FF15✕FF(1+13)   作:ウィリアム・スミス

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 FF14側はパッチ4.0基準でいく予定です。


第二話

 男の牢獄に来訪者がやってきた。

 若い男と女が一人ずつだ。

 

 魔導兵に投げ飛ばされて入ってきたこの二人は、少年少女と言っていい歳頃に見える。

 恋人か、あるいは兄弟といったところか。

 

 彼等を連行してきた魔導兵が、鉄格子を閉め去って行く。

 ここを出て行くチャンスであったが、男は気にも留めなかった。まだ“その時”は来ていない。

 

 その代わりに、男は地面に転がる若者たちを見た。

 

 二人とも金髪で、少年の方はやや暗い、少女の方は実に鮮やかな輝きの髪色だった。

 少年は全身黒一色の戦闘服を、少女の方もデザインは異なっているが戦闘服らしきものを着ている。何があったのかは知らないが、どちらもかなりボロボロだ。

 

 両者から強いエーテルを感じたので、何処かしらの戦士なのだと推測するが、それ以上の興味は湧かなかった。別に彼等が何者であろうと、男には関係の無いことだからだ。

 

 少年が少女を庇うような立ち位置をとり、こちらの様子を伺ってくる。

 警戒しているのだろうか? まあ、無理もないだろう。

 

 男の見た目ときたらボロボロのローブに目深のフード、それに加え彼等と比べて二回り近くも大きな体格をしているのだ。控えめに言っても危険人物としか見えない。

 

 どんな事情でこの研究所に連れてこられたのか知らないが、彼等にとってみれば、猛獣の中に放り込まれたのとそう大差ない状況なのだろう。タイミングが良いんだか、悪いんだか。

 

 招かれざる来客の訪れに溜息を一息つくと、男は再び鉄格子に向き合い静かに待った。いい加減、待ちくたびれてきたというのが男の本音だ。

 

 男の右耳にある貝殻型の耳飾りからは、未だ連絡はない。

 

 

 

 *

 

 

 

 連行された牢獄にいた男をずっと警戒をしていたが、どうやら特に危険は無いようだ。

 

 一度僕たちのことをチラリと一見しただけで、後はずっと鉄格子の方を見つめている。

 

 見た感じ「荒くれ者」というのがぴったりな大男だが、突然襲ってくるような危険人物ではないようだ。もしかしたら見た目に寄らず結構理性的な人物なのかも知れない。

 

 それでも、実は油断させて背後から……なんて可能性も捨てきれないので、いたずらに警戒を緩めることはしない。

 

「魔法は、どう? 使えるようになっていないかしら?」

 

 僕の後ろに控えている彼女がそう聞いてきた。

 切羽詰まった感じではなく、万が一とか念のためといった風な冷静な口調だ。

 

 もう既に飛空艇の中で一度試したが、もしかしたら奇跡的な何かが起きて、魔法が使えるようになっている可能性も無きにしもあらずなので、試す価値はあるかもしれない。

 

 意識を集中し、幻想を想像し、盟約に従い、「王」を通じ魔法の力を引き出そうとする。

 

「……ダメだ」

 

 だが、やはり上手くいかない。

 分かりきっていた結果であるが、落胆は少なからずあった。

 

「まるで、なっちゃいないな」

 

 突然、男がこちらを見向きもせず、そうダメ出しをしてきた。

 小馬鹿にするような、あるいは呆れた風なかんに障る口調だった。

 

「なんだと?」

 

 思わず、男に対しそう抗議する。

 多少、強い口調になってしまったのは仕方が無いだろう。魔法の「ま」の字も知らなさそうなこの男に、そんな偉そうな事は言われたくはない。

 

 だが男は僕の言葉なんか微塵も気にした様子を見せず、フード越しにこちらを睨みつけると、再び言い返してきた。

 

「まるで、なっちゃいないって言ったのさ。そんな調子じゃ、おまえが爺さんになるまで頑張ったて、一生できやしないさ」

「プッ!」

 

