"愛してる"の想いを   作:燕尾

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どうも燕尾です。
第二十二話、ファーストライブです!





22.ファーストライブ

 

 

――コン、コン

 

 

 

目の前の扉をノックすると中からどうぞ、という声とちょっと待ってください、と何やら慌てる声が聞こえてくる。

俺は最初の声に従って中へと足を踏み入れる。

 

「春人くん、来てくれたんだ!」

 

穂乃果がパタパタとよってくる。その姿に俺は言葉がでなかった。

ピンク色を基本としたベストと白いスカートの衣装。胸元や腰の大きなリボンやが一段と女の子らしさを引き出している。

色々と考えているが要するに、可愛い、の一言に尽きる。

 

「どう、かな?」

 

控えめにくるりと一回りする穂乃果。俺の感想はもちろん決まっていた。

 

「ああ、似合ってる。可愛い」

 

「……っ!! そ、そっか、えへへ……」

 

くしゃり、とはにかむ穂乃果。もっとはしゃぐように喜ぶのかと思ったのだが、どちらかというとしおらしかった。

 

「ふふふ、春人くん顔が赤いよ」

 

すると、ことりがニヤニヤしながらからかってくる。

 

「でもね、春人くん。穂乃果ちゃんばっかり見つめてないで、わたしたちも見てほしいな。ほら、海未ちゃんもいつまでも隠れてないで出てきて」

 

「こ、ことり、止めてください!? この姿を男性に見られるのは恥ずかしすぎます!!」

 

「そんなこといったって、ライブでは男の子女の子関係なく見られるんだよ? だから……ほらっ!」

 

着替え用のカーテンの奥で恥ずかしがっている海未をことりは無理矢理引っ張り出す。

あぁ!? と叫ぶ海未だったが、全然恥ずかしがるような所はないと思った。

穂乃果とは違い、ことりは緑、海未は青色をベースとした衣装だった。こうして三人が並んでいるのを見ていると本物のアイドルと対面しているように思えてしまう。

 

「ことりも海未も、よく似合ってる。恥ずかしがるようなことはないだろう」

 

「ふふ、ありがと。ほら、春人くんもこういっているんだから、自信持って海未ちゃん」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

内股で膝をもじもじさせている海未。その姿はなんと言うか、目のやりどころに困る。

まじまじと見るのも失礼だと思って目を逸らすと、穂乃果の顔が目の前にあった。その顔は少し怒り気味だった。

 

「うおっ!?」

 

「春人くん……海未ちゃんを見る目がエッチだった」

 

驚いている俺に穂乃果は不機嫌そうに指摘してくる。

 

「そんなことは」

 

「ないって言えるの?」

 

ジト目で見つめてくる穂乃果に俺は黙ってしまう。

 

「ないって、言えるの?」

 

「……脚が綺麗だなとは思った」

 

もう一度聞かれた俺は素直に答えた。

 

「春人っ!?」

 

海未の顔が真っ赤になる。正直に言った俺も少し恥ずかしかった。

俺と海未の間に微妙な空気が流れる。

 

「むー」

 

その間にいきなり穂乃果が割り込んできた。そして俺も見てくる目はさっきよりも鋭さを増していた。

 

「穂乃果、何でそんなに怒っているんだ?」

 

「なんでもない、春人くんの馬鹿! 本番近いからもう出て行って!!」

 

「あ、ああ」

 

ぐいぐいと背中を押して俺を追い出そうとする穂乃果。出入り口まで押された俺は振り返る。

 

「じゃあ三人とも、ライブ楽しみに」

 

――バタンッ!!

