"愛してる"の想いを   作:燕尾

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どうも、燕尾です
第三十六話目です






36.テスト勉強

 

「大変申し訳ありません」

 

「ません!」

 

穂乃果と凛が丁寧に頭を下げて謝罪する。そんな彼女らを――主に幼い頃から知っている穂乃果を海未は呆れたように見つめる。

 

「小学校の頃から知ってはいましたが、穂乃果……」

 

「す、数学だけだよ! ほら、小学校の頃から算数苦手だったでしょ!?」

 

穂乃果の言葉を信じるならそれだけで済んだといえる。だが、

 

7×4(しちし)?」

 

「にじゅう、ろく…?」

 

「……かなり重症ですね」

 

ボソッと花陽が出した九九すら間違える始末。音乃木坂学院のレベルで赤点候補というだけで問題だというのに、それ以前の問題だった。

 

「それでよく和菓子屋の手伝いが出来たな、穂乃果」

 

「だって! お金の計算はレジがやってくれるんだもん!!」

 

それでも、金銭のやり取りしている以上は分かっているものだと思うのだが。

 

「凛ちゃんは何が苦手なの?」

 

「英語! 凛は英語だけはどうしても肌に合わなくて…」

 

「た、確かに難しいよね」

 

「花陽、あまり凛を甘やかしたら駄目だ」

 

「酷いよ春人くん、難しいのは本当だもんっ! それに、凛たちは日本人なのにどうして外国の言葉を勉強しなくちゃいけないの!?」

 

「屁理屈はどうでもいいの!」

 

甘えた言葉に、真姫が我慢ならずに立ち上り、凛へと迫る。

 

「ま、真姫ちゃん怖いにゃ~……」

 

「これでテストが悪くてエントリーできなかったら恥ずかしすぎるわよ!!」

 

「そうだよね~……」

 

がっくり肩を落とす凛。真姫は頭が痛いというようにため息を吐く。

 

「やっと生徒会長を突破したっていうのに……!」

 

「ま、まったくその通りよ!」

 

すると、今まで黙っていたにこ先輩が言葉を発する。だが、先輩は後ろを向いたまま何かを読んでいるようだった。

 

「あ、赤点なんか絶対取っちゃ駄目よ…!」

 

皆の疑惑の視線がにこ先輩に刺さる。

 

「にこ先輩、成績は……?」

 

さっきから声が震えている時点で分かってはいるが、一応ことりが確認した。

 

「に、ににに、にこ? にに…にっこにっこにー、が赤点なんて、と、とと取るわけないでしょー!?」

 

「動揺しすぎです」

 

海未の指摘ににこ先輩も肩を落とす。

 

「とにかく! 私とことりと春人は穂乃果の、真姫と花陽は凛の勉強を見て、弱点教科を何とか底上げしていくことにします!」

 

「まぁ、それはそうだけど…にこ先輩は?」

 

真姫の疑問は最もだ。アイドル研究部で三年生はにこ先輩ただ一人。誰も教えられる人がいないのが現状だ。

 

「だから言っているでしょ!? にこは…」

 

「いい加減にしておけにこ先輩。言葉で言っても教科書逆さまに持っている時点でバレバレだ」

 

だけど本当に困ったことになった。このままではにこ先輩は一人でどうにかしないといけないことになる。それはあまりにも負ける可能性が高い賭けだ。

先輩の学力をどう底上げするかで悩んでいるところで、突如アイドル研究部の扉が開いた。

 

「――にこっちならうちに任せとき」

 

「希ッ!?」

 

ノックもせず勝手に入ってきたのは希先輩。だが、今回ばかりは救いだといえる。

 

「いいんですか?」

 

端的な穂乃果の問いに希先輩は頷く。だが、当の本人は――

 

「言ってるでしょ! にこは赤点の心配なんて――」

 

「希先輩」

 

「まかせとき」

 

往生際が悪く、変なプライドを振りかざす先輩に俺は希先輩に頼み、頷いた希先輩は構える。

そしてとんでもない速さでにこ先輩の背後を取り、彼女の胸あたりを鷲づかみする。

 

「ひぃ!?」

 

「嘘つくとワシワシするよ?」

 

「わかりました、教えてください」

 

「――はい、よろしい」

 

何はともあれ、本人のやる気は置いておいてこれでなんとかなりそうだ。

 

「よーし! これで準備は出来たね、明日から頑張ろう!!」

 

「おー!!」

 

エントリーのため気合が入っている穂乃果と凛。しかし、一つだけ見逃せない部分があった。

 

「今日からです」

 

「せっかく気合入れているのにどうして中途半端に逃げようとするんだ……」

 

海未と俺の指摘にがくり、とうな垂れる穂乃果と凛なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

担当が決まったところで、穂乃果、凛、にこ先輩の弱点教科克服のための勉強が始まった――のだが、

 

 

 

 

 

「うぅ~これが毎日続くのかにゃ~……」

 

「当たり前でしょう」

 

「あっ! 白いごはんにゃ~!!」

 

「ええっ!? どこ!?」

 

「……騙されると思ってる?」

 

「はい、すみません……」

 

 

 

 

 

「ことりちゃん……」

 

「なに? あと一問よ、頑張って!」

 

「おやすみ」

 

「わっ! 穂乃果ちゃん!? 穂乃果ちゃ~ん!」

 

 

 

 

 

勉強し始めてから一時間もたっていないが、早くも集中力が切れ始めていた。

 

「まったく……」

 

海未は頭が痛いというように呟いた。

気持ちはわからなくない。俺もこんな状態で大丈夫なのかと少し不安になっている。

 

「ことり、春人、あとはお願いします。私は弓道部のほうへいかなければいけないので」

 

「わかった! ほら穂乃果ちゃん起きて~!」

 

「ああ…いってらっしゃい……」

 

荷物をまとめる海未。しかし、その視線はある方へ向いていて、釣られて俺も見る。

視線を向けた窓際ではにこ先輩と希先輩が勉強していた。

 

 

「わかった、わかったから……!」

 

「ふふ――じゃあ、次の問題の答えは?」

 

「え、えっとえーっと…に、にっこにっこにー……や、やめて! やめてぇ!? 悪かった私が悪かったから!」

 

「ふふふふふ……ふざけたらワシワシマックスやよ!」

 

 

 

 

 

「「はぁ……」」

 

この混沌とした状態に俺と海未は同時にため息を吐いた。

 

「これで本当に身につくのでしょうか……」

 

「信じてやらせるしかないだろう……」

 

 

 

「ごはん、ごはんはどこかな?」

 

「起きて~穂乃果ちゃん!」

 

「ふふふ、お仕置きしたるで~」

 

 

 

教える側も、教えられる側も、本当に不安しかない状況に俺と海未はもう一度、深くため息をつくのだった。

 

 

 






今回は短めです。
いかがでしたでしょうか?



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