"愛してる"の想いを   作:燕尾

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ども、お久しぶりです。燕尾です

働ける喜びに震えております
働ける喜び、働ける喜び…ハタラケルヨロコビ

※サブタイ変更しました



夜空へ願う想い

 

身体の水分を奪う残暑の日。俺は有楽町の駅前で待っていた。

 

「こんにちは、春人くん。待たせてごめんな?」

 

挨拶と共に謝りながら来たのは希だ。

 

「いや、遅れて来たわけでもないし、いま来たばかりだから気にしないでいい」

 

時間は午前十時。決めた集合時間ピッタリだし、俺もその十分前ぐらいに来たから、待ってはいない。

 

「ならよかった――ほな、いこか」

 

俺たちは肩を並べて駅から出る。

 

「春人くんは、有楽町は初めて?」

 

「ああ。来たことがない。来る用もなかったから」

 

「あまりお出掛けしたりしないの?」

 

「用がある時ぐらいしか外に出ないな」

 

目的のものが売られている場所にまっすぐ向かい、手に入れたらそのまま帰る。これがいつものパターンだ。

 

「勿体ないなぁ。いろんな所にスピリチュアルパワーのスポットがあるのに」

 

「いや、それにあやかれるのは希ぐらいなものだろう」

 

そもそも、出歩いたところでそんなところがどこなのか分からない。

 

「そういうのは出歩いてるうちに自然に貰ってるもんなんよ?」

 

「そう言うってことは希も本当は分かってないってことか?」

 

「ふふ、残念。うちはちゃーんとわかってるよ」

 

怪しげな瞳で笑う希。しかしそれはますます疑わしくなるだけだ。

 

「疑ってるって目をしてるね」

 

「疑わしさしかないからな」

 

「本当のことなんやけどなぁ?」

 

希は意地悪をするような笑みを俺に向ける。

しかし、これ以上何か言ったところで希ははぐらかすだけだろう。

 

「そういえばうちで四人目やけど、慣れた? 皆とのデートは?」

 

そう俺が考えていたのを予想していたかのように希は話題を変える。しかも答えづらいような言い方で。

 

「春人くん大人気やもんな?」

 

「人気かどうかは置いといて、最初のことりのやつからみんな一緒に出掛けようっていう願いばかりになったからな…」

 

もっと放課後にどこかで思い切り遊びたいとか、なにかいいものを食べに行きたいとか、何か欲しいものがあるとか、時間的にもう少し短いような願いを聞いて欲しいというものだと思っていたのだが、結局皆、ことりの話を発端に休日1日にどこかに出掛けるというところで落ち着いたのだ。

 

それで良いのかと俺は思っていた。しかし、皆それで良いと言うのだからそれ以上は深くは言わなかった。が、

 

「このぐらいだったら、別に願いにしなくてもいいんだが…」

 

「分かってないね、春人くん。こういう時だからこそ一段と特別に感じるんや」

 

「そう、なのか?」

 

「うん。それになにより、一日中春人くんを独り占めできるって早々ないからね」

 

「独り占めって……」

 

でも言われてみれば、二人だけでどこかに出掛けるということはあまりしてなかったような気がする。

 

「まぁ、あまり深く考えないでええやん? ことりちゃんの言ってた通りに考えれば、春人くんもお得やない?」

 

「お得って…」

 

「じゃあ、振り回される対価」

 

「……もういい」

 

考えるのも阿保らしく思えてきた。

 

「それで、今日は何処に行くんだ?」

 

行きたいところなどは全部自分が考えると言って、今の今まで今日どこに行くとか、何をするとかは全く聞いていない。

 

「それは着いてからのお楽しみや」

 

「…少し不安なんだが?」

 

「それは流石に失礼やで?」

 

「……悪い」

 

希のイメージが占いとか、パワースポットとか、そっちに偏っているせいか、そんなイメージしか湧かなかったのだ。

まあ、占いでもパワースポットとかでも面白そうではあるが。

 

「もう…今日はそういうのじゃないから大丈夫だよ。だから、安心して付き合ってね?」

 

「ああ」

 

一抹の不安を抱えながらも、俺は希に着いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…」

 

目的地についた俺は目の前の建物の看板を見る。

 

「コノカミナルプラネタリア有楽町や」

 

「プラネタリア――プラネタリウムか」

 