 そう吹き出したのは僕では無い、後ろにいる彼女の方だ。

 馬鹿にされたと思ったのか、男が剣呑な雰囲気を発して詰め寄ってくる。

 

「そこのあんた、何が可笑しい?」

 

 少しイライラとした不機嫌そうな声色だ。次の瞬間には怒り狂って飛びかかって来るかもしれない。

 一瞬即発の気配にハラハラとしていると、そんなことお構いなしといった様子で彼女が口を開く。

 

「その、笑ってしまってごめんなさい。ただ、私も彼に似たような事を言った覚えがあって、それで、ついね……悪かったわ」

「…………そうか」

 

 そう言うと存外に大人しく、男は引き下がった。

 

 若干間があったような気がしたが、やはり見た目に寄らず、怒りに身を任せて暴れ出したりはしない。本当に意外であるが、実に理性的な人物のようだ。

 

 何とか大事に至らずほっとしていると、今度は彼女の方から質問が飛び出した。

 

「ねぇ、もしよかったら、彼のどこが『なっちゃいない』のか教えて貰えないかしら? もし、彼が魔法を使えるようになるのなら、この状況、何とかできるかも知れないのよ。あなたも、こんなところで終わってしまうのは嫌でしょう?」

 

 あまり期待され過ぎても困るが、自信満々な口ぶりの男の言い分に興味が無かったのかといえば嘘になる。

 多少癪ではあるが、ご教授願えるのであれば僕からもお願いしたいところだ。もっとも、本当にできるものならやってみろ、というのが本心だったが。

 

 彼女の言葉を吟味しているのか、男は一度目を瞑り思案する素振りを見せると「別にこっちは今すぐここから出る必要はないんだがな」と前置きしてからゆっくりと喋りだした。

 

「魔法を使う時、おまえのやり方は回りくどいんだ。例えるなら、水を汲むのに目の前に大きな湖があるに、わざわざ遠い小さな井戸まで汲みに行っている感じだ」

「……どういう意味だ?」

「力の引き出し方が悪いって言っているんだ。いちいち七面倒臭い方法でおまえは魔法を使おうとしている。おまえの魔法は、一体()()魔法なんだ?」

 

 案の定、男の言っていることは理解不能だった。やはりただの法螺吹き野郎ということなのだろう。もしかしたら、あまりにも長いこと牢獄に閉じ込められていたから、気が狂っているのかもしれない。もしそうだとしたら、悪いことをした。

 

 僕の魔法が誰のものかだって? それは当然……。

 

「王家のものに決まって──」

「その考えが『なっちゃいない』って言ったんだ。借り物の、借り物の、借り物なんか、少しも役に立ちはしない。おまえはおまえ自身の力で、魔法を使うべきだ」

 

 フードの奥から放たれる視線が僕を射貫いてくる。その謎の威圧に思わずたじろいでしまう。

 この気迫、気が狂っているとか、イカれているとか到底思えない。この男、本気でそう言っているのだ。

 

 王家からではなく僕自身の力? 一体この男、何のことを言っている?

 

「い、言っている意味が全然」

「要するに、王家の力を利用するのではなくて、自分自身の力で魔法を使えってこと?」

 

 言い淀む僕の代わりに彼女がそう答えた。更に、呆れた様子で男を否定する。

 

「それこそ無茶な話だわ。魔法はルシス王家だけに与えられた特別な力。ただの一般人にはそんな力は無い。不可能よ」

 

 そう反論してから、彼女がボソッと「ごめんね」と僕に言ってきた。おそらく、僕のことを「一般人」と言ったことについて謝っているのだろう。

 別に事実であるし、そんなこと気にしちゃいないので、無言で手を左右に振り「気にしていない」と合図する。

 

 ただの一般人には魔法は使えない。彼女の言う通り、それがこの世界の真理なのだ。

 

 魔法とは、はるか昔に王家に与えられた特別な力。自然を由来とする属性(エレメント)や、空間を超越する転移(シフト)といった力を使いこなす奇跡の力だ。

 

