"愛してる"の想いを 作:燕尾
どうも、燕尾です。
42話です
「ハルくんハルくんハルくん! ビックニュースだよー!!」
オープンキャンパスのライブも好感触で終わり、次のことを考えながらいつもの日常を過ごしていたある日のこと。海未とことりを連れた穂乃果が大きな声を上げて思い切り俺へと突撃してきた。俺は勢いを殺しつつ穂乃果を受け止める。
「っと、穂乃果。危ない」
「そんなことよりハルくん、ビックニュースなんだよ!」
「ああ。何かあったのはわかったからとりあえず落ち着け?」
顔をずいっと近づけて興奮している穂乃果を宥める。普段ならここで窘める海未に視線を向けるが、彼女も今回はと言わんばかりに許容していた。それほど何か良いことがあったのだろう。だが、
「とりあえず場所を移そうか。すごい注目されてるから」
興奮冷め終わらない穂乃果と、その様子を苦笑いしていた海未とことりの四人でアイドル研究部の部室へと向かう。部室には既に花陽と凛がいていつも通り仲良く話していた。
「それで、何があったんだ?」
そう問いかけると、穂乃果は俺の手をとってブンブンと振った。
「あのねあのね! 廃校の決定が、延期になったんだ!」
「延期?」
首を傾げる俺に、花陽が説明してくれた。
「はい! オープンキャンパスのアンケートの結果、廃校の決定はもう少し様子を見てからとなったんです!!」
「来てくださった人も多く、そのアンケートの結果が良好だったらしいんです」
「見に来てくれた子たちが興味を持ってくれたの!」
それは確かに吉報だ。
だが、いいことはそれだけではなかったみたいだ。
「ふっふっふ、でも、それだけじゃないんだよ~?」
穂乃果は俺の手をとって部室の角にある扉の前へと連れて行く。
そして、いつも閉まっているその扉を穂乃果は勢いよく開けた。
「じゃじゃ~ん! 部室が広くなりました!!」
「ここは……更衣室、にしては広いな」
ロッカーと椅子がおいてあるだけのだだっ広い空間。そこがアイドル研究部に割り当てられたのだ。
ぐるぐるとはしゃぎながら椅子に座る穂乃果。
「ほら、ハルくんもこっちに来て座ろうよ!」
「ああ」
「いや~よかったねぇ~!」
俺の膝に頭を乗せてのんびりする穂乃果。
「まだ安心している場合じゃないわよ」
そんな終始浮かれていた穂乃果に一つの声が入る。それはいつの間にか入ってきていた絵里先輩だった。
「生徒がたくさん入ってこない限り、まだ廃校の可能性は残っているのだから、頑張らないと――」
至極当然のことを言う絵里先輩。だが、そんな絵里先輩の言葉を聴いて肩を震わせていた人物がいた。
「うぅ……」
「……えっ? う、海未?」
涙目になっていた海未に絵里先輩は戸惑っていた。
「嬉しいです! まともなこと言ってくれる人がやっと入ってくれました!!」
「ええっ!?」
感激のあまりに絵里先輩の手をとる海未。
「…それじゃあ凛たちがまともじゃないみたいなんだけど?」
凛の言う通り、裏を返せばそれは普段から他がまともじゃないといっているようなものだ。
「えっと、ほら、穂乃果とかはそうかもしれないけど、春人くんとかはまともじゃなかったの?」
この生徒会長も言うことは言うよな。ほら、凛がもっと不満げな顔しているぞ。
「……春人は穂乃果にとことん甘いんです。それはもう口から砂糖が出てしまうぐらいに、あまあまなんです!」
「別に俺は甘やかしてはいないんだが…」
「だったら穂乃果を自分の膝に乗せて頭を撫でるのはやめなさい!!」
「だそうだ穂乃果。そろそろどいてくれ」
「えぇ~…もう少しだけお願いハルくん! 後ちょっとで良いから!!」
「ん、じゃあ皆が来るまでな」
「えへへ~」
そういいながら髪を梳くと穂乃果が気持ちよさそうにする。
「流れるような甘やかし……自覚がないのって本当に恐ろしいわね」
俺たちを見た絵里先輩は小さく何かを呟いていた。
そんなやり取りをしている間に次々と人が集まってくる。
「ほな練習始めよか? いまにこっちと真姫ちゃんも来とったし」
希先輩の鶴の一声でみんなの意識が練習へ向く。しかし、
「あっ…ごめんなさい……わたしちょっと、今日はこれで……」