「うん、今日はここに来たかったんだ――春人くんは星のことは知ってる?」

 

「少しは。たまに星空を見てるうちに気になってな。まあうろ覚えが多いとだけど。そういう希はどうなんだ?」

 

そう言ってたね希に目を向けると彼女は少し大きく目を開いていた。

 

「どうしたんだ…?」

 

「いや、うちと理由が同じってことに少し驚いちゃって」

 

「そうなのか」

 

「うん。昔から夜空を見るのが好きだったの。それから星にも興味を持ったんだ」

 

「星占いとかからではなかったんだな」

 

「……そう思うその気持ちはわからなくはないけど、なんでも結びつければいいってものじゃないよ?」

 

「それは希の行動の結果だろう?」

 

「そろそろ春人くんにもわしわししようかな…?」

 

「やったところで希の喜ぶような感触や反応は得られないだろ」

 

「それはやってみないとわからない――でしょ!」

 

目の前から消えた希は俺の胸をがっしり押さえ、揉み始める。

 

「……」

 

「……」

 

 

少しくすぐったいぐらいで大きな反応はなくお互い無言で、

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 

段々と希のわしわしするペースが落ちて、

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

やり始めてから十秒もしないうちに、希は俺から離れた。

 

お互いの間に流れる気まずい空気。

 

「……満足か?」

 

「う、うん…なんか、ごめんね?」

 

謝る希の顔は紅く染まっていた。

 

「それじゃあ、入場しようか」

 

「なんか、納得できないっ!」

 

希を置いて先に進む俺に希は叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗いな」

 

「それはそうやん。明るかったら見えないんやから」

 

ちょっと不機嫌そうな希の声。さっきのやり取りでご機嫌を軽く損ねてしまったようだ。

 

「ほら、そんな気持ちで見たらせっかくの星空が霞んで見えるぞ?」

 

「誰のせいやと思ってるん?」

 

「希自身のせいだろ」

 

勝手に自爆してるだけ。俺に当たるのはお門違いだ。

 

「なんか春人くんって、うちに結構辛辣じゃないかな?」

 

「色々と、希には騙されたからな」

 

「そ、それは……うちも騙してた訳じゃないんよ? ただ…」

 

「ただ、なんだ?」

 

「ご、ごめんね……その、うちは……」

 

おろおろしながら謝る希。

滅多に見ないその姿に俺は小さく笑ってしまった。

しゅん、としている希の頭を撫でる。

 

「冗談だ。別に怒ってる訳でもないから安心しろ」

 

そう伝えると、驚きの表情から俺を睨むようなものに変わった。

 

「春人くん…うちをからかったね…」

 

「たまにはいいだろ。ほら、もうそろそろ始まるぞ」

 

「このことは、忘れへんからね」

 

「ああ、俺も覚えておくよ。希の慌ててた姿は」

 

「春人く――」

 

 

『ただいまからプラネタリウムの上映を始めます』

 

 

希の声と同時にアナウンスが入る。

流石に他の客に迷惑だと思ったのか、不承不承ながらも希は引き下がってくれた。ただ、

 

「本当に、後で、覚えておいてよ……」

 

ドスの利いた、エセ関西弁すらなくなった希の声に俺は少しやり過ぎてしまったと少し反省した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー! プラネタリウムよかったね!」

 

上映が終わり施設を出た希は身体を伸ばしながらそう言った。

 

「ああ。自然な星もいいけど、こういうのも悪くない」

 

普段は神田明神で見ているが、またここに来たいと思っている。

 

「そこは素直に誉める方がいいと思うよ」

 

しかし希には伝わらなかったらしく、苦笑いしていた。

 

「素直に誉めたつもりなんだが」

 

「そうなん? うーん、うちもまだまだやな……今度ハルくん検定があるのに」

 

「最後変な言葉が聞こえたぞ。なんだ、ハルくん検定って。いや、だいたい予想は着くが」

 

大方にこや凛がやり始めて穂乃果が命名したのだろう。

 

「春人くんもやってみたら? ハルくん検定」

 

「本人がやってどうする」

 

「本人だからこそわかってないこともあると思うんよ」

 

「そう言われるとなにも言い返せないが」

 

 

 

ちなみに――後日、皆に強制されて行った穂乃果作成ハルくん検定にて、最低点を叩き出したのはまた別の話である。

 

