

 

「――このスカートの丈はわざとやったのか、ことり?」

 

俺は海未を指差す。海未はプルプルと震えていた。

 

「ことり、これは一体どういうことですか?」

 

唖然としていた海未がようやく声を発する。が、それはことりを責めるものであった。

 

「私、言いましたよね? スカートは最低でも膝下だと」

 

「あっ……えーと……」

 

ことりが言葉に詰まる。

そう、ことりは海未から衣装についての条件を突きつけられていたのだ。スカートの丈は膝下で露出は少なめに、と。

だが、目の前にある衣装はそれらを一つも守っていなかった。

条件を忘れていたわけじゃない。海未を丸め込ませるにはこれしかないと思っての行動なのだろう。それにそもそものデザインは目の前にある衣装と瓜二つだ。そういう意味ではことりは忠実に再現しただけとも言える。

海未の言うことを聞くか否かは製作者のことり次第。それに気づいた海未は恨みがましくことりを睨んだ。

 

「でもほら、もう明日が本番だし、今からは直せないかなーなんて……」

 

「その手段に出るのは卑怯ですよっ!!」

 

「ぴぃ!?」

 

「仕方がないよ海未ちゃん、だってアイドルだもん!」

 

「アイドルだからといってスカートは短くだなんて規則はありません!!」

 

「海未――」

 

「春人は黙っていてください! これは私たちだけの話し合いですっ!!」

 

そう言われてはなにもいえなくなる。俺が舞台に上がるわけでもなく、まして着るわけでもないのだ。俺は大人しく引き下がる。代わりに穂乃果が一歩前に出た。

 

「それじゃあ、海未ちゃんはどうするの?」

 

「制服で出ます」

 

「海未ちゃん一人だけ制服で出るの?」

 

「それはっ……そ、そもそも二人が悪いんじゃないですかっ! 私に内緒で結託して……!」

 

「だって、いいものにしたかったんだもん。絶対に成功させたいんだもん」

 

穂乃果の心の底から出てきた言葉に海未が押し黙る。

 

「歌と曲を作って、踊りを覚えて、お揃いの可愛い衣装を着て、ステージに立つ……そのために今まで頑張ってきたんだもん。頑張ってよかったって、私はそう思いたいの!」

 

「……」

 

「ねぇ、海未ちゃん。短いスカートの衣装を着て、ステージに立つことは恥ずかしいことなのかな? 私たちは恥ずかしい思いをするために今まで練習してきたの?」

 

それは、いつかのビラ配りのときに俺が海未に聞いたときの問いと同じ。なんて答えていたか覚えている海未は当然肯定などできない。そうしてしまえば今までを全部否定するようなものだ。

 

「もう……穂乃果までそんなこと言うなんて、ずるいです……」

 

諦めにも似た言葉が出る。しかしそれは海未が決心した証だった。

 

「それじゃあ――!」

 

「わかりました。私だって恥じるために今までの練習をしてきたわけではありませんので」

 

そっぽを向く海未に穂乃果の顔が明るくなる。そして何か我慢できなくなったのか穂乃果は海未に抱きついた。

 

「ありがとう、海未ちゃん! 大好きっ!!」

 

「わっ!? もう……穂乃果、急に抱きつかないでください」

 

言葉とは裏腹に海未も嬉しそうにしていた。俺とことりも顔を綻ばせる。

 

「とりあえず、無事に明日を迎えられるな」

 

「そうだね。なんとかなって良かったかな。ふふ……」

 

そういうことりの笑みは、なんだかんだでこうなることを予想していたんじゃないかと感じさせる。

というより、最初からこのつもりだったのだろう。穂乃果とは違った強引がことりにはあると思う。

 

「そうだ、海未ちゃん、ことりちゃん、春人くんっ!!」

 

ひとしきり海未に頬ずりした穂乃果は何かを思い至ったように声を上げる。

 

「どうした?」

 

「今から神社に行こうっ!」

 

「神社?」

 

「うん! 明日の成功をお願いしに行くの!!」

 

「いいと思う。わたしも行きたいな」

 

「ええ、願掛けしておいて損はありませんしね」

 

満場一致ということで遅い時間だが、これから神社へと向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が落ち、明かりのない神社は暗い。当然そのぐらいの時間だと周囲には誰もおらず、神主やバイトの巫女たちも帰っていた。

足元に気をつけながら、月明かりを頼りに拝殿の前までやってくる。

三人は横一列で並び、それぞれ五円玉を投げ入れ二礼二拍手をする。

 

「緊張しませんように」

 

「みんなが楽しんでくれますように」

 

「どうかライブが成功――いや、大成功しますように!!」

 

それぞれあの日の朝練習のときのように切実に願う穂乃果たち。三人を月の光が照らしていた。俺はその背中を見守る。

願いを終えたのか、穂乃果たちは手を取り合って振り向く。

 

「いよいよ明日だな」

 

「うん」

 

力強く頷く三人。

どうやら俺がかけられる言葉は何もないようだ。今の穂乃果たちは励ます必要がないほどいい表情をしている。

俺は小さく笑い、空を仰ぐ。ここら辺は人工灯がないおかげで、晴れた日は空がよく澄んでいる。

 

「今日は星が綺麗だ――」

 

都合のいい解釈なのかもしれない。もしかしたら、自分勝手にそう願っているのかもしれない。だが、

 

 

 

 

 

満天の星空は穂乃果たちを祝福しているかのようだった。

 

 

 

 

 






いかがでしたでしょうか?
次回更新も頑張ります。


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