"愛してる"の想いを   作:燕尾

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ども、燕尾です
気は抜けないですが、院の修論が何とかなりそうでほっとしています。
ただ、やっぱりたまの息抜きは必要ですよね?
というわけで60話です。






60.存続

 

 

 

放課後、俺は理事長室へと来ていた。

 

「これが現状なのね……」

 

目の前にいる理事長は書類を閉じてそう言う。

 

「はい。あと半年ぐらいになります」

 

淡々と言う俺に対し理事長はまさに悲痛、という様子だった。

 

「そう、なの……ごめんなさい。力になれなくて」

 

「理事長には――陽菜子さんには本当に感謝しています。この学院の理事長としても、俺の保護者代理人としても(・・・・・・・・・・)

 

陽菜子さんは入学する前、俺のためにいろいろと便宜を図ってくれた。

陽奈子さんがこの学院の理事長でなかったら、西木野先生の話をちゃんと聞かずに噂だけで判断していたら――そして、学校に行くことを拒んでいた俺をそれでもと無理矢理にでも引っ張らなかったら、俺はここにはいなかった。彼女には返しきれないほどの恩がある。

 

「陽菜子さんは力になってくれました。謝る必要なんてありませんよ」

 

「春人……」

 

「だから俯かなくていいんです。胸を張ってください。自分の信じたことを通してください」

 

「……そうね。嘆くのは、あなたにも失礼ね」

 

陽菜子さんはそう言って、やさしく微笑んだ。

 

「状況はわかったわ。私のお願いはただ一つ、後悔の無いように過ごしてちょうだい。私ができることは少ししかないけれど、あなたのためならどんなことでも惜しまないから」

 

「ありがとうございます」

 

「それと、二人きりのときは普通でいいのよ?」

 

「誰かに聞かれたらいけないので、学校ではこうします――それじゃあ、失礼します」

 

理事長室から出ようとしてドアに手を掛けたとき、俺はあることを思い出した。

 

「そういえば――廃校撤回、おめでとうございます」

 

俺の口からそんなことが出るとは思わなかったのか、驚く陽菜子さんを見てから俺は理事長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室に置いていた荷物をまとめ、俺は屋上へと向かう。

その道中で掲示板に群がっている(μ's)を見つけた。

 

「あ! ハルくーん!!」

 

向こうも俺に気づいたみたいで、穂乃果が俺へ向かってダッシュしてくる。そして、思い切り飛びついてきた。

 

「やったよ! ついにやったんだよー!!」

 

「うおっ…!?」

 

何とか受け止める俺の首の後ろに穂乃果は腕を回す。

 

「音ノ木坂学院が存続するんだよ、ハルくん!!」

 

「え、あ、ああ……」

 

彼女の顔がものすごく近くに来て、少し緊張してしまう。

 

「もうっ、反応薄いよハルくん! もっと喜ぼうよ!!」

 

「そう言われてもな…」

 

俺の内心を知らずにちょっと膨れる穂乃果に対して、少し困ってしまう。存続することへの喜びよりも、思い切り抱き付かれて、それを皆にニヤニヤされながら見られているという状況への戸惑いのほうが大きい。

 

「嬉しいことやその気持ちを共有したい気持ちはわかる。けど穂乃果、とりあえず落ち着いて周りを見てくれ」

 

「うん? 周り――――あ」

 

『……』

 

今の今まで気付いていなかった穂乃果はここでようやく一緒にいた皆を認識する。

 

「いやいや、春人くん。ここは抱き返すのが礼儀ってもんやで?」

 

「そうね。そこは空気読みなさいよ春人」

 

「ニヤニヤしている筆頭の奴ら(希・にこ)に言われたくない」

 

からかう気満々の希とにこの二人に俺はため息を吐く。だが今はこんな二人に文句を言うより先に穂乃果に言うべきことがある。

 

「――おめでとう。穂乃果、よく頑張ったな」

 

「っ、うん! ありがとう、ハルくん!!」

 

頭をなでてあげると穂乃果は満面の笑みを浮かべる。

 

「皆も、おめでとう。お疲れ様」

 

「春人くんも、お疲れ様にゃ!」

 

「そういわれるほどなにかをした覚えはないんだけどな」

 

「そんなことないよ。ハルトくんが色々としてくれたから私たちも頑張れたんだよ?」

 

「花陽の言う通りよ。あなたが私たちを支えてくれたから私たちもここまでこれた」

 

真っ直ぐに言う花陽と絵里に俺は少しむず痒くなる。

 

「春人くん、照れてるにゃー」

 

「全く、少しは自覚しなさいよね」

 

「春人らしいと言えばらしいですが」

 

「もっとにこちゃんみたいにしてもバチは当たらないわよ?」

 

