"愛してる"の想いを   作:燕尾

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どうも、燕尾です
ラブライブ33話目ですよ。





33.PVとリーダー

 

 

アイドル研究部の部室で、俺は疲れたといわんばかりにため息を吐いた。

 

『桜坂春人――グループの発起人の一人にして、μ'sを身体的にも精神的にも支える支柱ともいうべき人物』

 

練習風景を眺める俺の横顔が画面に流れ、いつの間につけたナレーションが紹介し始める。

 

『普段は可でもなく不可でもなく、物静かで模範的な生活を送っている彼』

 

恐らく隠し撮りしたのだろう。教室での様子もばっちりと納められていた。

 

『硬く閉ざされた口や変化のない表情とは裏腹に、いつもメンバーのことを考えてくれる彼は彼女らの中でも信頼は厚い。彼をなくしてμ'sは成り立たないとまで言われている、大切な仲間である――』

 

そこで、ビデオが途切れた。

 

「で、これはなんだ?」

 

「なにって、部活の紹介PVやで?」

 

惚ける希先輩に俺はジト目を向ける。

 

「それはわかってる。この動画、授業中とかや穂乃果たちの姿も入ってる廊下から撮っているところを見ると隠し撮りだろう。と、いうことは――」

 

俺は希先輩から視線を穂乃果、海未、ことりに移す。

さらに変えて花陽、真姫、凛――そしてにこ先輩を見る。みんなは冷や汗をたらしながらそっぽを向いていて、俺と視線を合わせないようにしていた。

もはや隠す気のない部員(犯人たち)に俺は深くため息を吐いた。

 

「なんかたまに様子がおかしかったり、こそこそとやっていると思ったら…」

 

「だ、大丈夫だよハルくん! 穂乃果も隠し撮りされてたんだから!」

 

「私もですよ! 気づかないうちに撮られていたんですから!」

 

「ことりも、撮られてたから!」

 

「だから俺の姿も隠し撮ろうと…自分がやられたから、いいと思ったと」

 

「「「ごめんなさーい」」」

 

責めたてる俺に三人はようやく頭を下げた。

 

「まったく……にこ先輩はともかく花陽たちもこんなことに加担しているとは思わなかった」

 

「私ならともかくって何よ!?」

 

「あはは、すみません……」

 

「まぁまぁ春人くん。そう責めたらあかんよ。本当に必要なことやったし」

 

主犯格に言われると余計に腹立つが、言っていることは正しいからなんともいえない。

ただ、そう頭では理解できるが気持ちでは納得いかないものもある。

 

「隠し撮ってまでやったのはいいが、俺の紹介はいらないだろう」

 

「ええっ! どうして!?」

 

穂乃果が机を叩きながら立ち上がる。

 

「女の子七人に対して男一人の紹介って比率的にやらないほうがいいだろう。変な誤解を与えかねない」

 

「でも部のPVなのに部員の姿がなかったらおかしいやろ?」

 

「まぁそれはそうだが、表舞台で立つのは穂乃果たち七人なんだからわざわざ手伝いの俺を映すのは――」

 

「ハルくん、それ以上言ったらダメ」

 

穂乃果の真剣な声色に、俺は言いかけた言葉が消えた。

 

『…………』

 

静かな視線を感じて周りを見ると、皆は俺の言葉に悲しい目をしたり、不満や怒りを抱いているような顔をしていた。

 

「確かにハルくんはマネージャーみたいな位置にいるのかもしれないけど、ハルくんだってアイドル研究部の部員で、大切なμ'sの一人だよ。だから自分でそんなこと言わないで」

 

「だけど――」

 

「だけどもなにもありません。春人、あなたは立派なμ'sの仲間です」

 

「春人くんが支えてくれるおかげで私たちはいまこうして活動できてるんだよ?」

 

穂乃果に続いて有無を言わさない海未やことりに俺は戸惑う。

 

「春人くん。穂乃果ちゃんたちは君を仲間だと思ってる。それを否定するのは穂乃果ちゃんたちを否定するってことや。暗に君は仲間と認めないって言おうとしたんやで」

 

「それは…」

 

そんなことないとは口が裂けても言えないほど、俺は希先輩の言葉に思い知らされる。

俺は周りの反応を心配するばかりに、彼女らを蔑ろにしようとしていたのだ。

 

「……そうだな。失言だった、悪い」

 

「反省してる?」

 

「ああ、本当にごめん」

 

「いいよ、ハルくんだって心配してくれてたんだもん。だけどね、自分を下げるような言い方は駄目だよ?」

 

「わかった。今後気をつける」

 

笑顔で頷いた穂乃果はパン、と一つ拍手を打つ。

 

「それじゃあ皆、練習しようか!!」

 

穂乃果の号令で皆は一気に練習へと意識を傾ける。それはいまの俺にとっては好都合だった。わらわらと屋上へと向かって行く彼女たちの最後尾をついていく。

 

「――春人くん、顔が緩んでるで?」

 

「――ッ!!」

 

隣から悪戯を思いついたような意地悪な笑みで指摘してくる希先輩。

 

「……良かったな」

 

「うるさい、こっち見るな」

 

俺は顔を赤らめながら希先輩から顔を逸らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部活紹介PVを撮った後日、アイドル研究部は一つの議題を掲げていた。

 

「リーダー、ね…」

 

呟く俺に、最年長のにこ先輩は大仰に頷く。

 

「ええ。私が加わったときにすぐに考えるべきだったことよ。リーダーには誰が相応しいか」

 

「私は穂乃果ちゃんでいいと思うけど…」

 

ことりは穂乃果を押すのだが、にこ先輩は駄目、とばっさりと切り捨てた。

 

「今回の取材ではっきりとわかったでしょ。この子はまるでリーダには向いてないの」

 

「それはそうね」

 

興味なさそうに真姫が同意する。だが、それでも感じることはあるのだろう。

にこ先輩もなにをもって向いていないと言っているのはわからないがとりあえずはおとなしく聞いておく。

彼女らが練習をせず、こうして机を囲んで話しをしている発端は穂乃果の家にお邪魔した希先輩からだった。

 

 

 

――ウチ、前から思ってたんやけど…どうして穂乃果ちゃんがμ'sのリーダーなん?

