マッコイとハルが二人して双眼鏡を覗きこむ。その先には、七両の戦車が鶴翼の陣を形成して移動している。チャーチル7一両、マチルダ四両、クルセイダー二両と初心者が多く集まった本日の相手としては強敵過ぎるような気がする。だが、戦車道経験者と趣味で戦車に乗っている奴も混ざっているから、善戦は出来ると踏んだ。
「流石にチャーチルとマチルダはナメクジみたいな速度してるな、ここから撃ったら二三両食べられるぞ」
「この試合は勝つための試合ではござらん、初心者の皆様に試合の緊張感を味わうための試合でござる。我々は最終的に倒しきれなかった敵を掃討する遊撃部隊、行動は最後の最後でござるよ」
「それもそうだな」
双眼鏡を下ろして静かに戦車に乗り込む。キューポラから他の戦車を確認する。
ポルシェのティーガーが学園艦のどこかに隠されている筈なんだが、見つけられなかった。まあそれでも、一年ちょっとで九両も戦車を取り揃えられたのは奇跡だな、と、マッコイは考えた。
「じゃあ、作戦開始と行きますか」
1
少年は酷く感じていた、居辛い雰囲気シミシミと。
面白半分で入学した大洗女子学園という高校。女子学園と名前が付いているが、共学の計画を学園側が提示して、日本中から四人の男子生徒を集めた。いや、募集点員は十人だったのだが、全国から集まったのは四人という心細い人数だった。その中の一人、松本浩二、親しい友人の間では、マッコイという愛称で親しまれている少年は少し後悔の念に苛まれていた。
「選択肢ミスったかもしれないな」小さな声で弱音を吐くと、隣の席に座っている男子生徒、中学からの友人、ハル、本名、春山春樹、身長152cm、体重49kgと見た目も顔も女の子だが、一応は男となっているにその独り言を聞かれてしまった。
「面白半分で入学したマッコイ殿が悪いでござるよ……まあ、付いてきた拙者も大概でござるが……」彼もまた、弱音を吐き出した。
「いや、募集点員十人だから振るい落とされると思ってたんだよハル、それが蓋を開けたら四人だけ、軽い恐怖があるぜ、どれだけ人気ないんだよこの高校」本当に面白半分で願書を出したが、蓋を開けたらなんとやら、他の高校も普通に受かっていたのだが、悪ノリの果てに入学してしまった。そして、その悪ノリに付いてきたハルはとばっちりだ。
二人は神妙な顔で大量の視線を身に受ける。男女の対比が色々と可笑しくなっている学園、学園艦の中には男性も住んでいるが、それでも女子生徒が圧倒的に多いのが現状だ。制服も汎用品の学ランに特注のボタンが付けられている程度の簡素なもの、それなりに目立つ。
しばらくすると教師が現れて、SHRをはじめる。そして、授業は普通に流れていった。
2
時間は経過して昼休み、深い溜め息をマッコイは吐き出して、それに誘われてハルも溜息を吐き出す。何もされていないとは言えど、色々と居心地の悪さを感じてしまう。最大の救いは中学時代からの友人のハルが隣に居ることだ。彼が居なかったら不登校になっていたかもしれないと心の中で呟いてみせる。
ハルは教科書類を机に仕舞って、突っ伏す。
「色々と疲れるな、この高校」
「それを選んだのはマッコイ殿でござるよ……」正論を言われたマッコイは少ししゅんとする。
離れた席に座っていた二人の男子生徒が静かに二人の元にやって来た。
マッコイも182cmの大柄な体格をしているが、それを軽く超える193cmの巨体と下手くそな化粧をしている大男がにっこりと笑みを浮かべて、声をかけた。マッコイもハルも苦笑いをみせて、どうも、と、声を揃えて挨拶をする。
「私の名前は岩下六郎よ、よろしくね♪」
「あ、ああ、俺の名前は松本浩二、親しい友人の間ではマッコイって言われてる」苦笑いを見せながら、自己紹介をするマッコイ。
「拙者は春山春樹でござる。ハルと呼ばれているでござるよ」マッコイに続いて自己紹介をするハル。
