"愛してる"の想いを   作:燕尾

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どもども、燕尾です。

週六のお仕事は疲れるなぁ
休みが欲しいなぁ
一日中こうして書いていたいなぁ……

ではでは、66話目です





66.様々な変化

 

 

 

 

 

「夢、ね……」

 

夕方、練習が終わったであろうくらいの時間に海未から電話がきた。

内容は今日の練習と、それから朝からおかしかった穂乃果の様子についてのこと。

 

『あなたが居なくなる夢を見たそうで。それもかなりリアリティを感じてしまう内容だったから、もしかしたら春人が自分の前から居なくなるかもしれないと思っていたみたいです。今日ずっと春人に張り付いていたのはそういうことです』

 

「……」

 

『春人?』

 

「あ、ああ…悪い……とりあえず、穂乃果には明日俺からちゃんと言っておくよ」

 

思わず黙ってしまった俺は慌てて誤魔化す。

だがそんな雰囲気を感じ取ったのか、海未が問いかけてきた。

 

『春人、聞きたいことがあるのですが』

 

「なんだ?」

 

『夏の海での合宿で、初めてあなたが病気のことを教えてくれた時、無理して教えようとしてくれていたことがありましたよね?』

 

「ッ!」

 

まさか、という思いが頭の中を()ぎる。

 

「あの時何を言おうとしたのか、教えてはくれませんか?」

 

鼓動が早くなる。冷汗が止まらない。

海未の口調は真実を知りたいというより、自分の思っていることと事実を確認したいというようだった。

 

ということは、つまり――

 

「質問を返すようで悪いが、教える前に一つだけ教えてくれないか?」

 

『なんでしょうか?』

 

「それは、確認か?」

 

『……はい。確認です』

 

それを聞いた俺は確信した。間違いなく海未は真姫と同じく答えにたどり着いてしまったのだと。

 

「……なら、まず海未が確認したいことを教えてほしい」

 

『私の話を聞いて、誤魔化そうとしてませんか?』

 

最後の抵抗も、海未のその一言によって無に返ってしまう。

どうやらもう逃げることはできないようだ。

 

「海未の考えが合っていても間違っていても、誤魔化さないと約束する」

 

『では回りくどいのは嫌いなので、率直に確認します』

 

その言葉に納得した、海未は自分の考えを口にする。

 

 

 

『春人――あなたに残された時間はあとどれくらいなのですか?』

 

 

 

それは、真姫があの時に(海の合宿で)言ったこととまったく同じこと。

 

「いつ気が付いた?」

 

『今日です。とはいえ、薄々感じてはいました。あなたはどこか、自分の人生を諦めたような雰囲気や言動がありましたから、もしかして、と』

 

「その確証はどこで?」

 

「穂乃果の話を聞いて、過剰に反応をしていた人がいたので』

 

それだけで俺はすべてを理解した。

 

「真姫か」

 

「はい。ですが、あの子を責めないでください。私が真姫の様子から気付いただけなので」

 

もともと責めるつもりなんてない。いつかはバレてしまうことだと思っていたし。それに、真実を知らないとはいえ、ピンポイントでそうなる未来を語る穂乃果には誰だって驚く。

 

『普通なら考える余地もない穂乃果の夢の話に驚いていました。おそらく真姫は以前から、あなたの病気がどんなものかを知っていたのでしょう。でなければ辻褄が合いません』

 

知らなければ穂乃果に驚くこともない。驚くということは穂乃果の話を真実だと考えている。つまり、俺が居なくなることを分かっているということ。

そしてその反応を見せたのが他でもない、病院を営んでいるところの娘である真姫だからこそ海未はその確証を得たのだろう。

 

「もう一度聞きますが、春人――あなたの時間はあとどれくらいあるのですか?」

 

最初とは違い、どこか剣幕な雰囲気を纏った海未の声。

俺は嘘偽りなく、正直に答えた。

 

「そうだな…来年の2月半ば、3月までもつかどうか、だな」

 

『そう、ですか…』

 

「随分と落ち着いているな。真姫はこれを知った時、かなり取り乱してたけど」

 

『これでもかなり動揺していますよ。ただ平静を装っているだけです。あなたに余計な負担を掛けたくはありませんから……』

 

