男達の戦車道   作:那由他01

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05:地下探索ウォー

 機動戦士ガンダム、それはリアルロボットジャンルを開拓した名作である。スーパーロボット物が多く出回っていたあの時代にリアルロボットを流行らせ、ボトムズと一緒にリアルを追求した作品。ギアスやアルドノア・ゼロもこれらのリアルロボットに触発されたのが容易に考えつく。

 マッコイは軽いガノタである。そこまで重度なガノタではないのだが、ガンダムという作品が好きなのである。だが、彼は連邦軍の機体を愛してはいない。彼はジオニストなのだ。

 

「やっぱりイフリートはカッコイイな……」マッコイは組み上がったイフリート改のプラモデルを目を輝かせて、全周囲から眺めている。

「珍しい機体ね、どの時代のガンダムなの?」ロックが尋ねると一年戦争の機体なんだけど、一年戦争の派生作品に登場するんだよなぁ、と、饒舌になる。

 

 今日は学園艦としては珍しい雨の日である。そんな雨の日こそ悪天候時の戦闘を考慮して訓練をしなければならないのだが、この戦車道部は自由にやるのが基本であり練習試合くらいの時にしか、対戦車戦をやるようなことはないのでこういう日は戦車倉庫でダラダラするのがいつものことである。

 ねこにゃー達は自前のノートパソコンで戦車のゲームをしている。

 新聞部の五人は戦車道部の記事をどう纏めるかを五人で話し合っている。

 ジミーとハルは自分のか弱い体をどうにか男らしくするために筋トレに励んでいる。

 

「こういう日も時々は必要よね」ロックは毛糸を編み込んで人形を制作しはじめる。

「まあ、公式戦に出るわけじゃないし、英気を養うのも部活の醍醐味だ」イフリート改のプラモを棚に飾って、ケンプファーのプラモに手を伸ばす。

 

 こうして、時間は流れていく、わけもなく、部活に顔を出していない一人が駆けつけてダラダラ流れていた時間に終止符が打たれるのである。

 遅れました、と、明るい声と同時に邪魔するよーというマッコイだけが聞き慣れた声が響く。マッコイはニッパーを机に置いて、あれ会長さん、どうしたんですか、と、声の主に質問を投げつける。優花里が連れてきたのは生徒会の三人娘、角谷杏、河嶋桃、小山柚子である。頭上に?マークを作りながらも、一応はお客さんなので面白半分で制作したこの倉庫で作れる飲み物のメニューを手渡した。

 

「こういう物も作っているのか」桃が若干呆れた表情でメニューを受け取る。

「じゃあ、抹茶オーレ!」会長が切り出してから、二人も飲み物を注文する。

「かしこま、少々お待ち下さい」マッコイは倉庫の片隅に設置してある簡易キッチンに足を運び、慣れた手付きで三人分の飲み物を仕上げる。

 

 会長がうっわ、喫茶店並みで気持ち悪いと表現してから、会話がはじまる。

 マッコイはどうしたんですか、急に現れて、と、不思議そうな表情で単刀直入に要件を聞き行く。すると丁度暇になったから戦車道部を覗きに来たと簡単に内容を話した。マッコイは困った表情になり、今日は雨だから練習も捜索も休みにしてるんですよ、でも、練習を見たいんだったら男子だけで動かしますよ、そう話した。

 会長はうちらもゆるい感じで生徒会してるから大丈夫、そう告げて、飲み物に手を伸ばす。

 

「じゃあ、飲み物が無くなったら言ってください。俺はプラモ作るんで」マッコイは作りかけのケンプファーのプラモデルに手を伸ばす。が、会長がチョイマチと声をかけてプラモデル制作に待ったを出す。

「松本ちゃんも暇なんだよね?」マッコイは暇ですよ、だからプラモデルを作ってるんですと不思議そうな表情で返事を返す。会長は暇潰しにこのビラを地下まで届けてくれないかな? そう尋ねる。マッコイはビラを手に取り内容を確認する。内容は酷く簡単で授業受けろという文字がいっぱいいっぱい書かれていた。

