仮面ファイター火引   作:酔いどれ狼

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 閲覧者数の伸びないっぷりに草不可避であります。

 やはり「転生したらケンでした」とかにすべきだったか……。


略してセミプロだ!

 未だ小学生低学年である弾は、義務教育を放棄するわけにも行かず、土日泊りがけで剛拳の下で学ぶことになった。 

 平日は、剛拳より指示された事を心がけて生活する。

 

 歩くときは出来るだけ早足で。しかし、周囲の状況には気をつけること。

 階段や坂道の上りは、人が少なく危険が無ければ走る事。鍛錬としてちょうどいい負荷となる上に、子供が階段を走っても誰も気にしないため。

 逆に下りは、危険を避けるためを除き、走らないよう指示された。これは腰や膝に負担が掛かるためだ。

 意図しての走り込みは禁じられ、柔軟体操を推奨された。故に長距離走は、学校の授業くらいでしかやっていない。

 

 練習を許された武技に関しては、思いのほか少ない。正拳突きと前蹴り、そして受け身である。

 いずれも出来るだけゆっくりと、正しい動作で、筋繊維の一本一本まで意識して行うように指示されている。

 これは都合が合えば強が見てくれるし、道場にはモーションを確認するための鏡もある。

 

 土曜日になると、弾は謝礼替わりの米、味噌・醤油・塩・煮干し・昆布等の調味料を入れたリュック背負い、水筒を肩にかけて家を出る。

 朝早くから交通機関を乗り継いで、剛拳の住む山寺へと向かうのだ。

 

 弾が剛拳が住まう荒れ寺に着き、荷物を降ろすと、早速柔軟体操をじっくりとさせられる。

 続いて、普段やっている正拳突きと前蹴り、そして受け身をみてもらう。普段の練習を確認し、不備を修正されるまで続ける。

 意識できていない部分について、剛拳は見逃さない。骨格や筋肉を意識し、きちんとした動きが出来るまで続けさせる。

 

 それらが終わると、剛拳の後をついて山林に踏み入り、よく見なければ道と分からぬような場所を踏破する。

 

「戦いの場が、いつも平らな場所ばかりとは限らぬ。山歩きに慣れていれば、いかなる場所でも戦えよう」

 

 つまりは、体が出来上がるまでは適度な体力づくりと、思考の柔軟さを養うことを優先しているわけである。

 同時に、棘があったりかぶれたりする危険な植物や、蛇や蜂、熊や猪といった危険な生き物に対する対処。

 茸や野草、果実等……食べられたり、負傷や不調を改善する薬効のあるもの。

 ぬかるみやすい場所や崩れやすい場所の見積もりなど、実地で説明する。

 

 体が温まれば、渓流に入り魚を獲る練習をする。

 ただし、素手で。

 もちろん、弾は一度も獲れたことが無い。

 

「最初はそんなものだ。まぁ、取れそうな場所まで魚が来るにはどうすればいいか考えてみよ」

 

 言いながら剛拳は、難なく捕らえた5匹のニジマスに串を打って塩を振り、組み上げた芝に指先から小さな灼熱波動拳を打ち込んで手早く焚火を起こすと、焼き始める。

 

「何回見ても、仙人か何かみたいだ」

 

 弾の言葉に、剛拳は苦笑を漏らす。

 

「確かに、波動を用いる(すべ)は道術じみて見えるかも知れんな。それは兎も角」

 

 気を散らすな……と促され、弾は膝まで浸かる水面を凝視する。

 剛拳を真似て摺り足で移動するが、当然の如く魚は逃げ散る。

 かといってじっとしていても、剛拳のように魚が寄ってくる様子も無い。

 

「無心と言うのは、何も考えないということではない。逆に、世の全ての事について注意を巡らせるのだ。だが、感情を乱してはならぬ」

 

 言いながら、強めに握り味噌を塗った握り飯を串に刺し、焦げ目をつける。

 

 魚の油の焼ける匂いに味噌の焦げる香りが加わり、弾はごくりと喉を鳴らす。

 

「はは、無心。無心じゃ、坊主」

「そんな無茶な……」

 

 情けなさそうな表情で腹の虫を鳴かす弾にひとしきり笑い、剛拳は魚が焼けると弾を呼び寄せる。

 

「ほれ、お前の分じゃ……飯の匂いが邪魔なら、食い終わった後なら多少は違うか?」

「そりゃまぁ、少しは……でもあんまり自信は」

「冗談じゃ。そう簡単にやられてはワシの立場が無いわい」

 

 そんなことを話しながら昼飯を終えると、再び山野を踏破し荒れ寺へと戻り、念入りに柔軟を済ませ。

 寺の裏で剛拳がやっている田畑に水をやったり、虫を取ったり、雑草を抜いたりする。

 

 そして暗くなる前に二人で飯の支度を整え、米が炊け汁が煮えるまで、再び正拳突きと前蹴り、そして受け身の動作を確認する。

 その後、汁をおかずに飯を食べる。

 

