FF15✕FF(1+13)   作:ウィリアム・スミス

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第六話

 もう何度も魔導兵を蹴散らし何度もシガイをなぎ払ったが、キリが無かった。

 倒しても、倒しても湯水の如く湧いてくる。一体何処にそんなに隠れていたのか。どうやら相手は相当本気でこちらを殺しに来ているようだ。

 

 キリが無いとは言え、肉体的な疲れはないしどんなに数で押されてもこちらにはまるでダメージは無いが、これでは千日手だった。

 

 時間制限が無ければ向こうの気が済むまで好きなだけ付き合ってやっても良いが、残念ながら今はそうも言ってられない。流石にタイムオーバーとなればゲームオーバーは免れない。また最初からあのやり取りをするのは、正直言って面倒臭い。無論、リスタートなんてご免だ。

 

 さてどうしたものかと思っていると、ようやく援軍が到着した。

 

 サンドイエローの軍用車が道中にいるシガイや魔導兵を物ともせず、ガシガシと轢き飛ばしながら猛スピードで男の方へと向かってくる。なるほど、こういう展開(シナリオ)だったのか。

 

「やっと来たか……随分、遅かったな」

 

 目の前で止まった車両に向かって男が言い放す。

 車両のドア開き、中から魔導兵が顔を覗かせた。敵……ではない、味方だ。「紛らわしいから」と胸に刻んだシリアルナンバーを見て、男はそう判断した。

 

「あなたが僕のことを伝え忘れたせいですよ。それで余計な時間を取られました」

「悪かったな。何分、時間が無かったんでな」

 

 見るからに悪いと思っていない笑顔を浮かべ男がそう答える。

 

「早く乗れ! もう時間が無いのだろう!?」

 

 余裕そうに会話をする二人に向かって業を煮やしたのか、運転席にいる少年がそう叫んだ。その叫びを聞くや否や男が素早く車に乗り込む。

 

「よっし! 行くぞッ!!」

 

 男が車に乗り込むのを確認し、少年はアクセルを全開に踏み込んだ。

 エンジンが激しく鼓動し、タイヤが急速に回転する。

 軍用車特有の超馬力で急加速すると、自爆する研究所から脱出するために車両が猛スピードで前進し始めた。

 

 しかし、逃げ出そうとする獲物をそのまま見す見す逃す理由は、魔導兵にもシガイにも無い。直ぐさま追撃を開始し、軍用車に追い縋る。

 

「撃ち落とすぞッ!!」

 

 いつの間にか車両の屋根に移動していた男がそう叫ぶと、後方から詰め寄る敵に向かって戦斧を投擲した。

 戦斧は寸分の狂いなくシガイに命中し、まるでトマトを握り潰したかのように見るも無残な姿に変貌させる。

 

 投擲されたはずの戦斧が、次の瞬間には男の腕に舞い戻る。そして再び間髪を入れず戦斧が投擲される。

 

「相変わらず、乱暴ですね」

 

 そう呟きながら魔導兵が男の隣で立ち上がった。

 

「“戦士”ってのはそういうもんだろ?」

 

 男がそう答える。

 

「ですが、もう少し華麗というか優雅にですね……こう薔薇とかが舞い散る感じでですね……」

 

 不満を露わにして、どこかしみじみと魔導兵が言う。どうやら魔導兵には魔導兵なりの理想の“戦士”像があるようだ。

 

「おまえの憧れがどうだったかしらないが、無茶を言うな無茶を」

 

 呆れた様子で男が言い返し、更に続けて言う。

 

「それに、こういうのはおまえの分野だろう? あとは任せたぞ」

「……分かりましたよ」

 

 魔導兵がそう返事をした直後──魔導兵の周囲に幾つもの光球が出現し、更に旋回し始める。

 光球は一度魔導兵の頭上に舞い上がったかと思うと、上空から敵集団へと殺到し、敵中央部で弾けるように炸裂した。灰色の爆発が何度も起き、後に残ったのは跡形もなくなった敵の残骸だけであった。

 

「流石だな」

「褒めても何も出てきませんよ」

 

 まるで何事もなかったかのようにそう言う二人。敵の姿はもう見当たらない。これでもかと言うほどに、実にあっさりとした見事な返り討ちであった。

 

 研究所の振動がより激しくなり、至る所から爆発音と爆炎が上がる。燃えて崩れ去る研究所を背後に、彼らは無事脱出した。

 

 

 

 *

 

 

 

『第四魔導研究所』の外は太陽が燦々と照りつける砂漠地帯だった。

 