自分の気持ちを抑えてまで、俺のことを考えてくれている海未。

だけど、そうは言っても電話口の向こうからは漏れる声を我慢しようとしている息遣いが聞こえた。

 

『本当にもう…どうしようも、ないのですか……?』

 

「ああ。ドナーが見つかってようやくなんとかなるかもしれない。その程度だ」

 

『……っ』

 

だけどそれも奇跡に等しい。奇跡が起きなければ、俺は来年の3月から生きられない。

 

『……春人』

 

「なんだ?」

 

『思い出を、たくさん…作りましょうね……絶対に忘れない、楽しい思い出を、たくさん……』

 

その言葉に乗せられた感情を理解した俺は静かに瞳を閉じる。

 

「――ああ、そうだな。楽しい思い出を作ろう」

 

「っ、はい……っ」

 

「それじゃあまた学校で」

 

「はい…また、学校で……」

 

お互い挨拶を確認した俺はすぐに電話を切った。

おそらく海未もだいぶん我慢していただろうから。

 

「本当に、いい友達を持った」

 

夕日が落ち、暗くなった空に上がった銀色に輝く月を眺める。

 

「ありがとう、海未」

 

遠く離れてこの場にはいないけれど、俺は海未に向かってそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――次の日

 

 

 

 

 

「ハルくん!!」

 

「穂乃果、おは――っと」

 

出会ってそうそう、挨拶もせずに飛び込んできた穂乃果を俺は受け止める。

 

「ハルくん、ハルくん、ハルくん……!」

 

俺の胸に顔をうずめながら安堵する穂乃果。

 

「おはよう、春人くん」

 

遅れてやってきたことりが穂乃果に苦笑いしながら挨拶をしてくる。さらにその後ろには、海未の姿もあった。

 

「おはよう、ことり。海未も、おはよう」

 

「おはようございます、春人」

 

いつも通りの笑みで挨拶を返してくれる海未。だけどその目じりは赤くなって、擦りすぎたのか、少し肌が荒れていた。

だけど俺は指摘しなかった。海未も指摘されるのを望んではいないだろうから。

 

「ほら、穂乃果。そろそろ離れてくれ、学校にいけない」

 

「もうちょっとだけ…」

 

「そういって昨日も離れてくれなかっただろう? 今日は帰るまで穂乃果と一緒だから、な?」

 

俺は不安を取り除くように、穂乃果の頭を優しく撫でる。

 

「うん、わかった…」

 

ようやくわかってくれたようで、穂乃果は俺の身体を放す。

 

「それじゃあ、朝練習に行こうか」

 

俺たちは4人並んで朝練へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし――

 

 

 

 

 

「で、春人――これは一体どういうことなのかしら?」

 

「……俺にも分からない」

 

朝練の場所である神田明神にて――にこが苛立ちを隠すことなく、仁王立ちで俺たちを睨む。

 

「昨日より悪化してるじゃないの!!」

 

そして牙を生やした鬼のように叫んだ。

 

「ことりに海未まで…一体どうしたのよ……?」

 

絵里も流石に頭が痛いというように手を押さえる。

今俺は左腕を穂乃果、右腕をことり、後ろの裾を海未に捕まれているという謎のトライアングルが作られているのだ。

 

最初は間違いなく穂乃果からだった。

 

隣を歩いているはずの穂乃果が徐々に体を近づけて、最終的には俺の腕を取り始めた。

するとそれを見たことりが穂乃果ちゃんだけずるいと言って頬を膨らませ、反対の腕を取ってきた。

 

普段ならすぐさま注意するはずの海未も、昨日の話が尾を引いているのか、離れたくないというように俺の制服の裾を掴み始めたのだ。

 

そうしてこの状況の出来上がりだ。

 

「春人、あんたいい加減にしなさいよ」

 

「なぜ俺が怒られる……?」

 

にこの怒り、というか説教の矛先を向けられて、俺は少し抗議する。

しかしにこはこれ見よがしに溜め息をはいて当たり前でしょ、とその抗議を一蹴した。

 

「あんた甘やかしすぎなのよ。何でもかんでも受け入れて――なに? このまま私たちをダメにするつもり?」

 

「いや、そんなつもりは毛頭ないんだが」

 

「自覚ないのが一番困るんだけど?」

 

にこの目がさらに鋭くなった。

 

「でもにこっちの言う通りやで、春人くん」

 

