"愛してる"の想いを   作:燕尾

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どうもです。
寒くなりました、風邪引かないように気をつけてください。

では45話目です。


45.アキバでのライブ

 

 

 

こんなところで何をしているのだろうか。

俺は鍋を振るいながらそう心の中で愚痴る。

 

「春人くん、そのオムライスが終わったら次ナポリタンお願い! その次はチョコレートパフェ!!」

 

「ハルくん! 追加でBLTサンドとカルボナーラ、それとイチゴパフェ!!」

 

「春人さん、カレーライスとチョコパンケーキにイチゴホイップサンド、お願いします!」

 

ことり、穂乃果、花陽から次々と入ってくる食べ物のオーダー。

 

「春人、ブレンドコーヒーにメロンクリームソーダをお願いします!」

 

「春人くん、イチゴミルクにメロンクリームソーダ入ったにゃ!」

 

「春人、コーラにりんごジュース、それとメロンクリームソーダオーダーよ!」

 

海未に凛、真姫から来る大量の飲み物のオーダー。というかメロンクリームソーダが多いな。

 

「春人、パフェとパンケーキはあたしに任せて、あんたはオムライスとパスタに集中しなさい」

 

「それならうちはBLTサンドとカレーを担当するで」

 

「私は飲み物を作って、ほかの皆とお客様にお出しするわね」

 

にこ先輩、希先輩、絵里先輩はすばやく仕事の分別をして、指揮を執る。

忙しなく動くμ'sのメンバーたち。、みんなはいま――メイド服をその身に纏っている。

活気あふれる中、入り口のドアベルが鳴り響く。

 

『お帰りなさいませ、ご主人様~!!』

 

そして新たに来店してきたご主人様(お客さん)方をことりを中心に出迎える。

そう。俺たちはいま、秋葉原にあるとあるメイド喫茶で働いているのだ。

ほんとうにどうして、こうなったのだろうか。俺は何度目か分からないため息を吐く。

こうなったことの原因は数日前のこと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

 

「お帰りなさいませ、ご主人様!!」

 

「お帰りなさいませ、ご主人様……」

 

 

行き詰っていたことりを引っ張り出して、俺たちがやってきたのは秋葉原。

そして、いまいるのは秋葉原のとあるメイド喫茶――ことりが働いている喫茶店だ。

これが穂乃果の言うとっておきの方法だった。

 

「とっても可愛い! ばっちりだよ、二人とも!!」

 

興奮冷め止まぬようにことりが言う。

店員のことりはもちろん一緒にやってきた穂乃果と海未もメイド服を着て接客をしていた。

友達とはいえ、いきなり働かせるのは大丈夫なのかとことりに聞く。

 

「大丈夫。店長も快く二人を歓迎するって!」

 

どうやら話は通していたらしい。厨房から顔を出した店長がグッと親指を突き立てている。

 

「こんなことかと思いました……」

 

そんな中、海未が肩を落として呟いた。人前に出るのが苦手な海未にとって接客だけでも厳しいのに、プラスでメイド服を着ることになって精神的疲労が重なっているのだろう。

それでもスクールアイドルとしてライブを重ねていたのだから少しは大丈夫だと思っていたのだが、海未曰く、それとこれとはまた別の問題らしい。

 

「はあぁ……出来ればお客さんが来ないで欲しいです」

 

「こら、そんなこと滅多に言うもんじゃない」

 

海未の発言にさすがに注意する。

すると、そんな海未の気持ちとは裏腹にドアベルが鳴り響き、勢いよくドアが開かれた。

 

「にゃー!!」

 

そんな鳴き声とともに入って来たお客さんは猫娘の凛。

 

「遊びに来たよ!」

 

「春人さんもいたんですね」

 

その後ろには控え目に笑う花陽がいた。そして、凛と花陽だけではなく次々とμ'sのメンバーが入ってくる。

 

「アキバで歌う曲なら、アキバで考えるってことね」

 

「考えたじゃない。確かにこれならなにか思いつくかもしれないわね」

 

感心しながら入ってくる絵里先輩と真姫。

 

「ではでは、早速取材を――」

 

「やめなさい。店の許可も取らずに」

 

「あぁ! 春人くんカメラ返して!!」

 

入って早々レンズを穂乃果たちに向ける希先輩から俺はカメラを取り上げる。

 

「どうして、皆が!?」

 

「私が呼んだの、こうしたほうが早く慣れるでしょ?」

 

戸惑う海未に説明する穂乃果。

 

「そんなことより、さっさと接客しちょうだい」

 

「どこにもいないと思っていたら、案内される前に席に座っていたのかにこ先輩」

 