「二人ともあだ名があるのね? なら、私はロックでいいわ、中学の頃の友人にそう呼ばれてたの♪」六郎もとい、ロックは二人にアダ名で呼ぶように告げる。二人も静かに頷いてみせた。
ロックが一歩下がって、もう一人の男子生徒、身長はロックと打って変わって170cmと平均的で、中性的で柔らかい顔立ちの少年が代わりに前に出た。
「僕の名前は山崎新八だよ……中学の頃は……ジミーって呼ばれてた……」少し悲しそうな表情で静かに自己紹介をする。三人は地味にあだ名で呼びにくいな、なんて、心の底から思ったが、今のところ三人があだ名で呼び合うことを決めているため、心苦しいがあだ名で呼ぶことを決める。
「ハル、ロック、ジミー、そして、俺が四人の男子生徒か。まあ、少ない男同士、仲良くしようぜ」とマッコイ。
「これからよろしくでござる!」とハル。
「ええ、楽しくやりましょ」とロック。
「うん、よろしくね」とジミー。
四人全員が握手を交わして、信頼関係を強くする。四人は自己紹介を終わらせた後に学食に足を運びながら、中学時代の話に花を咲かせる。マッコイとハルは長崎県の中学出身でロックは青森の農家の長男。唯一地元茨城出身のジミーは色々なところから入学しているんだな、なんて、感心していた。
学食に到着すると多くの女子生徒の視線が四人に注がれる。四人は苦笑いを見せつつ、食券を購入しておばちゃんから注文したものを受け取り、四人がけの席に腰掛けた。
視線は徐々に分散され、最終的に注がれる視線はマッコイに集中する。世間一般から見て、一番整った顔立ちをしているのはマッコイであり、身長も高く、中性的から離れ、男性的な顔立ちをしている。テレビで見るようなアイドルタイプでこそないが、一昔前の俳優のようなイケメンではなく、ハンサムと呼べる顔立ちをしている。逆に、中性的でイケメンと呼べるのはジミーだ。
「うん、学食の品質はカレーの味で決まるよなぁ」注文したカレーを視線なんて気にしないで食べ進める姿にハルは苦笑いを見せる。なんやかんやで中学時代のマッコイのことを知っているので、女子生徒の視線の集まり方を理解している。こういう視線に強いのがマッコイのいいところだ。
「でも、男子生徒が四人だと部活とか作れないね」ジミーは少し沈んだ表情で部活動の話をはじめる。
「部活か……まあ、テニスとか卓球なら四人でも出来るだろう」マッコイはカレーを飲み込んでからそう告げる。だが、ジミーは首を振って、野球とか、サッカーみたいなメジャーなスポーツとか新設したかったんだよね、なんて言うが、テニスと卓球を一応はメジャーなスポーツだろうとマッコイからツッコミが入る。
「サクセスストーリーだよ、そういうのに憧れているんだ」三人は静かに頷いた。そして、ジミ―が少し面倒臭いやつなんだな、なんて、思ってしまった。
四人は少し考えて、新しく部活を作るなら何がいいかを考える。ハル以外は体格がよく、色々とスポーツに向いている。だが、誰一人運動部の発案はせず、四人それぞれが割れた。
「麻雀部」とマッコイ。親戚とそれなりの頻度で打っていたので、発案した部活だ。
「やっぱり王道を行く文芸部でござろう」とハル。見た目も心も基本的に文系だ。
「私は手芸部とかいいと思うわ」とロック。見た目は大男だが、心は乙女ということを示している。
「僕は将棋部とかがいいかな」とジミー。特別な意味はない。ただ、将棋を指せるからだ。
それぞれ深く考えて、静かに全部却下と告げる。流石に男四人で静かに文系の部活をするのは健康的ではない。なら、他の一人二人で出来る部活動。それを考えるのだが、思い浮かばないのがこの四人のキャパシティの低さだ。露呈している。
「じゃあ、放課後に部活巡りしようぜ、めぼしい部活があったら男子部を作ればいいわけだし」マッコイは三人にそう提示すると全員が了承した。
3
