"愛してる"の想いを 作:燕尾
ども、燕尾です。
最近、安くて簡単な晩御飯のレシピを探しています。
寝る支度――とは言っても歯を磨いたり、明日の準備をするぐらいなのだが、それらを終えた皆はリビングで決められて敷かれた布団にそれぞれ位置取る。
そこまでは良いのだが……
「ハルくんはここだよ!」
穂乃果に手を引かれ連れられた場所は真ん中辺りに敷かれた布団だった。
「ちょっと待ってくれ。どうして俺もここで寝ることになっているんだ?」
「合宿だからね」
絵里がどや顔で言っているところ悪いのだが、それはまったく理由になってない。
「却下」
「ええっ! どうして!?」
即答した俺に穂乃果が驚きの声を上げる。どうしてって、あたりまえだ。
「質問を返すようだが、皆はどうして普通に受け入れているんだ」
「えっ? だってこの後は寝るだけだもん」
「穂乃果ちゃんの言う通り、何をするわけでもないし…」
「寝るだけですから、問題もなにもないと思いますよ?」
そう問いかけると、二年生たちは呆気からんとした表情で言う。そして三人に同調するように他の皆もうんうんと頷く。
「いや、だけどほら…あるだろう? 寝顔を見られるのが嫌だとか、普通に男がいるのが嫌だとか」
「そんなこと言うんだったら最初からあんたを連れてきていないわよ」
「それもそうかもしれないけどな…」
ここまで何もかも当たり前のようにされるとさすがに俺が考えすぎというより皆の感覚がおかしいのではないかと思う。
「春人くん、にこっちの言う通りもう今さらの話やで?」
「私たちは大丈夫って言っているのだから、大丈夫よ?」
それでも、女の子の中で眠るというのはいかがなものか。
色々と考え込んでいる俺。するとそんな俺の袖が、くいっ、と弱く引っ張られた。
「は、ハルくんと一緒に寝たいの…ダメ、かな……?」
不安そうな表情でまるで懇願するように言う穂乃果。そんな顔を見せられたら、強引にダメと言えなくなってくる。
「ハルくん…」
キュッと袖を掴む力を強めてくる。それには離れたくないというような気持ちが感じられた。
俺は小さく息を吐き、頷いた。
「わかった、俺もここで寝る」
「……っ、うん!!」
俺が折れると、花が咲いたように穂乃果は笑顔になる。
「やっぱり春人くんは穂乃果に甘いわね」
そんな俺の姿を見て絵里は苦笑いするのだった。
「それじゃあ、電気消すわよ」
皆が布団に入ったのを確認したにこがリビングの電気を消す。
しん、となるリビング。寝ようとしているのだから当たり前といっては当たり前なのだが。ただ、暗くなったからといってすぐ眠くなるわけではない。
「ねぇ。ことりちゃん、ハルくん…」
「んぅ? どうしたの、穂乃果ちゃん?」
「なんだ、穂乃果…?」
声をかけてくる穂乃果に小さく返事をする。
「なんだか眠れなくて…えへへ」
「そうやって話してたらもっと眠れないわよ?」
「ご、ごめんなさい!」
絵里に注意された穂乃果は慌てて謝る。
「海未を見なさい。もう寝ているわ」
「ほ~、本当だ」
穂乃果は少し起き上がって海未の顔を覗き込む。俺はそんなことしなかったが確かに海未ところからはもう小さな寝息が聞こえていた。
規則正しい生活を心がけている海未なら納得の寝付きの速さだ。
「穂乃果ちゃんも、割とよく眠れるほうだよね?」
確かに、穂乃果はいつでもどこでも寝るときは寝ている。
「それこそ時と場所を選ばすに寝ていることも多いな」
「それは余計だよっ――いやまあ実際そうだけど、そうじゃなくて、こういう時ってなんだかもったいないっていうか、せっかくのお泊りなのにって感じで…」
「気持ちはわからなくはないが、それで明日に支障でたらたぶん穂乃果は後悔すると思う」
「春人くんの言う通り、何度も言うけれど遊びに来ているわけじゃないのよ? 明日はしっかり練習するんだから、早く寝なさい」