申し訳なさそうに言うのはことりだった。
「用事か?」
「うん、ちょっと立て込んでて…本当にごめんなさい!」
失礼します、と逃げるように出て行くことりそんな後姿を俺たちは不思議そうに眺める。。
「どうしたんだろ、ことりちゃん。最近早く帰るよね?」
「ああ…まあ、立て込んでいる用事らしいから仕方がないだろう。ほら、俺は飲み物作ってくるからそのうちに皆着替えて屋上に行っててくれ」
気にはなるが本人も知られたくなさそうにしているし、あえて踏み込むことでもないだろう。
そう結論付けて、俺はボトルを持って部室から出るのだった。
絵里先輩という実力者が加わって、練習の効率や質がさらに上がり、いよいよ俺のやることはなくなってきた。そもそも最初からやることなんてほとんどないのだが。
いま俺がやっているのはドリンク作りと練習のアフターケア。それとランキングサイトのプロフィール更新とサイト管理だ。
「ハルくんハルくん、なに見ているの?」
すると練習が一段落着いて休憩に入ったのか、穂乃果が俺の肩に頭を乗せてPCを覗き込む。
「ん? ランキングサイトだ。ほら、μ'sの順位がまた上がっているぞ?」
「えっ……ああっ、本当だ! 50位!? すごーいっ!!」
「うっ……穂乃果もう少し声を落としてくれ……!」
「あ、ごめんねハルくん。でも50位だよ! 20位まで近づいてきたね!!」
「夢みたいです!」
ランキング上位を目指す期間はそれほど長くはないがまだある。この時点で50位ということは圏内狙える位置にはいるのだ。
「絵里先輩や希先輩が加わったことで女性ファンの方もついたみたいです」
「えっ?」
戸惑う絵里先輩に対して、穂乃果は確かにと頷く。
「背も高いし、脚も長いですし、美人だし――何より大人っぽい! さすが三年生!!」
「う…やめてよ……」
すると穂乃果は照れている絵里先輩の後ろに視線を向ける、その瞳に映っているのは同じ三年生のにこ先輩。
「……なに」
何か意味深な視線を向ける穂乃果を睨むにこ先輩。
「いえ、なんでも……」
慌てて取り繕う穂乃果ににこ先輩は苛立ちを隠さず鼻を鳴らす。
「でも、えりちもおっちょこちょいの所はあるんよ? この前なんてキーホルダーのチョコレートを本当に食べそうになってたりしてたし」
「ちょっと、希!」
それはおっちょこちょいなのだろうか、微妙なところであるが、絵里先輩の一面に皆がほっこりとしていた。
「でも――ここからが大変よ」
そんな和やかなムードを一変させたのは真姫だった。
「上に行けば行くほどファンもたくさんいる」
「そうだな。新規のファンを獲得するには限界がある。あまりこんなことは言いたくないが他のグループからファンを奪わないと、20位以内に入るのは厳しいだろう」
圏内を狙える位置にはいるが、そう易々と入れるわけではない。ラブライブへ出場するにはむしろここからが正念場というところだ。
「うーん、20位かぁ……」
「いまから短期間で順位を上げようとするなら、何か思い切ったことをする必要があるわね」
頭を捻り、案を捻出しようとする皆。だが、そんなすぐに思いつくわけがない。
「あまり悠長なことを言うつもりはないが、いま焦って変なことをするより、ゆっくり考えたほうが良いんじゃないか?」
「それはそうだけど…」
絵里先輩が困ったように言う。気持ちは分からなくはない。もどかしいのだろう。
「あんたたち」
するとにこ先輩が口を開く。
「順位を上げる方法は必要だけど――その前に、しなきゃいけないことがあるんじゃない?」
『?』
この場にいる全員が首を傾げる。
「やらないといけないことなんてありましたっけ?」
「あるわ! あんたたち分かってないの!?」
「分からんからもったいぶらずにさっさと教えてくれ」
「適当に言うんじゃないわよ春人!」
本当にこの先輩は面倒くさい。
「それで、結局なんなんだ?」
「ふふんそれはね――」
「……あのー」
場所は移って秋葉原。穂乃果が眉を顰めながら隣のにこ先輩に声をかける。
「ものすごく暑いんですが…」
そりゃ当然だろうと、口には出さなかったが俺は思った。