そこで苦笑いしながらも希も苦言を呈してくる。

 

「なんでも受け入れるのが優しさじゃないんよ。時にはちゃんと否定したり、叱ったりして、間違いを間違いだってちゃんと言うのが優しさなんやない?」

 

「……?」

 

「分からないって顔してるわね」

 

「真姫ちゃん、春人くんは本当に甘やかしてるって自覚がないんだにゃ。だから希ちゃんの言う"間違い"が分からないんだにゃ」

 

「私もそう思うかな。多分だけど、はるとくんは線引きするところを分かってないんじゃないかな?」

 

「……なんでそれが分かるんだ?」

 

そこまで分かりやすい反応はしてないはずなのに、凛と花陽に言い当てられる。

 

「そこからなの……?」

 

本気で呆れたにこの視線が俺に突き刺さる。

 

「まあ、穂乃果たちと出会う前は誰とも関わることなんて無かったからな。俺に判断を求められても困る」

 

「開き直って言い切るな!!」

 

「あたっ」

 

どこぞから取り出したスリッパで、俺の頭をスパーンと叩くにこ。流石にふざけてる場合じゃなかったようだ。

 

「はぁ…なにもしてないのにもう疲れたわ」

 

「その、なんか悪い…」

 

「そう思うのなら、あんたに引っ付いてるその引っ付き虫(穂乃果たち)を自分で剥がしなさい」

 

「そういうわけだから三人とも、そろそろ本当に離れてくれ」

 

俺がそう言うと、渋々ながらも三人は離れて準備し始める。

 

「……本当に、これはどうにかしないといけないわね」

 

「そうね。穂乃果たちはもちろん、春人くんにも人との接し方を少し教えないと。それに――」

 

言葉を切って絵里はちらりと穂乃果たちに目を移す。

 

「穂乃果たちにはやってほしいことがあるから、一度気を引き締めさせないと、ね?」

 

「そうやね」

 

絵里の話に同意する希。

どういう話か分からない俺は首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、練習前に俺は絵里と希から生徒会室に来るように呼ばれた。

 

「失礼します」

 

「来てくれてありがとう、春人くん。呼び出しちゃってごめんなさいね」

 

「別に良い。わざわざ一人ずつ呼び出してるのにも理由があるんだろう?」

 

俺が呼ばれる前、穂乃果、海未、ことりの三人がそれぞれ生徒会室に呼ばれていたのだ。個別に話がしたいというのにはすぐに分かった。

 

「察しが良いわね」

 

「その様子だとうちらが何言うかも大体分かってる?」

 

「まあ、この時期だと――次の生徒会の役員か」

 

確か、去年の今ごろに絵里たちが生徒会役員になっていた記憶がある

 

「さすがね。その通りよ」

 

「去年も同じ時期に生徒会の話があったのを覚えていただけだ。で、今それを俺に言うということは――」

 

問いかける俺に絵里は小さく頷いた。

 

「ええ。次の生徒会のメンバーの1人に春人くんを推薦したいの。どうかしら?」

 

冗談でもなく本気で言っているようで、絵里はじっと俺の目を見つめてくる。しかし、

 

「悪い。期待には応えられない」

 

俺は首を横に振った。

 

「…理由を聞いても良いかな? 春人くん」

 

「俺の身体のことで迷惑を掛けることが分かりきってるから」

 

隠すこともない理由をはっきりと言う。

 

「俺はこれからも入退院を繰り返す。そうなれば生徒会の仕事に支障が出る」

 

「それは穂乃果たちもちゃんと理解してくれると思うし、しっかりフォローもしてくれるわよ」

 

「フォローを前提として考えるのなら、やらない方がいいだろう? 二度手間も多くなるし、効率も悪い。それで大きな失敗をしたら目も当てられない」

 

「でも……」

 

「えりち」

 

食い下がる絵里を希が止める。

 

「一番重要なのは本人の意思やで」

 

「……そうね、ごめんなさい」

 

少し、いや大分落ち込んだ様子をみせる絵里に、俺も少し申し訳なく思う。

 

「信頼してそう言ってくれたのは素直に嬉しかった。だけど、ごめん」

 

「いいえ、正直に答えてくれてありがとう。さて、私たちの話はこれでおしまいにしてそろそろ練習に――」

 

「待ってくれ」

 

鞄を持ち上げてたとうとする二人を制止する。

 