 

 会長は饒舌に語り始めた。この船の地下には色々とヤバイ連中が蠢いていると。流石に女の子三人で乗り込んで何か出来るわけものないので男子の力を借りたい。マッコイは「どのくらいヤバイんですか」と質問する。会長は「刃物持ってる子が少し居るくらいかなぁ?」そう返した。

 

「ロック、一緒に行こうぜ。一人だと寂しい」ロックは喧嘩にならないといいけど、そう言って編み物をしている手を止めた。

「流石は男の子、こういう時に頼りになるなぁ」会長は肩をトントンと叩いて激励する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 マッコイはダンボール箱の中から学園艦の地図を取り出して、地下に続く場所を深く確認する。「結構近い場所にあるな」そう言って地図をポケットの中に仕舞い込んだ。

 

「じゃあ……優花里、まとめ役頼む」今、倉庫に居る面子の中で一番暇そうで責任感の強い優花里にまとめ役をお願いする。

「了解であります!」優花里はハッキリとした声で任されたことを受け入れた。

 

 マッコイとロックはスタスタとスッキリした足取りで地下へと続く道を歩いた。

 

 

 薄暗い地下の中を携帯の懐中電灯アプリを駆使しながら進んでいく。マッコイは「学園艦の地下って小汚いんだな」そう言って掃除も何もされていない壁を人差し指でなぞり、溜まった誇りを一息で吹き飛ばした。ロックは「だだっ広い学園艦、それも地下を掃除する人なんて居ないわよ」と言って若干ぬめりをおびた地面に顔を歪めている。

 

「お、第一村人発見」

 

 なんか、ビールのようなものを飲んでいる第一村人、もとい、地下で何かをしている生徒にビラを手渡そうとするが、「そんなのいらねぇよ」そう突っぱねられて、ビラの受け取り拒否をされてしまう。さて、どうしたものだろうか、会長からは地下まで届けろと言われただけで、それ以外は基本的には何も言われていない。ビラの枚数も限られているわけだし、一人一人に満遍なく行き渡らせるなんてことは無理だろう。

 マッコイは少し考えて、流石に第一村人に渡さないのも駄目なのでビラを二つに折り、第一村人の胸元をぴょいと開けて差し込んだ。第一村人は顔を真赤にして何するんだ! そう叫んだが、マッコイの顔を見て何も言えなくなる。

 

「お嬢さん、未成年の飲酒は肝臓をダメにするから程々にね」

「は、はい!」

 

 ロックは「色男は何でも許されるのね」と言って第一村人に手を振った。

 二人でテクテクと歩いて途中に有刺鉄線で通れなくなった場所がある。マッコイは辺りを見渡して、足に付けられた鞘からサバイバルナイフを抜き取り、一刀両断。ロックは口笛を吹いて「凄いテクニックね」そう言って褒め称えた。マッコイはナイフ仕込んでること誰にも言わないでくれと念を押して先に進む。

 第一村人発見から三十歩と言ったところだろうか? 大量の村人達が飲んだくれたり刃物をチラつかせたりしている。マッコイは「ビジュアル系ロックバンドの溜まり場みてー」と素直な感想を述べた。さて、女の子率ほぼ99%に色男が一人だけ迷い込んでいる現状だ。どういう声をかけられるか?

 

「良い男だね……一発どう……」

 

 真っ金金に髪を染め上げた女の子がマッコイの首に手をかける。マッコイは飄々とした表情で彼女の胸を揉んだ。すると村娘Aはヒッと可愛らしい声を出して顔を真赤にする。マッコイの攻撃は終わらない、村娘Aのスカートをたくし上げ、色を確認する。彼女は驚きのあまりその場に座り込んだ。

 

「真っ金金なのにくまさんパンツとは……最高だな!」

 

