"愛してる"の想いを 作:燕尾
ども、燕尾です
お久しぶりです。
放課後、私は講堂のステージの真ん中に立っていた。
音が何一つ起きない空間で私は呼び出した人を待つ。
どれくらい経ったのかはわからない。来てくれるのかすらわからない。だけど、来てくれるまで私は待つつもりだった。
だけど私が思っていた以上に早く、講堂の扉が開かれた。
私がメールを送ったのは二人、だけど来たのはそうのうちの一人だけだった。
「ごめんね海未ちゃん。いきなり呼び出して」
「いえ…」
「ことりちゃんは?」
「…ことりは今日、日本を発つそうです」
「そっか…」
それなら来れるはずがない。
「どうしたんですか? こんなところに呼び出して」
「うん、話したいことがあるの」
そういうけど、こうして対面すると緊張した。もしかしたら受け入れてもらえないかもしれない。今さら何をって言われるかもしれない。そう考えると怖くなる。
「海未ちゃん…私ね……」
だけど私はもう迷わない。怖いけれど、それでいいんだと、言ってくれた人がいる。その人の言葉を信じて、私の思っていることをぶつけよう。
私は顔を上げて、海未ちゃんをまっすぐ見た。
「ここでファーストライブやって海未ちゃんとことりちゃんと歌ったときに思った。もっと歌いたいって、スクールアイドルやりたいって」
あのとき感じた楽しさと達成感。
それは何物にも変えがたいものとして私の中に残った。
「やめるって言ったけど、その気持ちは変わらなかった」
学校のために、ラブライブのために頑張ろうという気持ちはあった。だけど根本的なのはそういうことじゃない。
私は歌うのが好きだった。踊るのが好きだった。ただそれだけのことだったのだ。
「その気持ちは誰にも譲れなかった」
にこちゃんにいい加減といわれて、反射的に反発したのが全てだった。
最初から私の思いは変わらなかった。ただ、ことりちゃんのことやラブライブを理由にして、蓋をして、それでいいんだと思い込んでいただけだった。
でもそれは間違いだって、ハルくんに気付かされた。だから――
「だから――ごめんなさい!!」
私は頭を下げた。
「これからもきっと迷惑掛けると思う。夢中になって誰かが悩んでいるのに気付かなかったり、気合入り過ぎて空回りしちゃうかもしれない」
頭が悪くて、不器用で、でもそれがわかっていても変わることができない私。だけれど、
「でも、追いかけていたいの! 我儘かもしれないけど、私、スクールアイドルが大好きなの! また、迷惑かけちゃうかもしれないけど、それでも私やっていきたいの!!」
私の声が、講堂中に響いた。
だけど海未ちゃんはなにも言わない。
次の言葉を探すけど、結構勢いで言っていたこともあってこれ以上何を言えばいいのか考えられなかった。しかし、
「――ぷっ、ふふっ……!!」
お腹を押さえて笑うのを我慢しようとする海未ちゃん。いや、我慢できておらず、くすくすと笑っていた。
「どうして笑うの!? 私、真剣なのに!!」
「ご、ごめんなさい……」
海未ちゃんは息を整える。
「はっきり言いますが――」
そして真面目な表情を私に向ける。
これから何を言われるかはわからない。だけど海未ちゃんの言葉を受け入れる準備はできている。
「――穂乃果には昔から迷惑掛けられっぱなしですよ?」
だけどそれから一変、海未ちゃんは笑顔を浮かべてそう言った。
「……えっ?」
思いもしなかった言葉に私は戸惑ってしまう。
そんな私を余所に海未ちゃんはステージに足を歩め始めた。
「ことりとはよく話してました。穂乃果と一緒に居るといつも大変なことになると」
そんなことはなしていたなんて私は知らない。というか少し失礼じゃないだろうか?
でも否定はできないとも思った。いま振り返っても、結構いろんなことが起きていたのだから。
「どんなに止めても、夢中になったらなにも聞こえてなくなって――スクールアイドルだってそうです。私は本気で嫌だったんですよ?」
そうだった。海未ちゃんは最初はスクールアイドルは無しだって言って嫌がっていた。今はノリノリでラブアローシューなんてやっているけれど、嫌がる海未ちゃんを無理やり引き込んだのは私だ。
「どうにかやめようとしましたし、穂乃果を恨んだりもしました」
確かに恨まれていたとしてもおかしくはない。だけど海未ちゃんは今は違うと言う。
「でもそれ以上に、穂乃果はいつも連れて行ってくれるんですよ――私やことりでは勇気がなくて行けないような、凄い所に」
「海未ちゃん…」
「私が怒ったのはことりの気持ちに気付かなかったからじゃなく、穂乃果が自分の気持ちに嘘をついていたのがわかったからです」
海未ちゃんは私のことなんて最初からわかっていた。蓋をして、逃げていたことなんかわかっていたのだ。
「穂乃果に振り回されるのはもう慣れっこなんです。そんなことじゃ今さら怒りません。だからその代わりに連れて行ってください――私たちの知らない世界に」
海未ちゃんは微笑みながらそういった。
「それが穂乃果の凄いところなんです。私やことり、他のみんなもそう思っていますよ」
「海未、ちゃん……」
私の瞳に涙が
海未ちゃんが、そう思ってくれていたことが、受け入れてくれたことが嬉しくて。
そして海未ちゃんはステージへと上がってくる。
「……あの日、穂乃果がスクールアイドルを持ち出してからμ'sが結束されて、ここでやったファーストライブから私たちは走り始めました」
「…うん」
「だけど始めたのは私と穂乃果だけではありません。だから――」
海未ちゃんは私の背中をトン、と押した。
「さあ、ことりを迎えにいってください! あの子も待ってますよ!!」
