"愛してる"の想いを   作:燕尾

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ども、燕尾です
皆さん今年はどうでしたか?
一年、お疲れ様でした。
(あ、お疲れ様という言葉が失礼だろ、とか言う返しはやめてくださいね笑)






61.留学

 

音ノ木坂の存続が決まってからある日の放課後のこと。私はことりちゃんから空き教室に来て欲しいと連絡を受けた。

同じクラスなのだから直接言えばいいのに、メールが送られてきたのには何か理由でもあるのだろうか。

 

「ことりちゃん」

 

ことりちゃんはすでに来ていて、部活動で活気のあるグラウンドを眺めていた。

 

「呼び出してごめんね穂乃果ちゃん。二人きりで話したいことがあったから」

 

振り向いたことりちゃんはいつになく真剣な表情でそういった。

 

「話したいことがあるって書いてあったけど、なにかな?」

 

私が聞くととことりちゃんは大きく深呼吸をする。

 

 

「穂乃果ちゃん」

 

 

そして意を決した様子で口を開いた。

 

 

「わたしね、留学することになったの」

 

 

「えっ…留、学……?」

 

私は、何を言われたかわからなかった。いや、理解したくなかった。

 

「海外の、服飾関係のところでね? ライブの衣装を見て、作っているのが私だって知ってオファーをくれたの。こちらの専門学校で学ばないかって」

 

頭が真っ白になっている私に、ことりちゃんは説明する。そこで私もようやく理解が追いついてきた。

確かに、ことりちゃんの衣装はいつも凄かった。デザインもいつも曲のコンセプトにあった可愛いものだし、完成した衣装も解れやズレのない本職の人が作ったものと変わりのないような完成度だ。

ことりちゃんの作った衣装を知った人が関心を持つのはよく分かる。

 

 

だけど――

 

 

「いつからその話が……」

 

少なくともつい最近のことではないはず。

行くことを今言うのだから、留学のオファーが来たのがつい最近なわけがない。

 

「……ごめんなさい」

 

私の考えが正しいと言うようにことりちゃんが謝ってきた。

そんなことりちゃんに、私は少し怒りが湧いていた。

 

「どうして…どうして今まで教えてくれなかったの?」

 

「ごめんね、本当にごめんなさい……」

 

ことりちゃんは目を伏せて謝るばかりで理由を教えてくれない。

 

「理由を教えてよ…」

 

私がそういうと、ことりちゃんは震えた声で言った。

 

「本当は一番に聞いてもらいたかった。相談に乗ってもらいたかった。だけど私が弱いばかりに、ずっと言えなかった」

 

「どういうこと……?」

 

ことりちゃんの言っていることがわからず問いかけると、思いもしなかった答えが返ってきた。

 

「穂乃果ちゃんがライブに夢中だったから」

 

「あ……」

 

その瞬間、私の時間が止まった。

 

「ラブライブに向けて学園祭のライブを頑張る穂乃果ちゃんの邪魔をしたくなかった。だから終わってから言おうと思ったんだけど、穂乃果ちゃんが倒れちゃったからそれもできなかった」

 

そうだ。前までの私は誰かの話を聞くような状態じゃなかった。そんな私に水を指さないようにと、彼女は私のことを考えてくれて黙っていた。

「でもね、それは言い訳なの」

 

だけどことりちゃんが浮かべたのは自虐するような笑み。

 

「春人くんに言われたんだ。本当に大切なことなら、それでもって言わないといけなかったって。大切なことまで言えなくなるのはその人のことを信用しないのと一緒だって。わたしは、言い訳ばかりして穂乃果ちゃんのこと信頼してなかった。だから――」

 

 

 

だから――ごめんね……

 

 

 

「――っ」

 

私は息を呑んだ。

ことりちゃんは一筋の涙を流していた。

我慢しているんだろう。私に気を使わせないように、必死に堪えているのだろう。

 

「ごめん、ね。穂乃果ちゃん……」

 

「こ、とりちゃん……」

 

違う、本当に謝らなきゃいけないのは私だ。

周りをちゃんと見ていなかった。目先(ラブライブ)のことだけしか考えないで、皆(μ's)を、ことりちゃんのことを何一つ見ていなかった。

それなのに、自分勝手にことりちゃんを責めて、さらに彼女を傷つけてしまった。

 

