"愛してる"の想いを   作:燕尾

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どうも、燕尾です
55話です





55.別つ気持ち

 

 

 

学園祭前日。

電話が鳴ったのはその日の夜のことだった。

ディスプレイを確認すると電話をかけてきたのは雪穂ちゃんだ。

俺は迷い無く電話に出る。

 

「もしもし、雪穂ちゃん?」

 

『こんな夜遅くにすみません春人さん! お姉ちゃんが――』

 

 

 

 

 

「……分かった、任せておいてくれ」

 

雪穂ちゃんから話を聞いた俺は頭を抱えながらそれを悟られないように言った。

 

『すみません…本当にお姉ちゃんが迷惑を……』

 

「だから雪穂ちゃんが謝ることじゃない。ちゃんと話を聞かせられていない俺が悪い」

 

「お姉ちゃんのこと、お願いします」

 

「ああ」

 

雪穂ちゃんとの通話を終えた俺は急いで外へ出る。

外は強い雨足が音を立てている。だというのに穂乃果は雪穂ちゃんの制止を振って走りに行ったというのだ。

傘を差して俺は穂乃果が現れるであろう場所へと走る。

そしてやってきたのは、神田明神だ。

 

ここに穂乃果はやってくる――そんな確信めいたものを俺は感じていた。

 

石段の頂上で俺は雨に打たれながら穂乃果を待つ。傘は走っていたときに襲ってきた強風で壊れていた。

俺が着いてから何分経ったかは分からない。十分、二十分――一時間までは経っていないだろうが、ようやく荒い息遣いと共に石段を踏んで上がってくる音が聞こえてきた。

 

ピンク色を基調としたレインパーカーを着た少女が駆け上がってくる。俺はそれが顔を見る前も無く穂乃果だと分かった。

 

「何をしている穂乃果」

 

「ハルくん…!? どうしてここに……!?」

 

穂乃果はいるとも思っていなかった俺に驚いていた。

俺がいることはどうでもいい。それよりも大事なことがある。

 

「何をしていたのか、それを答えてくれ穂乃果」

 

穂乃果が言わなくても雪穂ちゃんから聞いていたから分かっている。しかし、穂乃果に自覚をさせるために俺は問いかけた。

 

「それは……」

 

穂乃果は言い淀み、黙ってしまう。だが今回ばかりは容認できない。

 

「答えろ、穂乃果」

 

だから俺の口調が自然と強くなっていた。

 

「走ってた…」

 

雨の音に消えそうなほど小さな声で穂乃果は呟いた。小さい子供が親に怒られているときのような自信ないように答える。

うつむく穂乃果に俺は小さくため息を吐く。

いまさらやったことをなしにはできない。それをこの場で咎めるのも効率的ではない。今やるべきことは穂乃果を早く休ませることだ。

 

「帰るぞ」

 

それだけを言って彼女の手を取る。しかし、

 

「や、やだ……」

 

穂乃果は俺の手を拒絶する。

 

「本番は明日だからもう少し練習したい…!」

 

逃げるように走り去ろうとする穂乃果。そんな彼女の腕を俺はがっしり掴んだ。

 

「駄目だ」

 

「どうして!?」

 

はっきりと告げると穂乃果は振り返りながら声を荒げた。どうやら何もわかっていなかったようだった。

 

「明日本番なんだよ!? ラブライブの出場が掛かってて、廃校だって掛かっているのに、自分にできることをして何が駄目なの!?」

 

「前にも言ったはずだ。いいパフォーマンスをしたいのならコンディションにも気を使わないといけない。こんな雨の中走ったら体調を崩しかねないだろ」

 

「自分のことは自分が一番分かってるよ!」

 

「分かってないから、こうして止めているんだろ」

 

今の穂乃果は無理を前借しているようなものだ。そのツケは必ず来る。それが明日で無ければいいのだが、確実に無いとはいえない。

 

「明日が本番だからこそ、十分に休んで体調を整えて望んでほしいから今日は練習は少なめにした。それは俺だけじゃない。絵里だって言っていたし、他の皆も納得していただろ」

 

大半は穂乃果に休んでほしいという気持ちからなのだが、これでは皆の好意も無駄というものだ。

 

「私は違うよっ、本番だからこそじっとしてられない! 終わってから、まだやれてたなんて思いたくない! 後悔なんてしたくないもん!!」

 

穂乃果の言い分だって分からなくはない。だがそれは直前にまでやることではない。

 

「私が言い出したんだもん! スクールアイドルをやるって! だったら私が誰よりも頑張ってライブを成功させないといけないじゃん!」

 

雪穂ちゃんから聞いていた言葉。立派な志ではあるが穂乃果はやはり大事なことを見落としている。

 

「穂乃果」

 

だから――これだけは言いたくなかったが、言うしかなかった。

 

穂乃果一人(・・・・・)が頑張ったところで、何も変わりはしない意味なんてありはしない(・・・・・・・・・・・)

 

「ッッ!!」

 

穂乃果の表情が変わった。それは驚きと、悲しみと――怒りだった。

この意味が分かっていない穂乃果は俺に詰め寄る。

 

「ハルくん」

 

俺の名を読んだ次の瞬間、パァンと乾いた音が耳元で鳴り響いた。

 

「……」

 

頬にヒリヒリとした痛みが広がる。叩かれたと俺が気づいたのはそのときだった。

 

「どうして、そんなこと言うの……」

 

穂乃果の悲痛な声色が耳に入る。

 

「ハルくんにだけは、そんなこと言われたくなかった……!」

 

俺を睨みつけている穂乃果の目には涙が浮かんでいた。

 

「もうハルくんなんて知らない!!」

 

それだけを言い残して穂乃果は走り去っていく。

 

「穂乃果っ――」

 

反射的に彼女を追いかけようとしたとき、胸が痛んだ。

 

「――っ!! こんな、ときに――!」

 

息ができない。いつもより痛みが強い。まるで穂乃果を追いかけさせまいとするように締め付けが大きかった。あまりの痛みに俺はまだ発作が本格的に起こったわけではないのに倒れてしまう。

 

「くそっ……穂乃、果……!」

 

走り去ったほうを見ればもう穂乃果の姿は無い。そこにあるのは闇に覆われた空間だけ。

 

「ああ……あああああああああ――――――!!!!」

 

そしてその闇に溶けるように叫び声が消えていくだけだった。

 

 

 







いかがでしたでしょうか?
ではまた~


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