放課後、帰宅部の生徒達は即座に帰宅して、部活動をしている生徒達は部室に移動したりしている。学ランを着込んだ四人の男子生徒はシャキッとしない足取りでめぼしい部活を探していた。運動部を中心に探しているのだが、野球やサッカーというそれなりの人数が必要な部活ばかり活発に活動していて、めぼしい部活がなかなか見つからない。
マッコイは倉庫の前で嗅ぎ慣れた油の香りを感じる。
「……戦車?」マッコイは倉庫の扉を開ける。他三人はどうしたのだろうと思ってついていくと古びた四号戦車が静かに倉庫の中で眠っていた。マッコイは履帯の劣化具合や装甲のサビを確認し、最後にオイルが漏れているかを確認する。そして、最終的に下した判断はこの四号戦車は軽い整備で動くということだった。
「どのくらいで乗れるようになるでござるか?」ハルが質問するとマッコイは部品と工具があったら一日で余裕と返した。ロックとジミーは驚きの表情を見せる。
「実家が戦車整備工場なんだ。俺はそこの次男坊」ロックとジミーは静かに頷いて、四号戦車を眺める。
マッコイは少し考えて、四号戦車を撫でる。流石にこのまま放置されて、最終的に動かなくなるのは可哀想だ。自分は戦車整備工場の息子だ、戦車に思い入れはある。この程度の劣化なら、国から補助金を貰えばお釣りが帰ってくるくらいの金額でどうにかなる。
「なあ、戦車道をやらないか?」マッコイは三人にたずねる。
「でも、戦車道って女の子がやる武道だし」ジミーは少し違和感を感じているが、ロックが肩を叩く。
「私はやってみたいわ、戦車道。女の心もってるのに戦車道やれなくてイライラした時もあったし」ロックは了承してくれた。
「拙者はマッコイ殿の家のことを知ってる故、了承するでござるよ」ジミーも少し違和感を感じていたのだろうが、静かに頷いてくれた。
マッコイはこの戦車を綺麗にしてやらないといけないな、と、思ってもう一度四号戦車を撫でた。
4
後日。
生徒会室に入室して、生徒会長に一枚の書類を手渡す。生徒会長、角谷杏はその書類を見て、少し驚いた表情になる。その書類には、男子戦車道部と書かれている。戦車道は女性が行う武道として認知されているが、一応は男性の人口も辛うじて存在しているのが現状だ。だが、高校生で戦車道を行っている男子生徒は現状確認されていない。それに、戦車道は学科科目として選択する部分もある。だからこそ、部として存在させるかどうかは少し悩ましかった。
「会長? どうしますか」河嶋桃は会長にこの申請書をどうするかを尋ねる?
「まあ、戦車道って補助金すごいらしいし、部費もたいしてかからないから別にいいでしょ。ルールブックにも男がやっちゃだめってことは書かれてないわけだし」一応は戦車道の知識があるので了承の方向に向かう。
目の前に立っていたマッコイ以下三名は胸を撫で下ろす。
会長はマッコイに指をさし、なんの戦車に乗るのかを確認する。マッコイは倉庫に眠っている四号戦車を補助金で修復すると提示する。すると彼女は静かに頷いて、申請書に判子を押した。
「うちの学校、結構昔に戦車道やってたみたいだから戦車見つけたら修復しといて。もしかしたら戦車道復活させるかもしれないから」
その昔、大洗女子学園は戦車道が盛んな高校として有名だった。だが、時代の流れか、戦車道の人気は落ち、この高校では戦車道をやめた。高額で取引される戦車は売却されたが、微妙な価格の戦車は手付かずの状態で放置されているため、見つけ次第、整備して使える状態にしておいてくれとお願いされる。
「そうなんですか、わかりました。国への申請はこっちの方でやっておくので」
「助かるねぇ、この時期は生徒会が色々と忙しいんだよね」
四人は静かに生徒会室から退室する。
「男子戦車道部ですか、一応は戦車道の男性人口は存在しますが……」男が戦車道をすることに違和感を感じる桃だが、会長は手をひらひらと仰いで、それを否定する。