 洗い物を終え、暗くなったら就寝である。弾は粗末だが清潔な夜具を使うが、剛拳はそのまま板の間にごろりと横になる。

 曲げた右手を枕にした横向きの寝姿は、暗闇の中では単なる岩のようで、全く人の気配がしない。

 

 日が昇ると起床だ。

 昨夜の残りを温めなおす間に柔軟を済ませ、飯を腹に入れる。

 それから田畑の様子を見て世話をしたら、動作の確認をし、再び山野へと入る。

 昼飯を食べたら、弾は剛拳に礼を言い、下山して帰宅の徒につく。

 

 そして宿題を済ませ(流石に瞬殺である)、語学を勉強し、山での生活について話し合いながら家族で晩御飯を食べるのだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「セミ取り、ですか?」

 

 汗ばむ日も増えて来た、ある日の朝。

 朝飯を掻き混む手を止め、弾は首を傾げた。

 

「やったことはあるか?」

「いえ……」

 

 突然「セミが出てきたら、セミ取りをせよ」と言われた弾は、困惑していた。

 まぁ子供にとり、ありふれた遊びである。

 

「虫取り網を買わないと……」

 

 言いながら汁を吸った弾に、剛拳はしれっと言う。

 

「要らぬ。素手で獲れ」

 

 その言葉に、弾は思わず汁を吹きかけた。

 

「す、素手ですか?」

 

 バッタなどとは訳が違う。セミは木の高いところにいることがほとんどだ。

 しかも気づかれれば、更に高いところへ飛び去ってしまう。

 

「盛りになれば、低いところにいるやつも出るだろう。アブラゼミやクマゼミあたりなら、今年中にも取れるかも知れんな」

 

 ニイニイゼミあたりは難しいかもな……そう言って、剛拳は残った飯をかきこみ、空いた茶碗に茶を注ぐ。

 

「セミなら坊主の家の傍に、いくらでもいるだろう。まぁ、頑張ってみよ」

 

 ケガには気を付けてな……と言って茶を啜る剛拳に、弾はげんなりとした視線を向けた。

 

「なんじゃ、その目は。ゆくゆくは飛んでいるトンボや、蠅を箸で取ってもらうのだぞ。ほれ、このように」

 

 言いながら、傍を飛んでいた蠅を何気なく箸で捕らえてみせる剛拳に、弾は目を丸くした。

 

「宮本武蔵ですか」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 暑い最中。

 弾は外では常に、セミを求めて目を走らせるようになっていた。

 

 どの種類の蝉がいつ頃、どの時間帯に鳴くかを事前に調べてはいた。

 

 アブラゼミは蝉の中では鳴き始めるのが六月中旬辺りと比較的早い上に、昼前から夕方と鳴く時間が長く、「素手」という縛りが面倒ではあるが最も難易度は低い。

 鳴き声が面白いツクツクボウシは、八月から。時間帯は昼過ぎから日没までで、アブラゼミより短い上に数もやや少ない。

 クマゼミは七月上旬から。鳴くのは午前七時から10時頃までで、比較的短い。

 

 いついるかを知ってはいても、やはり素手縛りは厳しい。

 数が多ければ、確かに低いところにいるやつもいるかも知れない。

 学校の桜などに結構いるのだが、剛拳より折れやすい木の一つとして登ったりする事は禁じられていた。

 つまり、ジャンプして届くまでの高さにいなければ捕らえられない。

 多少の心得があったところで、所詮は小学生である。有効範囲は少々狭すぎた。

 

 また蝉は案外、音には鈍感で、複眼故に動くものに対し敏感である。

 故に、極めてゆっくりかつ小刻みにしか近づけない。ジャンプして取るなら、余程の手際でなければならないだろう。

 

「……」

 

 桜の幹の、目測で何とか手が届きそうなところで鳴き声を挙げるアブラゼミを見据え、弾はゆっくりと歩を進める。

 

 鳴き止んだら即停止。

 再び鳴き始めたら、接近再開。

 

 汗が目に入ろうが、余計な動きは慎む。

 

 そうして、ついに手が届くところまで移動し、そろそろとゆっくりと、小刻みに手を伸ばす。

 そして。

 

「!」

 

 意を決し、一気にセミを掴む。

 

「……獲れた……」

 

 自分の手の中でもがくセミを見ながら、弾は自分で驚いていた。

 

「すげぇ! まじか!」

 

 振り向くと、虫取り網を持った同級生が目を丸くしていた。

 

「火引って、セミ取りのプロだな!」

 

 そんな少年に、弾はセミを差し出した。

 

「いるか? 島田」

 

「えっ、いいのか?」

 

「ああ、取る練習してるだけで、セミは要らないし」

 

「さんきゅ!」

 

 嬉しそうに差し出してくる虫かごにセミを入れてやると、弾は次の獲物を探し始めた。

 

「俺も負けないぜ!」

 

 その背に、島田少年は声をかけ、網を構えて樹上を見上げた。




 個人的にケンには、それほど興味が持てないんですけれども。

 設定がバットマンとかアイアンマンと被ってる気がする。

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