"愛してる"の想いを 作:燕尾
どうも、燕尾です。
40話まできました。
「生徒会長がバレエの元経験者…」
「そういうことだったんだ。だから生徒会長は…」
練習を切り上げて一年生とにこ先輩たちと別れたあと俺たちは穂乃果の家に集まって、そこで穂乃果とことりに今日のことの背景を話した。
「やっぱり気になるのか、海未?」
「はい……練習をするほど思い知らされるようで、さっきは皆に悪いことしました。何も言わずに」
「ううん。そこは気にしてないよ。海未ちゃんがそういうなら余程のことだったんでしょ?」
「わたしたちはその動画を見ていないけど海未ちゃんが嘘言うとは思ってないよ」
「穂乃果、ことり……」
幼馴染からの信頼に海未はちょっと感極まっていた。
「それより、春人くんは知っていたんだね? 生徒会長のこと」
「ああ。生徒会長とちょっとあって少し話をしたこともあったし、それにある程度予想はついていたから」
すると穂乃果の体がピクリと反応した。
「生徒会長とお話? それってもしかして二人きりで……?」
「ああ。偶然会ったときに生徒会長が話したいことがあるって言ってきたから――それがどうかしたか?」
問いかける俺に対して、穂乃果は不満そうにしていた。
「むうぅぅぅぅぅ……」
「穂乃果?」
「ハルくんって、なんか気がつけば女の子と二人きりっていうことが多いよね」
「そう、か? そんなことはないと思うが……」
穂乃果が言うほどそういう状況になっている気はしない。それになっているとしても別に特別な何かがあるわけでもなく、基本話して終わりだ。
「穂乃果ね、ハルくんはもう少し気をつけるべきだと思うの」
「…どういうことだ?」
何に気をつければいいのかわからない俺は問いかける。
「気をつけるべきだと思うの!」
意味が分からず首を傾げる俺に対して穂乃果は強く言ってくる。あまりにも剣幕に迫ってくるものだから俺は意味も分からないまま頷いてしまった。
「あ、ああ…気をつける……」
「「はぁ……」」
そんな俺たちの様子を見ていた海未とことりが少し疲れたようにため息を吐いていた。
「穂乃果、春人。いまは生徒会長の話をしましょう」
「そうだな、それでだ――海未はどうするべきだと思っている?」
「私は、生徒会長に教えてもらうのが一番だと、考えてます」
海未がそう言うと考えてなかったのか、穂乃果とことりは少なからず驚いていた。
「穂乃果、ことり。いまの話を聞いてどう思う?」
そう聞くも、二人とも少し迷っていた。決めかねているというところだ。
「ちょっとわからないかな。単純なことだと思うんだけど…」
「わたしはちょっと不安、かな。生徒会長さんは私たちにあまり良い感情を持ってないみたいだから…」
「別に海未の話しに頷いてもそうじゃなくても、穂乃果たちだけの意見で決定になるわけじゃない」
もう今は穂乃果、海未、ことりの三人だけのグループではない。
「とりあえず、ほかの皆にも連絡を取ろう」
三人は頷き、SNSアプリのグループ通話で他のμ'sのメンバーに連絡を取る。
そこで海未の悩んでいたこと、今日の練習に対する顛末を説明した。
そして、海未が提案していたことを伝えると、
『ええっ!? 生徒会長に!?』
みんな口をそろえて驚いていた。
「はい。思ったんです、私たちはまだまだだと」
海未の言葉にみんなが詰まる。彼女たちも上手くなりたいという向上心は持っている。だが、それだけではいまの海未が言う"壁"を越えることはできないことを理解している。
「でも、生徒会長さんって……」
「絶対凛たちのこと嫌ってるよね!」
「つーか嫉妬してるのよ。あたしたちに」
控えめに言った花陽に凛とにこ先輩が上乗せして言った。
「私も最初はそう思っていました。ですが、あの人の言うことも一理あるのは事実です。そして、いまの私たちでは彼女の言う"お遊び"から抜け出せることができません」
悩むように口を閉ざす三人。
「私は反対。潰されかねないわ」
沈黙したそのとき、いままで聞き手にまわっていた真姫がはっきりと反対の意を口にした。
「私も…生徒会長さん、ちょっと怖いです」
「凛も楽しくやりたいな~」
「別に要らないでしょ、三年生はにこだけで十分だし」
日本人とは不思議なもので、最初の意見に賛同する傾向がある。まあ、生徒会長への好感度がないというのも一つの原因ではあるが。