 僕たち一般人はそれを、ただ一時的に借りているに過ぎない。

 

「だいたい、王家からじゃないなら、一体どこから力を引き出すっていうの? まさかこれも、自分自身からだなんて言わないでしょうね?」

「そこらへんは、あんたの方も詳しいんじゃないのか?」

「えっ?」

 

 男の言葉に唖然とした表情を見せる彼女。

 

 彼女も魔法について詳しいだなんて初耳だ。

 そういえば、さっきから明らかに僕よりも話について行けている気がする。魔法を主武装とする「王の剣」の一員である僕を差し置いてだ。

 

「……あなた、一体何者?」

 

 冷静を装っているがさっきまでの様子とは違い、彼女は明らかに動揺していた。額から僅かに汗が滲んでいる。

 

 どうやら彼女にとって、魔法に詳しいことを知られるのは想定外のことであったようだ。その程度のことを知られるのがそんなに不味いことなのだろうか? 正直、さっぱり分からない。

 

「ただの冒険者だ。あんたたち風に言えば『ハンター』って言った方が分かりやすいかもしれないがな」

「……()()()ハンターには、見えないけれどね」

 

 むしろ僕にはどっからどう見てもハンターに見えた。

 メルダシオ協会が総括し、主にルシス領内で市民の護衛や野獣、シガイ退治などを生業とする荒くれ者集団──ハンター──という肩書きは、まさにこの男にピッタリだった。特に見た目が乱暴そうな点とかが。

 

「とにかくだ……不可能だと勝手に決めつけて、盲目的になるな。『全ては霊の上にあり、全ては星の下にある』だ。ただ、近い上に巨大過ぎて、気付いていないだけでな」

 

 なるほど、つまり……。

 

「どういうことだ?」

 

 ガクッ、という擬音が聞こえたような気がした。

 

「王の剣」で魔法のエキスパートなんて名乗っているが、悪いが僕の頭のできはそんなに良くないのだ。男の言っている意味はさっぱり分からない。全ては……なんだって?

 

「あーつまりだ……その王家から力を引き出すんじゃなくて、もっと大本から力を引き出せってことだ」

 

 毒気を抜かれた様子の男がそう言ってくる。

 大本? 大本ということはつまり……。

 

「クリスタルか?」

「違う、もっと根源的な場所からだ。よく考えろ、おまえたちが使う魔法は元々『どこ』から来て、『誰の』ものだったんだ?」

 

 どこから? そういえば、一体どこから王家は魔法の力を授かったんだ? 六神か? クリスタルか? 訓練や教育では、魔法の力は王家に宿ったとしか教えられていない。

 

 魔法の力がどこからきて、誰のものだったのか僕は知らなかった。

 

「……星よ」

 

 回答に窮している僕の代わりに、彼女がボソッと答えた。

 期待していた通りの答えだったのか、男はフードから見える口元に笑みを浮かべ、「ご名答」と唇を動かした。

 

「星? 星って……あの星か? あの夜空に浮かんでいる、あの星?」

「いいえ、正確にはこの星、私たちの星『イオス』のことよ」

「……わけが分からないよ」

 

 彼等の話は、ちょっとどころではなく、僕にはついて行けない話だった。

 

 要するに星って、()()星だ。僕が今いるこの星ってことだ。『イオス』って名前のこの惑星のことなのだろう。まるでちんぷんかんぷんだ。星から力を引き出すって、意味わかんない。

 

 確かに属性魔法は自然現象──つまり星由来の力を具現化した魔法だが、それとこれとは話は別のはずだ。もう、どうでもいいからさっさと理解している風な彼女に解説をお願いしたい気分である。

 

「馬鹿馬鹿しいわ。そんなの、できっこない」

 

 彼女がそう呟いた。呆れて物も言えないといった様子だ。僕は理解できなくて何も言えない状態だ。

 

「それを決めるのはあんたじゃない、おまえだ」

 

 男がすっと腕を伸ばし、僕を指差してくる。

 