「うちの学校ぜんぜん入学生こないし、こいう目新しい部もあっていいんじゃない? それに、なんだったかな、戦車道の世界大会が日本で行われるとか行われないとか、それもあるし戦車を見つけて整備してくれる存在は結構貴重だと思ってね」桃は戦車道と縁の無い四人が整備なんてできるのかと考えていると、マッコイの書類を会長が静かに手渡してみせた。そして、彼女は静かに納得する。
「日本で三番目に大きい長崎の松本戦車整備……そこの次男坊ですか……」会長はにこやかに笑って、そうそうと返した。
この時、学園の全員が知り得なかっただろう、一年後の彼らの活躍を。
5
国からのGOサインが出たのは二週間後のことだった。国の行動にしては早いな、なんて、マッコイは思いつつ、実家に連絡を入れて四号戦車の部品と自分が使っていた工具一式を送るように頼んだ。パーツと工具が到着するのは早くても一週間後になる。その間、いや、国からの許可が出るまでの間に倉庫を片付けて戦車を収納できるスペースを確保したりしていた。
「パーツの発注完了。倉庫も粗方片付いたからな、新しい戦車探すのも悪くない」
「本当に捨てられているでござろうか? それに、エンジンが悪くなっていたり」
「その時はその時だ。中身は俺の実家から取り寄せればいい」
ピンク色のエプロンと赤色のバンダナをつけたロックがゴミ捨てから帰ってきて、額から流れる汗を袖で拭う。マッコイとハルは酷く暑苦しいな、なんて、心の底から思ったが、それは言わぬが花と言ったがものだと発言は控えた。
次に倉庫に戻ってきたジミーがノートを手に持ってにこやかに笑っている。
「図書室から戦車道をやってた頃の記録を書き留めてきたよ。何かの情報になったらいいね」マッコイはジミ―からノートを受け取り、パラパラと捲って内容を確認する。中々綺麗な文字だと感心しながら読み進めていると 38(t)の情報が目に入った。倉庫から近い場所に置いていると書いている。
「 38(t)が一番近い場所にあるな、油の匂いがわかれば一発で見つかるだろう」
「マッコイ殿は嗅覚が優れているでござるからな」
四人全員がジャージに着替えて、なぜだか倉庫に投げ捨てられていた虫あみと虫カゴを首にかけて学園艦の森の中に歩みを進めた。その姿を見た生徒はまだ寒いのに虫取りに行くとは夢にも思わなかったと語っている。正直、これはマッコイの悪乗りだったのだが。
「お、バッタがいる……」マッコイは無言でそのバッタを捕まえようとするが、ハルが小学生じゃないんだからやめろと言われて悲しそうに捕まえることをやめた。高校一年生になる男が小学校低学年のような行動をしたらいけない。
四人は軽いハイキング気分で森の中を踏破していると獣道を発見する。野犬や野良猫が作ったものだろうか、そう思いつつ、好奇心から四人は獣道に足を踏み入れる。するとマッコイの鼻が反応する。油の香りが漂い始めた。
「近いな」
「そうなんでござるか?」
「ああ、すぐに見つかる」
獣道を通り、そして、発見する―― 38(t)を。
「おお、本当にあったわね」ロックは可愛らしい戦車ね、と、装甲を撫でた。
「チェコ・スロバキアが製造した軽戦車 38(t)、まあ、本国で使用されることはあまりなくて、侵略された後にドイツの電撃戦を支えた戦車だ。こいつは比較的有名で、カスタムパーツも大量に出回っている。それに四人乗り、四号より乗りやすいかもしれないな」
「四号が嫉妬するでござるよ」違いないとマッコイが告げると三人は苦笑いを見せた。
マッコイは車両の劣化具合を確かめて、何日で修復できるかを計算する。そして、最終的に出された日数は一日か二日、小型の車両ということで整備が比較的楽という部分と開けた場所に捨てられていたので重機の使用が楽だという点もある。なんなら、修復した四号で牽引することも可能だ。
「よし、木に印をつけて帰るか」
通った道の木に尖った石で傷をつけながら倉庫に戻る。四号戦車の修復が終わったらすぐに取りに来ようと心に誓った。
6