不遜な態度のにこ先輩に俺は呆れる。まあ、知り合いだからこそ取れる態度ともいえる。

 

「はーい、少々お待ちを――っと、その前に皆に見せたいものがあるんだ」

 

「見せたいもの?」

 

「見せたいものとはなんですか、穂乃果?」

 

そう問いかけると穂乃果は怪しい笑みを俺に向けてきた。

 

「ふっふっふ…それはお楽しみということで――ねっ、ことりちゃん!」

 

「うんっ!」

 

そう頷いて、穂乃果とことりは俺の両腕をとる。その行動に俺は嫌な予感がした。

 

「それじゃあ、行こっか。春人くん!」

 

「行くって、どこへだ?」

 

「ん? 更衣室だよ」

 

「春人くんにはあるものを着てもらいます!」

 

「……」

 

楽しそうにそう言う穂乃果とことりに俺はするりと抜け出し、逃げようとする。しかし、

 

「ふふふ、春人。逃げたら駄目ですよ?」

 

ある程度察した海未が退路を断ってくる。いや、海未だけじゃなかった。

 

「春人くん、男らしく行ったほうがいいわよ?」

 

期待したような目で言ってくる、絵里先輩に、

 

「ほら春人、さっさといってきなさい」

 

他人事だと思って適当言う、ちびっ子(にこ先輩)

 

「ちょ、誰がちびっ子よ!?」

 

どうして心の中を読み当てたのかはあえて問わない。

 

「春人くん、もう観念したほうがええで?」

 

楽しそうに希先輩がそういった瞬間、手のほうから、がしゃん、と音が鳴った。

 

「逃がさないよ。春人くん?」

 

仄暗い笑みを浮べたことりが俺の手にかけたのは手錠だった。それから、ことりはもう片方の輪を自分の手にかける。

 

「……どうしてこんなものがこの店にあるんだ、ことり?」

 

「それは、禁則事項です♪」

 

恐らく、食い逃げ犯などの不届き物を逃がさないためのものだろう。そう納得しよう、と心の中で誓う。言及するのは恐ろしく感じたからだ。

 

「ちなみに鍵は穂乃果ちゃんが持ってるから、逃げられないよ?」

 

「……」

 

心にトドメを刺された俺は素直にことりたちに従う。

俺は罪人のように更衣室へと連れられる。

 

「それじゃあ、はい、これ!」

 

そして、更衣室で錠を外され、渡されたのは一つの紙袋。

カーテンを閉められて、袋から中身を出す。

 

「……これは、本当に俺が着るのか?」

 

「もちろん!」

 

確認すると穂乃果から即答で返ってくる。俺は諦めて、渡された衣装を着る。

着替えが終わり、カーテンを開けると、二人からおおっ、と感嘆の声が洩れた。

 

「これはこれは…なかなか……」

 

「ばっちりだよ、春人くん!!」

 

「……そうか」

 

げんなりして小さく答える。俺はさっきまでの海未の気持ちがなんとなくわかったような気がしていた。

その後は髪の毛を弄られ、伊達眼鏡を掛けられるなど、身だしなみを整えられること十分――いろいろと教え込まれた俺は皆の前へと連れて行かれた。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

ことりに仕込まれたように、皆の前へ恭しく一礼する俺。

 

『…………』

 

余程おかしかったのか、そんな俺を彼女たちは呆然としていた。

 

「どうかなさいましたか、お嬢様方」

 

首を傾げる俺にみんなは顔を伏せた。

 

「どうかなさいましたかって、どうかしかないですよ……」

 

「破壊力ありすぎ……」

 

「春人くん、かっこいいにゃ…」

 

「はわわわわ~……!?!?」

 

「これは…すごいものを作り出したわね、穂乃果、ことり……」

 

「なんか、いけない扉が開きそうやね」

 

「ハラショー…」

 

「ふっふー、すごいでしょ! 執事ハルくん!!」

 

まるで自分のことのように自慢する穂乃果。

 

「まさかこんなことさせられるとは俺も思わなかった。本当によく店長も許可したな…」

 

「むしろやってほしいっていわれたの。新しいお店を開くために」

 

ことりから話を聞くとここの店長はアキバで執事喫茶を開こうとしているらしい。

だがまだ構想の段階でしかなく、実際にどういう反応をされるのかよく知らないのでその試験がしたかったようだ。

そこで白羽の矢が立てられたのが俺ということだった。

厨房からは店長が今度は俺に向けて親指を立てている。どうやらお眼鏡に適う反応が得られたらしい。やらされるこっちはたまったものではないが。

 

「で、もういいのなら着替えたいんだが……」

 

