"愛してる"の想いを   作:燕尾

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どうも燕尾です。
今年最後……というより、31日に更新なんだから問答無用で最後です。

年始はいつ更新しようか迷っています。
とりあえず56話目です。





46.合宿へいこう

 

 

 

「合宿だよ、ハルくん!!」

 

「……合宿?」

 

夏の日差しが眩しいと思うある日の放課後。外の気温に負けないぐらいの熱気で穂乃果は突然そう言った。

 

「うん! 真姫ちゃん家の別荘を泊まる場所にして合宿に行くの!」

 

俺からしたら急にどうしたのだろうとしか思えず、他の皆に説明を求める。

そこで答えてくれたのは海未だった。

 

「えっと、その…いま穂乃果が言った通り、合宿で海に行こうという話になりまして」

 

「ああ。あらかた理解できた。避暑もかねているんだな?」

 

季節は夏真っ只中。真夏の猛暑の中で屋上で練習するのはなかなか堪えるのだろう。そこで海で涼みながら強化練習を行うということか。

 

「うん。いいんじゃないか? 玉の息抜きもできるだろうし。行ってくるといい」

 

「何言ってんのよ。あんたも行くのよ?」

 

にこ先輩の言葉に俺は身体が止まった。

 

「何だって…?」

 

なんか変な幻聴が聞こえた俺はもう一度にこ先輩に尋ねる。

 

「だから、あんたも行くのよ」

 

「……Why」

 

「どうして英語なのかしら、春人くん?」

 

とっさに出てしまった反応に絵里先輩が苦笑いしていた。

いや、だがこれはそうなっても仕方がないだろう。

 

「穂乃果。どうして、俺が一緒に行くことになっているんだ……?」

 

「ふぇ? だってハルくんだってμ'sの一人だもん」

 

さも当然のように言う穂乃果。まあそうカウントされているのは喜ぶべきなのだろうが、重要なところはそこじゃない。

 

「この合宿は泊りがけなんだよな?」

 

「うん! さっきも言ったけどある海辺に真姫ちゃん家の別荘があるんだって!」

 

屈託のない笑顔で言う穂乃果に俺ははぁ、とため息を吐いた。

 

「穂乃果。俺は不参加だ」

 

『えぇー-ー!?!?』

 

穂乃果だけではなく、他の皆全員が声を上げた。いや、どうして皆まで驚いているんだ。

 

「ハルくん! どうして!?!?」

 

「どうしてもこうしても、さすがに男女1つの屋根で泊まりは駄目だろう」

 

PVの一件はまだしも、さすがに合宿まで一緒とは行くわけにはいかない。

 

「そんなこと誰も気にしてないよ?」

 

ね? という穂乃果に皆は頷いた。

 

「少しは気にしてくれよ……それなら皆の親は? 普通なら反対するところだろう。特に父親は」

 

「穂乃果の家は問題なかったよ? お母さんはハルくんに迷惑掛けないように頑張って言ってきたけど。お父さんは普段からあまり喋らないほうだけどお母さんと大体同じこと言ってた」

 

穂波さん、親父さん。いま絶賛迷惑を掛けられている最中です。それに穂乃果に何を吹き込んだのか少し怖く感じる。

 

「ことりのお母さんも認めてくれたよ? それに春人くんがいるなら安心だねって話してたし。お父さんはいま家にいないから…」

 

理事長…教育現場のトップに立つ人間がそれでいいのか。父親は、まあ仕方がない。

 

「私の家も問題ありませんでした。お父様が少し荒んでいましたけど、お母様が黙――説得しました」

 

いま黙らせたって言おうとしたな海未。海未の家では父親の権力は弱いようだ。父親ももっと頑張って欲かった。

 

「私も問題ありませんでした。それどころか……はわわわわぁ~~~!?」

 

途中で顔を紅くして叫ぶ花陽。一体君は両親から何を言われたんだ。

 

「凛も問題なかったにゃ。むしろきちんとお世話すること、って言われたにゃ」

 

お世話って……まさかペットのような説明をしたのか、凛?