ともかく、にこ先輩はおいておいて、一年生たちの意見はことりと同じようだった。
「というかずっと黙っているけど、あんたはどう思っているのよ、春人」
すると、にこ先輩が俺に話を振ってくる。だが、それに対する答えは決まっている。
「皆の決定を尊重する」
「それじゃあなんの参考にもならないでしょうが!」
そう言われても困る。実際、俺が生徒会長から師事を受けるわけではない。そこで俺がなにかを言って彼女たちの意思を揺るがすのは無責任だろう。
「それはそうかもしれないけど、あなたの意見も知りたいな、春人くん?」
「春人、にこ先輩が言ったように参考として聞かせてください」
ことりと海未にそう言われた俺は頭を少し掻いた。
「俺は生徒会長に教わるのは有りだと思っている。前に海未には言ったが、上達するなら実力のある人間に教わるのが一番手っ取り早いからだ」
「そっか、そうだよね。そういうことだよね」
すると穂乃果がなにか答えを得たように小さく呟く。だがそれは俺を含め、皆には聞こえていなかった。
「ただ、花陽や真姫の不安も理解できる。確かに今の生徒会長がまともに指導してくれると信用できない」
今までの生徒会長の行動や言動を見ていれば、そう思うのはむしろ当然ともいえる。
「だが学院にはもうあとがない。それを理解している生徒会長が指導を引き受けたのなら、まともにやるだろう。そしてそれは必ず皆のいい経験にはなる――俺はそう思っている」
だから俺が考えているのは最初からあの生徒会長が引き受けるかそうじゃないかの二つだけだ。
「まあさっきも言った通り、俺は皆の決定に従う」
俺の考えを聞いた皆は考えていた。いや、迷っていたと言うべきか。俺が言ったのはメリットデメリットの観点からだからそうなっても仕方がない。
「やっぱり余計なことだったな。あまり深く考えずに皆が受けたいかそうじゃないかで――」
「――いいんじゃないかな?」
「えっ?」
言い終わる前に結論出した穂乃果に俺は呆気に取られる。
「穂乃果?」
「穂乃果ちゃん?」
隣にいた海未やことりも同じような表情をしている。
「話をまとめると、もっと上手くなりたいから教わるって話しでしょ?」
「ああ、そういうことだな」
「だったら私は賛成!」
「ちょっと待ちなさいよ! そんな単純なことじゃないでしょ!?」
「え? 違うんですか?」
純粋に聞き返す穂乃果に、にこ先輩は言葉に詰まる。だが、にこ先輩は引かなかった。
「よく考えなさい、あの生徒会長なのよ? 嫌な予感しかしないわ」
どうやら、彼女は意地でも生徒会長と関わりたくないようだ。
このままでは平行線――そう思ったとき、
「――でもわたしも…絵里先輩のダンスはちょっと見てみたいかも」
そう口にしたのはことりだった。
「分かります! 気になりますよね!!」
そしてそれに乗っかる花陽。まさかそんなことを思っていたなんて思いもしなかった。
「凛も、そこまで言われるとちょっと気になるかなぁ」
「別に私は気にならないけど?」
口ではそういう真姫だが、若干声のトーンが普段のものより違っていた。気になっていると見ていいだろう。
「それじゃあ、頼むだけ頼んでみよう! それで駄目だったらまた考えようよ!!」
穂乃果の言葉にほとんどが同意する。
「……どうなっても知らないわよ」
ただ一人、にこ先輩はだけは深くため息を吐くのだった。
翌日、善は急げとばかりに穂乃果、海未、ことりと俺で生徒会室へと赴いた。他の四人は曲がり廊下で様子をうががっている。そしていま俺たちの目の前には仏頂面の生徒会長と笑みを浮かべている希先輩の二人組。
「なんのようかしら」
相も変わらない態度の生徒会長。だが、そんな彼女を目の前にしても穂乃果は以前のように怯まなかった。
「生徒会長――いえ、絵里先輩にお願いがあって来ました!」
生徒会長ではなく、名前で言い直したのは穂乃果の一つの誠意だ。
「お願い?」
それを感じ取った生徒会長は少し困惑した様子を見せた。
「はい――私たちに、ダンスを教えてください!」
「――っ!」
それを聞いた生徒会長は海未の方に視線を向けた。
しかし海未はなにも言わず、真剣な眼差しで返す。
「私たち、いま以上にもっと上手くなりたいんです。でも私たちだけじゃ力不足で、どうしようもないんです」
穂乃果の馬鹿がつくほどの正直な言葉。しかしいま必要なのは建前や言い訳、意地を張ることよりも、弱さを認め、しっかりと頭を下げるという気持ちだ。