すると、ことりは何か言いづらそうな表情をする。

 

「えっとね、春人くんもしばらく働いてほしいみたい。女性客限定で」

 

「えっ……!?」

 

そこで驚きの声を漏らしたのは俺ではなく穂乃果だった。

 

「女性客限定って…ああ、まあそうか。男が執事に接客されても嬉しくはないか」

 

俺も疑問に思ったが、すぐに理解した。余程変なやつじゃない限り、執事喫茶に来る男性なんていないだろう。

 

「ちゃんと働いてくれた分のお給料も出すっていってるし、協力してほしいって」

 

正直言うと面倒くさいし、発作のこともある。だが、

 

「だめ、かな…春人くん……? わたしも春人くんと働いてみたいなって思うの」

 

どういうわけか分からないが、不安そうな顔をすることりのお願いを無碍にはできそうになかった。

 

「わかった。少しの期間なら、引き受ける」

 

「ほんと!?」

 

頷く俺にことりは良かった~と安堵の息を漏らしていた。だが、

 

「……」

 

バシッ、バシッ、と腰あたりが(はた)かれる。

 

「穂乃果?」

 

「……」

 

穂乃果からの無言の抗議に俺は戸惑う。そして、また叩かれる。

 

「どうしたんだ。穂乃果?」

 

「……そんなに女の人を接客したいの?」

 

「いや、そういうつもりじゃないが…」

 

見ず知らずの女性を接客することを望んでいるわけない。ただ、ことりにそうして欲しいと言われたから、ただそれだけなのだが、穂乃果はそう受け取らなかったようだ。

 

「むぅー!」

 

ことりや海未が止めるまで、俺は穂乃果から攻撃を受け続けた。

こうして、なんだかんだいいながら俺はメイド喫茶で執事として働くというわけのわからない状況に身をおくことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それから最初は穂乃果、海未、ことりと俺の四人だけだったのだが、あれよあれよとμ's全員でメイド喫茶で働くことになっていた。

 

「いやぁ、大盛況だねぇ。店長としては嬉しい限りだよ」

 

いつの間にか隣に来ていた店長がにこやかに言ってくる。

 

「それはよかったですね。そんなこと言いに来ただけならこれ運んでください」

 

「それは君が運ぶべきよ。なんたって君目当ての女性がたくさんいるんだから」

 

「いま手が放せないのはわかっているでしょう」

 

慌ただしく動いているμ'sのメンバーたち。しっかりと役割分担をしているのだがそれでも追いついていない。

俺は絡んでくる店長に目も暮れずひたすらフライパンを振るい、料理を仕上げていく。

そんな俺の姿を店長はじっと見つめていた。

 

「ねえ、春人くん」

 

「無理です」

 

俺はなにも言わさずに断った。

 

「まだなにも言ってないのだけど?」

 

当然店長から不満の声が上がるが言わなくてもわかる。どうせ新しく開店させる執事喫茶で働いて欲しいと言うのだろう。

 

「条件はライブの場所として借りる代わりにそれまでの期間、新しい店のための試験データ集めとして働くことです」

 

それに、仮に働き始めたとしても一年も続けられないのはわかりきっている。いや、一年どころか半年も怪しいところだ。

 

「俺よりも集客率の良い人間なんて東京の街にいたら簡単に見つかるでしょう」

 

「いやいや、君以上の人を見つけるのはなかなか骨が折れるよ。だからこうして勧誘しているんじゃない」

 

「それは買い被りすぎです。いまお客さんが来ているのも期間限定の物珍しさで来ているだけで、新しく店を開店させたらこうはいかないでしょう」

 

「謙遜過ぎるのも考え物ね――そういう人間じゃないなら、どうしてμ'sの子達は君をこんなに信頼しているのか、考えたことはないのかしら……」

 

「なにかいいました?」

 

なんでもー、と作り上げたナポリタンをひょいっと持ってフロアへと出て行く店長。

すると店長と入れ替わりでことりがやってきた。

 

「春人くん追加――って、春人くん駄目だよ」

 

厨房に入ってくるなり、俺を注意することり。何のことかわからずに俺は首をかしげる。

 

「ここにいるときは笑顔じゃないと、ね?」

 

「笑顔って…ここは厨房なんだが……それに、俺の笑顔なんて誰も求めていないだろう?」

 

「そんなことないよ。それに確かにここは厨房だけど、そういう心構えが必要なの」

 

「ん、そうなのか」

 

そうなの、と笑顔で言うことり。こう言ってはいけないのだろうが、いつものことりとは違ってまるで別人のよう――いや、違う。

 

「なんだか、活き活きしているな。ことり」

 