 

 

 

穂乃果の行動を見た感じた希先輩の疑問から、にこ先輩が思っていたことを話し始めたのだ。

そして、にこ先輩がこんな話をし始めたのはもう一つ理由があった。

 

「これから撮影するPVだってあるのよ。だったら早めに決めないといけないわ」

 

「PV…ですか?」

 

海未が首を傾げる。PVの存在を知らないわけではなくPV自体俺たちは作ったことなかったので、自然と考えから外れていたことだ。

 

「リーダーが変われば必然的にセンターが変わるでしょ? 次のPVが新リーダーがセンター!」

 

「そうね」

 

真姫がくるくると髪を巻きながら適当に返す。どうやら同意しているのも適当らしい。

 

「それはわかりますけど、でも、誰がやるんですか?」

 

花陽の問いかけににこ先輩は立ち上がり、ホワイトボードに手を書ける。

くるりと裏返したホワイトボードには"リーダーの条件"という題名と、三つの項目が書かれてあった。恐らく昼休みにでも書いていたのだろう。

 

「リーダーとは! まず第一に誰よりも熱い情熱を持って皆を引っ張っていけること! 次に、精神的支柱になれるだけの懐の大きさを持った人間であること! そしてなによりメンバーから尊敬される存在であること! この条件をすべて備えたメンバーとなると――」

 

「――海未先輩かにゃ?」

 

「なんでやねんっ!」

 

自分ではなく、海未を推した凛にツッコミを入れるにこ先輩。恐らくに彼女は自分を推したかったのだろう。

 

「わ、私ですか!?」

 

「そうだよ、海未ちゃん! 向いてるかも、リーダー」

 

「――っ、穂乃果はそれでいいのですか!?」

 

「えっ? なんで?」

 

首を傾げる穂乃果に海未は勢いを削がれる。

 

「リーダの座を奪われようとしているのですよ?」

 

「ふぇ? それが?」

 

危機感、なんて言葉がまるで存在しない穂乃果に、海未は呆れた様子を隠さない。

 

「何も感じないのですか…?」

 

「だって、みんなでμ'sをやっていくのは一緒で、なにも変わらないでしょ?」

 

「ふっ、くく……」

 

堪えきれずに俺はくすくすと静かに笑う。顔を逸らしているため、誰にも見られてはいない。

 

「でも、センターじゃなくなるんですよ!?」

 

花陽の言葉に穂乃果のなかで色々とつながる。そして、色々思案したのち、皆が驚く言葉を放った。

 

「――まぁいっか!」

 

『えぇ――!?』

 

俺を除いた全員が声を上げる。俺も耐え切れずついに声を上げた。

 

「はは、さすが穂乃果だな」 

 

「へ? そうかな? えへへ…ありがと?」

 

頭をなでてあげると不思議そうにするも、穂乃果は気持ちよさそうに目を細める。

 

「笑い事ではありませんよ春人! 穂乃果も、それでいいのですか!?」

 

「うん。それじゃあリーダーは海未ちゃんで――」

 

「ま、待ってください! 私がリーダーなんて、その…無理ですよ……」

 

「面倒な人…」

 

真姫の辛辣な一言に海未は唸る。

 

「それじゃあ、ことり先輩はどうですか?」

 

穂乃果、海未と来て次はことりだ。だが、ことりは――

 

「副リーダーって感じだね」

 

凛がみんなが思っていたことを言った。ことりは先頭に立つより、一歩下がって支えるほうが力を発揮できる人間だ。

 

「だけど私たち一年生がリーダーっていうわけにもいかないしね…」

 

花陽の言葉に、俺は少し思案する。

半数以上が先輩となるとやはり一年生は肩身狭い思いをするようだ。それに、にこ先輩が言ったような新リーダーがセンターとなれば後輩である一年生たちはセンターになる可能性はやる気にかかわらずほぼゼロになってしまう。

そんな思考を覚ますように、にこ先輩が声を上げた。

 

「まったく、仕方ないわね!」

 

リーダーを誰にするか話し合いをしているなか、にこ先輩は立ち上がる。

 

「やっぱりわたしは穂乃果ちゃんがいいと思うなぁ~」

 

「仕方ないわねぇ!」

 

二度目――

 

「私は、海未先輩を説得したほうがいいと思うけれど」

 

しかしフリなのか、本当に聞いていないのか、皆はにこ先輩の声に耳を傾けていない。

 

「仕方ないわねぇー!」

 

三度目――

 

「投票がいいんじゃないかな~」

 

『しーかーたーなーいーわーね――!!』

 

四度目――

 

聞こえているはずの声に誰も反応することはなく、

 

「――で、どうするにゃ?」

 

「うーん、どうしよう……」

 

拡声器まで使ったのに無視して相談をし続ける下級生たちに不満そうな顔をするにこ先輩はある提案をするのだった。

 

 

 





いかがでしたでしょうか?
ではまた次の更新にて。



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