"愛してる"の想いを   作:燕尾

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どうも、燕尾です。
最近タイトルがまったく思いつかないです。





52.春人だけが居ない学校

 

 

 

「――――っ!!」

 

ある日の朝、私は朝ごはんのパンを加えながら驚愕していた。

手にしているのはスマートフォン。その画面はスクールアイドルのランキングサイトを映している。

 

「す、すごい…!!」

 

妹の雪穂が私の横から覗き込みながら驚きの顔に染まっている。

こうしちゃいられない、と私はパンを飲み込んで急いで学校へ行く準備をした。

 

「行ってきまーす!」

 

身支度を済ませて私は元気よく家を出る。

急いで知らせたい私はダッシュで集合場所へと向かった。いつも待ち合わせている場所にはもうことりちゃん、海未ちゃんがいた。

 

「おはよう! 海未ちゃん、ことりちゃん――あれ? ハルくんは?」

 

「春人くんはまだだよ」

 

「珍しいですね、春人がこんなに遅いなんて」

 

ハルくんが居ないことに少し残念な気持ちになりながらも、それでも私は興奮冷めやまぬ勢いで言った。

 

「海未ちゃん、ことりちゃん! ランキングサイト見た!?」

 

二人も私と同じようで希望を見出したように頷いた。

 

「十九位だよ、十九位!! ラブライブに出場できるかもしれないんだよ!?」

 

ラブライブ…出場できればきっと学校もなくならない――!

 

「穂乃果ちゃん…!」

 

「穂乃果…!」

 

私たちは感極まって目じりに涙が溜まる。出場が決まったわけではないからまだ油断はできない。けど少しくらい浮かれたっていいよね。

 

「ラブライブだ…ラブライブだーー!!」

 

私は大きく叫んでこれからのために気合を入れ、気持ちを高ぶらせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハルくん…来てないんだ……」

 

学校に来てもハルくんの姿がなかった。そして彼が来ないまま先生が来てしまう。

私たちは出席を取っているなかヒソヒソとハルくんについて話をする。

心臓の病気を患っていることを知ってからもハルくんとは変わらない関係でいた。気遣うことや心配することはあってもそれは普通のことだからと納得してもらっている。

 

「春人、どうしたんでしょうか?」

 

「ちょっと心配だね」

 

検査入院の場合は事前に連絡をもらっている。だけど今日はなにも連絡なしで会えていないのだ。そのことによりいっそう不安が募る。

 

「桜坂以外は全員いるようだな」

 

「あの、先生…ハルくんは……?」

 

「なんだ高坂、あいつのことが気になるのか? お年頃だなぁ」

 

「そうじゃないです。それよりハルくんは休みなんですか?」

 

冗談に少しムッとしながらも返す私に先生はつまらなさそうにする。

 

「桜坂は風邪で欠席だ。体調次第では今週はこれないって連絡があった」

 

――嘘だ。

 

確証となるものはないけど私は直感でそう感じた。ことりちゃんと海未ちゃんも同じ考えのようだ。

そんな私たちを余所に、先生は連絡事項を伝えていく。

こうなったら、無理やりにでもハルくんのことを吐かせるべきか――

 

「以上だ――ああ、最後に高坂と園田と南。ホームルームが終わったら少し廊下に出ろ。伝えることがある」

 

「「「?」」」

 

そういう先生に私たちは顔を見合わせて首を傾げる。私たちが呼ばれるってことはスクールアイドル関連の話だとは思うけど。

でもちょうどよかった。ハルくんのことを問い詰めるのに他の人たちが聞かないようにしたほうがいい。周りはハルくんが病気だって知らないのだから。

私たちは先生の後について教室から出る。

 

「さて。お前たち三人を呼び出した理由(わけ)だが――桜坂についてだ」

 

先生の口から出たのはハルくんの名前だった。

 

「ハルくんについて…ハルくんに何かあったんですか!?」

 

「穂乃果ちゃん、落ち着いて……!」

 

「まずは先生の話が先ですよ!!」

 

掴み掛かりそうになった私を押さえ込んでくることりちゃんと海未ちゃん。

 

「これでお年頃じゃないって言っているのは無理があるだろうに……」

 

先生は私を見て小さく呟くが、何を言っているのはよく聞こえなかった。すると先生は小さくため息をついて言う。

 

「桜坂からお前たちは事情を知っていると連絡受けている。だからさっきは欠席だと濁したが…」

 

先生の次の言葉はさっきの私たちの直感が正しいことを証明した。

 

「あいつは西木野総合病院に入院した。今週来られないのはそういう理由だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

「春人くん、ため息つくと幸せが逃げるわよ?」

 