「ごめんね穂乃果ちゃん。それと――さよなら」

 

別れの言葉を言ったことりちゃんはそれ以上涙を見せないように、教室を後にする。

一人残った私は呆然と立ち尽くしていた。

 

どうして気づかなかったんだろう。ことりちゃんが、こんなに苦しんでいたというのに。

 

どうして見てなかったのだろう。一緒に頑張る仲間だったのに。

 

私は――今まで何をしていたのだろうか。

 

どうすることもできない暗闇が、私を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、来ているみたいだな」

 

「ねぇ春人。話があるっていわれてきたけど、一体なんの話かしら?」

 

にこが腕を組みながら、怪訝そうに問いかけてくる。

 

俺はμ'sの皆に話があるからと放課後に部室にくるように連絡を送った。その連絡ににこは俺自身の身体の話だと考えて、あまりいいものではないと思っているのだろう。

 

「それに穂乃果ちゃんとことりちゃんが来てないよ?」

 

花陽は穂乃果とことりの姿がないことに疑問を持っているようだが、それを含めた話だ。

今あの二人は別室で話しているはず。

 

「春人の話じゃないなら何の話? そんな改まった様子で」

 

面倒くさそうにする真姫だが、ちゃんと聞こうとしているあたり相変わらずの様子だ。

 

「ことりについて、話すことがあるんだ」

 

「ことりについての話? それをどうして春人くんが?」

 

絵里の疑問はもっともだ。本当はことりが自分で話すべきことだ。だが、

 

「穂乃果と二人で話をしたいからと、皆には俺から話して欲しいと頼まれたんだ」

 

「春人、まさか…」

 

ことりの事情をわかっている海未は察したようだ。俺が頷くと、海未は顔を伏せた。

 

「皆にとっては突然の話だが、ことりが留学することになった」

 

『えっ……』

 

「……」

 

「服飾の専門学校からオファーが来たんだ。ことりが作った衣装が向こうのお眼鏡に叶ったらしい」

 

事情が飲み込めない皆は戸惑いを隠せていない。

 

「来週には出発するとのことだ」

 

「ちょっと待ちなさい、そんな急に言われても困るわよ」

 

初めて聞かされた側として、にこの困惑はもっともな話。しかし、

 

「皆にとっては急な話だが、理解してくれとしか言いようがない」

 

そのことに関して俺に文句を言われても困る。俺は言伝てを頼まれただけなのだから。

ここまでは伝言役としての話。ここからは俺からの問いかけだ。

 

「それで皆に聞くが、これからどうする?」

 

「どうするって、どういうことよ?」

 

「ことりが抜けたら、少なからず活動に影響が出るだろう。このままμ'sとしてやっていくのか、それとも別な形で再出発するのか、それか――ここで終わるか」

 

「っ、どうして終わるって言葉が出てくるのよ!?」

 

「元々、μ'sは学校の存続を目的として結成されたんだ。その目的が達成された今、役目も終わったって言える」

 

ただそれは、最初の目的に照らし合わせた場合の話だ。

 

「もちろんスクールアイドル部として活動するならそれはそれで問題ない。だが、その場合はさっきもことりがいなくなる影響を考えないといけない」

 

「要するに――自分の身の振り方を考えた方がええ、ってことやね?」

 

「そういうことだな」

 

『……』

 

皆の反応は戸惑いそのものだった。まあ、急にこんな話をされたら無理もない。一度考える時間も必要だろう。

 

「話は以上だ。考える時間も必要だろうし、今日の練習は無しにしよう」

 

そういう俺に異を唱える人はおらず、そのままこの場は解散となり、みんなは教室から出て行く。

 

「春人……」

 

残った海未は沈んだ声で話しかけてきた。

 

「すみません。本当は私が言うべきでしたのに」

 

「気にしないでいい。頼まれたのが俺だったってだけだから」

 

本来はことりが自分から言わなければいけないこと。海未でも、俺でも、他の誰かが話すことではない。

 

「……私は、どうしたらよかったのでしょうか」

 

やはり海未は海未で悩んでいたようだ。

 

「ことりは、引き留めて欲しいように見えました」

 

「それは勘でしかないんじゃないのか」

 

「幼馴染だからこそわかることもあるんですよ」

 

俺に苦笑いで答える海未。幼馴染というのが俺にはいないから、よく分からない。

 