いまの穂乃果たちはコートにマフラー、サングラスにマスクといった、現代の不審者でもこの季節にはしない格好をしていた。
「我慢しなさい! これがアイドルに生きる者の道よ!」
「いや、絶対違うだろう」
どう考えてもその結論にたどり着かない俺は思わず口に出した。
「有名人なら有名人らしく、街で紛れる格好ってものがあるの」
まあ、言わんとしていることは分からなくはない。だが、
「でも、これは紛れているのかしら……」
「いえ、逆に目立っているかと……」
絵里先輩の疑問や海未の結論は間違いない。紛れてもいなし、周りの人からはこんな集団がいる時点で怪しまれている。
「――っ、馬鹿馬鹿しい!!」
そう言ってマスクを外す真姫。そういうならどうしてその格好をしていたんだと言いたくはなったが、口にしたら恐らく睨まれるだろう。
「例えプライベートであっても、常に人に見られていることを意識する――トップアイドルを目指すなら当たり前よ!!」
「はぁ……」
にこ先輩の言うことが理解できなかった穂乃果は生返事を返す。
もうそろそろにこ先輩も満足しただろう。
「……コートとマフラー、サングラスを回収して近くのコインロッカーに入れてくる。皆、脱いで」
「ちょ、春人なに勝手に言ってんのよ! てか、なんであんたは普段どおりの格好なのよ!!」
「嫌だからに決まっているだろう。こんなアホみたいな格好」
「あ、あほ……!?」
絶句しているにこ先輩を置いて、俺はにこ先輩以外の人のコートやマフラー、サングラスを受け取る。
「それじゃあ、コインロッカーに置いてくる」
「どうして私のは回収しないのよ春人! ちょ、無視するなー!!」
叫ぶにこ先輩を放置して、俺は近場のコインロッカーへと向かった。
「ほわぁああああああ!」
荷物を置いて戻ってくるとある店の中から花陽の歓喜の叫びが聞こえてくる。
「かよちん! これA-RISEの!!」
「ほんとだよ! ポスターにマグカップに…ほわあああ!!」
あまりの嬉しさに興奮どころかトリップしかけている花陽。
「なんだこの店? 穂乃果は知ってるか?」
「ううん、私もよく分からない」
「あんたたち近くに住んでいるのに知らないの? ここは最近オープンしたスクールアイドル専門ショップよ!」
首をかしげている俺と穂乃果ににこ先輩の説明が入る。
「へぇ」
「こんなお店が…」
感心する真姫にものめずらしそうに概観を眺める絵里先輩。
「まあ、ラブライブが開催されるくらいやしね」
希先輩の言う通り、大会が開催されるようになるほどスクールアイドルが流行っているのだ。こういう店があってもおかしくはないだろう。
「とはいえ、まだアキバに数件あるくらいだけど」
こういう店がそこ中にあったらそれはそれで問題だとは思う。
そんなことを考えていると、ちょんちょんと背中を突かれる。
「ねえ見て見て春人くん。この缶バッジの子可愛いよー? まるでかよちん! そっくりだにゃー!!」
缶バッジを見せてくる凛。バッジに印刷された少女は花陽そっくりというか、花陽本人だった。
「ああ、確かにそっくりで可愛いな。だってこれ本人だからな」
「えっ…ええっ――!?」
凛はもう一度見て驚愕する。
「ちなみに、他の皆の分もあるみたいだぞ」
『ええっ!?』
俺が指差すその先にはμ'sのグッズが並べられたブースを見た全員が驚き、群がった。
「ううう海未ちゃん、こ、こここれ私たちだよ!?」
「おおお落ち着きなさい穂乃果!!」
そういう海未も全然落ち着いていなかった。
「みゅ、μ'sって書いてあるよ! 石鹸売ってるのかな!?」
「ななななんでアイドルショップで、せせ石鹸を売らなきゃいけないんです?」
その通りだが、かつて見たことのないほど海未もテンパっている。
それほど驚きが大きかったということだが、そろそろ落ち着いて欲しい。
「まさか私たちのものが置かれているなんて思わなかったわ」
絵里先輩と同じで俺もそこまで考えていなかった。しかし、
「こういう店ならそれほど不思議でもないだろう。以前から注目されていたこともあったからな」
「それでも、こういうのを見ると嬉しいものですね。勇気付けられます」
