"愛してる"の想いを 作:燕尾
どうも、燕尾です
48です
「……」
気持ちが落ち着いて、涙が止まった俺は居心地が悪かった。
「さっきのは忘れてくれ」
そう小さく呟くも、恥ずかしがっているのがわかっているからこそ、余計に皆の微笑みの視線は止まらない。
「ハルくん。可愛かったよ?」
「男に可愛いって褒め言葉じゃないな」
「いいじゃないですかたまには。そうじゃないと不公平ですし」
そういう海未だが、なにをもってして公平を決めているのかさっぱり理解できない。
「涙を見せた春人くんはいじらしくてたまらなかったわ!」
「絵里、それはさすがに酷すぎるぞ」
「ま、まあまあ! しんみりした話も終わったことだし、みんなでまた遊ぶにゃ! 凛は今度はビーチバレーがしたいな!」
空気換えの仕切りなおしと言わんばかりに凛がそんなことを提案する。しかし、これで終わりではない。
「その前に、まだ皆に言わないといけないことがある」
「言わないといけないこと?」
聞き返してくることりに俺は頷く。
俺の病気については大方言ったとおりだが、それでもまだ言えてないことはある。
「俺は…おれ、は……」
しかし、その先の言葉がでない。言ったら引き返せない決定的な一言の恐怖に、喉の奥が振るえた。
「俺は、あと――」
「無理しなくても大丈夫だよ」
そこまで言いかかったとき、優しい声色で穂乃果が遮った。
「ハルくんが話したくないなら無理して話さなくてもいいの」
「……だが」
「たぶんまだハルくんの中で私たちを信じられない気持ちもあると思う。だけどそれは私たちが時間を掛けて作り上げればいいと思う」
「そうですね。焦る必要はないと思います」
「それは、そうかもしれないが…」
「ならそれでいいの! でも、覚悟しておいてね? 今まで以上に楽しいことをしていくんだから、一緒に!!」
差し出される手。俺はその手にそっと自分の手を重ねる。
「うん! それじゃあ遊ぼっか!!」
穂乃果は満足そうに頷いて、俺の手を引く。
「真姫ちゃんもどうっ? 一緒にやらないビーチバレー?」
パラソルの前にいる真姫に声を掛ける穂乃果。だが、真姫は反応しない。どこか呆然としているようだった。
「まーきちゃーん!」
穂乃果がもう一度声を上げると、ハッとなってそっぽむいた。
「私はいいわ」
相も変わらない反応をしてからパラソルの元に戻って端末を操作する真姫に皆は苦笑いする。
それからはビーチバレーに水中サッカーなど日が傾くまで遊んだ。
海水浴を十分堪能し、別荘に戻った俺たち。各々着替えてフロアで休んでいたところで夕飯の話しになった。
「買出し?」
夕食担当の一人であることりから必要なことが告げられる。
「うん、スーパーここからだとちょっと遠いから、誰かついてきてほしいな」
「それじゃあ、私行くよ!」
穂乃果が元気よく立候補したところで、一つの声が遮った。
「別に、私一人で行ってくるからいいわよ」
「え? 真姫ちゃんが?」
「私以外お店の場所わかる人いないでしょ」
確かにそうだ。この場の人間で店の場所がわかるのは真姫だけ。だから真姫が行くのは必然となるのだが、
「じゃあ、うちもお供する」
そこで真姫の付き添いを買って出たのは希だった。
「えっ…?」
「たまにはいいやろ? こういう組み合わせも」
「俺もついていく」
「春人も…どうしてよ?」
「荷物持ちは必要だろう。十人分の食料や飲み物を一人で持てるのか?」
「それは……」
「決まりやね」
反論できず、戸惑う真姫を置いて、話を進める希。
俺たち三人は薄手の上着を着て、別荘を出た。俺は並んでいる二人の後ろを歩き、二人の会話を静かに聴く。
「どういうつもり」
海岸沿いを歩いているところで真姫が希にそう問いかける。
「別に? 真姫ちゃんも面倒なタイプだなーって」
「……」
「本当はみんなと仲良くしたいのに、なかなか素直になれない」
「私は、普通にしてるだけで――」
真姫の言葉に希は足を止める。
「そうそう、そうやって素直になれないんよね?」
図星を突かれたのか、真姫はムッとした表情になる。
「っていうか、どうして私に絡むのっ?」
突っかかる真姫に希はわざとらしく考え込んだ様子を見せる。しかし次の瞬間、希の空気が変わった。
「ほっとけないのよ。よく知っているのよ、あなたにタイプを」
「……なにそれ」
「まっ、たまには無茶してもいいんやない? 合宿やし♪」
そう締めて、希は再び歩き始める。
――なんとなく
確証はないがその希が知っているという真姫と同じタイプの人間が誰なのか、俺はわかった。