「はーい」
穂乃果は素直に返事をしてから喋るのを止める。
しかし、数分後その代わりといえばおかしいのだがバリボリと何か咀嚼するような音がどこかから、というか隣から聞こえた。
「ちょっと、なんの音? ねえっ!?」
「凛じゃないにゃ~」
「私でもないですよ…?」
「誰か、電気をつけて!」
俺はため息を吐きながら枕元にあったリモコンに手を伸ばし証明をつける。
『ああ~っ!!』
音の発生源を特定した皆は声を上げる。
「やっぱり穂乃果か…」
「っ、――っ! ――――っ!!」
バレてビックリした穂乃果は食べていた煎餅が喉に詰まったのか胸を叩きながらなんとか胃に落とし込む。
「なにやってるの、穂乃果ちゃん…?」
「いや、えっと…何か食べたら寝られるかなって」
「だからといって寝る前に食べるのはよくないぞ…とりあえず没収」
「あぁ! ハルくん、返してよぉ!!」
あわあわと俺に手を伸ばすが、返すことは絶対しない。
「意地悪だよぉ~」
「…返してもいいけど、食べた分だけ明日の練習海未に厳しくしてもらうぞ?」
そういうとピタリと穂乃果はと待って伸ばしていた手を引っ込める。分かってくれた用で何よりだ。
「まったくうるさいわね~おとなしく寝られないの?」
そういって起き上がるにこ。しかし、
『……っ』
俺たちは言葉を失う。原因はにこの顔にあった。
「に、にこ…なに、それは……?」
「美容法だけど?」
は、ハラショー…、と顔面を引きつらせる絵里。うん。気持ちはわかる。
にこの顔は顔面パックに覆われて、所々に謎にキュウリが貼り付けられているのだ。いくら美容法とはいえその顔は誰が見ても引く。
「こ、怖い…!」
「うん……!!」
「誰が怖いのよ!!」
「いや、いきなりそんな化け物顔見せられたら誰だって怯える」
「化け物は言いすぎでしょ!? もういいからさっさと寝る――ふぎゃ!?」
にこが電気を消そうとリモコンを向けた瞬間、何かが飛来して彼女の顔面に当たった。
「真姫ちゃん何するのー!?」
「えっ!? 私はなにも……」
「あ、あんたねぇ…」
弁解しようとする真姫だったがそれを聞く前ににこの怒りの矛は完全に真姫へと向いていた。
まあ俺は希が投げているのをしっかり見ていたのだが、希に視線で釘を刺されたのでなにも言わない。
「いくらうるさいからって、そんなことしちゃ駄目、よっ!!」
「わっ!?」
希はもう一度にこに投げる――と思いきや、その枕は凛へと向かっていった。
「なにする、にゃ!!」
枕を防いだ凛は希に投げ返――さないで穂乃果へ投げつけた。
「わぷっ……よーし」
「うぇ!?」
見事顔面キャッチした穂乃果は真姫へと投げる。
「投げ返さないの?」
「あなたねぇ~――うぷっ!?」
わざとらしくそう問いかける希に文句を言おうとした真姫、しかしそれは別の方向から飛んできた枕によって塞がれた。
「……」
「ふふっ♪」
「もー!!」
悪戯成功といわんばかりの笑顔を浮かべる絵里。それに気付いた真姫はついに堪忍袋の緒が切れたのか声を上げた。
「いいわよっ! やってやろうじゃないっ!!」
枕を構えた真姫がその枕を思い切り投げ始める。
俺はこの騒ぎに嫌な予感を感じたので巻き込まれないようにキッチンへ移動して、飲み物の用意をしておく。
楽しそうに騒ぐ皆。飛び交う枕。それぞれが味方となり、ときには敵となり攻防していく中、そのときはついに起こった。
「ふぐっ!?」
『あっ!!?』
しまった、というような声が上がる。
皆が投げていた枕の一部が、唯一参加せずにおとなしく寝ていた海未に当たったのだ。
「……」
「あ、あの…大丈夫……?」
枕を掴み、幽鬼のようにゆらりと立ち上がった海未に問いかける穂乃果。
「……何事ですか」