「ええっ!? でもことりちゃんは…」
「あの子も同じです。引っ張ってもらいたいんです。ワガママ言ってほしいんです」
「ワガママ!?」
「ええ。有名なデザイナーに見込まれたのに残れなんて、そんなワガママをいえるのは、あなただけなんですから!」
「海未ちゃん……うん!!」
私は海未ちゃんに押されるがまま走り出すのだった。
「まったく…あなたと真姫がこんなやんちゃをするなんて思いもしなかったわ」
器材を準備しながら真奈さんは呆れた声でそう言った。
「まあ、必要なことでしたから」
「どんなことが起きたら病院を抜け出さないといけないのかしら? ん?」
「いひゃいでふ……」
みにょーん、と真奈さんに頬を引っ張られる。
「まったく…あまり無茶をしないの。まだ安定していないんだから今の貴方はいつ何が起きるかわからない状態なのよ?」
すみません、と平謝りをする俺。
真奈さんがこうして注意しているのは俺のことを想ってのことだ。
そんな人を心配させるのは俺も本意ではない。だから、
「今度からはちゃんと連絡します」
「そういう問題じゃないってことぐらい、あなたならわかっているはずよね?」
しかし真奈さんの顔が迫って来る。
「真奈さん、怖いです……」
「外出禁止になっている理由を今さら教えないといけないほど、あなたは幼い子供じゃないわよね?」
「は、はい…」
笑顔で忠告された俺は冷や汗を垂らしながら頷く。恐らくこれは本気のものだ。
「それを忘れていないなら、あなたはどうしないといけないか――わかってるわよね?」
「おとなしく真奈さんたちの言うことを聞いて、お世話になることです」
「よろしい。それじゃあ、薬を打つからね」
「お願いします」
何とか怒られるのを回避した俺の腕に、針が通される。
「それにしても本当に驚いたわ。真姫もそうだけど、あなたが規律を破るなんて」
「自分の娘より驚くってどういうことですか」
「こういうことに対する柔軟性は
「……」
そういわれて俺はなんともいえない顔をしてしまった。
柔軟性は持ち合わせているつもりだったのだが、それは俺がそう思っていただけで、真奈さんからしたら本当に守るべき一線に対しては石どころか鉄並みの頭をしているというように見えたらしい。
「そんなあなたがこうして動いたっていうのも、
「そうですね…みんなのためと言えるとは思います」
「あら、気になる言い方」
皆のためにはなる。だけれど、それは遠まわしでしかない。それ以上に――
「傷ついて、傷つけて、その傷で苦しんでいる人たちに助けてほしいといわれたんです」
穂乃果やことり、海未の顔が脳裏に浮かぶ。
「俺に出来ることはほとんどないけど、それでも力になれたらって思ったんです」
「……そう」
真奈さんは以前と同じように俺の頭を撫でてきた。
「何でまた撫でるんですか……?」
「春人くんがこんなにいい子に育って、私嬉しいわ」
まるで本当の親のように慈愛に満ちた笑みを向けてくる真奈さんに俺はされるがまま撫でられ続けるのだった。
「――はぁ、はぁっ……!」
息が切れながらも、私は人を避けながら走る。
間に合え、間に合え――間に合って!!
このまま別れるなんて嫌だ。まだことりちゃんになにも伝えていないのだから。
「あぅっ――す、すみません!!」
ぶつかる人に謝りながら私はことりちゃんを探す。
お願いことりちゃん。まだ行かないで――
出発口を端から順に見ていく。そして、私はついにことりちゃんの姿を捉えた。
――居た! 居た! 間に合った!!
ことりちゃんは今まさに登場口へと入るために立ち上がっていた。
「――ことりちゃん!!」
私は彼女の手を掴んだ。
「――っ!?」
「はぁ…はぁ……ことりちゃん……!」
「穂乃果ちゃん……どうして……」
息を整える私の耳に驚愕と戸惑いの言葉が入る。
当たり前だ。今まさに発とうとしたところを来るはずのない人間に引きとどめられたのだから。
「ごめん、ことりちゃん!」
「穂乃果、ちゃん……」
「私、わかってなかった。目の前のことばかりに集中して、ことりちゃんが悩んでいることに。それなのに勝手なこと言って、ことりちゃんを傷つけた。本当にごめんなさい」
私はもう一度ちゃんと謝る。
そして、私は私の本当に望む気持ちをことりちゃんに告げる。
「これからも勝手なこと言って傷つけちゃうこともあると思う。迷惑掛けちゃうこともあると思う」
今こうして言っているのも勝手なことなのかもしれない。
「……」
「いつかは別々の道に進むときがくると思う。自分の夢のために、自分が望む道のために」
その日は必ず来るだろう。だけど、それでも今は、今だけは、
「私は――私はスクールアイドルをやりたい! みんなと一緒に、ことりちゃんと一緒に!」
それが私の望み、嘘偽りのない本心だった。
「ッ!!」
「だから行かないでっ!!」
私はギュッとことりちゃんを抱きしめる。
「……わたしの方こそ、ごめん」
震えた声が、聞こえた。
「わたし、ずっとわかってた。わかってたのに嘘ついてた……だからわたしのほうこそ、ごめんね……」
ことりちゃんも私を抱きしめ返してくれた。
そして私たちは人目も憚らず、お互いに"ごめん"と言いながら泣いたのだった。
「――ん?」
本を読んでいるころで、携帯が振動した。
送られてきたのは一通の報せ。アプリを起動させ、確認する。
それを見た俺は、口角を上げる。
「おかえり、穂乃果、ことり――」
学院のほうを向いて小さく呟く。
講堂の裏で撮ったのだろう。俺の手に持つ携帯には九人の姿が映っていた。
いかがでしたでしょうか?
次に更新するときは社会人として更新することになります。