それは真姫も感じ取っているのだろう。それ以上なにも言うことなく、歩みを進めるのだった。
買い出しが終わった後は、ことりがすぐに料理を作り始めた。のだが、
「あーたたたたたたたたた! 春人、そっちのほうはどう!」
包丁の軽快な音と共ににこの声が飛んでくる。
「ああ、いまルーを入れたから混ぜながら煮込むだけ。後は皆の好みでガーリックバターライスを作るが、ニンニク抜いたほうがいいか?」
「花陽は白米がのほうがいいらしいから、花陽の分だけ作らなくていいわ。他は作っていいわよ。あっ、でもニンニクは少なめよ!」
「わかってる」
今は俺とにこがことりに変わって料理を進めていた。
「ごめんね。私が料理当番だったのに、もたもたしてたから……」
「気にしないでいい。にこが我慢できなかっただけだ」
「ちょっと、そんな言い方はないでしょう!」
ギャーギャー文句を言うにこだが、その手がとまることはない。
俺たちは互いの進行状況を確認しながら夕飯を作り上げていく。
「むぅ……」
そんな俺たちの姿を見て、どういうわけか穂乃果が頬を膨らませていた。
「どうしたの穂乃果ちゃん?」
「別に…なんでもないよ?」
「その顔はなんでもないって顔じゃないわよ」
真姫のツッコミが入るが、穂乃果はなんでもないと言い張る。
「別にハルくんと一緒に料理をして羨ましいとか、思ってないもん」
「羨ましいのね」
「やーん、穂乃果ちゃん可愛い!」
穂乃果に横から抱きつくことり。
「楽しそうにしているところ悪いが三人とも、そろそろできるから皿とか準備してくれ」
「はーい!」
「わかったわ」
俺の指示に素直に従ってくれることりと真姫。
「……うん」
「穂乃果?」
どこか納得いかないような表情の穂乃果に俺は声をかけるが、なんでもないとだけ言って穂乃果は皿を用意し始める。
『おおー……!!』
並べられた夕飯に皆の関心の声が上がる。
「花陽は、こっちだったな」
俺は白米を山盛りに盛った茶碗を花陽の前に置いた。
「はい! ありがとう、ハルトくん!!」
「なんで花陽だけお茶碗にごはんなの?」
「気にしないでください」
花陽の隣に座っている絵里が不思議そうに問いかけるが花陽は即答した。絵里は花陽が綺麗な白米が好きだというのを知らない。
「にこちゃんとハルくん、料理上手だったよね~」
「まあ、一人暮らしだと弁当や惣菜買ったりするより、作ったほうが安上がりだからな。自然としていくうちに慣れるものだ」
「ふふん♪」
得意げにない胸を張るにこ。だが、そんなにこに疑問をもった者がいた。
「あれ? でもにこちゃん、昼に料理なんかしたことないって言ってなかった?」
ことりの問いかけににこの顔が歪んだ。
「言ってたわよー? いつも料理人が作ってくれるって」
「う゛……」
さらに追い討ちをかけてくる真姫に、にこは身体を震わせる。
「そんなこと言っていたのか」
恐らくは真姫への対抗心だったのだろう。だがにこの胸と同じで、ない見栄は張るものではない。
「や、やーん! にこ、こんな重たいもの持てなーい!」
「馬鹿だろう」
「どストレートにいうんじゃないわよ春人!」
「い、いくらなんでもそれは無理がありすぎる気が……」
穂乃果のつっこみににこは我慢ならずに立ち上がる。
「これからのアイドルは料理の一つや二つ、作れないと生き残れないのよ!」
「開き直った!?」
「まあ、にこの虚言癖は今に始まったことでもないし、冷める前に食べようか」
「虚言癖までいうことないでしょうが!」
「いただきます」
『いただきまーす!!』
「話を聞けー!!!!」
地団太を踏むにこを尻目に皆は料理を食べ始める。
「おいしー! ハルくん、このカレーすっごく美味しいよ!!」
「そうか。それはよかった」
「コクがあって、美味しいです。こんなカレー食べたことないくらいですよ」
「大げさだ、海未」
「でも海未がそういうのもわかるほど本当に美味しいわ、春人くん。もしかしてりんごと蜂蜜を少し足した?」
「ああ。それとインスタントだが、コーヒーの粉を入れた」
「それで深みがあるように感じたのね」
納得する絵里に俺はよく分かるものだと感心する。きっと彼女も料理は得意な人なのだろう。
「サラダも美味しいにゃ!」
「にこっちはきっといいお嫁さんになれるで」
「サラダだけで評価されてもね…まあ、ありがと」
わいわいと色々と話しながら夕飯に舌鼓を打つ。
「……」
「どうしたの? 春人くん?」
隣に座っていたことりが黙った俺を不思議に思ったのか、顔を覗き込んで確認してくる。
