"愛してる"の想いを   作:燕尾

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ども、燕尾です
58話目です。





58.高坂一家

 

 

 

「ん、んぅ……」

 

目が覚めた私は身体を起こす。

目を擦り、まわりを見れば誰もおらず、部屋は電気が消されて薄暗かった。

 

「あれ…? どうして私こんな体勢で寝てたんだろう……」

 

枕とは正反対の向きを向いた、おかしな寝相をしていた。

 

「んー……」

 

私は考え込み、寝る前までのことを何とか思い出そうとする。

 

 

――ハルくん…まだ帰らないで

 

 

――もう少し、このままでいさせて

 

 

「――――ッ!!!」

 

私の顔が一気に赤くなる。

 

あんなに泣きじゃくった後に甘えた姿を見せてそれで無防備に寝ちゃうなんて……!

いくらなんでもそれはないよ私。しかも風邪引いてたからお風呂も満足に入れてなかったのに……今度どんな顔してハルくんに会えばいいの!?

 

「……シャワー浴びよ」

 

汗もかいてたから身体が結構ベトベトだし、それに頭を冷やすにはちょうどいいだろう。

着替えとタオルを持って洗面所へと向かう。

 

「お母さん、雪穂…私シャワー浴びるから~」

 

熱も下がったし、別に文句は言われないはずだ。だけど、

 

「あっ!! お姉ちゃんちょっと待――」

 

雪穂の制止を聞く前に私は洗面所の戸を引き開ける。すると――

 

「え……」

 

「…………………ふぇ?」

 

私は目をパチクリさせる。

私の目の前には肌色が広がっていた。

 

「ほの、か……」

 

「ハル、くん……?」

 

えっ? どうしてハルくんがいるんだろう。しかも裸で。

あ、そっか。私まだ熱があるんだ。だからハルくんの幻覚を見ちゃったんだ。それか妄想だよ、きっと。うん。

それにしても、ハルくんの身体……引き締まってて…格好いいなぁ……

 

「穂乃果…その…ジロジロ見られると困るんだが……」

 

「え? なんで?」

 

だってハルくんがうちのお風呂に入っているわけないじゃん。だからハルくんは私が見てる幻でしょ。こういうのは滅多にないんだから少しぐらいは――

 

「いや、幻とか妄想とかじゃなくて現実だ。だからとりあえず此処から出てくれると助かる」

 

「げん、じつ……? 本物の…ハルくん……?」

 

「ああ。本物だ」

 

あ…ああ……本物のハルくん……! 本物のハルくんが…裸で…目の前に……!?

 

「穂乃果!! あんた、何してるの!?」

 

すると洗面所にお母さんが怒号を上げながら入ってきた。

 

「お母さん! 本物の、本物のハルくんが、ここではだ、裸で――!?」

 

混乱している私はハルくんを指差しながらお母さんに詰め寄る。

 

「わかったから、とりあえずあんたはこっち来なさい!!」

 

私は何がなんだかわからない状態でお母さんに首根っこをつかまれながら洗面所から引き摺られていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変申し訳ありませんでした」

 

「お姉ちゃんの変態」

 

いつかの海での合宿を髣髴とさせるような土下座をしている穂乃果を見下すような目で見る雪穂ちゃん。

 

「まあ、そういわないでやってくれ雪穂ちゃん。穂乃果だってわざとじゃないんだから」

 

誰だってなんの話も聞いていないのに自分の家の風呂場に他人がいたら誰だって戸惑う。

 

「でも、春人さんの裸をじっと見てたのはどう説明させるんですか?」

 

「えっと…どうしてなんだ、穂乃果?」

 

「それは…幻覚だと思って……ならいいかなって……」

 

「……」

 

「やっぱり変態じゃん、お姉ちゃん」

 

さすがにそう言われてしまうと、フォローのしようがない。

 

「で、でも! ハルくんがいるなら教えてくれてもよかったじゃん!! どうして教えてくれなかったのさ!?」

 

「教える前にお姉ちゃんが開けちゃうからじゃん! 私は止めようとしたよ!」

 

「二人とも、少し落ち着け」

 

雪穂が、お姉ちゃんが、と俺の目の前で口げんかを始める二人。

俺は止めようとするが、二人の耳に届くはずもなく、

 

「大体お姉ちゃんはいつも――!!」

 