 村娘Aは「ひどいよー!!」と大きな声を上げて消えていった。マッコイは一発どうなんて言ったのに行動がまるで生娘だな、なんて苦笑いを見せた。さて、ビラ配りはまだ終わっていない。集落が形成されているのだ、この場で出来る限りビラを配ろうと思う。

 

「あ゛あ゛!?」

 

 物凄く威嚇する村娘Bのスカートを無表情でたくし上げ、パンツに折りたたんだビラを挟む。威嚇していた少女は顔を真赤にし「彼氏にも下着見せたこと無いのに」なんて弱々しい言葉を言い放った。地下の女の子達は見た目以外は基本的に生娘のそれなのだなと鼻で笑った。

 だが、集落の村娘達の堪忍袋はもう切れていた。自分達のテリトリーに土足で踏み込んでくるよくわからない男二人、これは殺さなくてはならない。そう思って各々が武器を構え、マッコイとロックに立ち向かった。

 村娘Cの攻撃、回避された。

 マッコイの攻撃、胸を揉みしだいた。

 村娘Cに精神的なダメージ、ビラを受け取って崩れ落ちた。

 マッコイはニンマリと変態染みた笑みを浮かべながら向かってくる女の子一人一人にセクハラ行為をしまくる。防犯カメラも何も設置されていない場所だ、どれだけセクハラしても許される。だから今日は羽目を外して欲望のままにセクハラをしようと思っている。ロックは女の子には興味が無いので少し離れた位地でマッコイのセクハラ劇を静観していた。

 さて、十分くらい経っただろうか、ほぼ全員にセクハラが完了し、中にはパンツを濡らしている子まで現れている始末。マッコイは女の体って良いよな、なんて気持ち悪いことを平気のへの字で言っているが、大半の村娘達は胸をときめかせていた。

 

「あと三枚か。地図によると……」

 

 マッコイは地図を取り出してこれ以上深い場所はあるのかどうかを確認する。あるにはある。だが、そこまでのスペースは設けられていない。三枚あれば足りるだろうと言った。ロックはうちの部長が変態でごめんなさいね、そう村娘達に言ってマッコイの後を歩く。

 

「……オナネタが出来たぜ」

 

 村娘の艷やかな声が後方から響いた。

 マッコイは地面に散乱しているゴミを革靴で払い除けてハシゴを登ったり、下ったり、ポールを滑り落ちたり色々と冒険をする。さて、最終的に行き着いた先は行き止まりになっていた。マッコイは地図を確認し、この先に部屋があることを理解する。

 

「この辺りか……」マッコイが岩造りの壁を蹴るとクルリと一回転して道ができる。ロックはすごい仕掛けね、と、素直に驚いている。

「お、ネオンライトの光……風俗か? 三万円しか財布に入ってないんだが」ロックが学校の中に風俗なんてあるわけないでしょ、なんてトゲのある言い方で否定した。

 

 マッコイは臆することなくネオンライトの光が輝く扉を開いた。すると物凄く濃ゆい四人が酒を楽しんでいた。マッコイは何食わぬ顔で席に座り、バーテンダー的な格好をした少女を見る。

 

「ジャックダニエルを一本開けてくれ。ロックも何か飲もうぜ」

「じゃあ、適当な芋を一本開けて」

「……かしこまりました」

 

【未成年の飲酒はいけません!】

 

 気前よく一瓶開けた。バーテンダーは棚からジャックダニエルと赤霧島を持ってきた。そしてかち割り氷とグラスを用意し、どうぞ、と、ひと声かけた。マッコイは慣れた手付きでグラスに氷を一個投げ入れてガブガブと注ぎ、濃ゆい一杯を喉を鳴らして飲み干す。

 

「ああ、久しぶりの飲酒だぜ」マッコイはもう一杯ジャックダニエルを注ぎ、今度はチビチビと煽る。

「悪くないわね」ロックも赤霧島を注いでチビチビと煽る。

 