 研究所から伸びるまるで舗装されていない一本道を、ただひたすらに進んでいく。

 行けども行けども荒れ地か砂漠しかない。地平の彼方までそんな光景だ。現実的な光景を久々に見た気がする。見たくもない光景には違いないが。

 

 ギラギラと輝く太陽を見るところ、時間は正午ぐらい。おそらく外は相当な高気温だろう。幸い、車内はエアコンがガンガン効いているので涼しいが、ひとたび外に出れば灼熱の地獄が襲いかかってくるに違いない。

 

 それにしても見渡すばかり何もないところだ。研究所の内容からしてあまり人目につく場所に作るわけにはいかなかったのだろうが、酷いくらいに何もなさ過ぎであった。

 

 こうまで景色が変わらない中でいつまでも運転していると、気が滅入ってくるというものだ。おまけに車内は会話はない上に、どこまで行けば良いのかも分からないので、ますます陰鬱な気分になってくる。

 

 助手席に座っている彼女も、ずっと押し黙って考え事をしているようだった。

 

「……ねぇ、結局のところあなたたちは何者なの?」

 

 ずっと黙っていた彼女が意を決した様子でそう尋ねる。僕に向かってでは勿論ない。後ろにいる二人──自称ハンターの男と謎の魔導兵に向かって、だ。

 

 今更そんな質問したところで答えてくれるとも思えないが。この際、気晴らしになるのであればどんな会話だって僕はウェルカムだった。

 

 謎のハンターと謎の魔導兵のコンビ。

 これだけでも十分変わっているのに、それに加え彼らはやたらと魔法やシガイ、それに帝国の裏事情に詳しく、更にはこれ以上の何か大きな秘密を抱えている感じだ。何となく開けてはいけない「パンドラの箱」の様な気がしたが、僕が聞いたわけではないのでセーフだろう。

 

「僕たちは──」

「おい!」

 

 魔導兵を制止するために男が声を上げる。バックミラーから見えるその表情はかなり不満げだ。

 

「良いじゃないですか。結局“アレ”を見せたんでしょう? 『シガイ』と『闇のクリスタル』を……だったらもう彼らも無関係とは言えませんよ」

 

 反対に穏やかな声でそう諭すように言い返す魔導兵。

 

「そう、そうよ! 私たちは確かに見たわ。帝国がシガイを作っているのを。人間を使ってシガイを作っているのを、確かに見たわ。そして、あなたたちは“それ”を知っている、止めようとしている。そうでしょう?」

 

 身を乗り出しそう問い詰める彼女。

 魔導兵が男の方を一瞥する。何やら視線のみで無言の会話をする二人。ややあってから……

 

「勝手にしろ」

 

 そっぽを向いて男がそう呟いた。

 男の言葉を確認した魔導兵が再度向き直り、彼女に対して答える。

 

「ええ、そうです。僕たちはそのために戦っています」

「……たった二人だけで?」

 

 ボソッと彼女が聞き返した。その声には少しばかりの寂しさと、もしかしたら憐憫が混じっていたかもしれない。

 むしろ、たった二人であるが、無敵の二人組だと思うのは僕だけだろうか?

 

「はい、そうです」

 

 躊躇なくすんなりと魔導兵はそう答えた。実にあっさりとして簡潔な返答だ。

 常識で考えるのであれば、たった二人だけで帝国とことを構えるなんて、正気とは思えないことだが、この二人にそんな当たり前の常識が通用するとも思えなかった。

 

「他に仲間がいるとかは……」

「いませんね、僕たちだけです」

 

 真っ正面から彼女を見つめて魔導兵は淡々と答える。もし、彼らのような仲間が他に何人もいたとしたら、それこそ世界が獲れそうな気がするのだが、どうだろうか。

 

 魔導兵の無感情な言葉を聞いて何を思ったのか、悲痛そうな顔を浮かべる彼女。本当に何を思ったのだろうか。

 彼女が何を思ったのかは分からないが、しばらく押し黙っていた男がすかさず口を挟んだ。

 

「別に戦いの中で仲間が死んでいったって訳じゃない。()()()()俺たちは最初から二人だけだ」

「ええ、お互い、全くもって不本意ながらですね」

 

 砕けた空気で二人がそう会話をこなす。背筋が薄ら寒くなるような感覚を覚えたのは気のせいだろうか? 男の言いぶりではまるで、()()以外の何処かでは他に仲間がいたような口振りだ。

 そんな二人の様子を見て、彼女が何かしらの決意をした表情をしてみせた。あまり良い予感はしない。

 