そう、言い表すならこうなのだろう。別人じゃない。

ここで働く姿もことりの一部。ただ、俺たちが見たことない姿なだけだ。

 

「そうかな?」

 

「ああ。楽しそうにしている」

 

「うん、なんかね? この服を着ているとできるっていうか、この街に来ると不思議と勇気がもらえるから、かな?」

 

「勇気?」

 

「そう。もし思い切って自分を変えようとしても、この街ならきっと受け入れてくれる気がする、そんな気持ちにさせてくれるんだ。だから好きなの!」

 

「……」

 

ことりから紡がれる言葉。それはまるで純粋な気持ちを表したような詩のような言葉だった。

そして俺は気付いた。

 

「ことり、今の気持ちを歌に乗せみたらどうだ」

 

「えっ? いまのって……」

 

「いま言ったような好きだっていう気持ち。秋葉原の街にいて感じたこと、それを詞にしたらいいんじゃないか? とっても綺麗だった」

 

「……」

 

呆けることり。ジッと視線を向けられて、俺は最後に言った言葉に気付く。

 

「その…ただ俺がそう思っただけで、ことりが違うと思うなら、別に気にしなくていい……」

 

「え、えーっと! そうしてみるよ! うん! ありが、と……」

 

お互い顔が紅くなって俯く。なんだか気恥ずかしさが止まらない。

 

「「……」」

 

「――うぉっほん!!」

 

「「っ!!」」

 

すると気付かないうちに穂乃果が、間に割り込んできた。

 

「ハルくん、ことりちゃん、オーダーたくさんあるんだよ? それなのに――何をしているのかなぁ?」

 

笑顔の穂乃果が迫ってくる。そう、笑顔でだ。

 

「ほ、穂乃果?」

 

「ハルくん」

 

「な、なんだ?」

 

「……馬鹿」

 

そして笑顔のまま穂乃果はそう言って、作り上げた料理を持っていった。俺とことりはその背中を呆然と見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてライブ当日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店のメイド服を衣装に、マイクを持つμ'sの皆。俺は窓から様子を窺う。

 

「どうやら、成功みたいね」

 

「あんたは忍び寄らないと気がすまないのか?」

 

またいつの間にか並び立っていた店長に俺は呆れたように言う。

 

「それに、まだ終わってないですよ」

 

「終わってなくてもこの光景を見たらわかるんじゃない?」

 

「……」

 

俺はもう一度外を見る。笑顔で歌う彼女たち、それを囲んでいる数え切れない多くの観客たちも笑顔で聞いている。これを見る限り、成功といってもいいのだろう。

安心すると同時に俺は余計なこと考えてしまった。あと、何回この光景を見られるのだろうか――と。

始め有るものは必ず終わり有り、という言葉がある。それは昔の中国のある著者が書いたもので、物事には必ず始まりと終わりがあるもの、と言ったものだ。

始まりはあのファーストライブ、いや、穂乃果たちと初めて出会ったとき。なら、終わりは、いつになるのだろうか。絵里先輩、希先輩、にこ先輩の卒業と同時だろうか。それとも―― 

 

「こらっ」

 

そんなことを考えている最中に店長から頬を突かれた。

 

「なに辛気くさい顔しているのさ、ことりちゃんにまた注意されるよ?」

 

「そんな顔してません」

 

「してたよ。あの子たちじゃない、もっと遠くの場所を見つめて、なにかを諦めたような、そんな顔」

 

「……」

 

山田先生もそうだが、どうして些細に思ったことをこうも読み取れるのか。

そこまでわかりやすい顔だったのだろうか、それとも単にこの人たちが鋭いだけなのだろうか。

 

「私はたまたま気づいただけだよ。そうだね、あとは一度わかってしまえば予測は立てやすいんだ。君みたいなタイプは」

 

いまもこうして読み取ってくるのを見ると本当に考えてしまう。そして俺は一つの結論に至った。

 

「年の――」

 

「なにかいったかな?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

俺は即座に言葉を引っ込めた。いつの間にか握り拳を作っているのを見ると、全部言っていたら間違いなくその拳は放たれていただろう。

 

「まあいいわ。とりあえず、詳しいことまではわからないけど今を目一杯楽しみなさい。暗い顔した人生ほどつまらないものはないんだから、ね?」

 

そういいながら外に行ってこいといわんばかりに背中を押してくる店長。

 

「…そうですね」

 

一瞬呆けてしまうも、親指を立てる店長に俺は小さく笑う。

終わりは必ず来る。

それがいつになるかわからないからこそ今を精一杯楽しもう。

俺は店長の厚意に甘え、皆のいるところへと行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そういえば――ことり」