 僕は……僕は、どうすれば良いのだろうか。

 理屈や常識ではできないと、馬鹿な僕でも理解はしている。だが、男の言葉と迫力に圧倒されたのも、また事実だった。

 得体の知れない説得力が、この男には存在している。

 

「さぁ、どうする?」

 

 男がさらにそう問いかけてくる。それは悪魔の囁きか、あるいは神のお告げか。

 理解できないと、わけが分からないと駄々をこねても、何の解決にもなりはしないだろう。それは数多くの実戦で学んだことの一つだった。

 

 より深い理解や納得よりも、今は優先すべきことがあるのは明白だ。そんなことは後からでもできる。

 

「……分かった、やってみよう」

 

 大抵の場合、理解できないからと、納得できないからと立ち止まるヤツから死んでいくのだ。

 世の中、成るように成るし、成らないなら成らない。分からないなら分からないなりに、頭よりまず身体を動かせ、だ!

 

 そう自分に言い聞かせ、魔法行使を試みる。男の教えたやり方で、彼女が否定したやり方で……。

 

 集中する。

 僕の意識を。そして、僕の意志を。

 

 想像する。

 力を求める場所はこれまでとは違う。王家からではなく、もっと根源的で潜在的な場所から。僕たちの星、大いなる星──イオス──から。

 

 力が集まってくる。

 

「まぁ、理屈が分かったところで──」

 

 そして顕現する。

 奇跡の力を、幻想の力を、魔法の力を!

 

「できるようになるとは限らないがな」

 

 そして、見事に魔法は失敗した。

 

 

 

 *

 

 

 

「……やっぱり、失敗ね。分かっていたことだわ」

 

 だから言ったじゃないかといった感じで、しかし、若干残念そうに彼女が言った。

 そう、失敗だ。魔法の発動は失敗だった。だが、これは……。

 

 僕は自分の手のひらを見つめ、それから男の方を見た。

 

 魔法は失敗した。

 失敗したが、何とも言えない不思議な手応えがあった。あの時、初めて魔法の力に触れた時とはまた違う、不思議な感覚が……。

 

「その感覚を、良く覚えておくといい」

 

 男の言葉からは少しだけ、棘が抜けていた。

 そう感じたのは多少なりとも男のことを認めたからかもしれない。イカれ野郎の野蛮人だと思って本当に申し訳ない。

 

 手を握りしめ、先ほどの感触を心に刻む。

 手応えは、確かにあった。これを発展させていけば、もしかしたら……。

 

 満足そうな男と不満そうな彼女の様子を見て、ふと思う。

 有り得ない話ではあるが、僕はこれまで大きな勘違いをしていたのかも知れない。

 

 僕が特別な力だと思っていたものは、別に選ばれた者だけが使える特別な力ではなく、知識と経験さえ積めば、誰でも使える普遍的なものだったのかも知れない。

 

 もちろん、確証なんて無いし、証明できるとも思えない。

 だが、たった一回、たった一回だけの挑戦でそう信じてもいいかもしれないと思えるほどの感覚と、不思議な魅力を男からは感じた。

 

 とは言え今はもしもの話に括っている場合ではないだろう。僕たちには差し迫った問題があるのだ。

 具体的に言うとここは敵地で、僕たちは明日も知らない囚人だってことだ。

 

「彼の魔法が使えないのであれば仕方ないわ、もっと別の()()()な方法を考えましょう。幸いここには三人いるわ。三人寄ればラムウの知恵、よ」

 

 彼女の言う通り、現状できないのであれば、次の策を考えるべきだろう。

 

「悪いが俺はパスだ。さっきも言ったが、別に今すぐここを出たいという訳じゃないんでね」

 

 早速、三人が二人になった。

 三人じゃなくて二人寄る場合は、どんな風に言えばいいのだろうか? 『ラム』か『ムウ』だろうか? 個人的には『ラム』の方が女の子っぽくて良い感じだ。もしくは酒か。

 

「ええ、構わないわ。さっきみたいな戯れ言を言われても()()()じゃないもの。あなたは、ここから出たくないのだものね」

 