普段の海未からは聞かないような低い声。寝起きだと思えばその程度なのだろうと思うが、あからさまに不機嫌さが混じった怒りの声。
「え、えっと…」
どう言い繕うか考えることりだが、悪いのは自分たちだというのは分かっているためそれ以上なにもいえなくなっている。
「どういうことですか……?」
「ち、ちがっ…狙って当てたわけじゃ……!」
「そ、そうだよ。そんなつもりは全然無かった――」
海未を巻き込むつもりは無かったと真姫と穂乃果が言うが、そういうことではない。
「明日、早朝から練習するといいましたよね……? それをこんな夜中に……ふふ、フフフフフ……!!」
「お、落ち着きなさい、海未」
「ことりちゃんこれまずいよね!?」
「うんっ…海未ちゃん寝てるときに起こされるとすごく機嫌が悪くなるから――」
その瞬間、ことりの言葉を遮るように轟音を上げた枕が飛んだ。
「あう゛っ!?」
「にこちゃんっ……!?」
勢いのある枕が顔面に当たりダウンしたにこを慌てて抱える凛だったが、悲しげに首を横に振った。
「もう駄目にゃ…手遅れにゃ……!!」
「ちょ、超音速枕……!?」
「ハラショー…」
一撃で
「ふふ…覚悟は良いですか……?」
海未はこの場にいる全員、誰一人残らずに制裁を加えるつもりなのだろう。
「どうしよう穂乃果ちゃん!?」
「生き残るには戦うしか――ばふっ!?」
「ぴぃ!?」
為す術なく枕の餌食になった穂乃果の最期にことりは悲鳴を上げる。
「ごめん海未――うぶっ!?」
何とか反撃に出ようとした絵里もカウンターを食らってしまい、沈む。
海未は次のターゲットへ――凛と花陽に近寄る。
「凛ちゃん…」
「かよちん……」
恐怖に身を寄せひしめき合っている二人。自業自得とはいえあそこまで怯えているのを見るとさすがに助けないわけには行かないだろう。
「「助けてぇ――!!」」
「そこまで」
「っ、春人……っ!?」
「ハルトくん!」
枕を振り上げた海未の腕を掴み枕を取り上げる。予想だにしていなかったことに海未は一瞬とひるんだ。
「う゛っ!?」
それが隙となり、直後に横から飛んできた枕が海未の頭に当たって海未は倒れた。
「真姫ちゃん、希ちゃん!」
「…何とかなったようやね」
「はあ…まったく……」
「ため息ついているけど、元はといえば真姫ちゃんがはじめたにゃん!」
呆れたい気を吐く真姫に凛がつっこむ。
「違うわよ。あれは希が…」
真姫が弁解しようとするが希はどこ吹く風で、ニヤニヤしている。
「うちはなにも知らないけどねー?」
そう言いながら希は真姫に気付かれないように取った枕をうしろに隠す。
「あんたね~っ!」
「えいっ!」
「わぷっ!?」
噛み付く真姫に希は枕をぶつけた。
「――って何するのよ希っ!!」
「ようやく自然に言えるようになったやん? 名前」
「あっ……」
希に生き残った真姫以外の俺たちは静かに笑う。これならもう大丈夫そうだ。
「本当に面倒やな」
そういう希に真姫は顔を紅くする。
「べ、別に…そんなこと――頼んでなんかいないわよっ!!」
気恥ずかしさを誤魔化すかのように、真姫は希に枕を投げる。
「あははっ!」
枕に当たりながらも声を上げて笑う希。
「とりあえずは皆を布団に戻す。いくら夏とはいえこのまま寝るのは身体に悪い」
意識を失った――じゃなくて雑魚寝という形で寝てしまった人を抱える。
「あ、春人くん。わたしも手伝うよ」
「ありがとうことり、布団を整えてくれると助かる」
「わ、私も手伝うよ!」
ことりに加えて花陽も手伝いを買ってでてくれ、皆を元の位置に戻す。
「さて、一段落もしたことだ。寝る前に飲み物を飲みたい人は用意している――どうする?」
『飲みたいです!』
「ああ、わかった」
それから俺たちは一息ついてから電気を消して寝るのだった。
いかがでしたでしょうか。
人生の夏休みpart lastが間もなく始まります。