「そういう雪穂だって――!!」

 

ヒートアップする二人に俺は少し困る。だが、穂乃果と雪穂ちゃんの後ろから、一人の影が現れて――

 

「痛ったーい!!」

 

「痛ったー!?」

 

二人の頭に拳骨を落とした。

 

「五月蝿いわよ二人とも! 春人くんも困ってるじゃないの!」

 

「だって雪穂が!!」

 

「お姉ちゃんが!!」

 

「もう一発喰らいたいのかしら?」

 

拳骨を落とされた意味も分からず互いのせいにする二人に穂波さんは笑顔で拳を構えると穂乃果と雪穂ちゃんは顔を青くして顔を横に振った。これ以上続けると本気で怒られると悟ったのだろう。

 

「ごめんなさいね春人くん。騒がしい子達で」

 

「いえ、俺は大丈夫です」

 

「それより! どうしてハルくんがうちでお風呂に入っていたの!?」

 

なにも知らない穂乃果がそう言うと、穂波さんと雪穂ちゃんは呆れた視線を穂乃果に向けた。

 

「……」

 

俺も言ってもいいものかと迷っていると、穂乃果は俺たちの雰囲気を察したのか戸惑いの声を上げながら俺たちを見渡した。

 

「えっ、なに? どうしてみんな私を見てるの?」

 

「お姉ちゃん、なにも覚えてないの?」

 

「あんたが春人くんを掴んで離さない上に寝るから、春人くんも帰るに帰られなかったんじゃない」

 

「それは、覚えてるけど……」

 

「あんたが離れる頃にはもうすっかり日も暮れたからうちでご飯を食べるように誘ったのよ」

 

「でもどうしてお風呂に入ってたの?」

 

俺が風呂を使わせてもらった理由も、穂乃果にあるのだがこれを言うのは憚れる。だけど説明しなければ先に進まない。

俺は小さく息を吐いて言った

 

「それは……制服やズボンが、その…穂乃果の涙や鼻水やよだれで……」

 

「わぁ――――!!」

 

「んぐっ!?」

 

言葉の途中で穂乃果は遮るように声を上げて俺の口を押さえた。

 

「ハルくん! そういうことは言っちゃ駄目だよ!!」

 

「――ぷはっ! 聞いてきたのは穂乃果だろう……!?」

 

さすがに理不尽すぎやしないか。

 

「そういうことよ穂乃果。春人くんを汚したままで帰すわけにもいかないでしょう?」

 

「よく分かりました。本当にすみません」

 

また深々と頭を下げる穂乃果。そう殊勝な態度されるとこっちが困ってしまう。

 

「本当は泊まっていってもらおうと思ってたんだけど」

 

「さすがにそれはできませんよ」

 

年頃の娘がいる家に泊まれるわけがない。だが、

 

「泊まっていけばいいじゃないですか! 元はといえばお姉ちゃんが迷惑かけちゃったんですし、気にしなくて大丈夫ですよ!!」

 

雪穂ちゃんは泊まることに肯定的だ。

 

「いや、ですけど…ほら、お父さんとかは……」

 

「あら、お父さんもいいって言ってるわよ? 何なら春人くんとは一度話をしてみたいって言ってたし」

 

ねえ? と店の厨房に向かって問いかける穂波さん。すると穂乃果の父親であろう人が無言でぐっ、と親指を立てた。

外堀をどんどん埋められて俺の逃げ場がなくなっていく。

 

「それに服が乾くのも明日まで掛かるわよ?」

 

「う……」

 

「明日も学校ありますよね?」

 

「そうなんだけどな……」

 

此処まで推してくると断るのが逆に心苦しくなる。

そう思っていると、くいっと引っ張られる感覚が得られた。

 

「ハルくん…今日は、一緒にいて欲しい」

 

袖を掴んで小さく言う穂乃果。

俯いているがその横顔は、不安を帯びている。

 

「……」

 

俺は小さく息を吐いた。

穂乃果が満足するまでそばにいるといったのは俺だ。その言葉を嘘にしてしまうのはよくないだろう。

結局、高坂家の人々に押し切られるような形で俺は泊まっていくことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ――」

 

『いただきます』

 

皆で手を合わせて食事の挨拶をする。

 