 

「……してるから」

 

言い終わる前に勢いよく閉められるドア。始まる前に応援しに来たはずなのだが、どこから間違えたのだろう。

しかし追い出された俺に、これ以上言葉をかけることはできない。

 

「とりあえず講堂に向かうか」

 

控え室から講堂へと向かう。その間にいろいろな部活がちらりと視界に入る。

だが、この学校の生徒数と同じように部員数がかなり少ない部活が多かった。だからこそどこの部活も部員獲得に向けて頑張っているのだろうけど。

 

「部活か……」

 

生徒会に行った日は部活の体裁は必要ないと言ったが、ファーストライブの後は話しておかないといけないだろう。そしてもし設立する場合はもう二人ほど人数を増やさないといけないことになる。

 

「まあそれを考えるのはライブの後だな」

 

目下重要なのは直前まで迫ってきているファーストライブだ。とは言っても俺にできることはないといえるけど。

 

「そうだ」

 

歩きながら携帯を取り出す。マナー違反だとは思うが、周りに人はいないから大丈夫だろう。

 

「さっきは何もいえなかったからな」

 

俺はメッセージを飛ばして、一人、ライブ会場へと歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果ちゃん、流石に春人くん追い出すのはやりすぎだったんじゃ……?」

 

外に追いやった春人くんの気配がなくなった後、私はことりちゃんに窘められる。

 

「だって、春人くんが海未ちゃんを……」

 

子供のような言い方だとは思う。それでもなんか嫌な気持ちになったのだ。

 

「ふふふ……もう、穂乃果ちゃん可愛いなあ。海未ちゃんに嫉妬して」

 

ことりちゃんが抱きついて軽く頬ずりしてくる。だが、

 

「嫉妬?」

 

思ってもいなかった言葉に私は首を傾げた。

 

「えっ? だって春人くんが見てくれないから怒っていたんじゃ……」

 

「もう少し感想を言ってくれたら嬉しかったけど……なんていえばいいのかな、海未ちゃんをエッチな目で見ていたのが嫌だったというか」

 

もっと自分を見てほしかったというのは確かにそうではあったが、せっかくのおそろいの衣装を着てこれからステージだというのに海未ちゃんが不純な目で見られたというのが悲しかった。

 

「えーっと……」

 

「ことり」

 

抱きつきながら困惑していることりちゃん。そんな彼女を海未ちゃんが引き剥がした。そして二人は私そっちのけで内緒話を始める。

 

「あまり突かないほうがよさそうです。穂乃果と春人の場合、変なこと言ったら恐らく拗れると思いますから」

 

「でも、穂乃果ちゃんは――」

 

「私たちは穂乃果でも春人でもありません。自然な成り行きが二人にとって一番だと思います」

 

「……そうだね、ごめん海未ちゃん。今のところは見守っておくよ」

 

「ええ、あの二人のためにもです」

 

しばらくして話が終わったのか、二人そろって私に笑顔を向けてきた。

 

「海未ちゃん、ことりちゃん?」

 

「ごめんね穂乃果ちゃん、変なこと言って」

 

「ううん、別にそれは大丈夫だけど……」

 

「大丈夫ですよ穂乃果。確かに恥ずかしかったですけど、春人ですし、その……き、綺麗って言ってもらって少し自信にもなりましたから」

 

「海未ちゃんがそう言うならいいけど」

 

よくわからない。二人は一体なにを話したんだろう。

 

「あのさ、二人とも――」

 

そういいかけたところで、ぴろりん、と私の携帯が鳴った。画面を確認すると、メッセージが来ていた。その差出人はさっき追い出してしまった春人くんからだった。

 

 

――頑張れ、何があっても俺は見届けるから。

 

 

「春人くん……」

 

顔文字も何もない短い一文。だけど春人くんらしくて、それが何より嬉しくて、さっきまでの嫌な気持ちなんて最初からなかったような気分になっていた。

 

「ライブ、頑張りましょうね。穂乃果、ことり」

 

「そうだね、今まで手伝ってくれた春人くんのためにも」

 

私の両端から携帯の画面を覗き込んできた海未ちゃんとことりちゃんの言葉に私は頷く。

それと同時にこんこん、とまたドアがノックされ、その向こうから声が聞こえた。

 

「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃん。そろそろ時間だから舞台裏に来てー」

 

「あっ、はーい、いま行きます!」

 

「それじゃあ、行こっか」

 

「うん!」

 

私は気合を入れて、控え室からステージへと移動する。

 

 

 

 

 