 よっぽどさっきの男の解説に納得がいかなかったのか、彼女が少し苛立った様子で嫌みったらしく言ってくる。

 

 もしかしたら、王家の魔法に関して何か強い思い入れがあるもかもしれない。僕でさえも最初はムッときていたのだから、魔法に明るい彼女なら尚のことだったのだろう。

 

「戯れ言、ね」

 

 そう言うと再び男は黙り込み、まるで何かを待つように鉄格子を見つめ直した。

 それにしても、頑なにここから出たがらない理由とはなんなのだろうか? 非常に気になるが、そんなことを気にするよりも大きな問題が一つあった。

 

「じゃあ、何か良いアイディアはないかしら?」

 

 それは果たしてこの僕に、彼女の言う()()()な意見など出せるのだろうかということだ。 

 戦い漬けで、まともな教育と言えば初等教育以外では部隊での訓練しか受けたことしかないこの僕に……。

 

「こう、壁に穴を開けてトンネルを掘るとかは?」

 

 試しに思い付いたアイディアを言ってみる。

 

「ここから出るよりも、先に戦争が終わってしまいそう。それまで命があると良いわね」

 

 昔、映画で見たワンシーンを参考にしたのだが、あまり良い意見とは言えなかったようだ。

 まあ、その映画でもトンネルを掘るのに何十年もかかっていたから、気持ちは分からないでもない。

 

 ここがただの捕虜収容所なら良かっただろうが、どうせまともな施設ではないだろう。何十年という長い間、命が無事であるとは思えない。

 

「じゃあ、こうテコの原理を利用して……」

「ダメね、扉も鉄格子もガッチリと固定されているわ」

「そもそも道具もないしね」

 

 昔の海賊とか盗賊とかを閉じ込めておくような古い牢獄だったら話は別だっただろうが、生憎、ここは実に近代的な牢獄だ。そんなやわな構造はしていないだろう。言うまでもなく却下である。

 

 なんだか尻に伝わる床の感触が、やけに冷たい。 

 

 バツが悪くなり視線を逸らすと、視界の端で、男が耳に手を当てて何かブツブツと呟いているのが見えた。何をしているんだろう? こんな時に。

 

 少し……いや、非常に気になったが、そっちばかりに気を取られていると後が恐い予感がむんむんとしたので、彼女との議論を最優先に進めることにする。

 

「人質をとるのは?」

「魔導兵ばかりなのに? 武器も無いし無茶だわ……あなたの仲間が救出に来てくれたりしないかしら?」

 

 残念なことに、今回のようなケースの場合は「王の剣」では殉職扱いだ。

 やたらと手早く手続きが行われるが、魔法使用不可な敵地に連れ去られるのだから無理もないだろう。当たり前のことだが、映画のように救出作戦が組まれることは滅多にない。

 

「厳しいだろうね。君の方のレジスタンスは?」

「望み薄ね……」

「そうか……」

 

 こうして。

 

「じゃあ──」

 

 建設的な議論が。

 

「だったら──」

 

 続けられた。

 

「それなら──」

 

 二人だけの会議は踊りに踊ったが、ちっとも前に進みはしなかったと思う。ただひたすらその場で足踏みしているだけであった。

 

()()()()議論はすんだか?」

 

 碌なアイディアが出ないまま困窮していると、男がそう聞いてきた。

 その言葉に、彼女がムッとした表情をする。かなり露骨な反応だ。そんなに嫌いかこの男が。

 

「ええ、()()()()話し合って、意見がもう14個も出たわ!」

 

 反骨精神まる出しで彼女がそう言い返す。確かに建設的に議論はできていた気はするが、建設的な意見が出たとは言い難い。

 

 しかし、我ながら良くもそんなにアイディアが出たものだ。

 もっとも、最後の方は投げやりで適当な意見しか出てこなかったので、数に数えてもいいのかは甚だ疑問だ。別に最初から適当だった気がするが、きっと気のせいだろう。

 

「なぁ、あんたは……何か意見はあったりしないか?」

 