「春人くん、遠慮しないでいっぱい食べてね?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

高坂家の今日の夕飯は秋刀魚の塩焼きに肉じゃが、わかめと豆腐の味噌汁、白米という一般家庭を代表するような和風の献立だった。

 

最初は味噌汁から頂く。昆布ダシの風味と白味噌の濃すぎない上品な味だ。

秋刀魚の塩焼きの焼き加減もいい塩梅で、肉じゃがはジャガイモにしっかりと味が染み込んでおり、それでいて煮崩れせず実もホクホクしている。

 

料理は家庭ごとで味が変わっていく。俺が作ろうとしてもこうはならないだろう。

 

そして何より――

 

「それで今日学校でね――」

 

「へぇ…今そうなってるんだ――」

 

「……穂乃果、口に米粒ついているぞ」

 

「えっ、うそどこについてるのお父さん――」

 

こうして誰かと一緒に食卓を囲むことがなかった俺にとっては新鮮で楽しい時間だった。

 

「――春人くん? 箸があまり進んでないようだけど、美味しくなかったかしら……?」

 

すると箸の進みが遅かったことに気付いた穂波さんが少し苦笑いしながら問いかけてくる。

だが、俺はすぐに否定した。

 

「いえ、そうじゃないんです。穂波さんの料理美味しいです。ただ、こうして誰かと食卓を囲んで一緒に食べることがなかったですから……なんか、その、こういうのもいいなぁって思ってたんです」

 

「失礼なこと聞いちゃうかもしれないけれど、ご両親とかは?」

 

「両親は二人とも仕事で離れたところで暮らしてます」

 

「えっ? ハルくんって一人暮らししてるの!?」

 

「ん、言ったことなかったか?」

 

「聞いたことないよ!」

 

そう言われると穂乃果には今まで言ってなかったような気がする。言う機会もなかったというのもあると思うが。

 

「別に言う必要もなかったと思ってたから」

 

「春人さんってそういうところありますよね……ドライって言うか、自分のことをあまり話さないと言うか」

 

雪穂ちゃんの苦笑いの理由がわからずに俺は首をかしげる。

 

「春人くん、普段のご飯とかはどうしてるの?」

 

「自分で作ってます。自炊が一番安上がりですから」

 

それでも時間がないときや発作が起きたときは惣菜を買ったりとかしているが、基本的には2、3日持つようなものを作りおきしている。

 

「それじゃあ、家の掃除とかも?」

 

「ええ…自分でしてますけど」

 

一人暮らしなのに別の誰かが出来るわけない。

 

「偉いわね~、誰かさんたちに聞かせてあげたいわ~?」

 

ちらりと横目で娘二人を見る穂波さん。そこで俺は穂波さんの質問の意図を理解した。

穂波さんの視線を受けた穂乃果と雪穂ちゃんは冷や汗を滴ながら目を背けている。

 

「まあ、一人暮らししてない子達が家事をする機会なんてないのもわかってるけどね。私もそうだったから」

 

「じゃあハルくん引き合いにしてまで言わなくていいじゃん!!」

 

「そうだよ! それに私はお姉ちゃんと違って、自分の部屋は自分で片付けてるよ!」

 

「私だって自分で片付けてるよ!?」

 

ぎゃーぎゃーとまた口論を始める二人。

そんな二人を止めたのは穂波さんではなく、父親――信幸さんだった。

 

「……二人とも少し落ち着きなさい。春人くんが困っているぞ」

 

「「……はぅ」」

 

俺の存在に気づいた二人は同じ声で揃って顔を赤くして俯く。

 

「……」

 

それがなんだかおかしくて、

 

「ふ――はははっ」

 

俺はつい笑い声を漏らしていた。

 

『……』

 

「……あ」

 

その事に気づいたのは高坂家の皆の視線が集まっていることに気づいたときだった。

今度は俺が顔を赤くしてしまう。

 

「その、すみません……つい……」

 

「いいのよ気にしなくて。むしろ良いものを見させて貰ったわ」

 

「できれば忘れてください……」

 

「たぶん忘れませんよ。ね、お姉ちゃん?」

 

「うん、ハルくんが声だして笑ったのなんて初めてだもん」

 

「わざわざ言わなくていい……」

 

声を出して笑うなんてしてこなかったから自分でもビックリしている。

 

「……」

 

「どうしたんだ、穂波?」

 