 壁側の席に静かに座っている少女がチラリとマッコイのことを見た。マッコイは意味深に親指を人差し指と中指に差し込んで彼女にチラつかせる。彼女は顔を真赤にしてグラスをマッコイの顔に投げつけるが、それを平然とキャッチしてジャックダニエルを注ぎ、スチャッと滑らせて渡す。

 

「あんた達……見ない顔だね……」壁際の席に座っていた少女が質問した。

「ああ、生徒会長からこれを渡すように頼まれてな」マッコイは三枚のビラを取り出してカウンターに置く。内容は前に説明したように授業を受けろという文字がただ大きく書かれたものだ。

「はっ、わたし達に授業を受けろとは……」彼女は鼻で笑ってそのビラを投げ捨てた。

 

 マッコイはジャックダニエルを飲み干してロックを見る。ロックは笑って赤霧島を飲み干して、立ち上がる。二人が立ち上がる姿を見てバーテンダーは白マーカーを取り出し、キープしますか? そう尋ねる。マッコイは三ヶ月来なかったら常連に飲ませてくれと言ってロックと一緒に名前を書いた。

 

「一万で足りるだろ、お釣りはいらん」マッコイは財布の中から一万円札を取り出してバーテンダーに渡す。

「ちょっと待ちな、色男が二杯飲んだだけで帰るのはいけないねぇ」壁際の席に座った少女がマッコイに熱い視線を向ける。マッコイは仕事が終わったら帰るだろと率直に言うが、酒場は娯楽場の一つ、職場じゃないと返されると少し考えてしまう。

「松本浩二……わたしはお銀、竜巻のお銀さ」キープしたボトルを見てマッコイの名前を言う窓際の席に座る少女改め、お銀。

 

 マッコイは背後から迫る少女の攻撃をスッと躱す。気付かれていないと思っていた大柄な少女は大振りな攻撃だったため、ゴトンと大きな音を立てて倒れた。マッコイは「まあ、酒場ならこうなるわな」そう言って苦笑いを見せる。

 

「酔っ払いの少女さん達よ、地の文を書いてる人が書きにくいから全員自己紹介しなさいな」マッコイが露骨にメタいことを言い放つ。

「まあ、書きにくそうだったもんね」ロックも私の苦労を理解している。

 

 少女五人が戦隊モノのように並んで一人一人自己紹介をはじめた。

 

「二度目の自己紹介だが、竜巻のお銀さ」褐色肌の黒髪の少女。

「なんかよくわかんないけど、爆弾低気圧のラム」赤毛のパンチパーマ少女。

「私はサルガッソーのムラカミ」筋肉質で大柄な少女。

「大波のフリント!」銀髪のひょろ長い少女。

「生しらす丼のカトラス」バーテンダー姿の金髪少女。

「色々なものを取り揃える頭の可笑しい男マッコイ」マッコイが面白半分で付け足す。

「青森の林檎農家の長男、ロックよ」ロックも続いた。

 

 マッコイの温情で全員の自己紹介が済んだ。さて、お銀が何をしたいのかと言えば、この学園艦では珍しい男子生徒を色々と調べたかったというところがある。正直な話をするとこの地下に燻っている自分達には珍しい男子生徒、生娘を捨てる機会なのでは? ロックは論外だが、マッコイは誰から見ても色男。悪くない。

 

「……一つ聞きたいんだが、貴方達は何年生?」マッコイが名前だけでは学年がわからないという顔で何年生なのかを尋ねる。

「全員一年生さ」お銀が胸を張って言い放つ。ロックはその発言を聞いて腹を抱えて笑いはじめた。

 

 マッコイは五人を笑い飛ばした。「流石に一年生からこんな地下に閉じ籠もってどうすんの?」とゲラゲラ笑いながら一人一人の肩をたたいて――「全員外の空気吸いに行くぞ」そう言って二つの手とロックの二つの手を使って来た道を引き返す。カトラスという少女は何も言わないで二人と引きずられる四人に付いてきた。

 

 