「……決めたわ。私も、あなたたちの仲間に入れてくれないかしら?」

 

 彼女の言葉に何か言いたげな男であったが、それを無視して彼女は続ける。

 

「あなたたちが何者で、目的が何なのか、この際そんなことはどうでもいいわ。ただ、あんな光景を見て、ただ黙っている訳にはいかないの」

 

 そう彼女が言葉を重ねる。

 端から見てもその決意は固そうだ。アメジスト色の瞳が真剣に二人を見つめていた。彼女なりの欺瞞やら熱意やら、もしかしたら使命とかがきっとそこにはあったのだろう。

 

 ふと、彼女が何かを見つけた素振りを見せた。男の方をマジマジと見つめている。何となくその顔が「しめたッ!!」と言っているような気がした。

 

「それに、必ずあなたたちの役に立つわ。こう見えても私──」

 

 そう言うと彼女は男に向かって手を翻した。彼女の手から淡い光が生まれ、それが男の方へと漂っていく。ところでさっきから前方不注意甚だしいが、どうせ誰も擦れ違わないので全く問題は無い。

 

 光が男を包み込む。

 

「回復魔法か……」

 

 光に包まれた男が彼女の方を向いて、そう呟いた。そんな有り得ないことを、まるで当たり前のように呟かないで欲しい。

 

「そう、帝国と……シガイと戦うのであればきっと必要になるわ。あなたみたいに強い人でも、戦い続ければ怪我もするし傷つきもする。そうでしょう?」

 

 流石に運転席からでは詳しく見えなかったが、彼女の言う「回復魔法」で男の傷を癒やしたのだろう。

 無敵に見えた男でも、今回も戦いで多少なりとも傷を負っていたみたいだ。かなりの衝撃である。

 

「良いんじゃないですか? ヒーラーは僕もあなたも苦手でしたし、丁度良いですよ」

 

 そもそも、何と無しに魔法を使えた時点で希少すぎる存在だ。

 彼らに比べればそりゃあ見劣りするだろうが、もしかしてこれは物凄いことではないだろうか。というか回復魔法が使えるって、彼女も只者では無かったのか!? 何となく疎外感を感じてしまったのはきっと気のせいだろう。

 

「……あんた、名前は?」

「セーラよ」

 

 その名前を聞いて、男が物凄く嫌そうな顔をした。それこそ露骨なまでにあからさまな表情だった。『セーラ』という名前に何か嫌な思い出でもあるのかもしれない。意外な弱点である。

 

「ちょっと、そこまで邪険にしなくても、良いんじゃないかしら?」

 

 男の露骨なまでの態度に対し一言申すセーラ。気持ちは分からないでもない。誰だって自分の名前を侮辱されたら怒るだろう。

 

「……悪かった」

 

 流石に悪いと思ったのか素っ気なくそう謝る男。態度からして反省はしていなさそうだ。

 短い謝罪の後、今度はしっかりと彼女と向き合って男が言葉を続ける。

 

「セーラ、研究所でも聞いたと思うが……」

「途中下車はできないでしょ? 分かってるわ。むしろ、あそこであんなこと聞いたのに、いまさら投げ出さないで欲しいわ」

 

 キリッとした表情を決めて、堂々とセーラが答える。その姿はある意味、“様”になっていた。

 

「どうやら、彼女の『意志』は固いみたいですよ?」

 

 彼女の様子を見て、魔導兵が男に対して進言する。

 彼女の言葉と態度、そして魔導兵の進言にようやく男は観念したようだ。やれやれと肩をすくめてボソッと「分かった」と呟いた。

 

「決まりね! それじゃあ、みんな自己紹介しましょう! 名乗っているのが私だけだなんてズルいわ!」

 

 和やかに微笑んでセーラがそう宣言する。そういえば、僕たちは誰もお互いの名前を知らなかった。「男」だとか「彼女」だとか「魔導兵」だとが彼らの名前じゃあるまいし、ちゃんとした名前があるはずだ。

 

 彼女の言葉に真っ先に動いたのは魔導兵だった。これまでの態度からして、見た目に反して結構話し好きなのかもしれない。

 

「僕の名前はウヌクアルハイです。でも、()()汎用魔導兵39号OH型でもあります」

 

 そう言いながら39が自分の胸元を指さした。バックミラーに写っていたから逆に見えていたが、ソコには何か刃物のような物で「38ーOH」と刻まれていた。

 

「ウヌクアルハイは言い辛いでしょうから、気軽に39(スリーナイン)とでも呼んで下さい。よろしく、セーラさん」

 

