"愛してる"の想いを 作:燕尾
ども、燕尾です。
68話目です。
「ほ、穂乃果ちゃん…!?」
「今、なんと……?」
ラブライブに出なくてもいい――そう言った穂乃果に皆は驚き、身を寄せながら、穂乃果をまるであり得ないものを見るような目で見ていた。
「ほ~の~か~!!」
するといち早く再起動したにこが穂乃果に詰め寄り、その腕を取る。
「ちょっと来なさい!」
「わわっ、にこちゃん!?」
急に引っ張られて体勢を崩す穂乃果もお構い無しににこは部室の別室へと連れていく。
そして穂乃果を椅子に座らせて、彼女の目の前に姿鏡を設置した。
「えっと、なにこれ?」
何をされるのか理解できない穂乃果は戸惑った声を上げる。
「穂乃果、自分の顔がよく見えますか?」
「うん…見えます……」
「では、鏡の向こうの自分は何と言っていますか?」
「なにそれ……」
よくわからない話をされて、穂乃果は困惑の声をあげる。
「でも、穂乃果――」
「ラブライブ出ないって――」
「ありえないんだけど!!」
絵里、希、にこが続けさまに穂乃果へと畳みかける
「ラブライブよ、ラブライブ! スクールアイドルの憧れよ!? あんた、真っ先に出ようって言いそうなもんじゃない!!」
「そ、そう……?」
「なにかあったの?」
「いや、別に……」
「だったらなんで!」
「……ハルくーん」
いや、そこで俺に助けを求められても困る。
それに俺も穂乃果の真意は気になっているのだ。
「なぜ出なくてもいいと思うんです?」
「私は歌って踊って、みんなが幸せになれるならそれで――」
「今までラブライブを目標にしてきたじゃない! 違うの!?」
「それは…」
「穂乃果ちゃんらしくないよ!」
「挑戦してみても、いいんじゃないかな…?」
「あはは……」
凛と花陽の言葉にも、穂乃果はお茶を濁すだけ。
ぐぅ~
すると、話をする時間は終わりというように穂乃果の腹の虫が知らせてきた。
「そうだ! 明日からまたレッスン大変になるし、今日は寄り道していかない?」
そして穂乃果自身も、明後日のほうへと話を反らす。
「ほら、たまには息抜きも必要だよ、ね?」
ほらほら、と自然な様子だが強引に話を進める穂乃果に、海未やことりは心配そうに顔を見合わせるのだった。
「春人、どう思いますか?」
寄り道でみんなでやってきたのは秋葉原。
クレープを頬張り、幸せそうな顔をする穂乃果を見ながら海未は抽象的に問いかけてくる。
「何を思ってそう言ってるのかは、俺にもわからない」
ただ、出たくないとかそういった後ろ向きな気持ちじゃないと思う。
部室で言ったようにラブライブに出ずともスクールアイドルの活動が出きるのならそれで満足と本当に思っているのか、それとも――尻込みしているのか。
「まあ、穂乃果の真意は追々考えるとして、今は寄り道を楽しんでもいいんじゃないか?」
「でも――」
「それにいざとなれば、穂乃果の尻を叩けばいいだろ。ただリーダーの言うことを聞くだけのグループじゃないはずだ、μ'sは」
「……それもそっか」
「ですね。もう少し様子を見て考えましょう」
「――海未ちゃん、ことりちゃん! ハルくーん! 次はあれ食べようよ!」
穂乃果の指す先はソフトクリーム屋。
「はい――って、ちょっと待ちなさい穂乃果! いくらなんでも食べすぎです!」
しれっとソフトクリーム屋に向かう穂乃果を慌てて止めにいく海未に、俺とことりは顔を見合わせてお互いに笑いながら着いていく。
それから俺たちはゲームセンターへ行った。
ゲームセンターに入るのは随分と久しぶりだ。それこそまだ絵里と希が入る前にリーダー決めを行おうとした以来だろう。
あのときとは違って純粋に遊びに来たのもあっていくつかのグループになって店内を回る。
「は、春人くん!」
数人に分かれて楽しんでいる中、一人椅子に座っていた俺のところにやってきたのはことりだった。
「どうした?」
「えっと、その、あの! あのね!?」
どういうわけか、緊張して焦っていることり。
「どうしたんだ? なにかトラブルか?」
「う、ううん! 違うの! そうじゃないよ!」
「じゃあ取り敢えず落ち着いてくれ。ほら、深呼吸」
スーハー、スーハーと深呼吸をしたあと、ことりはもう一息吐いて、俺をまっすぐ見つめる。
「春人くん、お願いがあるんだけど――ことりと一緒に、あれをやってください!」
そう声をあげてことりが指を指したのは、確かあれは…プリント倶楽部、だったか?