「ですが、ことりの将来を考えると引き止めることはできませんでした。あの子にとってこの留学は二度あるかないかのことだから。そう考えていたら、ことりになにも言えないまま、時間が過ぎてしまいました」

 

「海未――」

 

「わかってはいるんです。こんなの言い訳にしかならないと。私は引き留めることも送り出すこともせず、ただ静観していただけなんです」

 

「それは別に悪いことじゃないだろう」

 

「…正しいこととは言わないんですね」

 

「そうだな。そもそもこの話はことりが自分で決めないといけないことだった。行くも行かないも、最終的に決めるのはことりだ」

 

それに、遅かれ早かれこういう(進路)話はあるものだろう。それを大切な幼馴染と離れたくないからって決めていたらなにも出来なくなる。

 

「それは、そうですが……」

 

「まあただ、ことりの場合はその話が来るのが少し早すぎたとは思う」

 

漠然としか考えてなかったところに急に将来に繋がる話が来たら、誰だって困惑する。そういうことに関してどうしたらいいのかの知識がないのだから。

 

「だからことりの視野は目の前の"残りの高校生活"と"留学"しかなくて、その間でしか悩めなかった」

 

大学や専門学校とか、そのほかの可能性があったはずなのに。それを考える暇がないまま、ここまできてしまった。それについては仕方がないというほかない。

 

「海未が引き止めていい結果になった"かもしれない"。もしかしたら悪い結果になった"かもしれない"。送り出した場合だってそう。正解なんて蓋を開けなければわからないこと。だから、言わずに静観するのだってひとつの選択肢だから、海未が気にすることじゃないだろう」

 

「……違いますよ、春人。そんな考えではありません」

 

首をかしげる俺に海未は少し自虐が混じったような笑みを浮かべた。

 

「ただ責任を負いたくなかっただけなんです。私はただの臆病な卑怯者ですよ」

 

「海未、それは――」

 

それは違う、と否定しようと手を伸ばした瞬間、

 

 

 

 

 

「――――ッ!!!!」

 

 

 

 

 

心臓がドクン、と跳ねた。

 

嘘、だろ……こんなときに……

 

 

「く…あ……」

 

 

痛みに視界がゆがむ。胸を押さえてギュっと握り締めるも、痛みは強くなるばかり。

 

「春人……? 大丈夫ですか、なんだか様子が――」

 

豹変した俺の様子に、海未は慌てて俺を支えようとする。だが、

 

「離れろッ!!」

 

「!?」

 

強く言って目を向ける俺に、海未は怯む。

 

「わる、い……あぶないから…はなれ、てく…れ……」

 

「まさか、病気の症状が……!?」

 

「うぅあ……なんだ、この痛みは……!?」

 

以前より、より強い痛み。

 

「ぐ、うぅ……あぁ……」

 

「春人!!」

 

「だ、から、こっちに来るな……!」

 

「で、ですがっ」

 

海未から離れようと足を動かすが、平衡感覚がなくなって、縺れて倒れる。

 

「が、あ、がああああああああ――――――!!!!」

 

よりにもよってこんなタイミングで、見られたくない人の前で俺は声を上げてしまう。

 

「ああ……ああああああ!!」

 

「春、人……」

 

初めて見る海未は俺の豹変ぶりに立ち尽くしていた。

 

「あ、あ、う、があああ!!」

 

あまりの痛みに、胸を抉る様に爪を立てる。そのうち爪が皮膚を破って、シャツに血が滲み始める。

 

「っ、駄目ですっ、春人!!」

 

血を見て正気に戻った海未が俺の腕を取る。

 

「放、せ…はな、せぇ……!!」

 

「駄目です! 頑張ってください!! 自分を傷つけては――きゃあ!?」

 

しかしそこは男女の差。俺は海未をはじき飛ばしてしまう。

 

「くっ…春人!」

 

だが、海未は諦めず俺に飛びついて、今度は脇を固めるように正面から抱きしめてきた。

 

「だ、め、たの、む…はなれ…くれ……!」

 

「嫌です! 絶対離れません!!」

 

言葉の通り海未の意志は強く、さらにぎゅうっと力を強めてくる。

そんな海未の背に俺は手を掛けてしまう。

 

「うっ…春人……」

 

背中に指が食い込む痛みからか小さく呻く海未。

 

