"愛してる"の想いを   作:燕尾

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ども、燕尾です。
お久しぶりです。





57.今後

 

文化祭が終わり次の週――

俺たちは未だに風邪で休んでいる穂乃果の見舞いに行くことにした。

彼女の家の戸を引き、暖簾(のれん)をくぐる。

 

「あら、いらっしゃい」

 

店番をしていたのは穂波さんだった。

 

「今日は何に――って言う雰囲気じゃなさそうね。どうしたの?」

 

俺たち全員の姿を見て察した穂波さんが問いかけてくる。

 

「穂乃果の見舞いに。それと穂波さんには話しておかないといけないと思ったんです。今回のことについて」

 

「……話を聞きましょうか」

 

聞いてくれる姿勢になった穂波さんに対し絵里が一歩前に出て説明した。

練習で怠った体調管理のこと。誰もが穂乃果の不調に気付かず無理をさせたことを。

 

「本当にすみませんでした!」

 

「あなたたち……」

 

頭を下げる絵里に穂波さんは真剣な表情で俺たちを見渡す。

 

「なに言っているの?」

 

だがそれも一瞬のこと、穂波さんは笑顔を浮かべていた。どんな叱責も受けるつもりでいたのだが、俺たちは呆気に取られてしまう。

 

「あの子がどうせできるできるって言って、全部背負い込んだんでしょ? 昔からずっとそうなんだから、あなたたちのせいじゃないってわかるわよ」

 

穂波さんは気を使わなくてもいいと言ってくれているのだろう。だが、ここで頷くほど俺たちの面の皮も厚くはなかった。

そんな俺たちに穂波さんが提案してくる。

 

「それより、あの子退屈しているみたいだから上がって」

 

「それは――」

 

「穂乃果ちゃん、ずっと熱が出たままだって」

 

熱が下がっていないのに押しかけても穂乃果も辛いはず。だがその心配はないようだ。

 

「一昨日から下がってきて今朝はもうすっかり元気よ」

 

穂波さんが言うのなら信じて大丈夫だろうと、俺たちはお邪魔することにした。しかし全員で行くのもということで一年生たちには待っててもらうことになった。

 

「穂乃果」

 

穂乃果の部屋にはいると穂乃果はベッドに座りながらプリンを食べていた。

 

「あっ、海未ちゃんことりちゃん!」

 

「よかった。起きられるようになったんだ」

 

「うん! 風邪だからプリン三個食べて良いって」

 

嬉しそうに言う穂乃果。いつもの姿に安心するが、暢気そうな穂乃果に呆れたい気を吐くにこ。

 

「心配して損したわ」

 

「お母さんの言う通りやね」

 

希も顔には出していなかったがやはり心配していたようで安堵の表情を浮かべている。

 

「それで、足はどうなの?」

 

「ん。少し挫いただけで、腫れが引いたら大丈夫だって」

 

ぷらぷらと包帯に巻かれた足を見せる穂乃果。動かせるということは軽い捻挫だったのだろう。この分ならそう遠くないうちにも治るだろう。

 

「それより、今回は本当にごめんね。せっかく最高のライブになりそうだったのに…」

 

沈んだ顔で謝る穂乃果。穂乃果も今回の結果は彼女自身凄い後悔していることがわかる。

 

「穂乃果のせいじゃないわ。私たちのせいよ」

 

絵里がそういうが、穂乃果は首を横に振る。

 

「でも」

 

自分を責めようとする穂乃果に絵里はバッグからあるものを取り出した。

 

「はい、穂乃果」

 

「これなに?」

 

絵里が渡したのは一枚のCD。

 

「真姫がリラックスできる曲をピアノで弾いてくれたわ。これ聞いてゆっくり休んで」

 

「わぁ…!」

 

嬉しそうな表情で穂乃果はCDを見つめる。

すると穂乃果はおもむろに立ち上がり窓を開けて、

 

「真姫ちゃん、ありがとー!!」

 

外にいる真姫に言葉を送り手をブンブンと振り始めた。

 

「ちょ、あんた何してるのよ!?」

 

「風邪引いてるのよ!?」

 

突飛な行動をし始めた穂乃果をにこと絵里が引き摺り下ろして窓を閉める。

今の行動で鼻が出てしまった穂乃果はティッシュで鼻をかむ。

 

「油断も隙もあったもんじゃないな」

 

きっと外では真姫が呆れているだろう。その様子が容易く想像できる。だが、元気な姿を見れば彼女たちも安心だろう。

 

「ほら、病み上がりなんだから無理しないで」

 

「あはは、ありがとー」

 

薄手の上着をかける海未に軽く微笑む穂乃果。

 

「ぶり返したら目も当てられないぞ?」

 

「ごめんごめん。でも、明日には学校に行けると思う」

 

「本当!?」

 

「うん! だからね――」

 

穂乃果は俺たちを見渡して言う。

 

「短いのでいいから、もう一度ライブ出来ないかなって」

 

その言葉に周りの表情に笑顔が消えていった。それに気付いていない穂乃果は言葉を続ける。

 