四号戦車と追加で注文した 38(t)の修復部品が一気に到着して四人は心を踊らせていた。まず手始めにマッコイが四号戦車のエンジンを取り出し、オーバーホールを開始する。その間に細々としたパーツを他三人が準備して、マッコイが手早く作業出来るようにする。
そして四号戦車がエンジンサウンドを響かせたのは、夜十時という時間帯だった。ツナギを着たマッコイは顔中、体中黒く汚れて、他三人もどこかしらに油汚れをつけていた。
「流石に一人でオーバーホールするのは辛いぜ、でも、これでエンジンが動く。次は履帯の交換と車内の清掃なんだが、時間も時間だ、一旦家に帰ろう」
「了解でござる」
「わかったわ」
「結構作業したね、腰が痛いよ」
7
翌日の放課後。
履帯交換を素早く行い、四号戦車を外に出す。すると運動部の面々に驚いた表情をされるが、そんなことお構いなしで上着を脱ぎ捨てて水着姿になる。今日は比較的暖かいので水着姿でも構わない。
マッコイは鍛えられた屈強な筋肉を女子生徒に見せつける。その姿を見た生徒は後にこう語る。松本くんの筋肉は本物で、抱きしめられたいと。
ロックも女性物の水着姿になる。その姿を見た生徒は後にこう語る。松本くんと同じくらいの筋肉なんだけど、女性物の水着は少し……。
ハルも水着姿になるが、即座に他の生徒に連れて行かれ、なぜだかさらしを胸に巻かれてしまった。一応は男子生徒となっているのだろうが、他の生徒には女子生徒と見られているのだろうか? 三人は苦笑いを見せた。
ジミーも水着姿になる。軽く鍛えられていて、まあ、普通だった。感想に困る。
「なんでござろうか……拙者、男子でござるのに……」
「ご愁傷さま」
「早く洗いましょ、この子も油まみれじゃあ可哀想だし」
「ホース持ってきたよ」
ブラシと洗剤を駆使して四号戦車を綺麗にしていく。
三時間後、外装内装も綺麗になり、実戦に使用してもなんら問題ないくらいになった。
マッコイは熱い視線を感じて、その視線の方向を見ると癖毛の生徒が物陰から目を輝かせて四号戦車を眺めていた。彼が手招きをするとヒャイッと可愛らしい叫び声をあげて、物陰に隠れなおす。だが、マッコイが手招きを続けると恥ずかしげに彼らの元にやってきて、顔を赤らめながら一礼。
「戦車好きなの? 名前は」
「あの、えっと……秋山優花里です……」
「俺の名前は松本浩二、隣が春山春樹、その隣が岩下六郎、そして……その隣がジミーだ」
「なんで僕だけ本名忘れてるのさ!? 山崎新八だよ!!」
ジミーの鋭いツッコミが入る。流石は新八の名前を持つ者、ツッコミの才能はピカイチだ。
「松本殿、春山殿、岩下殿、ジミ―でありますね!」
「なんで僕だけ殿をつけてくれないのさ! 下に見られてるの!?」ジミーはシクシクと涙を流しながら、地面に崩れ落ちた。まあ、おまえは色々とネタキャラ枠だからな、と、マッコイ達は思った。
マッコイは運転席に移動して、エンジンをかける。すると、
「ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!」と優花里が声を上げた。心地いいエンジンサウンドが身に沁みたのだろう。
「今からもう一両戦車を取りに行くんだけど、一緒に来る? 一応は五人乗りだから」 38(t)の牽引作業に付いてくるかを確認する。
「いいんですか!?」 一つ返事で了承してくれた。四人はよっぽど戦車が好きなんだろうと苦笑いを見せた。
マッコイが運転席に座り、全員が戦車に乗ったかを確認する。五人全員が四号戦車に乗り込んだので、手慣れた手付きで操作し、 38(t)がある森林に向かった。
「試合で使うなら俺が戦車長になる必要があるからな、誰か運転したい奴って居るか?」
「僕が運転手になりたいな、乗り物動かすのって楽しそうだから」とジミー。
「じゃあ、拙者は砲手になりたいでござる」とハル。
「じゃあ私は装填手かしら」とロック。