「そうみたいだな」
俺は喜ぶ皆を見てそう頷いた。
花陽や凛は目じりに涙をため、真姫は口元を緩ませて、にこ先輩にいたってはどこから取り出したか分からないカメラで自分の物を写真に収めて涙ぐんでいる。
そんな姿を見ているとここに来たのはよかったと思う。
「ねね、ハルくん」
すると穂乃果が俺の袖をくいくいっと引っ張った。
「ん、どうした穂乃果?」
「これ見て」
穂乃果が指差したのはある一枚の写真。そこに写っていたのは俺たちが良く知る人物だった。
「これ、ことりちゃんだよね?」
穂乃果の確認に俺は頷く。しかし、いつものことりとは違う部分があった
「ああ、間違いなくことりだな――メイド服着ているが」
そう。写真の中のことりはメイド服を着て可愛くポーズを決めていた。
「どうしてこんなところにことりちゃんの写真があるんだろう?」
穂乃果の疑問に俺は写真をよく見つめる。
テーブルや椅子が写っていることからどこかの室内で撮られたこと。そしてメイド服のことり。以上のことから導き出される結論は――
「すみません!!」
そこまで考えていたとき、聞きなれた声が聞こえる。他のみんなも同じようでその声がしたほうを向いていた。
声の聞こえた方向――店の入り口へと歩くと、
「あの、ここに私の写真が、生写真が置いてあるって聞いて――あれは駄目なんです! 今すぐなくしてください!!」
ことりが言う写真はさっき穂乃果が見つけた写真だろう。どうやら隠れて撮られたものだったらしい。そして撮った人間がこの店に流した、ということだろう。
だが、俺たちはそんなことよりも聞きたいことが山ほどあった。
「ことりちゃん?」
「――ピィ!?」
穂乃果が声をかけるとことりは身体を硬直させる。
「……ことり、なにをやっているのですか?」
見たことのない幼馴染の格好に海未も戸惑いを隠せずにそう問いかける。
しばらく黙ったままのことり。ここで素直に教えてくれればよかったのだが、ことりは誤魔化しに走った。
「コトリ? What!? ドナタデスカ?」
足元にあった殻のカプセルを両目に当てて外国人のまねをすることり。
「そんなもので騙される人間はいないと思うのだが――」
「はっ! 外国人!?」
「――前言撤回、いたみたいだな」
凛の素直さにはたまに心配になってしまう。後ろにいた絵里先輩もどこか呆れた目をしていた。
「ことりちゃん、だよね?」
「チガイマァス!」
穂乃果の問いかけにことりはそういうが凛以外には、もうとっくにバレている。
そんなことりが取る行動といえば唯一つ。
「ソレデハ、ゴキゲンヨー。ヨキニハカラエ、ミナノシュウ――……さらばっ!!」
「「ああっ! 逃げた!!」」
ゆっくり、ゆっくりとこの場から離れてそして一気に駆け出したことり。
その後を慌てて穂乃果と海未が追いかける。あっという間に幼馴染三人の姿が人ごみに紛れて見えなくなった。
「ど、どうしましょう……行ってしまいましたけど」
不安そうにしている花陽に俺は大丈夫だと言う。
「後で話を聞けば良いことだからな」
「まあ、普通に考えて明日も学校で会うものね」
「そういうことだ、それに――」
俺はこの場からいなくなったもう一人の存在を指摘する。
「スピリチュアルパワーで先回りしている先輩がいるみたいだし、穂乃果たちが振り切られたとしてもことりは捕まるだろうな」
「希、いつの間にいなくなって……」
親友の神出鬼没さにちょっと怯える絵里先輩。
「だから俺たちは連絡が来るまでどこかで時間を潰そうか」
そう言って俺たちはアイドルショップを後にしようとする。だが、その前にやることが一つ。
「あの、すみません」
「はい、なんでしょう――」
俺はさっきことりが抗議していた店員に問いかける。
「この写真、いくらしますか?」
「えーっと、そちらは2500円です」
2500円って…写真一枚でこの値段はないだろう。
俺は仕方ないとため息を吐いて、バッグから財布を取り出すのだった。
いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に会いましょう