 かなり彼女が嫌そうな顔をしたが、正直言って、袋小路に追い込まれているのは事実だった。

 状況を打開するのに、変なプライドや拘りは捨て去るべきだろう。それに、この男なら何か()()()()意見を出してくれそうだ。少なくとも、今の僕たちよりかはマシだろう。

 

 僕の要望に男が応えないとは思わなかった。

 何となくだが、この男は求めれば応えてくれる、そんな人間な気がした。そして期待通り、男は少し思案してから、ゆっくりと口を開いた。

 

「……おまえは、武器は何が使える?」

 

 僕を指さして、まるで関係のなさそうな事を問うてくる。

 何の意味が、と今にも言いそうな彼女を制して素早く答える。

 

「双剣だ」

 

 慣れ親しんだ武器の名を言う。

 

「あんたは? 武器は使えるのか?」

 

 今度は彼女の方を向いて男が聞く。

 

「……使えるわ……レイピアよ」

 

 渋々といった感じで彼女が答えた。

 

「そうか……じゃあ、アイディアその15だ」

 

 そう言うと男は立ち上がり、鉄格子の方へ向かって歩き始めた。

 堂々とした足取りで、一歩一歩地面を踏みしめながら……。

 

 途中、男が僕に向かって何かを投げてきた。

 

「これはッ!?」

「えッ!?」

 

 二人して驚愕の声を上げる。

 

 それは、動物をモチーフにしたと思われる双剣だった。

 金色に輝く刀身はやや短く、柄の先端には……これは狐だろうか? 妖しくて怪しい雰囲気の狐の頭部が飾られていた。

 

 武器にしては随分とユニークで派手な造型だ。一体、何処に隠し持っていたというのか。

 

 彼女の方を見ると、同じ様に武器を渡されていた。

 彼女のは黄色の刀身が印象的な細剣だ。チョコボを模した意匠がなかなかに可愛らしい。

 

 それにしても、どちらの武器も動物を模しているのは男の趣味なのだろうか?

 

 唖然としたまま再び男の方に向き直ると、さらに驚きの光景が広がっていた。

 

 薄汚いローブはいつの間にか消滅し、代わり野性的な漆黒の鎧を男が身に纏っていたのだ。更にその右腕には、身の丈ほどもありそうな巨大な戦斧が握られている。

 

「これって、まさか、武器召喚!? でも、そんな、だって……」

 

 目を見開き、震える声で彼女が呟いた。

 その表情はまるで、この世ならざる者でも見たかのようだ。こんなことあり得ない、あってはならないと、言外に訴えているようであった。

 

 彼女の反応はもっともだ。「武器召喚」はルシス王家の人間しか使えない特殊能力。間違っても、こんな牢獄にいる浮浪者のような男が使えていい能力ではないのだ。

 

 しかし、現に男は使えてしまっている。それが問題であった。

 全身を黒で統一したその鎧姿といい、その能力といい、もしかしたらこの男は……。

 

 僕たちの衝撃などお構いなしに、男は流れるように次の行動に移っていく。

 男は血糊のついた戦斧を大きく後方に引き、強く構えると、一瞬あってから、竜巻でも出現しそうな勢いで思いっきり力任せに斧をぶん回した。

 

 鋼鉄の旋風とでも形容できそうなとてつもない轟音と共に、鉄のひしゃげた音が響く。

 一瞬で僕たちを飛び込めていた鉄の柵は見るも無惨な形状となり、もはや鉄格子としての意味を成さない物体に成り下がっていた。

 

 男が僕たちの方に向き直る。

 

 フードの奥に隠れていた男の顔が見えた。青い瞳と茶色い短髪で、勇ましい顔立ちの男だった。

 威風堂々としたその姿は、まるで昔話の絵本から飛び出してきた英雄のようだ。

 

「アイディアその15。()()()()()()()()()()……反対する者は?」 

 

 そんな奴、この場所にはいやしなかった。

 

 

 

 

 




 自称冒険者の漆黒の斧戦士……一体なにバート君なんだ。
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