 

「私の家も特に問題ないわ。二人とも、あなたの人柄をよく知っているもの」

 

真奈さんと先生からいつそこまでの信頼を勝ち取っていたのかは知らないけど、もっと考えて欲しい。

 

「にこの家は両親が共働きで普段からいないから、私の考えは尊重されてるし、その行動に対して責任は自分で持つようにって言われているわ」

 

「私も亜里沙と二人暮らしだから似たようなものね。それにもう高校三年生だからそれなりの責任と自由はあるわ」

 

「うちも同じ理由やな。えりちとは違って兄弟姉妹が居ないから一人暮らしやけど」

 

理屈はわかるが三年生たち。あんたたちが一番質が悪いぞ。考えなしなのか?

 

「ということで、皆オッケーです!」

 

「皆がオッケーでも、状況が良くない。年頃の女の子なら、もう少し警戒心を持て」

 

「ハルくんは私たちにひどいことするの?」

 

「……」

 

穂乃果の切り返しに俺は口を閉ざす。

そんなことする気は毛頭ないのだが、だからといって、泊りがけは無理がある。

 

「……せめて、別な宿泊施設はないのか?」

 

「ないわ」

 

あってほしいという願いをこめて真姫に視線を送ったのだが、真姫は考える素振りすらせずに、すぐに答えた。

 

「俺は――」

 

「駄目! ハルくんも参加するの!!」

 

もはや俺に意見を言わせないように穂乃果が手を取って声を上げる。

 

「春人くん、諦めたほうがいいんじゃないかな? こうなった穂乃果ちゃんは頑固だよ?」

 

「ことりの言う通りです春人。この状態の穂乃果が言うこと聞いた試しはありません」

 

「……」

 

「春人くん、諦めは肝心やで?」

 

「皆が大丈夫って言っているんだから、そんなに心配しなくてもいいんじゃないかしら?」

 

「ま、最初から行かないって選択肢はあんたにはないのよ」

 

「わ、私たちと一緒に、海に行きませんか?」

 

「春人くんがいなかったら楽しくないにゃー!」

 

「私はどっちでもいいけど、素直に頷いたほうがいいんじゃない?」

 

「……」

 

じっと俺を反応を見つめてくる皆。

そして、俺はもう一度ため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、ハルくーん!!」

 

宿泊用の荷物を持ち、集合場所の駅に着いたところで俺の姿を見つけた穂乃果がブンブンと手を振るってくる。

 

「俺が最後だったんだな。待たせて悪い」

 

既にμ'sの皆が揃っており、俺が一番最後の到着だった。

 

「気にしなくて大丈夫よ。遅刻したわけじゃないんだし」

 

絵里先輩の言う通り、俺が駅に着いたのは集合時間より十分前ぐらいの時間だ。そう考えると、結構早く皆が来ていることになる。

 

「皆楽しみで早く来たとか。まあ、それはないか」

 

冗談のつもりで言ったのだが、皆――海未や真姫、希先輩など普段から冷静でいそうな人たちも少し冷や汗をたらして顔を逸らしていた。

 

「別にそれを責めるつもりはないから大丈夫だ。普段行かないところに出かけるのは楽しいという気持ちはわかるから、だからそんな微妙な顔しないでくれ」

 

核心を突いてしまったことに気まずさを感じる俺。面倒くさいなどの負の感情を持っているとも思ってはいなかったが、まさか全員が当てはまるとも思っていなかった。

 

「そ、それじゃあ、出発しようか?」

 

「ちょっと待ってくれるかしら」

 

空気を換えようとしたところで絵里先輩から待ったの声が掛かる。

 

「どうしたんだ? 絵里先輩」

 

「出発する前に1つ、皆に提案があるの」

 

提案? と絵里先輩の言葉に希先輩以外の人間が首を捻る。

 

「そう。今後活動する上で重要になってくることよ」

 

「前々からうちらが思っていたことでもあるんよ」

 

「それで、その提案っていうのは何なんだ?」

 

すると絵里先輩は皆を見渡して言った。

 

「それは――先輩禁止よ!」

 

「ええっ! 先輩禁止!?」

 