「だから絵里先輩の力を貸してください! 私たちに、ダンスを教えてください!!」
お願いします!! と勢いよく頭を下げる穂乃果。
「……」
黙ったままの生徒会長。彼女の視線は依然として海未を捉えていた。
恐らく前に海未と話したときのことで、なにか思うことでもあるのだろう。だがそれは、俺が知るよしのないことだ。そして、
「……わかったわ」
数十秒の沈黙を経て、生徒会長は了承した。
「っ、ほんとですか!?」
喜びで少し前のめりになっている穂乃果に対して生徒会長は頷く。
「ええ。あなたたちの活動は理解できないけど、人気があるのは間違いないみたいだから――引き受けます」
ありがとうございます、と頭を下げる穂乃果に生徒会長はただしと付け加える。
「やるからには私が許せる水準まで頑張ってもらうわよ、いい?」
「――はいっ!」
「話がまとまったところに水を差すようで悪いんやけど、ちょっとええ?」
「希、なにかしら?」
本当に水を差すタイミングで希先輩が口を開く。
この女、また何かたくらんでいるな。
俺に意味ありげな視線を送っているところからして、嫌な予感がする。
「えりちがこの子らにダンスを教えるのはええんやけど、生徒会もやることはあるんや。その穴をうちが埋めるにしても限界がある」
それらしい言葉を並べているが、希先輩の口元は少し緩んでいた。もっとも、それに気付いているのは俺だけみたいだが。
「そこでや、えりちが居ない間のお手伝いさんが欲しいんやけど……春人くん、お願いできるかな?」
『えっ!?』
穂乃果たち、だけでなく奥にいるほかの四人も揃って驚きの声を上げる。
「どうかな? 春人くん」
嫌な予感は当たって欲しくないときほど当たるものだ。俺は希先輩の真意を問うように睨みつけるが、彼女はただ俺の反応を待つばかり。
ここは俺が折れるべきだと感じ、深くため息を吐いた。
「……条件が一つ、練習の休憩時間に様子を見に行く時間をもらいたい」
「あまり長くなったら困るで?」
「時間は五分。教えてもらうからには生徒会長に任せるが、一回目の休憩の時間だけは指定させてほしい」
「うちはそれでええよ。えりちは?」
「ええ、構わないわ。ただ、そのときに私のやり方に対して口出しはしないでもらうわ」
「こっちは頼んでいる立場だ。しっかりやってくれるのなら、あんたのやり方に口出しはしないと約束する」
「ならいいわ。それじゃあ、皆着替えて屋上に集まって頂戴」
そう言って俺の脇を通って屋上へと向かう生徒会長。
「ハルくん……」
穂乃果が不安そうな顔をする。
いや、穂乃果だけではない。海未もことりも、真姫も凛も花陽も、にこ先輩も心配そうにしていた。
「どうして皆してそんな顔するんだ。俺がいなくても別に大丈夫だろう?」
もともと、俺は皆の補助をしているだけの人間だ。普段の練習も気付いたところだけ口に出しているだけで、後は飲み物とかの用意しかしていない。
そんな人間が一人いなくなったところで、皆がこんな表情する必要もないだろう。
「ほら、せっかく引き受けてくれた生徒会長の気が変わらないうちに早く着替えて屋上に行ってこい?」
「うん…ハルくんも頑張ってね?」
「ああ」
穂乃果に続くような形で皆が屋上へと向かう。
「ふふふ…皆から頼りにされているんやね、春人くんは」
「何が目的だ」
隣に立った希先輩に少しうんざりしたような息を吐く俺。すると先輩はわざとらしい困った笑みを浮かべた。
「人聞きの悪い。ただうちは本当に生徒会の仕事を手伝って欲しいだけなんよ?」
「それはその気持ち悪いにやけ面をどうにかしてから言う台詞だ」
「女の子に向かって気持ち悪いって酷くない!?」
「別に俺の良心は一ミリたりとも痛まないし、あんたに言っても酷いとは思わないから大丈夫だ」
そう突きつけると希先輩の顔が明らかに歪んだ。
「春人くん……お、怒ってるん?」
「もう過ぎたことだからな。そこはどうでもいいと思っている。ただ、あんたに対する配慮がなくなっただけだ」
「やっぱり怒ってるよね!? ごめんなぁ!? ごめん! 謝るから許して!?」
この先輩への自分の感情の消化のために、やり返しのつもりで縋りつく希先輩をしばらく放っておいてたら、
「ぐすっ…本当にごめんなさい……何でもするから、許して……」
本気で泣きそうだったので、許した。
いかがでしたでしょうか?
ではまた次回にお会いしましょう!