「いいえ、ちょっとね――ねぇ、春人くん?」

 

「なんですか?」

 

気持ちを整えて返事をする俺に穂波さんはある提案をしてきた。

 

「これから、定期的にうちで夕御飯食べない?」

 

「は……?」

 

唐突な話に俺は思わず素で返してしまう。

 

「もちろん、春人くんが良ければの話よ?」

 

「いや、俺が良ければじゃないでしょう。流石にそれは迷惑――」

 

「私が提案してるんだから迷惑に思うわけないじゃない」

 

「それはそうだと思いますけど…」

 

「そうね、気後れするなら週一日とかでもいいから」

 

むしろ週に二、三回とかあったのか。いや、そんなことより。

 

「信幸さんはいいんですか?」

 

「俺から言うことは何も無い。唐突ではあるが穂波の提案にも何かの意味があるのだろうから」

 

「でも、穂乃果や雪穂ちゃんは――」

 

「私はいいと思います!」

 

「すっごくいいよお母さん! ナイス提案だね!!」

 

「……」

 

高坂家全員が賛成というある意味の四面楚歌。

確かに、穂波さんの提案には何かしらの意図があると思う。そうじゃなければ他人を自分の家の夕食になんて呼ばないだろう。

 

「本当に大丈夫なんですか?」

 

「もちろんよ、でなきゃこんなこと言わないわ。それに四人も五人も変わらないから」

 

「……分かりました。それじゃあ、お世話になります」

 

俺は箸を置いて頭を下げる。

若干、高坂家の人たちに流されているような気がしなくも無いが、ここまで言ってくれているのにそれを無碍にするのはよくは無いだろう。それに、

 

「やったね、お姉ちゃん!」

 

「うん!」

 

こんなに喜んでくれる人がいるのなら、それでも構わないと、そう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった……」

 

仰向けでいる俺は誰にも聞こえない声でそう呟く。

 

「……」

 

「ん…すぅ……」

 

顔を向けると左は穂乃果、右は雪穂ちゃんが俺の腕を抱いて寝ていた。両方しっかりと固定されているため、寝返り打つこともできない。

俺はため息を吐きながらこうなった原因を考える。

 

そもそもの始まりは穂乃果の一言からだった。

 

 

 

 

 

「ハルくん、一緒に寝よー!」

 

「あらあら、穂乃果ってば大胆ね」

 

「……」

 

「おおおお姉ちゃん!? 急になに言い出してるの!?」

 

「何って一緒に寝ようって――」

 

何ごともないように言う穂乃果に、いやいやいやいや、と高速で手を振る雪穂ちゃん。

 

「駄目に決まってるでしょ!!」

 

「ええ! なんでさ!?」

 

驚きと抗議の声を上げる穂乃果に雪穂ちゃんは慌てたように言う。

 

「だってそんなのうらやま――じゃなくて、高校生なのに男子と女子が一緒に寝るなんて――」

 

「えっ? でも合宿のとき皆で一緒に寝たよ?」

 

あっけカランと合宿の話ををした穂乃果に、雪穂ちゃんだけじゃなく、穂波さんや信幸さんも止まった。

 

「まさか春人くんってば、平成の董卓なのかしら」

 

「違います……!」

 

とんでもないことを言う穂波さんにさすがに俺も黙っていられなかった。

 

「ちちちち違うって何が違うんですか!? μ'sの皆と寝たんですよね!!?」

 

それはそうなのだが言い方に悪意というか、語弊を招いてる。

 

「雪穂ちゃんが想像しているような変なことは何一つしていない」

 

「わ、わわ私は変な想像なんてしてません!」

 

うがー、と噛み付いてくる雪穂ちゃんだが顔が赤くなってるところから想像していたのだろう。

 

「布団並べて寝ただけなんだ。合宿の思い出っていうことで」

 

「やっぱり董卓じゃない。酒池肉林じゃない」

 

「……」

 

テンションが上がっている穂波さんに少し俺はイラついてしまう。

 

「……穂波、茶化すのは止めてあげなさい」

 

さすがに不憫に思ってくれたのか信幸さんが助け舟を入れてくれた。

 

「っていうかどうして雪穂はそんなに怒ってるのさ?」

 

「だって羨ましい……じゃなくて!! 年頃の男女が一緒に寝るのは常識的におかしいでしょ!?」

 