ベッドに横になっていると真奈さんが笑顔でそういいながら現れた。

 

「幸せがなんなのかわからないんでなんともいえないですね」

 

「またそういうことを言う…」

 

俺の言葉に一転して真奈さんは呆れた顔をした。

 

「皆といられている今は幸せじゃないのかしら?」

 

「……前言撤回しておきます」

 

「素直な子は好きよ」

 

よしよし、と頭を撫でてくる真奈さん。

 

「子ども扱いしないでくださいよ。それに好きの言葉は先生に言うべきものですよ」

 

「私からしたらあなたは子供で、あの人に贈るのは好きじゃなくて愛している、よ」

 

愛している、な。よくも臆面もなく言えるものだ。

 

「春人くんにはいないの? 好きな子――とまで言わなくても気になる子は」

 

そういわれて瞬間、俺の脳裏に穂乃果の姿が浮かぶ。だが俺はすぐに頭を横に振った。

 

「そんな人はいませんよ」

 

「あら。春人くんならモテるでしょうし、あなたの周りにいるのは可愛い子ばかりだから気になる子ぐらいはいると思ったのけれど」

 

そんな目で彼女らを見たことはないし、彼女らもそんな目で俺を見てはいないだろう。それに、そんな相手を俺が作れるわけがない。

 

「愛しているなんて言葉を俺が贈ったらそれはもう呪いです。真奈さんもよく分かっているでしょう?」

 

「……遠目に見たらそうなのかもしれないわね」

 

でも、と真奈さんは真剣な目で俺を見つめる。それは先程までのからかうようなものはない。

 

「決して呪いなんかじゃない。心から相手を想う言葉が呪いなわけがないわ」

 

「真奈さん…」

 

「あなたの境遇を考えればそういうことを思ってしまうのは仕方のないことなのかもしれない。でもそれを理由にしては駄目よ」

 

「……」

 

「受け入れるにしても断るにしても、ちゃんとあなたの気持ちを伝えること。じゃないと両方とも傷つくだけよ」

 

真奈さんの言う通りで、俺には否定する材料がない。しかし、

 

「……ここまで言われてなんですけど、そもそもそういう相手がまずいないんで」

 

「屁理屈が減らないのはこの口かな? ん? ん?」

 

「いひゃいです…すいはへん……」

 

頬を引っ張られ、凄んでくる真奈さんに俺は謝ることしかできない。

 

「まったく…」

 

「痛い……」

 

痛む頬を擦る俺を放置して、真奈さんは器具の準備をする。

 

「さて。お話はここまでにして、始めましょうか」

 

器具の準備を終えた真奈さんは俺の服を脱がし、俺の身体に色々とつないでいく。

 

「まさかまだ新薬の開発をしているなんて思いませんでした」

 

「当たり前でしょう。病気を治すのが私たちの仕事。それがたとえ治らないといわれてるものだとしても諦めるわけにはいかないの」

 

医療に従事する者としての信念。それだけではなく純粋に病に苦しむ人のためだとはっきりと感じられた。

 

「だから――あなたも諦めちゃ駄目よ」

 

「……っ」

 

なるほど、この母親(真奈さん)にしてあの(真姫)か。

 

「どうやらあなたのことを知ったようね」

 

「ええ、合宿のときに痣を見られて気付かれました」

 

「あの子ったら帰ってきてからずっと心紫紋病の資料を読み漁っていたわ。あなたを助けようと必死にね。真姫があんなに必死になっているのなんて久しぶりに見たわ」

 

余程あなたのことが大切なのね、とそう言いながらも苦笑いする真奈さん。その意味はよく分かっている。

高校生の真姫が今からどんなに足掻いたところで、どうすることもできない。それが現実だ。今の彼女は先が見通せていないだけ(現実を見ようとしていない)

 

「将来は有望そうですね。真奈さんも先生も安心じゃないですか?」

 

だからこそ俺は話を逸らした。真奈さんの手前、無駄だとも言い辛かった。

 

「ええ。たった一つを除いて真姫は安心ね。たった一つだけ――だから貰うなら今のうちよ?」

 

「だからなんで自分の娘を推すんですか」

 

「春人くんなら真姫を幸せにしてくれると思うから?」

 

どこでそんな信頼を得ているのか甚だ不思議だ。それに、その期待には応えられないのはこの人たちが良く知っている。

 

「俺と一緒になっても幸せにはなれませんよ」

 

「なら幸せにできるように頑張らないとね?」

 

そういいながら真奈さんは注射器を見せ付けてくる。

どうやらさっき言った通りまだまだ諦めさせてはくれないようだ――。

 

 

 







いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に、ばいなら~




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