「じゃあ、わたしは通信手ですね!」と優花里。
こうして、四号戦車は五人の乗組員を手に入れた。ついでに一人部員が増えた。
段差を超え、雑草を超え、木々をかき分けて、 38(t)が放置された場所に到着した。優花里は興奮気味に 38(t)を頬擦りして、感動している。そして、 38(t)の歴史を語ったり、色々と満足しているようだ。マッコイは苦笑いを見せつつ、ワイヤーを取り出して、四号戦車に連結、 38(t)の引っ掛けに取り付けて牽引を開始する。
「劣化が酷いですが、パーツはあるのですか?」
「四号戦車のパーツと一緒に送ってもらってる。まあ、今日はもう遅いから明日の作業になるがな」
「あ、あの! わたしも来てもいいでありますか!?」
「いいよ、オカマだけじゃあ花がないし」
「私に花がないって言いたいの!? 怒るわよ!」
全員で笑い合って倉庫に 38(t)を搬入した。
to be continued
【おまけ】
少女、武部沙織は恋をしていた。恋に恋する少女ではなく、真剣に一人の男に恋をしている乙女になっている。お相手は、隣のクラスの松本浩二、マッコイである。高身長、高いルックス、落ち着いた貫禄、それでいて遊び心を忘れない仕草、そのすべてが彼女の女の部分を高ぶらせていた。
だが、彼女は恋の方向性を少しばかり間違えてしまう。本日開かれる写真密売会、彼女はそこに足を運ぼうとしていた。もちろん、密売写真ということは許可を得ないで撮られた写真の売買であり、撮られている存在は、まあ、男子生徒だ。女子校の大洗女子学園に颯爽と現れた一人のハンサム、一人の男の娘、一人のオカマ、一人の地味。誰の売り買いが激しいかは一目瞭然だ。
「あの、沙織さん? こんな場所でコソコソして何を」
「ヒャイッ!?」
挙動不審に密売場に足を運ぼうとしていたら友人の五十鈴華に声をかけられてしまった。沙織はオドオドとした表情で写真を買いに行くのと隠さないといけないのに、素直な自分に押し負けて、密売写真を買いに行くことをばらしてしまう。華は写真集でも本屋に買いに行くのだろうかと思ってご一緒しますと告げると沙織はいや、大丈夫だから! と、突っぱねるが、華は好奇心から彼女についていってしまう。
「松本くんの水着写真500円、データなら250円」
密売場と化した体育館の倉庫、そこには多くの女子生徒が血眼になってマッコイの写真を買い漁っていた。沙織は身を乗り出して千円札をチラつかせ、マッコイの水着写真を二枚購入する。その姿を見た華はポカンとした表情で事態を飲み込めないでいた。
「コレクションに追加だね!」
「沙織さん……ここは……」
「あ、華……ここは恋心を抱いた女の子の集いだよ……」
沙織は二千円分の写真を購入して満足げな表情で倉庫を出た。華は十分くらい困惑してから、その場を去った。
【松本浩二】
マッコイと親しい友人の間では呼ばれている。実家が戦車整備工場ということもあり、小さい頃から戦車の重たい部品を運んだりして体は綺麗に出来上がっている。中学時代は重たい部品を運びたい一心で筋トレに励んだりして、細マッチョとゴリマッチョの中間くらいの筋肉になっている。この物語の主人公。
【春山春樹】
ハルと親しい友人の間では呼ばれている。体格も顔も女の子なので、中学時代は男子生徒から告白の荒らし。それを避けるためにござるという変な口調を取り入れたが、猛者達はそれを萌え要素として受け取り、告白の数は増加した。
【岩下六郎】
マッコイとハルがあだ名で呼び合っているので、中学時代に呼ばれていたロックというあだ名を取り出して、三人にそう呼ばせている。青森のリンゴ農家の長男。女の心を持っており、大洗女子学園に入学した。
【山崎新八】
小中高と親しい友人からジミーと呼ばれ、色々と悲しみを背負っている。四人の中で唯一の茨城出身で、大洗にも詳しい。入学理由は友人に進められて、断れなかったから。