「ほら、ラブライブ出場グループ決定までまだ時間あるでしょ? なんていうか、埋め合わせって言うか――なにかできないかなって思って」

 

そういう穂乃果に皆が口を閉ざす。

 

「どうかな?」

 

「……穂乃果」

 

問いかけてくる穂乃果に、意を決したように絵里が口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラブライブには、出場しないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 

突然のことに小さい声を漏らす穂乃果。絵里から言われたことに理解が追いついていないのだろう。

 

「ど、どうして…」

 

「今回のことで理事長にも言われたの」

 

戸惑いを隠せない穂乃果に絵里はことの経緯を話す。

 

「無理をしすぎたんじゃないかって、こういう結果を招くためにアイドル活動をしていたのかって」

 

そういう気持ちなんてかけらもないことは誰もがわかっている。だが、結果を見てしまえばそういう風に責められるのは仕方の無いことだ。

 

「それで皆で相談してエントリーをやめたの。だからもう、ランキングにμ'sの名前は――ないわ」

 

「……そっか」

 

「私たちがいけなかったんです。穂乃果に無理をさせてしまったから」

 

俯く穂乃果に海未がフォローするが彼女はううん、と首を横に振った。

 

「違うよ。私ができるって調子に乗って……」

 

そういう穂乃果になにも言えなくなる海未。

 

「誰が悪いなんて言ってもしょうがないだろう。しいて言えば今回の事態は皆の責任だ」

 

「体調管理を怠って無理をした穂乃果も悪いし、それに気付かなかった私たちも悪かった」

 

「穂乃果ちゃん、春人くんとえりちの言う通りや」

 

希の言葉も届くことなく、俯いたままの穂乃果。

 

「今後どうするかは穂乃果が学校に来てからまた皆で話し合うことにしているわ。だから今は身体を休めて、元気になってちょうだい」

 

「うん、わかった……」

 

「それじゃあ、今日のところはお暇しましょうか」

 

絵里が立ち上がると、他のみんなも立ち上がる。だが、俺は座ったまま穂乃果をじっと見つめていた。

 

「春人くん? 帰らないの?」

 

「ん、ああ。個人的に穂乃果と話すことがあるから、皆は先に帰ってくれ」

 

「……そう、わかったわ。それじゃあ私たちは帰りましょうか」

 

そう言って立ち上がる絵里。そして、

 

「――後は任せるわね」

 

察してくれた絵里が最後に小さく耳打ちして皆を連れて先に穂乃果の家を後にする。

皆の気配がなくなって静まり返る穂乃果の部屋。部屋の主の穂乃果は皆が出て行く中でもずっと俯いたままだった。俺はそんな穂乃果に近寄り、彼女のベッドに腰をかける。

 

「穂乃果」

 

声を掛けるが穂乃果はなにも反応しない。

 

「大丈夫か?」

 

「……っ」

 

ピクリと身体がはねる穂乃果にもう一度問いかける。

 

「大丈夫か?」

 

「なん、で…」

 

「ん?」

 

「何でハルくんがそう言うの……」

 

穂乃果は顔を歪ませながら俺をに向く。

 

「私、ハルくんに心配される資格なんてないよ…」

 

「心配されるのに資格なんて必要ないだろう?」

 

「だってハルくんの言ってたことは全部正しかった……」

 

穂乃果が言っているのは学園祭前日の話のことだろう。

 

「今ならわかるよ。皆で頑張ってのμ'sなのに…一つになってライブを成功させるのが大切なのに…それなのに私…自分が頑張らなきゃって突っ走って、それにちゃんと気付いていたハルくんに怒って叩いて……」

 

「気にしなくて良い。言葉足らずだった俺が悪かったんだ」

 

「違うよ。ハルくんが酷いことなんて言わないもん。私はそんなことすらわからなくなってた」

 

「穂乃果……」

 

「――私が、全部駄目にしちゃった」

 

俺はもちろん、他のみんなだって誰一人として穂乃果が全部駄目にしたなんて思っていない。

俺だってあのときしっかりと穂乃果を止めて、次の機会を設けていればラブライブ出場取り辞めとはならなかったって思ってる。

反省する所は各々ある。全体的に判断が甘かったのだ。だが、

 

「私、のせいで…せっかく…ここまできたのに……最高のライブをしたかったのに……私が、最悪なのにしちゃった……」

 

それでも自分のせいだと吐露する穂乃果。そんな彼女の頭に手を乗せる。

優しく、ゆっくりと撫でてやると穂乃果は身体を震わせる。

 

「ハルくん……」

 

「失敗したと思うならこれから気をつけて、次に繋げていけばいい」

 

「う…あ……」

 

ポロポロと瞳に溜めた雫が零れ落ちていく。

 

「穂乃果が今することは――そうだな、全部吐き出すことだ。全部出してスッキリしたらまた頑張ればいい」

 

気持ちが吐き出せないままいるのが一番駄目なのだから。

 

「穂乃果が満足するまで俺が傍にいる。悲しい気持ちも悔しい気持ちも、俺が全部受け止めるから」

 