 

 

「この後はどうする?」

 

「デパートに行かへん? 見たいものもあるし、ある喫茶店で食べたいものもあるから」

 

「ああ。いいぞ」

 

「春人くん、さっきのお詫びとして奢ってね?」

 

「腹の中ではまだ燻っていたのか――わかった」

 

「決まり! それじゃあ、行こか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後デパートに着いてからは喫茶店でゆっくりとお茶をしたり、希の見たかったもの――夏服のセール品だったのだが、それを見たり、最後にはゲームコーナーに行ってレースゲームやクレーンゲーム、エアホッケーなどで遊んだ。

十分遊び尽くしてからデパートからでるともう日が落ちている時間となっていた。

 

「楽しい時間ってあっという間やなぁ」

 

「そうだな」

 

俺は満足気に伸びをする希に同意する。

本当に楽しい時間というのは早く感じてしまう。

 

「本当に、最近は毎日時間が経つのが早い」

 

「それは、春人くんもうちらといて楽しいって思ってくれてるってことでいいん?」

 

「ああ」

 

「それならよかった。本当はちょっと不安だったの。うちらが振り回してるような形になっちゃってるから、春人くんがどう思ってるのか少しわからなくて。それに、ほら、元々はうちが発端だったわけだし」

 

「まあ大変だったり疲れたりすることはあるが、充実してるし、楽しめてる――みんなそういうつもりで考えてきてくれているんだろう?」

 

「流石やね。気づいてたんだ」

 

流石に気づく。皆が俺のことも考えて計画立ててくれていたことは。そのきっかけを作ったのはことりだが。

 

「だから確認してるだろう。これでいいのかって?」

 

「うちらがそうしたいから、いいんだよ」

 

そう言われるとそれ以上はなにも言えない。

 

「それにね、これはうちらからのお礼でもあるんよ」

 

「お礼?」

 

そんな、わざわざお礼されるようなことはしてない。

 

「そう、お礼」

 

だけど希はもう一度肯定する。

 

「なぁ、春人くん」

 

理解が追い付かず頭を捻っている俺に希は話始める。

 

「うちな、穂乃果ちゃんとことりちゃんがすれ違って、ことりちゃんが海外に行く言うて、穂乃果ちゃんが自分を責めすぎてスクールアイドルをやめる言(ゆ)うたとき、正直不安やった。このままバラバラになって、終わってしまうんじゃないかって」

 

「……」

 

「うちらだけじゃない。みんなそんな不安を持ってた」

 

その話に俺はようやく頭が追い付いた。

 

「春人くんが、繋ぎ止めてくれたんよ――バラバラになりそうだったうちらを。だからねそのお礼をしようって決めたの」

 

微笑みながらそういう希。しかし、

 

「俺はなにもしてないぞ?」

 

「謙遜しすぎるのも、あまりよくないで?」

 

本当のことだ。俺はただ穂乃果に問いかけただけだ。答えは穂乃果自身が出したのだから。

 

「それに、穂乃果もことりも願いは同じだったんだ。ただ言葉にすることが出来なかっただけで、それを口にしてしまえばどのみち元に戻ってた」

 

「それがどれだけ難しいことか、春人くんは知ってる?」

 

知らないわけではない。素直になれない人を何人も見ているのだから。

その筆頭は真姫だが、あのときの穂乃果やことり、スクールアイドルを始めようとしていた花陽、μ'sに入る前のにこや絵里。それから、目の前にも。

まあそれでも、言うは易しというやつなのだろう。実際俺だって4月から一緒に居るようになっても言えないことはいくつもある。

 

「それでも悩んで、迷いながらも、みんな自分で一歩踏み出していった」

 

俺は希をまっすぐ見る。彼女の目はやはりというかまだ不安に揺れていた。

 

いや、不安と言うより恐れている(・・・・・)と言った方が正しいのだろう。必ず来てしまうものに、どうなるか分からないことに。

これが希が変わるきっかけになるかはわからない。彼女がどう思い、これからを過ごしていくのか俺には想像すらできない。だけど、

 

「――希もきっと大丈夫だろう」

 

漠然としながらもそれだけは思った。最終的には希の欲しかった答えが出て、新しい一歩を歩き出すと。

皆と過ごしていけば、きっとそうだと俺は信じている。

 

「……ねえ、春人くん」

 