「ん…でも俺はあのやり方は知らないんだが?」
「ことりが知ってるから大丈夫だよ! だからね? ねっ?」
背中を押されて筐体へと連れられる。
「なるほど、証明写真の機械とほぼ同じなのか」
初めてみるが、基本は証明写真と同じようだ。それに音声案内もついているから、手間取ることはあってもわからなくなるわけではなさそうだ。
俺が機械への理解を深めている間に、ことりはさくさくと操作を進めていく。
それじゃあ、枠の中に入って! 写真を撮るよ! 10、9、8――
するとあっという間に、カウントダウンが始まった。
「春人くん! 写真撮るよ!」
「おっと……」
カウントダウンが始まると、ことりは俺の腕に抱きついてその身を寄せてくる。
「ことり、これは……」
「でも、こうしないと入らないから」
そう言うことりだが、画面を見る限りそんなことはない。スペースにはまだ全然余裕があった。
5、4――
「ことり」
「もう時間がないから、このままでいこう?」
そう言ってことりはギュッと力を強める。
さすがにことりのほうを見ているところを撮られるのもおかしいと思った俺はカメラに視線を向ける。
3、2、1――
そしてそのままカシャ、という音が何度か響く。
それじゃあ、最後の一枚だよ!
「――春人くん」
「ん――」
最後と宣言された直後、ことりに名前を呼ばれ、俺が反応する間もなく首に腕を回され、
――ちゅっ
「――っ!?」
頬に柔らかいものが当てられた。
そしてその瞬間を切り取った音が鳴る。
「……ことり」
「えへへ……」
どういうつもりだと、目で問いかける俺にことりはふにゃりと笑う。
そんな彼女に俺は溜息を吐いて、いつぞやの穂乃果にしたようにことりの頬を引っ張った。
「ひゃわ、
「ことりの頬も柔らかいな。ほら、もっちもっち――」
しばらくの間、俺はことりの頬をもっちもっちした。
「ありがとう、春人くん。大切にするね」
「……ああ」
「――」
プリクラから出て、顔を赤くしながら印刷されたそれで口元を隠して笑顔でいることりちゃんと恥ずかしそうにしているハルくんの姿に私の心臓が跳ねる。
「穂乃果ちゃん、どうしたん?」
「う、ううんっ、何でもないよ!」
後ろから声をかけてきた希ちゃんに、私は慌てて誤魔化した。
「はいっ、ジュース!」
「う、うん…ありがとう」
ジュースを受け取った希ちゃんはそのまま皆のところへと向かっていく。
「……」
私はさっきまでいた二人の場所を眺めて、きゅっと自分の胸を掴んだ。
――苦しい
焦りや不安、言いようの無いモヤモヤが私の胸を締め付ける。
「私、どうしちゃったんだろう……」
自分でもわからないこの感情に私は戸惑うばかりだった。
夜――
にこと真姫が夜まで練習するというので、安全確保という意味も込めて俺は二人に付き合うことにした。
適度に練習をしてから、今は公園の広場で穂乃果以外の皆と電話している。
内容は言わずもがな、穂乃果についてだ。
『穂乃果もいろいろ考えて出なくていいって言ったんじゃないかしら』
穂乃果について話をしようと言った絵里が、自分の考えを口にする。
『いろいろ、ですか……』
『どうしちゃったんだろう、穂乃果ちゃん……』
『それは私にも分からないわ』
「らしくないわよね」
「あんたもね」
「ちょっと、真面目な話をしてるんだけど?」
にこは半目で真姫を睨む。
だが、真姫の言っていることもあながち間違っていないと俺も思う。
いつものにこならお構いなしに食って掛かると思っていたのだが、にこも自分なりに思うところがあるのだろう。
『でも、このままじゃ本当にラブライブ出ないってことも』
『それは寂しいなぁ…』
『――にこっちはどうしたい?』
「…私は」
希に問いかけられて、にこは少し悩んだ様子を見せるが自分の望み言葉にする。
「もちろん、ラブライブに出たい!」
にこがそう思うのは当然のことだろう。それに、その想いを持っているのはにこだけじゃない。
『生徒会長として、忙しくなってきたのも理由かもしれませんね』
『でも忙しいからやらないって、穂乃果ちゃんが思うはずないよ』
ことりの言う通り、穂乃果はそういう性格ではない。
『今のμ'sは皆で練習して、歌を披露する場もある。それで、十分ってことやろうか?』
部室で言っていた通り、それで満足しているのか。それとも、
「春人。あんたはどう思ってるのよ?」
今まで黙っていた俺はにこから問いかけられる。
「……もしかしたら、尻込みしているんじゃないかって思う」
『尻込み、ですか……?』
「どういういこと?」
「ほら、俺たち以前文化祭で失敗しただろう?」
その言葉に、皆が口を閉じる。
「また周りが見えなくなったらかもしれない、誰かを傷つけてしまうかもしれない。またそんなことになってしまうかもしれない。なら、そうなる可能性があるなら、出ないほうがいい――そう思っているのかもしれない」
『……』
「これは俺の想像だから、穂乃果がどう思っているのかは、穂乃果に聞かないとわからない」
「――なら、実際に聞いてみる他ないわね」
「あまり無茶しないようにな」
なにかをしようと決意した顔をしているにこに、俺はそう言うことしかできなかった。
いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に~