"愛してる"の想いを   作:燕尾

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わんばんこ 燕尾です

72話目です







72.一夜は過ぎていく

 

 

 

 

 

「――ふぅ」

 

本を閉じて一息つく。

一人分の夕食を作って食べて片付けまで終わった後、やることがなかった俺は日が落ちて夜になっても本を読んでいた。

 

「流石にもう一度ぐらい様子を見に行った方がいいか」

 

ここが西木野家の所有地で不審者などの害はなくても、女の子たちが夜を外で過ごすための用心はしておくに越したことはない。

靴を履いて外に出た俺は近くにいる絵里やにこ、真姫たちのところに向かう。

近くまで行くと彼女たちの話声が聞こえた。

 

 

 

「ね、ねぇ……このまま火を消すと真っ暗よね?」

 

「まあそうね。なに、まずいことでもあるのかしら?」

 

「まさか苦手なの?」

 

「まさか! ちょっと待っててね。ちょっとだけ、待ってて」

 

そういって絵里はテントに入り、カンテラの電気を入れていた。

 

「絵里にあんな弱点があったなんてね」

 

「この歳になって暗いのが苦手だなんて」

 

残されたにこと真姫は絵里の意外な一面に小さく笑う。

しかしそれもつかの間、焚火が小さくなったことに気付いたにこは慌てて息を吹きかける。

 

「ふーっ! ふぅーーっ!! はぁ……」

 

消えずに日が大きくなったことに、安堵するにこ。そんな彼女を見て真姫が呆れたように、だがどこか楽しげに息を吐いた。

 

「まったく。こんな三年生のために曲を考える身にもなってよ」

 

「は? あんた今なんて言った?」

 

「え?」

 

真姫にとっては冗談のつもりだったのだろう。だけど、にこにとっては聞き流すことはできない言葉だった。

 

「いま"三年生のために"って言ったわよね?」

 

「だったらなによ?」

 

「はぁ……まあそんなことだろうと思ってたのよね」

 

本気でわからないという真姫に、今度はにこが呆れたように溜息をついた。

 

「三年生のためにいい曲作って、三年生のために勝とうって。あんただけじゃない、きっと海未もことりもそう思ってるんでしょうね」

 

「そ、それは……」

 

「勘違いしたらダメよ。曲や衣装っていうのは、みんなのためにあるのよ。ライブをする私たち、そして見に来てくれる、聞いてくれる人たちみんなのね」

 

「……偉そうに言うわね」

 

「そりゃあ部長だもの。あたりまえでしょう?」

 

真姫の小言を軽く流すにこ。するとにこは焚火の中をつついてあるものを出した。

 

「はい、焼き芋。やっぱり焚火といったらこれよね」

 

「わっ、あつっ! あちち……ふぅ、ふぅ、ふぅ――はい」

 

息で冷ました焼き芋を半分に割り、にこに差し出す真姫。

不意を突かれただけなのか、それとも意外に思ったのかはわからないがにこは一瞬呆けていたが、おずおずと受け取る。

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 

 

 

「問題はなさそうだな」

 

声をかけようかとも思ったが、受け入れてくれるだろうが今の彼女たちの輪に俺が入り込まない方がいいだろう。

せっかくの機会だ。他も声はかけずに様子だけ見るとしよう。

 

わーきゃーと楽しげに言い争っている二人に、気づかれないようにしてその場を後にする。

 

 

 

 

 

「さて次はことりたちだが…いないな……」

 

テントを張っている川辺に来るも、テントの中は真っ暗で寝ているというわけでなさそうで、気配を感じなかった。

 

「どこに行ったんだ?」

 

周りを探していると、それなりに離れたところに光が見える。

そのところに足を進めると気温と湿度が高くなっていき、水の音が聞こえた。

 

「「「はぁ~~~」」」

 

そして気の抜けた三人の声も聞こえてくる。

まさか、こんなところに温泉があるなんて思いもしなかった。

 