希は、俺の手を取るって問いかける。

 

「来年も、その次の年も――私たち(・・・)は一緒に居られるかな」

 

「……」

 

その問いかけをどういう心情で言ったのかは俺にはわからない。希が満足するような答えが出てこないだろう。

俺が言えるのは、俺が思ったことだけ。

 

「うん。気を遣わないで、はっきり言って欲しいな」

 

「……ずっと一緒、て言うのは無理だろう。ことりのことがあったが、希たちだって分かってるだろ」

 

自分たちの進路。これからどういう道を進んでいくのか、希たち3年生は考えなければならない。どうなろうともそれぞれの道を歩んでいく。

目指すものが一緒ならまだ猶予はあるが、そうでなければこの高校生活が皆で過ごせる最後の時間になる。

 

「皆と過ごしたいから、なんて理由で自分の道を捻じ曲げようとするなら、それはただの依存だろう」

 

「そう、だよね……」

 

そう呟く希。

それはどこか落胆の声色が感じ取れた。

 

「ごめんな、変なこと聞いて」

 

だがそれも束の間、希はあえて明るい声で誤魔化すように言って、俺の手を放す。

 

「それじゃあ時間も時間やし帰ろうか、春人くん」

 

俺の前を歩き始める希。その姿は俺にはなにかを諦めたようなもの見えた。

 

「希」

 

そんな希を俺は呼び止める。

希はピタリと足を止めるが、俺のほうには向かなかった。

それでも関係なく、俺は希に向けて言葉を発する。

 

「確かにこれからもみんなで一緒っていうのは無理かもしれない」

 

さっきも言った通り、それぞれが別の道を歩んでいくのだ。どこかの場所で同じことをずっとできるなんて言うのは幻想に近い。しかし、

 

「たとえみんなの道が分かれたとしても、みんなで築き上げたものは、大切にしている限り消えたりしない」

 

「……」

 

「離ればなれになっても、繋がりは消えたりしない。だから、そう不安がることはない。ひた隠しにする必要もない。自分の思っていることを、自分の望みをみんなに伝えればいい」

 

「春人くん……」

 

「希のペースでいい。それを伝えてくれることをみんなはずっと待ってるから」

 

「……春人くんは、ずるいなぁ」

 

なんか最近そういわれることが多くなってるような気がする。別にそんなことしてなどいないというのに。

 

「無自覚でなにも分かってないのが、ずるいんよ?」

 

「そう言われても、困る。本当に分からないんだから」

 

「まあ、それが春人くんだもんね」

 

希は意地悪をするような笑みを俺に向ける。

 

「えいっ!」

 

「……っと、急に抱きつかないでくれ。危ないだろう」

 

「春人くん、これから夜ご飯食べに行こうよ」

 

「帰るんじゃなかったのか?」

 

「うん、予定変更。これから焼肉食べにいこ! うち、焼肉が好きなんよ」

 

「時間、遅くなるぞ?」

 

「うち一人暮らしだし大丈夫。それに今日一日、春人くんはうちに付き合う義務があります!」

 

「……」

 

そう言われてしまうと弱い。

まあ、どんな時間になっても俺が送ってやればいい話か。

 

「ふふ、それじゃあ行こっか?」

 

そう言いながら希はさらに俺に体を密着させる。

それはまるで恋人のように、どこか甘えるように。だけど、

 

「流石に歩きづらい」

 

「もー、ムードを壊さないの」

 

窘められるが、歩きづらいものは歩きづらい。それに、

 

「こんなことしなくても、みんな希のことを一人にしない」

 

「……っ」

 

「だから、ほら――」

 

俺は希を身体から引き剥がし、手を伸ばす。

 

「お手をどうぞ。寂しがり屋の希さん」

 

「……春人くんって、スピリチュアルパワーあるん?」

 

「そんなのはない。ただ希のことが分かっただけ」

 

スピリチュアルパワーは希の専売特許だろう。そんなホイホイだれもが使い始めたら大変だ。

 

「もう、本当に春人くんはずるいなあ」

 

恐る恐ると、恥ずかしがりながらも希は俺の手を取る。

俺たちは沈んでいく夕日を背に、手を握りながらゆっくりと歩いていくのだった。

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

通勤時間にちょくちょく書いていたので、変なところがあったら教えていただけると幸いです。

ではまた次回に

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