 39が鋼鉄の腕をセーラに向かって差し出す。その仕草の意味は子供でも知っていることだ。何やら不穏なことを言っていたような気がするが、迷わずセーラはその腕を握った。

 

「魔導兵と握手するなんて、昨日までは夢にも思っていなかったわ。よろしくね、39」

 

 魔導兵と人間。決して相成れないと思っていた両者が固い握手を交わす。

 遠い先の未来では、この瞬間こそが新時代の幕開けだったと言われる歴史的瞬間だったかもしれない。それだったら指先と指先を合わせた方がソレっぽい気もするが。

 

「それであなたが……」

 

 次にセーラは39の隣にいる男へと目を移した。

 その視線に気付いたのか、男が口を開く。

 

「アルバート。()()()冒険者のアルバートだ」

 

 やけに『ただの』を強調してアルバートは言った。

 

「気軽に『アルちゃん』って呼んであげると喜びますよ」

「ぶん殴られたいのか?」

 

 おどけた様子の39にアルバートがすかさず突っ込む。もし本気で彼に殴られでもしたら、月まで吹っ飛んでいってしまうかもしれない。想像しただけでも恐ろしい。

 

 でもその様子はなんだか可笑しくて、微笑ましくて、思わず笑みを浮かべてしまった。

 運転席にいるから誰も気付いていないだろうが、迂闊である。笑っただなんて知られたら大変なことになるかもしれない。しかし、あんな粗暴で乱暴な大男が『アルちゃん』だなんて、実に笑える。

 

「えぇ、分かったわ、アルちゃ……アルバート。会った時、最初は感じ悪くてごめんなさい。あと、助けてくれてありがとう」

「……フン」

 

 そっぽを向くアルバート。

 随分な態度だが、何となくだがこれは照れ隠しな気がする。それは、これまでの会話の節々から容易に感じ取れた。そう考えるとアルバートは中々に可愛らしい性格をしている。これが世に言う『ツンデレ』というものだろうか。

 

「そして、最後は……」

 

 そう言ってセーラが僕の方に視線を移してきた。どうやら僕の出番らしい。

 彼女たちとは随分と長いこと一緒にいた気がするが、名乗るのはこれが初めてになる。何故だか無性にドキドキしてきた。

 

 意を決して僕は、安全運転を心掛けつつみんなに聞こえるように自分の名を名乗った。

 

「僕の名前はルクス。ルシス王国「王の剣」所属のルクスだ。いまさらだけど、よろしく」

 

 こうして改めて自己紹介となると、なんだか気恥ずかしいような、むず痒いような不思議な気分になってくる。素っ気ない態度をとっていたアルバートの気持ちが、少しだけ理解できた気がした。

 

「よろしくね、ルクス。色々あったけれど、お互い無事で良かったわ」

 

 セーラがそう言う。そういえば彼女とはこの中では一番長い付き合いになる。何だかこれからも長い付き合いになりそうだ。

 

「んんん!! ルクス……良い名前ですね。なんだか輝いている感じがします」

 

 身を震わしてそう言うのは39だ。名前を褒められるのは悪い気はしない。ウヌクア……39という名前も良い名前だと思う。

 

「武器に付ければ強そうな名前だな」

 

 そうアルバートがなんとも不穏なことを言い出す。お願いだから流石にそれは止めて頂きたい。

 三者三様の反応に、僕の口からは空笑いが漏れた。

 

「頼むから、そんなことしないでくれよ」

 

 誰だって自分の名前を武器の名前にされたら気が気でないだろう。物騒なこと言っていたアルバートに向かって僕はそう懇願した。

 

 僕の思いを知ってか知らずか、アルバートは悪い笑みを浮かべ「さて、どうだろうね」と呟やく。この男ならヤろうと思えば本気でヤりそうだから恐ろしい。

 

「それで、ルクス。おまえはどうするんだ?」

 

 さっきまでの笑みを潜め、アルバートがそう聞いてきた。言葉は少なかったが、意味は簡単に理解できる。

 

「いまさらそれを聞くのか? 僕も一緒に行くよ。連れてってくれ」

 

 迷わず僕はそう答えた。

 

「……そうか」

 

 アルバートはそう言うと、以上何も言わなかった。

 

 セーラと比べてやけにすんなり認めてくれたのは、少しばかりは僕のことを認めてくれているからなのか、はたまた彼女ほど大事にされていないのかどちらだろうか? できることならば前者であって欲しい。 

 

「それにしても……結局のところあなたたちの正体は不明なのかしら?」

 

