"愛してる"の想いを   作:燕尾

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ども、燕尾です。

大分時間が空いてしまいましたが、73話目です。






73.春人の変化

 

 

 

 

 

山での合宿を経て曲を完成させることができた私たちはライブに向けてより一層練習に励んでいた。

着々とライブの準備が進んでいき気持ちを高めているも、一つだけ引っかかるものがあった。

 

それはというと――

 

 

「ハルくん、おはよー!」

 

「っ、おはよう穂乃果」

 

――ぷいっ

 

朝の練習前の集合場所。一番最初に来ていたハルくんに声をかけるけど、ハルくんは私を一瞬だけ見てすぐにあらぬ方向を向いた。

 

「へ? ハルくん……?」

 

「朝練に行こうか」

 

「待って待って! まだ海未ちゃんとことりちゃんが来てないよ!?」

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

「ハルくん、一緒にお昼食べよう?」

 

――ガタッ

 

「ごめん、穂乃果。ちょっと理事長に呼ばれてるから今日は一緒に食べれそうにない」

 

「あ…うん……」

 

そう言ってハルくんは少し慌てた雰囲気で教室を出ていく。

 

「理事長が春人を? ことり何か聞いてますか?」

 

「ううん。お母さん何も言ってなかったけど…」

 

「まあ他の人が聞いていい内容ではないのでしょう」

 

「……」

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

「ハルくんハルくーん、部室いこー!」

 

――バッ!

 

放課後、歩いているハルくんの隣に行くと彼は驚いたように一瞬だけ距離を取った。

 

「……ああ。行こうか」

 

私だと気づくとそっぽを向きながら私の隣に並んで歩き始める。

 

「どうしたのハルくん?」

 

「っ、いや、何もない。気にするようなことはない」

 

「んー……?」

 

 

 

 

 

と、こんな感じでハルくんの様子がおかしいのだ。

 

ハルくんが私を見てくれなくなったり妙な緊張感を感じたり、とにかくいつものハルくんとは違う感じがしている。

だけど突き放したり拒絶することはなく、隣を歩いたり一緒に過ごしてくれるのは変わらない。それがまた不思議に感じてしまう。

 

 

――私、何かしたのかな?

 

 

記憶にないけれどそんな考えが頭をよぎる。私の気のせいだったらいいけれど、この前のことりちゃんとのすれ違いもあったから少し不安になっている。

 

ハルくんに直接聞いてもいいのかな…でも、うーん。今も誤魔化すような感じだったし、こういう時のハルくんって何度も聞かないと正直に答えてくれないから、どうしよう。

 

そうやって考えているうちに、部室へとついてしまった。

 

「ん、みんな揃っていたのか」

 

「あなたたちが最後よ。みんな、準備して屋上に集合ね」

 

絵里ちゃんに促されて私たちはそれぞれ動き出す。私たちは練習着に着替え、ハルくんはドリンクなど練習に必要なものの準備をする。

 

「……あ、そうだ」

 

着替えている最中、私は思いついた。

 

「ねぇ絵里ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど」

 

「ん? どうしたの穂乃果」

 

「あのね――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1・2・3・4・5・6・7・8――」

 

「ふむ…」

 

海未の掛け声を聞きながら俺はパソコンの画面を眺めていた。

今度のライブの振り付けや歌の練習が本格的に始まるとともに、手伝うことがなくなった俺は情報収集をしている。

 

いま見ているのはラブライブの公式サイトと動画サイト。今回のラブライブに参加するグループの確認とそのグループの公開している曲やライブパフォーマンスの雰囲気をチェックしている。

 

「春人くん」

 

「はるとくん」

 

「絵里、花陽…お疲れ様。休憩?」

 

「ええ。この後からパートのユニットごとの練習になるから、その前にね」

 

はい、とドリンクを渡せば二人はありがとう、と言った後に受け取りそれぞれ俺の両隣に腰を掛け水分の補給をする。

 

「ねえ、春人くん?」

 

一息ついた絵里は改まってに問いかけるように俺の名前を呼ぶ。

 

「ん、どうした?」

 

「穂乃果と何かあったの?」

 

特に深くは考えないまま返事をするも、絵里の一言に俺は硬直してしまった。

 

「あ、それわたしも思ってた。最近のはるとくん、穂乃果ちゃんに対してなんかぎこちないというか――」

 

花陽の追撃に俺は冷汗を垂らす。

そこまで露骨になっていただろうか。いや、自分が気づいていなかっただけで周りが見るとあからさまだったのかもしれない。

 

「喧嘩をした――とかじゃなさそうだからあまり気にしてはいなかったけど、正直に言えば穂乃果が気にしていたのよ」

 

「絵里ちゃん。それって穂乃果ちゃんからそれとなく聞いてほしいって言われてたことじゃ?」

 

「春人くん自身、自分の穂乃果に対する最近の態度にあの子が気にしているってこともわかっているでしょうし、ぼかしてもすぐバレると思ったから」

 

「……」

 

絵里の言っていることは間違っていない。ここ最近の穂乃果との接し方に、穂乃果が気にしているというのも当然わかっていた。

 