「まさかこんなところにお風呂があったなんて」

 

同じように思っていたのか、ことりがそう言う。

 

「気持ちいいね~」

 

「なんだか、眠くなっちゃうねぇ~」

 

「また?」

 

たぶん散々寝ていたであろう穂乃果だが、温泉の気持ちよさにまた眠気が来ているようだ。

 

「他のみんな、今頃どうしてるかな?」

 

「どうだろう…わたしまだ、できてないや……」

 

「できるよ」

 

「でも…」

 

断言する穂乃果に、ことりは不安げに言った。

そんな不安を断ち切るように、ザバンッ、と勢いのある水音が響いた。

 

「「穂乃果ちゃん!?」」

 

「だって、10人もいるんだから!」

 

立ち上がって声高らかに言う穂乃果。

 

「誰かが立ち止まれば誰かが引っ張る。誰かが疲れたら誰かが背中を押す。みんな立ち止まったり、迷ったりするけど、それでも前に進んでいるんだよ」

 

だからきっとできると、もう一度宣言する穂乃果。

 

「ラブライブの予選の日だって、きっとうまくいくよ!」

 

「穂乃果ちゃん…うんっ!」

 

「そうだね。きっと!」

 

 

 

「穂乃果たちも、大丈夫そう――」

 

 

 

「そういえば花陽ちゃん、肌キレイだよね~?」

 

「あ、穂乃果ちゃんもそう思ってた? 実は私も思ってたんだ~?」

 

「えっ? ほ、穂乃果ちゃん、ことりちゃん?」

 

「ことりちゃん」

 

「うん、穂乃果ちゃん」

 

「えっ? ちょ、待って――!?」

 

 

 

「――これ以上は駄目だな」

 

さっきまでの話から一転、女の子のスキンシップに変わり、気まずさを覚えた俺は足早に離れる。

 

「ダレカタスケテェー!!」

 

花陽の叫び声は聞こえなかったことにした。

 

 

 

 

 

「綺麗だにゃ~」

 

「星はいつでも自分のことを見てくれる。星空凛っていうくらいなんやから、星を好きにならないとね」

 

「うん!」

 

よくわからないこじつけのような理屈を言う希に、素直に頷く凛。

三人は寝袋を枕にして、夜空を眺めていた。

 

「星座も詳しいみたいですね」

 

「一番好きな星座とかあるの?」

 

「そうやねー…印象に残っているのは南十字星かな?」

 

「南十字星……?」

 

「うん、ペンギンさんと一緒に見たんやけどね」

 

「「南極!?」」

 

そんなわけないというのに、あっさりと希の嘘を信じ込む海未と凛を俺は少し心配になってしまう。

 

「あっ、流れ星!」

 

「えっ…?」

 

「どこどこ!?」

 

話を変えるような一言に海未と凛は空を見上げる。

すると希は起き上がり、もう一度空を見上げた。

 

「南に進む流れ星は物事が進む暗示……それでも一番大切なのは、本人の気持ちよ」

 

「希……そうですね」

 

「流れ星、見損なったにゃー!」

 

「いえ。もともと流れ星なんてありませんでしたよ」

 

「?」

 

それがどういうことかよくわかっていない凛は首を傾げる。

木の陰から様子をうかがっていた俺はふぅ、と息を吐く。

 

 

 

「物事が進む暗示、な。さて戻って飲み物でも作るか」

 

その場を後にして、コテージに戻った俺はお湯を沸かしながらリラックス効果のある紅茶の茶葉と取り出しティーポットに入れる。

そこでガチャリ、とリビングルームの扉が開いた。

 

「春人、まだ起きていたの?」

 

「眠れなくてな。作業の前に、紅茶でも飲むか?」

 

「……律儀なんだから。最初から準備していたんでしょ。もらうわ」

 

「バレたか。まあ俺にできるのはこのくらいしかないからな。はい、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