 セーラがふとそんな疑問を溢す。そういえば、結局この男たちの正体は分からずじまいであった。まあ、例え知ったところで理解できるのかも分からないのだけれども……。

 

 でも、まあ、それもそれで良いのだろう。

 

「まぁ、それは追々ということで」

 

 39がそうはぐらかしたように、この先それを知る機会は幾らでもある。僕たちの冒険はまだ始まったばかりなのだから。少なくとも、この砂漠地帯を抜けるまではそれは終わらないはずだ。もっとも、その間だけで知って良いこととも思えないが。

 

 そんなことを考えていると、突然、ガクンっと車体が揺れた。

 

 すわ帝国の襲撃か!? とにわかに警戒する仲間たちをよそに、運転席に座っていた僕だけが唯一その原因に気付く事ができた。

 

 あろうことか燃料メーターが示す数値が、もうゼロに近い。会話に夢中で今の今まで気付かなかったのだ。まあ、気付いたところでどうにかなる話しでもないのだが。

 

 ドンドンと車のスピードが落ち、見る見る内に減速し、しばらくして完全に停止した。砂漠のど真ん中で。なんてこったい!

 

「……これは仕方ないですね」

 

 そう言うと39が車外に出る。

 それに合わせてアルバートも出て行った。嫌な予感しかしない。

 

「燃料切れとは盲点だったな。あっちのマウントは燃料切れなんてなかったからな……」

「そもそも無限に動き続ける方が可笑しいんですよね。これは盲点でした」

 

 二人してそうぶつぶつと会話をしている。

 そして、何かするかと思いきや、二人ともそのまま前へと進んで歩き出した。嫌な予感が確信へと変わって行く。

 

「何やっているんだ? 行くぞ」

 

 振り返ってアルバートが僕たちに向けて言ってきた。もう観念するしかないだろう。

 

「え!? ちょっと待って、もしかして、歩いて行くつもり!?」

「多分、そうみたいだね……」

 

 有り得ないといった表情をするセーラ。当然だ。外は見るからに暑そうで、とてもじゃないが出たいとは思えない環境だった。ましてやここは、地平の先まで続く荒野のど真ん中だ。まったく、予備の燃料タンクぐらい入れておけよ帝国。

 

 これまで何度も思ってきたが、コイツら正気とは思えない。

 正直、冗談だと思いたいが、そんな思いが届くはずもなく、アルバートたちはドンドン先に行ってしまう。

 

「うっそ、冗談でしょう……あっ、ちょっと待って!」

 

 急いで僕たちも車から降りる。

 

 このまま待ち惚けていてもまた帝国に捕まるか、もしくは干からびて野垂れ死ぬだけだろう。外に出てもそれは変わらないかもしれないが、彼らと一緒にいた方が確実に安全だ。少なくとも今はそうであろう。

 

 車から降りると、僕の目の前には灼熱の太陽と、何処までも続く荒れ地と砂漠が広がっていた。

 

 

 慌てふためくセーラ。

 

 そんな彼女をなだめる39。

 

 我関せずを貫くアルバート。

 

 

 そんな彼等を見ていると、不思議とあの歌が思い出されてくる。

 

 懐かしい歌が、頭の中に流れてくる。

 子供のころ、母が歌ってくれた思い出の曲だ。 

 

 遠い遠い故郷を想った歌。 

 美しい山々。流れゆく川のせせらぎ。生い茂る木々。そしてそこで暮らす人々に想いを馳せた望郷の歌。

 

 果たしてこの道は故郷へと続く道になるのだろうか? もう決して戻らない遙かなる故郷へと……。

 そんなことを思いながら、僕は仲間たちのところへと急いだ。地平線の彼方まで砂と荒地しかないこの様子では、僕たちの冒険は思いの外長く続きそうだ。

 

 

 ああ、故郷に帰りたい。

 

 

 この先、何が待ち受けているか分からない。

 僕に何が起きるのか、何ができるのかも分からない。

 

 だけど……

 

 もしかしたらこれは、何者でもない僕たちが「星」を救う物語……になるかもしれない。

 

 

 




そのままカメラが下からグイッとパンして、タイトルロゴがドーン!!

 そんな感じでゲームの「オープニング~チュートリアル」をイメージしてここまで書いてみました。きっとここからオープンワールド的なゲームが始まるのだと思います。まあ、所詮妄想なんですがね(´・ω・`)

 紅蓮も始まるので、いちおうこれにて最終回です。では頑張ってアラミゴとドマを奪還しましょう!

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