「それで、何があったの?」

 

改めて問いかけられて、俺は正直に答えた。

 

「穂乃果が俺に何かをしたとか、俺が穂乃果に何かをしてしまったとかじゃないんだ。ただ――」

 

「ただ?」

 

「その…前の合宿で穂乃果の膝で寝てしまってから、穂乃果の顔を見ると緊張するんだ……」

 

「「……」」

 

俺の言っていることを呑み込むのに時間がかかっているのか、二人はきょとんとしていた。

 

「何言っているんだって思うのも当然だと思う…なんというか、俺自身も戸惑っているんだ。いやまあ原因はわかってはいるんだが、たぶん穂乃果に膝枕されて恥ずかしかったのを引き摺っているというかいまだに落ち着くことができてないというか――」

 

恥ずかしい気持ちなんてすぐに何とも思わなくなるのが普通のこと。しかし、数日たっても穂乃果の顔を見ると落ち着くことができなくなる。

結局言い訳のような言葉になっていたことに気付いた俺は、落ち着けるように一息はいた。

 

「穂乃果は何も悪くないんだ」

 

改めてそう言うと絵里と花陽は顔を見つめあって、

 

「ああ……」

 

「そういうことだったんだ……」

 

状況を理解した二人は小さく笑うも安堵ではなく苦笑いを含んでいた。

 

「悪い。ライブを前に不安要素を持ち込むようなことはしたくないんだが…」

 

「ううん、そんなことないよ。むしろ喜ぶべきことだよ」

 

「そうね。喜ぶべきことね」

 

「……どういうことだ?」

 

納得している二人にとっては今の状態は喜ぶべきことらしい。だが、俺にはどういうことかさっぱりだ。

 

「そうね…一つだけヒントをあげるとしたら、最近始めた距離感の勉強の甲斐があったってことね。あとは春人くんが考えること。穂乃果には私から心配ないって伝えておくから」

 

「そうだね。悪いことじゃないしいつも私たちがもやもやすることが多かったんだから、しばらくはるとくんも悩んでね」

 

「花陽が黒い…わかった」

 

自分で考えろ、そう言われたらこれ以上助言を求めたり教えを乞うわけにはいかない。

 

二人もこの話は終わりというように、俺から目の前のパソコンへと視線を移した。

 

「そういえばはるとくんパソコンをずっと見ていたけど、何をしてたの?」

 

「あ、ああ……内側ばかりじゃなくて外にも目を向けないとって思って、他のスクールアイドルがどういうグループなのか知るためにライブとかグループの紹介動画とかを見ていたんだ」

 

「他のグループ、ってかなりあるけれど」

 

「前回大会の結果でランキング100位までに絞ってる」

 

「ひゃく――!?」

 

「絞ってもかなりの数見てるのね」

 

「あと少しだけど、各グループごとに曲やパフォーマンス、そのグループのどういったところがファンに人気なのかをノートにまとめている」

 

俺がまとめていたノートを見ると、二人は絶句していた。

 

「かなり細かく書かれているわ…というか調べてるグループの全部のパフォーマンス見てる」

 

「はるとくん、これすごい時間がかかったんじゃ…?」

 

「所詮は俺の所感だし、グループごと"色"は違う。それでもこれから競い合う相手がどんな雰囲気なのか少しでも参考になればって思ったんだ」

 

幸い家に帰っても時間がたっぷりある。ならばと初めて見たのだ。

それに言うほど時間はかかってない。

 

「まあそれは完成してから改めてみせるとして、ラブライブの公式サイト見ていて気付いたことがあるんだ」

 

「気づいたこと?」

 

「ああ――俺たち、ライブの場所をどうするか決めてないなって」

 

俺の言葉に、二人も間の抜けた声を漏らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、おさらいですが――各グループの持ち時間は5分。エントリーしたチームは出演時間が来たら自分たちのパフォーマンスを披露。ラブライブの大会公式サイトから全国へと配信され、それを見たお客さんが投票し順位が決まります」

 

「そして上位4組が最終予選に…というわけね」

 

「4組…狭き門ね……」

 

「特にこの東京地区は他の地区よりチーム数がダントツ多い一番の激戦区やし」

 

「それに、なんといっても……」

 

花陽の言葉が何を意味しているのか、この場にいる全員はわかっていた。

 

「A-RISEがいる」

 

穂乃果が気を引き締めたように言った。

第一回ラブライブ優勝のグループ"A-RISE"。当然彼女たちも出てくるだろう。それは前回大会の優勝グループとして今大会の予選のコマーシャルに出ていることからもう出ないということはないだろう。

 

「A-RISEの人気はもはや全国に広まっている。東京予選では枠4組のうち1組はもう決まったも同然のようなものよ」

 

「じゃあ凛たちはあと3組の中に入らないといけないの!?」

 

そうよ、と断言するにこに声を上げる凛。

ふむ…状況を見据えた心構えはいいが、それはいささかマイナス思考ではないか。

 

「A-RISEがいようとどんな状況でもμ's(みんな)のやることは変わらない。最終予選の枠に入る、そういうことだろう」

 