「き、緊張します……」

 

ステージに立った途端、海未ちゃんがそんなことを言い出した。

いつもの私なら、いつまでそんなことをと言えるのだろうけど今回ばかりは同じ気持ちだった。

 

「こういうのって、始まる前が一番緊張するよね」

 

そんなこと言うことりちゃんはいつものようだったけど、ほんの少し笑顔がこわばっていた。気楽に言っていることりちゃんも本心ではやっぱり緊張しているということなのだろう。

私もここまで緊張することなんて思わなかった。今までと同じようになんとかなると考えていたのだが、そうではなかったようだ。こうしてステージに立っているだけで心臓の鼓動が早くなっていく。

今までやったことのないことに対する緊張、そして、失敗したらどうしようという不安やプレッシャー。それがステージで待つことによってより感じるようにのしかかってくる。

でもそれは海未ちゃんやことりちゃんだって一緒のはず、私だけではない。

 

――そう、私だけじゃない。海未ちゃんやことりちゃん、それに春人くんがいる。

 

そう思うだけでも少しは軽くなった気がする。そして私は両隣の海未ちゃんとことりちゃんの手をとる。

 

「私は一人じゃないんだ」

 

私の気持ちを汲み取ったのか、海未ちゃんとことりちゃんもさっきまでの堅い表情がすっと消えていった。

 

「そうですね、私たちは"μ's"ですから」

 

海未ちゃんが手を握ってきて、

 

「それに、見届けてくれる人がいる」

 

ことりちゃんが手を握ってくる。

 

春人くんがこの幕の向こうにいてくれる。

誰か一人でも欠けてしまったら実現しなかっただろう今日のこのライブ。私は精一杯楽しもうと心に誓う。

 

『スクールアイドル"μ's"のファーストライブがまもなく講堂にて開演します。ご覧になる方はぜひ来てください』

 

恐らく最後のアナウンス。この数分後には目の前にある幕が上がり、今までの努力を披露することになる。

 

「いよいよですね」

 

「うん、楽しもうね」

 

「私たちなら、大丈夫だよ」

 

三人お互いの顔を見て頷く。それだけで、もう緊張なんてものはどこかに吹き飛んでいった。

それから数分後、ブザーが鳴り、演幕が開いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、瞳が移す先には、誰もいなかった。

 

「――えっ……」

 

静かな講堂に私の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ライブを楽しみにしている。という言葉に嘘はない。しかし、今の俺は別な感情に内心を支配されていた。

開幕まであとちょっと。しかし、この講堂に集まっている観客は誰もいなかった。

チラシ配りや掲示板など、告知は十分していた。応援してくれていた人もいた。

 

「来るかどうかは気分次第だからな、とはいえ誰もこないとは思わなかった」

 

いま、ライブの手伝いを申し出てくれたヒフミたちが準備を終えてギリギリまで呼び込みをしている最中で来てくれる望みはそれだけ。

幕の向こうでは穂乃果たちがこの現状を知らないまま、観客がいることを期待して待機しているだろう。

そんな穂乃果たちがこの光景を見たとき、どうなるのだろう。絶望するだろうか、悲しみに暮れるのだろうか。

こんな現実を予想できないでいた穂乃果たちはなにを思う。そして、どうなってしまうのだろうか。

 

「本当に、神様って意地が悪いな」

 

神頼みなんていうのは所詮気休めだ。願いを叶えてくれるなんてことなど微塵も思ってはいない。だが、そう言わずにはいられなかった。

 

『スクールアイドル"μ's"のファーストライブがまもなく講堂にて開演します。ご覧になる方はぜひ来てください』

 

最後の告知が学校に響く。

 

誰か一人でも来てほしい――

 

そんな願いは叶わないまま時間だけが過ぎていき、開演の幕が上がる。

そして誰もいないという現実に、穂乃果たちは信じられないものを見るような目でただ立ち尽くしていた。

 

「えっ……」

 