「生徒会には入れないが、その変わりに提案があるんだが――」

 

 

 

 

 

「ええッ!? ハルくん、生徒会断ったの!?」

 

「ああ、俺のから――」

 

「なんで!?」

 

理由を告げる前に詰め寄ってくる穂乃果。そんな穂乃果の額を押して距離を取らせる。

 

「まず話を聞いてくれ」

 

「そうですよ、穂乃果。少し落ち着きなさい」

 

海未に窘められた穂乃果は不満そうに俺を見る。

 

「えっと、それでどうして断ったのかな、春人くん?」

 

ことりが気を取り直したように聞いてくれ、俺は理由を話す。

身体のこと、穂乃果たちの負担にならないようにしたいということを。

 

「そんなの、気にしなくて良いのに……」

 

話を聞いた穂乃果は少し悲しそうに落ち込んでいた。

 

「そうだよ春人くん。わたしたちは大丈夫だよ?」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、悪いな」

 

「……」

 

苦笑いしている俺を、海未はじっと見つめてくる。

 

「……海未」

 

「は、はいっ!?」

 

何を考えているのかおおよそ見当がついた俺は彼女に耳打ちする。

 

「今はまだ検査入院とかだから、そんな顔しないでくれ」

 

「す、すみません…私……つい」

 

「いいんだ。ありがとう」

 

ぽんぽん、と俺は海未の頭を撫でる。

 

「……むぅ」

 

「むー……」

 

そんな俺たちを不満そうに両サイドから睨んでくる穂乃果とことり。

 

「はっ! 穂乃果、ことり!?」

 

「海未ちゃんだけずるいよ!」

 

「ことりもそう思います!」

 

「これはっ、別にそういうわけではないですよ!?」

 

詰め寄られた海未は助けて、と言わんばかりに俺に視線を送る。

 

「二人とも落ち着いてくれ」

 

海未と同じように穂乃果とことりの頭を撫でると、二人の顔が微かに緩み、矛を納めてくれた。

なんか子犬たちを相手にしているよう――いや、それ以上はやめておこう。

 

気を取り直して今後について口にする。

 

「生徒会には入らないけど、友達として手伝うことは出来るだろう」

 

「それって――!」

 

その意味を理解した穂乃果たちは顔を明るくさせる。

 

「ああ。担当するような仕事や表に出るようなことはできないが、その日の雑務とか、穂乃果たちの手伝いとかをしていく。そういう方向で絵里たちからは許可をもらった。それでどうでどうだ?」

 

「うん! ハルくん、ありがとう!!」

 

「ありがとう、春人くん!」

 

「――っと」

 

かばっ、と俺の腕に抱きつく穂乃果とことり。なんだか最近、この二人の距離がかなり近くなっているような気がする。

 

「ありがとうございます、春人」

 

いつもなら注意しそうな海未も受け入れているし、どうやら3人の俺に対する線引きがかなり変わってきているみたいだ。

それは俺も同じで、こうしてスキンシップを取ってくれることを嬉しく思って――

 

「……」

 

そこで俺の思考が一旦止まった。

俺は今何を考えていたのだろうか?

 

「ハルくん?」

 

近くにいる穂乃果が顔を見上げてくる。その瞬間、俺の中から言いしれない何かが込み上げてきた。

 

「――っ!」

 

「どうしたの、春人くん?」

 

穂乃果から顔を反らすと今度はことりの顔が近くに。

 

「い、いや、なんでもない…!」

 

「大丈夫ですか? 顔が赤いようですが……?」

 

二人の顔を見ないように前を向くと正面から海未が顔を近づけてくる。

 

「大丈夫…だいじょうぶ、ダイジョウブだから……一回みんな離れてくれないか? 頼む」

 

「「「……?」」」

 

懇願する俺に不思議そうにしながらも三人は俺から離れてくれた。

俺は深く息を吸って心を落ち着けようとする。しかし、(しん)の鼓動は早まるばかりだ。

 

経験からして発作ではないことはわかる。なら一体これはなんだというのだろうか。

 

「……なんか今日は暑いな」

 

夏も終わり、秋も近付いて涼しくなってきたというのに、俺は残暑のような暑さを感じるのだった。

 

 

 

 







いかがでしたでしょうか?

ではまた次回にお会いしましょう

さようなり~
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