英霊狩り、あるいは慈悲深き狩人の行動録   作:とけるキャラメル

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けものフレンズはいいぞ。貴公らも見たまえよ……


侵入

 その日は彼らにとって、ある意味幸運な日だった。慈悲の刃の名の通り、歪なその剣は名誉ある終わりを彼らにもたらしたのだから。

 

座という牢獄から解放された彼らあるいは彼女らは、いつの日か何者でもない『自分』に生まれ変わり、あるいは良き母の元に生まれ落ちるだろう。

それが真に幸福かどうかは分からないし、『彼』はそもそも殺人鬼たちの事情など知ったことではなかった。

 

どこでも、いつでもないその場所、『座』にひとつの空席ができた。かつて、確かに実在していたが、その正体はついに不明のまま。英雄と呼ぶにはあまりに血生臭く、矮小で、しかし人々によって恐怖という名の信仰を得た殺人鬼。その記録を消し去るほど軽んじることはできない、空いた穴を埋めるために適当な亡霊どもを詰め込もんでおこうか。霊長の抑止力がそんなことを考えたかは分からないが、とにかくそれが実行されようとしていた。

 

そのときである。

 

誰かが、そこにいた。

 

『そこ』は殺人鬼のための場所である。だが、まるで椅子取りゲームのように、しかしはじめからそこにいたと言われても納得できるほど、彼のたたずむ姿は自然だった。

 

『彼』の存在を認めた抑止力が最初にしたことは、『彼』を調べることだった。そして、すぐにその異常性を悟った。

 

何なのだ、あれは。

 

もし抑止力が確固たる人格を持っていれば、思わずこう口にしただろう。それほどまでに、『彼』は異常だった。古今東西のあらゆる英雄を記録してきた抑止力だったが、その抑止力をして、目の前の男は初めて目にする存在だった。

 

次元が違うのだ。比喩でも何でもなく、言葉の通りの意味。時空間を超越した『座』、そこに存在する『英霊』たち、人々の集合意識からなる『アラヤの抑止力』。すべてがちっぽけに感じられるほどに、存在そのものが、根本から異なっている。

 

『座』から『英霊』を解放するなど前例がない。時間の流れぬこの空間において、英霊の増加以外の変化をもたらすこいつは危険だ。

 

未知の来訪者に対し、霊長の抑止力はこう結論する。そして、しかる後に排除を試みた。具体的には、まず守護者、つまりは自らの手足となって働く、ごく格の低い英霊たちをけしかけてみる。結果は数秒で全滅。もとより英霊すら解放するような奴だ。ある意味、当然の結果である。続いて、今度はより高位の英霊をぶつけてみるも結果は同じ。狩られるまでの時間が多少延びただけに終わる。

 

お手上げである。少なくとも、抑止力はこれ以上の対抗手段を持たなかった。次なる手を考えていると、ある事実が判明する。

 

奴は自分からは攻撃してこない。そして、かつて殺人鬼がいた場所から動いていないのである。

 

まさか、ロンドンの殺人鬼に成り代わることが目的なのだろうか?座に侵入してまでやることがそれとは考えがたい。しかし現に『彼』はすっかり後釜に陣取るつもりのようである。

 

抑止力が判断しかねていると、『彼』に動きが見られた。『彼』から姿だけは寸分違わぬ、しかし見る影もないほど劣化した分身が生み出され、いずこかへ引っ張られていったのだ。英霊の分身、すなわちサーヴァントの召喚である。

 

これを見て、抑止力は手出しを諦めた。正確には判断を保留することにしたのだ。座に存在し、サーヴァントの召喚にまで答えるなどとはさすがに予想外である。なんにせよ、『彼』はすっかり英霊『ジャック・ザ・リッパー』として座に登録されてしまったようだ。

 

おとなしく、新たなジャック・ザ・リッパーを演じるのならば良い。だが、もし人類に仇なすことがあれば、そのときはーーー

 

もし、『そのとき』が来てしまったならば、抑止力はどうするのだろうか。いや、何ができるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 




見れば啓蒙が
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