現実を把握できない穂乃果から洩れた声が届く。そんな小さな声が聞こえるほど、この場は静寂に包まれていた。

急いで戻ってきたであろうヒフミトリオもこの現状を見て、そして講堂の外の様子を伝えるために申し訳なさそうに首を横に振った。

だけど何日も前から告知していて、この時間でこの結果ではもう誰も来ない。

 

「穂乃果、海未、ことり……」

 

俺はなにもしてやれない。それに俺が足掻いたってできることは何一つない。これは穂乃果たちが受け止めるべき現実、この後どうするかを決めるのも彼女たち自身。

 

 

 

 

 

「春人くん……」

 

 

 

 

 

なのに、どうして俺は穂乃果たちの目の前に立っているのだろうか。俺の言葉なんて、いまの穂乃果たちには必要ないはずだ。

どうして俺は前に出て行ったんだろうか。

俺を見つめてくる三人の瞳には涙が溜まっている。

 

「春人くん、ごめんね……」

 

ことりの謝罪の声が刺さる。

俺は三人のこんな泣き顔を見るために、手伝ってきたのか。

 

「春人がたくさん手伝ってくれたのに……」

 

海未の懺悔の声が響く。

半端な気持ちで、知り合ったから、友達だからといって穂乃果に手を差し伸べたのか。

 

「春人くん……」

 

俺は――

 

 

 

 

 

――こんな表情を見るために今まで一緒に過ごしてきたのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらないのか? ライブ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば俺はそんなことを言っていた。

 

「俺は穂乃果たちのライブを楽しみにしていた」

 

建前もなにもない、ただの俺の我儘を、

 

「諦めるのか。まだ始まってすらいないのに」

 

穂乃果たちのことを微塵も思わない、自分勝手な考えを、

 

「俺は最後まで見届けるつもりだったんだが、穂乃果たちはなにも見せてはくれないのか?」

 

穂乃果たちの原動力(理由)としては戯言に等しい言葉を、俺は彼女たちに押し付けていた。

どんな気持ちかも知らないで何を勝手なことをと思うだろう。そう怒られても仕方がない。だが、それが俺の気持ちなのだ。俺はライブをすることを望んでいるのだ。

俺は一つの輪になるようにことりと海未の手を繋ぐ。

 

「どんなことがあっても、俺は三人を見ている。決して目を逸らしたりはしない、だから――最後までやりきるんだ。スクールアイドルというものを、見せてくれ」

 

俺の偽らざる本心。

それを穂乃果たちはしっかりと受け取ってくれたようだ。いつの間にか目に生気が戻っていた。

その瞬間、大きな音が出入り口から聞こえた。

 

「あ、あれ、ライブは……?」

 

あれ~? とそう言って席の最上段をウロウロしているのは小泉さんだった。

音もなにもない状況に、会場が間違えたか、もう既に終わって解散しているのかと勘違いしているようだった。

 

「小泉さん」

 

「あっ! あの、ライブは、もう終わっちゃいました……?」

 

壇上にいる俺を見て不安そうに尋ねる小泉さんに、俺は笑顔を浮かべて言った。

 

「いや、これから。今ちょっとエールを送っていたんだ。よければ前に来て一緒に見ないか?」

 

「はいっ、そうします!」

 

元気に頷いてくれる小泉さん。

俺は三人に向き直る。みんないい表情をしていた。

 

「それじゃあ、俺は戻る。最初は脇で見ようと思っていたんだが、この際だから最前列の真正面(特等席)で楽しませてもらう」

 

「春人くん、ごめんね」

 

「そこは、ありがとう、でいい。ことり」

 

「ふふっ、そうだね。ありがとう、春人くん」

 

「あなたにはずいぶんと手間をかけてしまいましたね。春人」

 

「それならしっかりとお返しをしてくれ。海未」

 

「はい、初ライブにして最高のライブをお送りしましょう」

 

「春人くん。ありがとう。私たち――頑張るよ」

 

「ああ……頑張れ、穂乃果。元気な笑顔を見せてくれ」

 

「――うんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はステージから下がり、小泉さんの隣に腰をかける。

穂乃果たち三人はスタンバイし、そして――

 

 

 