「ふぇ? う、うん…? そうなのかな、ハルくん……?」

 

「普通はな。だから俺も最初は断っただろう?」

 

まあ、結局根負けしたのだから説得力はないに等しいが。

 

「でももう一回一緒に寝たんだから大丈夫だよね?」

 

「あの合宿が特別だったって考えられないのか?」

 

「そう? 大丈夫だよ、だからハルくんはこっち! 実はお母さんに布団を用意してもらってるんだ!」

 

「お、おい…」

 

どうしてこういうときの準備はいいんだ。というか穂波さん、平成の董卓とか言う前に穂乃果に手を貸してるじゃないか。

腕を組み、俺を連れて行こうとする穂乃果。

 

「ぐぬぬぬぬ、うらやましい……」

 

「雪穂、本音が洩れすぎよ」

 

「う、ぐ……」

 

穂波さんに指摘された雪穂ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をする。

そんな雪穂ちゃんに穂波さんは、あ、そうだ、とひらめいたように言った。

 

「――そんなに羨ましいのなら、雪穂も一緒に寝ればいいじゃない」

 

「はっ……?」

 

 

 

 

 

そして寝る前のひと悶着から雪穂も一緒に寝ればいいじゃない、という穂波さんの一言から穂乃果や雪穂ちゃんが乗り気になって、結局和室で川の字に布団を並べて、穂乃果、俺、雪穂ちゃんと真ん中に俺を挟んで寝ることになったのだ。

 

だが、

 

「寝られない……」

 

身動きがとれないということに窮屈さを感じて眠ることができなかった。それに穂乃果と雪穂ちゃん両方からいい香りと女の子の柔らかさが伝わってくる緊張も加わって、なおさら寝られない。

 

「んぅ…」

 

雪穂ちゃんがまた動いて今度は脚まで絡めてくる。

 

「ん、ハルくん…」

 

何気に寝相の悪い雪穂ちゃんを意外だと思っていると、穂乃果が俺の名前を呟いた。

 

「穂乃果?」

 

起こしてしまったのかと思ったがそうではなかったようで、穂乃果は雪穂ちゃんに対抗するように俺の腕を放して体に抱きついてきた。

俺は穂乃果の頭を撫でる。

 

「いい夢、見れるといいな」

 

安らぎに包まれたように眠る穂乃果を見て俺は小さく微笑む。

しかし、それはそれとして、

 

「……これ、寝られるんだろうか」

 

もはや二人の抱き枕状態に俺は半ば寝ることを諦めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、ハルくん…」

 

「穂乃果?」

 

「……」

 

「……いい夢を見れるといいな」

 

いきなり抱きついたのに優しく頭を撫でて、柔らかい笑みを向けてくれるハルくん。

そんな状況に私は今すごいドキドキしている。自分の心臓の音でハルくんに気づかれてしまうんじゃないかってぐらいドキドキしてしている。

一緒に寝ようって腕を取って布団に入ったのはいいけど、いざ暗い中でハルくんを意識すると沸騰するほど恥ずかしかった。

それに雪穂が抱きつくようにハルくんの脚に自分の脚を絡めたことにもやもやして対抗するように思いきって体に抱きついたのだが、女の子とは違う男の子の堅くて逞しい体の感触、鼻腔をくすぐるハルくんの匂いに私はだんだん変に気分になってきていた。

 

私はバレないようにちらりとハルくんを見る。

 

私や雪穂が抱きついているのもあるけどハルくんは寝ていると思っているのか身動ぎせずにじっとして天井を眺めていて、私が起きていることには気付いていない。だからちょっとずるいけど、私はもっとギュッとハルくんに密着した。

 

「……」

 

さっきより感じるハルくんの体温。

我ながら大胆なことしていると思うけど、今はこうしていたいという気持ちが勝っていた。

こうしてハルくんに抱きついていると安心する。不安な気持ちやが安らいでくる。ハルくんのそばにいたいという気持ちが強くなる。

数日前は、ハルくんを叩いておきながら都合が良いといわれてしまうかも知れない。今だって傍から見たら自分が安心するためにハルくんを利用しているように見えるのかもしれない。だけど今はこうしていることを許して欲しい。

 

私はハルくんからの安らぎに身をゆだねながら眠りにつくのだった。

 

 

 







いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に



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