「それどういうことよ真姫!?」

 

にこのつっこみにみんなが笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんと!? 音ノ木坂学院、続くの!?」

 

帰り、絵里を待っていた亜里沙ちゃんに学校の存続を伝えると驚きながらもものすごい勢いで食いついた。

 

「ええ」

 

「嬉しい! やったやったー!!」

 

絵里が頷くと、亜里沙ちゃんはウサギのようにぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。余程嬉しいのだろう。

 

「よかったね、亜里沙ちゃん」

 

「うん! 来年から、よろしくお願いします!!」

 

「まだ早いわよ亜里沙。それにはまず入試で合格しないといけないわね?」

 

頭を下げる亜里沙ちゃんに絵里は少し苦笑いする。

 

「うん、頑張る!」

 

意気込む亜里沙ちゃんの一方で穂乃果は肩を落とす。

 

「あーあ、うちの雪穂も受験するって言わないかな~?」

 

がっかりしている穂乃果。そういえば穂乃果は雪穂ちゃんの本人から言われたこともあって受験はUTX一本だけだと思い込んでいる。

 

「あっ、この前話したら迷ってるって言ってました」

 

「ほんと!?」

 

「はい! だから――」

 

頷く亜里沙ちゃんは俺の方に寄ってまた頭を下げる。

 

「春人さん! 雪穂共々、これからもよろしくお願いします!」

 

『……えっ?』

 

その瞬間、亜里沙ちゃん以外の時が止まった。

 

「あ、ああ。頑張ろうな、亜里沙ちゃん」

 

戸惑いながらも丁度いい高さの位置にある亜里沙ちゃんの頭をなでてあげると、彼女は気持ちよさそうに声を漏らす。

 

「どういうことなの、亜里沙?」

 

「時間があるとき春人さんに勉強を教えてもらってるの!」

 

「ちょっと、亜里沙ちゃん……?」

 

俺の記憶では内緒にしておこうという話だったはずなのだが、なんの迷いもなく事情をバラす亜里沙ちゃん。

 

「ハルくん? そんな話、聞いていなかったんだけど?」

 

「私も、その話は初耳ね?」

 

話を聞いて俺にジト目を向けてくる穂乃果と絵里。そしてなんとも言えない威圧を放っている穂乃果に冷や汗が垂れる。

 

「雪穂も一緒ですよ?」

 

「雪穂も!? 一言もそんなこといってなかったよ!?」

 

まあ、雪穂ちゃんも内緒にしようとしていたことに賛成していたから言わないのは当然だ。

 

「ハルくんもどうして教えてくれなかったのっ?」

 

「そうよ、教えてくれても良かったじゃない」

 

「口止めされてたから。穂乃果や絵里を驚かせたいって言う二人に」

 

成長した姿を姉たちに見せて驚かせたいという雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんの願いを俺は叶えてあげようとしただけ。

 

「自分で暴露したけど、驚かせられたんだから成功としていいのか?」

 

「もう少し後に教えるつもりだったんだけど、口が滑っちゃいました。後で雪穂にも謝らないと」

 

てへっ、とわざとらしく笑う亜里沙ちゃん。確信犯な彼女に俺はため息が漏れてしまう。

 

「ちなみに勉強場所はどうしてるのかしら?」

 

「基本図書館だよ? あ! あとは春人さんのお家で見てもらってるんだ!」

 

亜里沙ちゃんの一言に、空気が凍った気がした。

 

「ハルくんの家……?」

 

「うんっ、図書館が埋まっているときとかに、春人さんのお家でやってるの! ねっ、春人さん!」

 

「あ、ああ。間違いないんだが……」

 

亜里沙ちゃんは事実をただ無垢に言っているだけなのだが、なぜか俺は言ってほしくない気持ちが強かった。

 

「そっか、そうなんだ……ふふ、ふふふふふ……」

 

口角を一杯に引き上げた笑みを作って俺を見る穂乃果。

 

「ことり…なんだか穂乃果が怖いんだが……?」

 

「……仕方がないんじゃないかな? だって女の子二人を自分のお家に引き込んだんだから」

 

そういうことりの声色もどこか不機嫌さが混じっていて、言葉にも棘があるようだった。

 

「まあ、春人くんが悪いってわけじゃないのだけれど、乙女心(感情)はそうはいかないみたいね。行ってくれなかったのは私だって不満なのよ?」

 

わけがわからない俺は最後の希望とばかりに絵里のほうを見るが、彼女は苦笑いするばかり。

 

「ハルくん、ちょっと話があるんだ…」

 

「……長くなりそうか?」

 

「それはハルくん次第かな?」

 

「わかった……」

 

今日は帰るのが遅くなりそうだ、そう思うのだった。

 

 

 

 







いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に……


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