紅茶で一息入れた後、真姫はすぐに作曲に取り掛かる。

俺はそれをBGMにして、彼女の邪魔にならないように本を読み始める。

 

それからしばらくしない間に、海未とことりが揃ってやってきた。

 

「いらっしゃい。考えていることは一緒だな」

 

「はい。今ならできると思うので」

 

「うん。私も海未ちゃんと同じ」

 

「俺は飲み物の用意をするから、気にせずやっていて構わない」

 

「春人も折を見て寝ていいですからね?」

 

「ああ。そうするよ」

 

こうして、夜は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三人とも、お疲れ様」

 

俺はことりたちをそれぞれソファーに横にさせて、ブランケットをかけた。

彼女たちはすぅ、と小さな寝息を立てている。

 

三人とも完成するころにはもう朝日が差し込んでいた。

ほぼ徹夜の作業で限界が来ていたことりたちは完成した直後にすぐに寝落ちしてしまった。

 

「起きたらすぐ練習に入るだろうからな。今はゆっくり――」

 

 

 

――ガチャ

 

 

 

「ハルくん?」

 

「ん。おはよう穂乃果、みんな」

 

起きて三人がそれぞれいなくなっていたことに気付いたのだろう、みんながコテージへとやってきた。

 

「静かにしてやってくれ。三人とも今さっき寝たばかりなんだ」

 

「それじゃあ…」

 

「ああ。そこに置いてあるよ」

 

海未の歌詞、ことりのデザイン、真姫の楽譜をまとめたテーブルを指さす。

 

「まさか徹夜で完成させるなんて」

 

「今はゆっくり寝かせといてあげようか」

 

「そうね…春人くんも、お疲れ様」

 

「頑張ったのはことりたちだよ。俺は何もしてない」

 

「ずっと、真姫ちゃんたちのこと見守ってくれてたんだよね?」

 

花陽の指摘に俺はドキリとする。

 

「誤魔化したってダメにゃ。春人くん、目の下に少しだけくまがあるにゃ」

 

何かを言う前に凛にとどめを刺された。なんだか最近みんな先回りするのがうまくなっているような気がする。

 

「……みんなお茶でも飲むか? 用意するよ」

 

「そんなことの前に、ハルくん」

 

話題をそらそうとキッチンに向かおうとすると、ちょっと不満げな声で穂乃果が俺の手を取った。

 

「穂乃果?」

 

穂乃果は俺の手を引き、彼女と一緒にソファに座らされる。

そして肩をつかまれ、強引に横にさせられた。

 

頭が穂乃果の膝上に乗っかり、いわゆる膝枕状態になっている。

 

「穂乃果。これは少し、恥ずかしいんだが……」

 

「ダメ。せめて海未ちゃんたちが起きるまで、ハルくんも休むこと」

 

言葉の強さとは裏腹に、優しく俺の頭を撫でる穂乃果。

それが心地よくて、さっきまではあまりなかった眠気が一気に押し寄せてくる。

 

「おやすみ、ハルくん」

 

皆に見られているというのに、穂乃果の柔らかい手つきに、安心させるような微笑みに、抗うことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、春人もしょうがないわね」

 

静かな寝息を立て始めたハルくんに、にこちゃんは腕を組みながらそう言った。

 

「少しは自分のことにも気を使いなさいっての」

 

「自分では無理をしていないつもりなのが、また厄介なのよね」

 

「春人くんの寝顔、可愛いにゃー」

 

「うん。子供のような穏やかな顔してるね」

 

「二人とも、それ春人くんに言ったらあかんよ?」

 

私はハルくんの頭を撫でながら小さく笑う。

ハルくんもだんだんと信頼してくれてるんだと思う。じゃなかったらこんな無防備に、みんなの前で寝ることなんてしないだろう。

頼ってくれることは少ないハルくんだけど、これからはもっと頼られるように私たちも頑張らないと。

 

小さな決意を胸に、今は彼の寝顔を堪能するのだった。

 

 

 

 

 

 









いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に(@^^)/~~~



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