「だからそれが――」

 

「勝負の世界に絶対はない。A-RISEがいま全国で人気だろうが何だろうがそれを超えるものが今回出てきたら彼女たちも落ちる。そうだろう?」

 

「それは、そうだけど…」

 

「ラブライブの出場をエントリーしているグループはみんな優勝を目指しているんだ。最初からA-RISEが1枠に入るって決めてかかるのは、すでに自分が負けているって思っているってことじゃないのか?」

 

『……』

 

A-RISEはいずれぶつかる壁などではない。すべてが対等なのだ。他にも油断ならないグループだって全国にたくさんいる。

 

「自信過剰になれなんて言わない。だけど"A-RISEがいるから"という認識は改めた方がいい。全員が優勝を争うライバルなのだから」

 

「……そうだね、ハルくんの言う通りだ。優勝を目指すならそれぐらいの気概じゃないと!」

 

皆の顔が引き締まる。どうやらさっきまでの弱気はないようだ。

 

「さて、気持ちが切り替わったところで今回の本題だが――ライブ場所はどうしようか?」

 

そう言うとはいっ、と元気よく穂乃果が手を挙げた。

 

「今回の予選だと会場以外でも認められているんだよね? じゃあ学校をステージにしない? 緊張しないで済むし、自分たちらしいライブができると思うんだ!」

 

「そうだね。それがいいかも!」

 

「――甘いわ!」

 

「にこちゃんの言う通りだよ!」

 

穂乃果の提案にことりが同調するも待ったをかけたのはにこ、そして花陽だった。

 

「二人とも、どういうことだ?」

 

「中継配信は一回限りの一発勝負、やり直しは利かないの。失敗したらそれもそのまま配信されるということ」

 

「それに画面の中で目立たないといけないから目新しさも必要になるのよ!」

 

目新しさ、ね。それは新曲披露だけでは足りないということなのだろうか。

 

「目新しさ…奇抜な歌とか?」

 

「衣装とか?」

 

特に考えずに凛とことりが口にする。

 

「例えばセクシーな衣装とか?」

 

何かよからぬ考えが浮かんだ希がいたずらっぽくにやついた。

 

「む、無理です……」

 

即座に膝を抱え丸くなる海未。

 

「こうなるのも久しぶりだね、海未ちゃん」

 

希の悪ふざけはまだ止まらない。

 

「絵里ちのセクシードレス姿も、見てみたいなぁ?」

 

標的にされた絵里は顔をゆがめる。

 

「いやよ! やらないわよ私は!」

 

「えーでも見てみたいよなぁ――」

 

すると希はそう言いながら視線を俺に移す。それだけで、俺は次に希が何を言うかわかってしまった。

 

「なぁ、春人くんも見たいよなぁー?」

 

「ちょっと、希っ!?」

 

声を上げる絵里には目もくれず、にやにやと俺を見る希に溜息を吐いた。

 

「絵里もいいが、希のそういう姿を見てみたいな」

 

「なっ――!?」

 

「なあ、絵里?」

 

俺がそう言うと、俺の意図を察した絵里は仕返しといわんばかりに悪い笑みを浮かべる。

 

「そうね…私だけじゃなく希がそう言うドレスを身に纏うのなら考えようかしら?」

 

死なば諸共、自分の足元に絵里が手を這わせていたと気づいた希は顔が引き攣っていた。

自分は高みの見物と思っていたのだろうが、そうは問屋が卸さない。

俺も希へのやり返しにも大分慣れたものだ。

 

そう考えていると、制服の袖を両方からぎゅっと引っ張られた。

 

「……ハルくん、絵里ちゃんたちのセクシードレス姿、見たいの?」

 

「絵里ちゃんと希ちゃんだけ、なの?」

 

本気にされても困るんだが、そうとは気づかずに不満げに穂乃果とことりが俺を睨んでくる。

 

「そうじゃないのはわかるだろ…海未、なんとか――」

 

「嫌です! セクシードレスなんて!?」

 

声を荒げる海未。妄想もここまでくると、もはややりたいのではないのかと勘違いしてしまいそうだ。

 

「ふんっ、私もやらないわよ!」

 

「またまた~誰も部長にお願いしてな――」

 

にこの冗談だとでも思っていたのだろう、凛の言葉は最後まで続かなかった。

 

「つーねーるーわーよ?」

 

「もうつねってるにゃ~」

 

みにょーん、と凛の頬をつねるにこ。もはや収拾がつかなくなってきた。

 

「というか、何人かだけで気を引いたって……」

 

「そもそも合宿で衣装も新曲も決めただろう。それを今から全部やり直すわけないだろうに。ほら穂乃果、ことり、そういうことだから放してくれ」

 

「むぅ~」

 

「そうやって誤魔化すよね、ハルくんって…」

 

「誤魔化すも何も、もとは希の悪ふざけなんだから。ほら話が進まないから」

 

結局、目新しさについてこのあと考えるも、なかなかいい案は浮かばなかった。

 

 

 

 

 







いかがでしたでしょうか?

ではまた次回に。


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