穂乃果が驚きの声を上げる。いや、穂乃果だけでなくほかの皆も驚いていた。

それにしても先輩禁止って、一体どういうことだろうか。

 

「そう――先輩後輩はもちろん大事だけど、踊っているときそういうこと気にしちゃ駄目だから」

 

「そうですね。私も三年生にあわせてしまうこともありますし」

 

実感を持ったように言う海未だが、そこに抗議の声が上がる。

 

「そんな気使いまったく感じないんだけど?」

 

「それはにこ先輩が上級生って感じがないからにゃ」

 

にこ先輩が横目でそういうが、凛の一言が切り捨てた。

 

「上級生じゃなきゃなんなのよ!?」

 

そう問いかけられた凛はうーんとしばらく考えた後、

 

「後輩?」

 

笑顔で言い切る凛にほかが続いた。

 

「――っていうか子供?」

 

「――マスコットかと思ってたけど?」

 

「どういう扱いよ!?」

 

穂乃果と希先輩の追撃ににこ先輩はつっこみを入れる。

 

「そういうことで、じゃあ早速、今から始めるわよ――穂乃果!」

 

「は、はいっ。いいと思います! えっと、えーっと……絵里ちゃん!」

 

絵里先輩に指名された穂乃果は緊張した面持ちだったが、何とか言い切る。そして様子を窺う穂乃果に対して、絵里先輩は笑顔で頷いた。

 

「はぁ~緊張したぁ」

 

上手くいったことにほっとする穂乃果。

一人がやれば後はスムーズなものだった。

 

「それじゃあ凛も! こほん――ことり、ちゃん?」

 

「はい、よろしくね凛ちゃん。真姫ちゃんも」

 

「うぇ!?」

 

ことりからのキラーパスに真姫が動揺する。皆の視線が集まるが、真姫は顔を紅くしてそっぽを向いた。

 

「べ、別にわざわざ呼んだりするものじゃないでしょ!」

 

恥ずかしがっているのが丸分かりな真姫に皆が苦笑いする。

というか、これはもしかして俺もしないといけないのか?

 

「それじゃあ、うちは――春人くん」

 

すると希先輩から俺へと視線が注がれていた。やはりというか俺の考えていたことはばれていたみたいだ。

 

「やっぱり俺もやるのか…」

 

「当然。私たちだけ先輩呼びっていうのは寂しいわ」

 

そういう絵里先輩だが、その表情は意地悪なものになっていた。三年生たちが期待したように俺をじっと見る。どうやら俺には拒否権はないようだった。

 

「わかった――希、絵里、にこ」

 

『――ッ!』

 

「……なんで三人が照れているんだ」

 

顔を真っ赤にする絵里と希とにこに、俺も少し気恥ずかしくなる。

 

「ご、ごめんなさい! 男の人から呼び捨てって言うのも初めてだったから」

 

「なんか年下の男の子から呼び捨てされるのも、なんかむず痒いものなんやな…うん」

 

「ま、まったく、一人の男から呼び捨てだなんてファンに勘違いされるじゃない」

 

「だったら俺は先輩呼びでも――」

 

「「「それは駄目」」」

 

声をそろえて言う三人に俺は軽く息を吐いた。

 

「と、まあ、皆分かったところでこれから合宿へ出発します。では――部長の矢澤さんから、一言」

 

「ええっ!? にこ!?」

 

振られるとは思っていなかったにこが身体を強張らせた。

みんなの期待の眼差しがにこに集まる。

 

「え、えーっと…えっと……それじゃあ、しゅっぱーつ!!」

 

これから合宿へ行くとは思えないほど静まり返る空気。

 

「それだけ?」

 

誰しもが思っていたことを穂乃果が口に出した。

 

「し、仕方ないでしょ!? なにも考えてなかったんだから!!」

 

「にこにはがっかりだよ」

 

「だにゃ」

 

「うるさいうるさい! さっさと行くわよ!!」

 

やれやれと首を振る俺たちににこは声を荒げて改札を潜るのだった。

 

 

 







いかがでしたでしょうか?
別タイトルでも言いましたが、希望があれば特別編も書こうかなと思います。

ではでは、よいお年を~

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