「あ、が…う、み……やめろっ……あぁああ!!」

 

「私なら大丈夫です…大丈夫ですから……」

 

涙目で微笑む海未に俺は歯を食いしばり、彼女を傷つけないように拳を握り締めて、床を殴る。

 

「んあ、ああああ……!!」

 

殴って、殴り続けて、痛みを誤魔化そうとする。

 

「頑張ってください、春人……!」

 

「あ…ああ……あああ……」

 

始まってから数分後――ようやく痛みが引いてきた。

 

「はぁ…はぁ…すぅ……はっ」

 

深呼吸をして息を整える。

 

「治まったみたいですね…」

 

「あ、ああ……海未は、大丈夫、か……?」

 

「はい、私は問題ありません。それより、私のことより自分の心配をしてください」

 

「俺は、いつものことだ……」

 

ただ、痛みがいつもより増していた。どうやら、俺が思っている以上に大分進んでいたらしい。

もらう薬もそろそろ強いのに変えないといけないようだ。

ただ、自分のこと考える前に。俺は海未の背中を撫でる。

 

「その…悪い……痛かっただろう……?」

 

「いえ。痛かったのは最初だけで、春人がすぐ手を除けてくれましたから。怪我もしていません」

 

それでも痛みを覚えたのは確かなようだ。

 

「今度から、こういうことはしないでくれ…」

 

「それはできません」

 

釘を刺す俺に、海未は即答する。

 

「自分を傷つけるぐらいなら、私を傷つけてください」

 

「冗談でも、そういうこと言うな」

 

「冗談でこんなこと言いませんよ」

 

ふざけているわけでもなく、海未は真面目な表情だ。

 

「あなたは私たちのために色々としてくれています。それと同じで私はあなたのためにしたいんです」

 

「海未……」

 

「貴方の力にならせてください」

 

お願いします、という彼女に俺ははぁ、と息を吐いてしまう。

 

「海未がそう言うのは、卑怯だ」

 

「そうじゃないと、貴方は受け入れてくれないのでしょう?」

 

そう小さく微笑む海未。そんな彼女に俺は少し悔しさを覚えた。

 

「なら早速だけど、お願いしてもいいか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「もう大丈夫だから、離れてくれると助かる」

 

少し嬉しそうしていた海未だったが、それをいった瞬間彼女の時が止まった。

海未が俺の上に乗った状態で抱き付いているから、俺は身動きがとれない。そしてお互いの顔が近く、正常になったいま、この状態は結構恥ずかしさがある。

海未も気づいたようで一気に顔が赤くなった。

 

「すすすすすすみません!!!!」

 

そして一瞬にして、俺から距離を取る。

 

「わ、私はなんて破廉恥なことを……!」

 

上気する頬を押さえてブンブンと頭を振る海未。

そんな彼女の制服に、血がついているのに気付いた。抱きついたときについてしまった俺の血だ。

俺は自分の鞄から着ていなかったカーディガンを取り出す。

 

「海未」

 

「は、はい! ななななんでしょう!?」

 

未だに取り乱している海未に俺はカーディガンをそっと羽織らせた。

 

「血で汚れてるから、とりあえずそれ着てくれ」

 

「え……」

 

俺に言われて正気に戻った海未は自分の姿に気付づく。

 

「そ、そうでした! 春人、治療しないと!」

 

それから俺の状態にも気付いた海未は俺の手を引いて慌てて部室から出ようとする。

 

「待ってくれ海未。別に保健室に行かなくても大丈夫だ」

 

「よくありません! 早く消毒などしないと――」

 

「落ち着け。道具とかは持っているって話だ」

 

鞄の中にある消毒液や、包帯などを見せると海未はようやく落ち着いてくれた。

 

「あ…そ、そうでしたか……すみません、早とちりを……」

 

「気にするな。とりあえず手当てしたいから部屋から出てくれるか?」

 

「わ、私も何か手伝いを――」

 

「上半身裸になるんだが……」

 

「す、すぐ出ます! 終わったら呼んでください!!」

 

顔をまた真っ赤にした海未はぴしゃり、と部室から出て行く。

 

「まだ混乱してるみたいだな――いつつ……」

 

暢気なことを呟きながら俺は一人傷口を消毒するのだった。

 

 

 







いかがでしたでしょうか?
来年皆さんの一年が実りのあるものになるように祈っています。
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