 

 

「「「μ'sic、スタート!!!」」」

 

 

 

 

 

スクールアイドルとして最初の一足を踏み出した穂乃果たちの姿。

お世辞にも様になっているとは言い難い。さっきまで涙を流そうとしていた彼女らの目は赤くなって痛々しくも思えてしまう。

だが、今日の穂乃果たちはどんな人たちよりも輝いていて、魅力的だと俺は胸を張って答えられるだろう。

そして俺はこの日のあの子達の姿を死ぬまで忘れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ありがとうございましたっ!!!」」」

 

手を繋いだ三人が深く頭を下げる。

俺や小泉さん、そして後から来た星空さんに、ヒフミトリオが拍手を送る。

しかし、それを裂くような足音が鳴り響いた。

その足音の持ち主は、生徒会長だった。

 

「これからどうするの」

 

生徒会長は今後の方針を聞いてくる。始まる前の穂乃果たちだったら、ここで打ち切るということを言っただろう。しかし、

 

「続けます!」

 

満足な顔をしていた穂乃果はそう言い切った。

 

「どうして? 今日のこれを見るに、続けても意味はないと思うのだけれど」

 

確かに今日のライブは成功とは言えない結果だった。まだまだ未熟なことだらけ。

だが、そんなことはどうでもいい。成功や失敗に意味を求めることこそが無意味だ。

 

「やりたいからです!」

 

そこに気づいている穂乃果は揺らがない。

 

「私いま、もっと歌いたい、踊りたいって思っているんです。こんな気持ち初めてで、やって良かったって、これからもやっていきたいって、そう思うんです!」

 

本当に大切なのは自分の気持ち。それは他人なんかが関与してはいけない聖域だ。

 

「もしかしたら、このまま誰も見てくれないかもしれない。誰も理解してくれないかもしれない。ぜんぜん応援してくれないかもしれない。でも、頑張って、すごい頑張って、今のこの気持ちを私は届けたい!」

 

それは穂乃果の望み。他の人からしたらただの自己満足とか言われてるかもしれない。押し付けだといわれても仕方ない――でも、それでいいんだ。

 

「私たちはまだまだですけど、いつか、いつか必ず――この講堂を満員にしてみせます!!」

 

穂乃果の本心が響き渡る。

 

「……そう」

 

生徒会長は息を吐くような声で呟いて踵を返す。

彼女が何を思っているのかはわからないが、去る前の表情からは彼女の気持ちが少し見えたような気がした。

 

「穂乃果、海未、ことり、とりあえずお疲れ――」

 

ひとまず落ち着いたところで労いの言葉をかけようとする。が、

 

「ハルくんっ!!」

 

「はっ?」

 

「穂乃果っ!?」

 

「穂乃果ちゃん!?」

 

言い終わる前に穂乃果がステージから座席にいる俺のほうへと飛び込んできた。

 

「おい、危ないだろう……!」

 

「ハルくん、ハルくん、ハルくん……!!」

 

なんとか受け止めた俺の抗議は穂乃果には聞こえていないようだった。

一体"ハルくん"ってなんなんだ。いや、それを抜きにしても何で抱きついて来るんだ。

 

「穂乃果――」

 

「……」

 

ひとまず離れてくれ、といいかけたところで俺は穂乃果が震えていることに気づいた。

俺は言いかけた言葉を引っ込めて、穂乃果の背中に手を回し、頭を撫でて、改めて労いの言葉を言う。

 

「お疲れ様、穂乃果。いいライブだった」

 

「うん、ありがと……ありがとね、ハルくん……!!」

 

人目も憚らず、声を上げて泣き始める穂乃果。

そして泣いている穂乃果に感化されたのか、我慢が出来なくなったのか、海未とことりも俺のところに飛びついて泣き始める。

小泉さんと星空さんに生暖かい目で見られながら、彼女たちが落ち着くまで、俺はあやし続けるのだった。

 

 

 

 

 





いかがでしたでしょうか?
別タイトルも更新していますので、そちらもぜひ呼んでみてください。

ではでは~。




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