 

「ん…なにかな春人くん?」

 

メイド喫茶でのライブを終え、片づけをしているとき俺あるものをことりに渡した。

 

「あ、これって……!」

 

「スクールアイドルのお店で売ってたことりちゃんの写真だ! どうしてハルくんが持ってるの!?」

 

後ろから覗いてきた穂乃果が俺が渡したものを言う。

 

「買っただけだ」

 

自分の写真を見たことりは驚きの表情をしていた。まあ、俺が持っていたなんて思ってもいなかったのだろう。

 

「店に出てた写真、回収したかったんだろう?」

 

「うん…それはそうだけど。買ったって、自分で言うのもおかしいけど結構高かったんじゃ……」

 

「裏に値段が張られてるね――え゛っ!? 2500円……!?」

 

写真の裏に張られてたプライスシールを見た穂乃果が変な声を上げていた。

 

「気にするな。それとこれから店に出回ってきたのは俺に連絡が来るようになってるから。そういうことがあったら伝える」

 

「いったいどうやって…」

 

「脅した」

 

「えっ!?」

 

「脅した」

 

「いや、聞き直したんじゃなくて驚いているんだけど!?」

 

なにしてるのハルくん!? と迫ってくる穂乃果。

 

「人の許可ない写真を勝手に販売しているんだ。訴えられた店という箔をつけたくないなら連絡しろ、みたいな具合に。これがその誓約書」

 

「そ、そこまでしていたんだ……」

 

ドン引く穂乃果。だが、こういうものの書類が一番重要なのだ。

俺の言葉が本気だと捉え、さすがにそこまでのリスクは負えない店も素直に連絡することを誓った。

こんなこといえば全てのスクールアイドルショップ自体が駄目になるのだが、彼女たちも自分たちのグッズが出ていることを喜んでいたようだから、そこはなにも言わなかった。

撮影して持ち込んだ人間を特定できればいいのだが、店に監視カメラなどがなかったためそこまでは出来なかった。

 

「そういうことであとは店で撮影の徹底したら、こういうことはほとんどなくなると思う」

 

「……どうしてそこまでしてくれたの?」

 

そう問いかけてくることりの表情は困惑しながらも真剣なものだった。

 

「ことりが本当に困っていたから、どうにかしたいと思った。ただ、それだけ」

 

ことりは友達だ。その友達が本当に困っていたのだから、俺に出来ることをしたのだ。

ことりは呆けながら手渡された写真を見つめている。

するとことりはなにか決意した面持ちで自分の写真を俺に差し出した。

 

「――これは春人くんが持ってて」

 

「えっ?」

 

戸惑う俺にことりはぐいっと押し付ける。

 

「はいっ」

 

「どうして俺に…? ことりだって嫌だから回収しようとしていたんだろう?」

 

「そうだけど春人くんがお金出して買ったものだし、あなたなら良いかなって――ううん。春人くんだから持ってて欲しいって、わたしがそう思ってるの」

 

だから、ね? お願い。と可愛らしい笑みで懇願してくることり。

 

「ああ、わかった…」

 

不思議には思うが、断る理由もない俺は頷いてことりから写真を受け取った。

 

「むぅ……」

 

そんな俺たちのやり取りを間近で見ていた穂乃果がなにか不満そうに唸る。

 

「ハルくん、ことりちゃんの写真そんなに欲しいんだ」

 

「どうしてそうなる…」

 

そんなこと一言も言っていない。ただあげると言われたからもらっただけだ奈のだが。

 

「欲しくなかったの……?」

 

どっちかを立てるとどっちかが立たない状態に俺は困る。だがそれよりも、

 

「……ことり、嘘泣きはやめてくれ」

 

「えへっ、バレちゃった♪」

 

目を手で覆ってないている仕草をしているが、口元が緩んでいるのだから誰だって気付く。

 

「でも、持ってて欲しいっているのは嘘じゃないよ」

 

そこまで疑っていないのだが、反応に困る言い方をしないで欲しい。

 

「うぅ……ことりちゃんだけずるいよ!」

 

何がずるいのか俺にはわからないが、穂乃果が怒っているのだけはわかる。

 

「あ、写真は肌身離さず持っててね♪」

 

追撃するかのように言ったことりに対して穂乃果の頬はさらに膨らむ。

 

「むぅー!! 今度穂乃果も写真撮る! というか今撮る!」

 

片づけをそっちのけで駄々を捏ね身を寄せて写真を撮ろうとしてくる穂乃果を持て余すのだった。

 

 

 

 

 

 







いかがでしたでしょうか?

年内に後一回は更新したいなぁ……(願望)
ではまた次回に~

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