"愛してる"の想いを 作:燕尾
どうも、燕尾です。
四十九話目です。
俺は露天風呂で足を伸ばしてゆったりと寛ぐ。
食器を片付け、皆の入浴している間は持ってきた本を読みながら時間を潰し、全員帰ってきてから俺は浴場へと向かった。
「ふぅ…それにしても広いな……」
俺は湯につかりながら周りを見て一人呟いた。
こんな大きな露天風呂が別荘のもので年に数回しか使われないというのもなにかもったいないような気がする。
「はぁ…気持ち良いな……」
思わずそんなことが口に出てしまう。潮の香りと、心地良い風。いつまでも入っていられそうだ。
「露天風呂とか始めて入るけど、温泉旅館とか人気になる理由が少しわかるな…」
観光地や温泉街として売りに出しているところが繁盛しているのはこういうのも一つの理由となっているのだろう。
「ああ。ダメだ、これはいろいろとダメになる」
風呂に入ってから一時間ぐらいは経っている。いつまでもとは言ったが、そろそろ出ないと上せてしまいそうだ。
俺は勢いよく出て風呂の誘惑を振り切り、更衣室へと向かう。
ガラリと引き戸を開けると、そこには今いるはずのない人がいた。
「あっ……」
「………………穂乃、果……?」
忘れ物でもしたのか、穂乃果はある籠からオレンジ色の何かを取り出していた。そのオレンジ色のものが彼女の下着ということに気付くのもそう時間は掛からなかった。
俺は頭の中で状況を整理する。
忘れ物を取りに更衣室へ来た穂乃果、風呂から上がった俺、鉢合わせ。
当然、風呂に入っていた俺はタオルは持っているが一人と油断して肩にかけている状態――つまり全裸な訳で目の前の穂乃果に全てを晒している。
穂乃果も頭が付いてこないのかさっきから視線は俺の顔と、ある一点で上下に動いている。
「「――――っ!!!!」」
お互い声にならない悲鳴を上げて穂乃果は俺から体ごと反らし、俺は更衣室から慌てて出る。
「ごめん、ハルくん! 覗きに来たとかそう言うんじゃなくて、ええっと、忘れ物を、その…あの……あうあうあ……」
ドア越しに聞こえる穂乃果の声。しかし、明らかに言葉になっていなかった。
「わかった。何となく理由はわかったから取り合えず落ち着いてくれ、穂乃果」
パニックになっている穂乃果に冷静にと促す。
「ここは一回深呼吸だ。ほら吸って、吐いて…」
「スーハー…スーハー……」
「どうだ、少しは落ち着いたか?」
「う、うん…ごめん。取り乱しちゃって」
「いい。それより、早く忘れ物を回収して出ていってくれると助かる」
「うん…」
俺の促しに穂乃果は頷いて、がさごそと慌てたように取り出していく。
「ハルくん、全部回収し終わったから出てくね?」
「ああ、頼む」
ピシャリと更衣室の扉の音が鳴ったのを確認した俺はため息を吐きながら室内に入って身体を拭いてから着替える。
更衣室から出ると、穂乃果が正座しながら待っていた。
「このたびは粗相を犯してしまい大変申し訳ありませんでした。いかなる処罰も受ける覚悟でございます」
いつぞやのように三つ折指で深く頭を下げる穂乃果。前と違うところは椅子に座ってではなく地べたで土下座というところだ。
「いや、確認もせずに戻った俺も悪いから……」
「ううん、ハルくんは全然悪くないから! 穂乃果こそ忘れ物取りに来たって声掛けていればあんなこと…あんな、ことには……~~~~っ!!」
恐らくさっきの光景を思い出しているのか、穂乃果の顔がどんどん紅くなっていき、目をぐるぐるさせて、また音になっていないような声を上げている。
「恥ずかしいのは分かったから落ち着いてくれ」
「むしろどうしてハルくんは落ち着いていられるの!?」
「何て言うか自分より慌てている人を見ると自分は落ち着くからだな。たぶん」
もちろん最初は驚きもしたし、慌てもした。だけどそれ以上に穂乃果が混乱していたから俺はすぐに冷静になれた。
「……なんかずるいぁ」
「そう言われても困るんだが…」
すると不服そうにしていた穂乃果はそうだ、と何かを思い付いたように言って、ニヤリと俺を見る。
「えいっ!」
その直後、穂乃果は俺に飛び付いて腕を腰に回した。
「――っ、穂乃果……?」
「えへへ……」
彼女の行動の意図がわからず問いかけるが、穂乃果は笑い声だけを返してくる。それから穂乃果は俺の胸に耳を当ててきた。ふわりと漂ってくる彼女の甘い香りに俺は少し緊張する。
「やっぱりハルくんもドキドキしてるじゃん」
それはいきなり抱きつかれたら鼓動だって速くなる。だけどそんなことお構いなしに穂乃果は満足したように言う。
「穂乃果だけじゃなかったんだね」
「さっきのと今のとは違うんだけどな……」
安心したような気持ちになっている穂乃果に一応そう言うのだが、あまり気にした様子ではなかった。
「んふー、良いじゃん。お揃いだよ」
笑う穂乃果は腕の力を強めて更に密着してきた。
柔らかい胸の感触と共に感じる穂乃果の心の音。それは俺と同じくらい速かった。
「穂乃果、恥ずかしいならやめた方が良いと思う」
「いいの。それでも今は、こうしていたいから……」
「……そうか」
そう言ってはいるものの穂乃果の顔は離れるまで真っ赤だった。
ちなみに、この後一緒に戻ってきたことや雰囲気から勘付いた海未や絵里に問い詰められて、自爆した俺たちが説教を受けたのはまた別な話である。
短めです。ではまた次回に