「あ、ああ……」

 

「だからもう我慢しなくていいんだ」

 

「ハル、くん…あ……うわああああああん!!」

 

穂乃果は我慢の限界が来たのかガバッと俺に抱きついてきた。

 

「あああああ! うわああああああん――!!」

 

涙を零す穂乃果をあやす様に俺は穂乃果の背に手を回す。

それから穂乃果は泣き続けた。自分の感情の全てを曝け出すように――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それからしばらく経って、

 

「おねーちゃーん」

 

廊下から雪穂ちゃんの穂乃果を呼ぶ声が聞こえてくる。

穂乃果の反応がないことに雪穂ちゃんは業を煮やし、入ってきた。

 

「お姉ちゃん? って、春人さん!?」

 

皆と一緒に帰ったと思っていたのだろう。雪穂ちゃんは俺の姿を見て驚いていた。

 

「雪穂ちゃん。こんばんは」

 

「こ、こんばんは……じゃなくて! どうして春人さんが!? 他のみんなは!?」

 

「皆は帰った。俺は少し残って穂乃果と話してたんだ」

 

「そうだったんですか――って、もう! そうと知っていればこんなラフな格好で入らなかったのに」

 

「家にいるときぐらい寛ぎやすい格好は普通だろう」

 

「春人さん、乙女心は複雑なんです」

 

「そ、そうなのか。なんかごめん」

 

ずいっと顔を寄せてくる雪穂ちゃんに俺は仰け反りながら謝る。

 

「それで、お姉ちゃんは……」

 

「ああ。見ての通りだ」

 

俺はちらりと穂乃果を見る。

 

「もうお姉ちゃんったら……すみません春人さん。お姉ちゃんが迷惑を…」

 

「いや、気にしなくていい」

 

呆れた目を穂乃果に向ける雪穂ちゃんに俺はフォローする。

穂乃果は俺の膝の上ですぅすぅと寝息を立てて寝ていた。

泣き止んで、ある程度自分の感情に整理がついたのを確認した俺は帰ろうとしたのだが、目を腫らした穂乃果がまだそのままで居て欲しいといってきた。それでしばらくそのままにしていたらいつの間にか寝ていたのだ。

 

「ほらお姉ちゃん起きて! 春人さんが帰れないよ!!」

 

「ん~、もうあんこは飽きたってばぁ~」

 

揺する雪穂ちゃんに寝言で返す穂乃果。

 

「雪穂ちゃん、起こさなくていい」

 

「えっ、でも…」

 

「こっちを見てくれ」

 

「そっち? あ…もう、お姉ちゃんったら……」

 

俺の指差したところを見た雪穂はそういいながら苦笑いする。

穂乃果が俺の服をぎゅっと握っているのだ。

そんな穂乃果を無理矢理起こすのは忍びない。俺が居るだけでいいのならそれに越したことはない。

 

「雪穂、穂乃果は――って、あらあら♪」

 

そこに雪穂ちゃんに穂乃果を呼んでくるよう頼んだ穂波さんまでやってきた。

 

「随分と穂乃果に信頼されているのね、春人くん」

 

ニヤニヤと生暖かい視線を送ってくる穂波さん。

 

「これは信頼されているって思ってもいいものなんですか?」

 

ただ枕にされているだけのような気しかしない。

しかし穂波さんはもちろん、と自信満々に答えた。

 

「この子自身、今回のことは相当キていたみたいなのよ。寝ても覚めてもどうしようって言ってね」

 

「だとは、思ってました」

 

さっきの様子を見ればそんな状態になっていてもおかしくはないと思っていた。

自分のしたこと、それによって起こったことに落ち込まないほど穂乃果も鈍感ではない。

 

「その穂乃果がこんなに無防備で安心した寝顔を晒しているんですもの。あなたが穂乃果にとって大切な人になっているのは親から見たらすぐわかるわ」

 

そういう穂波さんは先程までのにやけた顔ではなく、穏やかな微笑みを浮かべている。

なんだかむず痒くなった俺は頬を掻きながら穂乃果に視線を向ける。

 

「んぅ、ハルくん……」

 

なんの夢を見ているのやら、穂乃果はぎゅっと俺を掴んで放さない。

 

「春人くん。今日はうちで夕ご飯食べていきなさい」

 

「えっ?」

 

離れようにも離れられない俺に穂波さんはそんな提案をしてきた。

 

「もう時間も遅いし、春人くん一人暮らしなんでしょう?」

 

「まあ、そうですけど…迷惑では……」

 

「全然迷惑なんかじゃないわ。それに――穂乃果が起きるまでまだかかるわよ?」

 

そう言って穂波さんは穂乃果に目を移す。

 

「むにゃ…お饅頭よりケーキがいい~」

 

「――どうする?」

 

和菓子家の娘としてどうかと思う寝言に俺は小さく笑いながら、穂波さんの提案を受けるのだった。

 

 

 





いかがでしたでしょうか?
亀更新でありますがお付き合いただ気ありがとうございます。
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