「ん、たいしたことじゃない。俺は一人暮らしだから学校の昼以外は一人で食べるが、こう大勢で食卓囲むのも悪くはないって思ってな」
「……ふふっ、そうだね♪」
そうして、楽しい時間が過ぎていくのだった。
「ふいー、食べた食べた~」
満足げにソファに寝転がる穂乃果。
「穂乃果、食べてすぐに横になると牛になりますよ」
「もおー、海未ちゃんお母さんみたい~」
そんな穂乃果を海未が窘めるも、穂乃果は文句を垂れながら足をパタパタさせる。
「穂乃果、横になるならせめて右半身を下にしたほうがいい。そうじゃないと身体に悪い」
「わかった~」
「春人のいうことは素直に聞くんですね」
「穂乃果だけに当てはまるものじゃないが、こういうときは駄目と禁止するより妥協案を出したほうが言うことを聞いてくれるぞ」
「まあ、それもそうですが……」
納得は出来ないのだろう。海未の気持ちもわからなくはないから俺もそれ以上は言わない。
「じゃあ、これから花火するにゃー!」
すると、海の時と同様に凛が唐突に提案する。
「その前に、ごはんの後片付けをしなきゃ駄目だよ」
花陽の言う通り、まずはこのテーブルの上のものを片付けるのが先だ。
「あ、それならわたしがやっておくよ」
「ことり?」
「ほら、夕飯の支度は私の仕事だったけど、なにも出来なかったから。後片付けぐらいは――」
「えっ…でも……」
「そういう不公平はよくないわ。みんなも、自分の食器は自分で片付けて!」
それに待ったを掛けた絵里は皆に片づけを促す。
「それに、花火より練習ですよ」
凛の提案の対抗として海未がそんなことを告げた。その言葉に対して、戸惑いに顔を歪めるにこ。
「これから……?」
「当たり前です。昼間あんなに遊んでしまったのですから」
「でも、そんな空気じゃないっていうか、特に穂乃果ちゃんはもう……」
チラリとことりは穂乃果に目を向ける。視線の先にいる穂乃果は猫のように身体を伸ばして、だらけていた。
「雪穂ーお茶まだー?」
「家ですかっ!」
さすがにこれは俺も擁護できない。でも、穂乃果の姿や皆の反応を見るとこれから練習というのもどうかと思う。
「じゃあ、これ片付けたら私は寝るわね」
すると食器を持って立ち上がった真姫が別の行動を取ろうとする。
「ええ!? 真姫ちゃんも一緒に花火やろうよ!」
そんな真姫に待ったを掛ける凛だが、それを認める海未ではない。
「いえ、練習があります」
「本気……?」
「そうにゃ! 今日はみんなで花火やろう?」
「そういうわけにはいきません!」
「むー…かよちんはどう思う?」
「えっ? わ、私は…お風呂に……」
「第三の意見を出してどうするのよ!?」
「雪穂ーお茶ー」
お茶ー、お茶ー、と皆の話そっちのけでお茶を連呼する穂乃果。
それぞれが自分の意見を通そうとして話がまとまらない。そんな状況に立ち上がった真姫は困惑したまま立ち尽くしている。
「それじゃあ、今日はもう寝ようか」
すると、いままで話を聞いていた希がそう結論付ける。
「みんな今日はたくさん遊んだから疲れたでしょ? 練習は明日の早朝から始めて、花火は明日の夜にやればいいんやない?」
折衷案を出す希に今まで言い争っていた海未と凛が納得する。
「そっか、そっちのほうがいいかも」
「確かに、練習もそちらのほうが効率がいいかも知れませんね」
「決定やね。それじゃあ、お風呂入って寝よか」
「それなら、食器はキッチンに運んだら水を張るだけでいい。後は俺がやっておく」
「えっ? でもそれはさっき……」
否定されたことをもう一度言う俺にことりが戸惑いながら言う。
「ひとりひとりやるのも時間が掛かるし、皆が風呂に入っている間にやっておく。そっちのほうが効率もいいだろう?」
「でも……」
それでもと食い下がろうとする絵里に、俺はいいんだ、と首を横に振った。
「明日は練習するんだろう? なら今は風呂でゆっくりして、ゆっくり寝て、万全の状態にしておいたほうがいい」
俺の言い分に反論する隙が見当たらないのか、絵里は迷っていた。
別に遠慮することはないのだが、こういうところで絵里は気を使ってしまうのだろう。それが悪いとはいわないが、もう少し簡単に考えればいいとは思う。
「……それじゃあ、春人くんお願いできる?」
「ああ、任せておけ。あと、その前に――」
俺はチラリと目を向ける。
「お茶ー、お茶ぁー」
「風呂入る前にお茶が飲みたい人は手を挙げてくれ」
俺は穂乃果を見ながら苦笑いしてそういうのだった。
いかがでしたでしょうかっ?
それでは次回へ参りましょうっ、アタッ○・チャ~○ス!