"愛してる"の想いを 作:燕尾
どうも、燕尾です。
44話目です。短めです。
「アキバでライブよ!」
ことりのバイトのことを知った次の日、皆が集まったところで絵里先輩がそんなことを言い出した。
「えっ、それって……!」
「路上ライブっ…?」
いち早く察して反応した穂乃果とことりに絵里先輩は正解と言う風に頷いた。
「アキバと言えばA-RISEのお膝元よ!?」
にこ先輩も少し戸惑っていた。気持ちは分からなくもないが、お膝元と言ってもアキバの全てにおいてA-RISEが先頭立っているわけではない。だからこそ、
「それだけに面白い!」
希先輩と見解が概ね一致したみたいだ。だからこそやる価値は十分にあるし、新しいことに挑戦するのはいいことだ。
「でも随分と大胆ね?」
しかし真姫の疑問は最もだ。μ'sに入る前までは慎重過ぎるのではないかと思うぐらい色々と考え込んでいたというのに。
「アキバはアイドルファンの聖地。だからこそあそこで認められるパフォーマンスが出来れば大きなアピールになると思うの!」
本当に人の変化というのは凄いと思う。本当にこの人が絵里先輩なのか疑ってしまうほどだ。
「……春人くん、いま何かよくないこと考えてない?」
「そんなことない」
「ならこっちを向いて言いなさい!!」
はてさて、なんのことやらさっぱりである。
「全く、もう……それで、皆はどうかしら?」
「良いと思います!」
「楽しそう!」
悩むことなく穂乃果とことりが同意する。
「しかし、すごい人では」
「人がいなかったらやる意味ないでしょ」
海未……人前が苦手なのは仕方がないがにこ先輩の言うとおり、見てくれる人がいるからこそのライブだろう。
「凛も賛成~!!」
「じゃ、じゃあ私も!!」
「……」
みんな賛同する中一人不安そうにする海未。
「じゃあ、早速日程を――」
「と、その前に」
行動に移そうとした穂乃果を絵里先輩が止める。
「今回の作詞はいつもと違ってアキバのことをよく知っている人に書いてもらうべきだと思うの」
理にはかなっているように思えるが、俺には絵里先輩の目的はもっと別のところにあるような気がした。そしてそれはすぐに答えが出た。
「――ことりさん、どう?」
「えっ、わたし!?」
戸惑うことりに俺は内心、なるほど、と思った。絵里先輩は昨日ことりが言っていたことが頭の中で引っかかり、こういうのを考えたのだろう。
「ええ。あの街でずっとアルバイトしてたんでしょう? きっとあそこで歌うのに相応しい歌詞を作れると思うの」
「――いいよ! すごくいい!!」
「やったほうが良いです。ことりならアキバに相応しい、いい歌詞が書けますよ!」
ことりが反応する前に穂乃果と海未が声を上げる。
「凛もことり先輩のあまあまな歌詞で歌いたいにゃー!」
「そ、そう……?」
「ちゃんといい歌詞書きなさいよ?」
「期待しているわ」
「頑張ってね!」
次々と激励の言葉がことりに送られる。しかし、
「う、うん……」
頷くことりはどこか無理しているような、何かを誤魔化しているような笑顔だ。
「ことり」
「な、何かな、春人くん?」
「初めての作詞なんだ。わからないことがあったら海未とかに話を聞いたりしたほうがいい。俺も協力するから」
「ありがと、春人くん。だけどせっかく任されたんだもん。頑張ってみるよ」
笑顔で気合を入れることり。
何を言っても揺るぎそうにない決意。そんな彼女の様子を見て、俺は少し不安に思った。
そしてその不安は見事に当たることになった。
新しい曲の歌詞作り頼まれたことりは早速次の日から作詞に取り組んでいた。だが、ことりにとっても初めての作詞作業。そう簡単にはいかなかった。
放課後になってから教室で一人、ことりは考え込んでいた。
「チョコレートパフェ、おいしい……生地がパリパリのクレープ、食べたい……はちわれの猫、可愛い……五本指ソックス……気持ち良い……」
とりあえず思いついたことを書き起こしているのだろう。しかし、それが歌の詞につながることはない。
するとことりはうぅ、と呻いて、ついに涙目になりながら机に伏した。
「思いつかないよぉ――!!」
「「「……」」」
俺、穂乃果、海未の三人は頭を抱えることりを教室の外からバレないように見守っていた。
手助けしてあげたい気持ちはあるのだが、絵里先輩の狙いやことりの決意を知っている俺としてはここで出て行くわけにも行かない。
だから我慢して見守っている、のだが……
「ふわふわしたもの可愛いな、はいっ! 後はマカロンたくさん並べたら? カラフルでしーあーわーせ♪ るーるーるーるー……ぐすっ」
やっぱり無理だよぉ!! と叫ぶことり。
「苦戦しているようですね」
「うん……」
ことりの様子を見て穂乃果や海未もどうしたものかと、心配する。
「うぅ…穂乃果ちゃん、海未ちゃん……」
ことりの小さな声が、静かな教室では大きく聞こえた。
それからも、ことりは四六時中歌詞を考えていた。
英語の授業中も――
「南さん…南ことりさん!!」
「えっ、は、はいっ!?」
「ここの訳を答えてください」
「えーっと……」
「ことり、これ」
「ありがとう、春人くん……」
先生に大きな声で呼ばれるまで気付かないほどに、
体育の授業――
「ふぇ~…なに書いていいのかわかんないよ~」
「考えすぎだよ、海未ちゃんみたいにほわんほわんな感じで良いんじゃない?」
「それ、褒めてるんですか!?」
「褒めてるよ~!!」
体動かしているときも、
昼休み――
「う~ん…」
「ことりちゃん、昼休み終わっちゃうよ……?」
「う~ん……」
「ことり、箸は動いているけどなにもつかめてないぞ?」
「う~ん………」
「「「……」」」
ごはんを食べながらも、
午後の授業――
「ここでDが0なら重解を持ち、Dが0以下なら虚数解を持ちます、またこれからグラフの――」
カチ、カチ、カチ……
「すぅ…すぅ……」
「穂乃果、起きろ」
「むにゃむにゃ、もう食べられないよ…」
「……」
ベタな寝言を言うような眠気を誘う午後の授業中のときも、ことりはずっと歌詞を考えていた。
それでも、作詞のノートは埋まらない。
「南、ここんとこ気が抜けてるぞ? しっかりしろ」
「すみません……」
そして、ついには職員室に呼ばれて担任に注意されるほど、ことりは追い詰められていた。
「……はぁ」
教室に戻ってきたことりはノートを閉じてため息を吐く。
そんな友人の姿を見続けてついに我慢が出来なくなったのか、見守っていた穂乃果がいきなり飛び出した。
「あ、穂乃果…!」
「ことりちゃん!」
「穂乃果ちゃん!? それに海未ちゃんと春人くんも!?」
俺たちの姿を見て驚くことり。どうやらはじめて俺たちの存在を認識したようだ。
「ことりちゃん! 一人じゃ駄目ならみんなで考えよう――とっておきの方法で!!」
戸惑うことり。いや、戸惑っていたのはことりだけではなかった。
穂乃果以外の全員が穂乃果の言う"とっておきの方法"に首を傾げるのだった。
いかがでしたでしょうか?
また次回をお楽しみください。ではでは~