 さて、倉庫に帰ってきた二人を出迎えたのはメイド服に着替えた優花里だった。マッコイはお銀とフロントの襟首を掴んだまま、「どうしたんだよ優花里? メイド喫茶みたいな格好をして」と質問する。すると優花里は「生徒会の人達にやられちゃいました」と素直に言った。そして、似合ってるかの是非を問う。マッコイは素直に似合ってると言ったら赤面してありがとうございますと言った。

 

「おお、船舶科の問題児五人じゃん」会長さんはポカンとした表情でマッコイとロックが連れてきた五人を眺める。

「ああ、この引き籠もりに外の空気吸わせるついでに勉強させようと」カトラス以外の四人は露骨に嫌そうな表情になる。だが、マッコイは知り合った縁、同じ一年生、二年と少しの間同級生として勉学に励まないといけないという責任感のようなものを感じている。

 

 マッコイは五人を座らせて、自分の教科書を鞄の中から取り出す。船舶科は頭が良い奴が多いのだが、見る限り頭が悪そうな四人にはキッチリと勉強させなければならないと思った。鞄の中から最初に取り出したのは数学の教科書だ。

 

「さて、勉強しましょうか?」マッコイの狂気を滲ませる笑みを見て四人は反論することが出来なかった。

 

 その後は早かった。何やかんやで船舶科に所属している生徒達、頭はそれなりに良く、スポンジのように勉学という水を吸収していく。性格も積極的な部分が多く、わからないところはマッコイに質問して自分なりに答えを導いていく。

 

「……松本、この部分はどうやるんだ」お銀が用意されたコピー用紙に方程式を書き記しているが、躓いている。

「ああ、ここはコレを利用するんだよ」マッコイは的確にわからない部分を教えて次の質問者に移る。

「……松本、これはどうやるのだ」なぜだか参加している河嶋桃にマッコイは蔑みの表情を浮かべていた。その表情を見て桃は会長に言われたから参加しているだけだ! そう叫ぶが、手元にあるコピー用紙には酷く雑な方程式が書かれている。マッコイは最初から間違っていますよ、これはここで、ここはこうですと答える。そして、先輩に勉強を教えることになるとはと聞こえない声で呟いた。

 

 さて、六人に勉強を教えていると日が暮れ始めた。マッコイが切り上げの時刻だな、そう呟くとカトラス以外の五人が深くため息をついた。マッコイは忘れないように気にかけろと言って、六人に方程式を書いたコピー用紙を持たせる。

 

「勉強したくなったら放課後に来い、練習してなければ大体はいる」マッコイがそう言うとお銀は顔を赤くしながら勉強以外の用事で来ては駄目か? そう尋ねる。するとマッコイはテストが終わって、教師から何も言われなかったら付き合ってやると返した。

「松本ちゃんって勉強も出来るんだね」会長が驚いたという表情でマッコイに尋ねた。マッコイは「将来は実家の営業をしようと思ってるから、勉学には人一倍尽力してるんです」と返した。会長は天は二物を与えるわけかぁと頷いた。

 

 会長はメイド服の優花里に目の保養になったよ、そう言って二人を引き連れて帰った。

 

「じゃあ、おまえ達も解散」マッコイはクタクタになった船舶科の五人を開放する。各自は疲れたから自宅に帰るという会話を繰り広げながら出ていった。

 

 マッコイはその姿を見て、一週間後に授業に出ているかどうか会長に聞いてみようと思った。

 戦車道部の面々は帰りの準備を開始するが、優花里がどうしようという情けない声を出して一斉に準備の手を止める。マッコイが「どうしたんだよ」そう尋ねるとメイド服のファスナーに手が届かないという事態が起きていたらしい。マッコイは俺がやろうと一言告げてファスナーを下ろす。手癖の悪さが現れた。

 優花里のヒャ!? という声で全員が注目する。マッコイは「あ、やべぇ……」と口を開ける。何をしたかと言えば、ファスナーを下ろす瞬間に優花里のブラのホックを外したのだ。優花里は顔を真赤にしてマッコイを見る。マッコイは事故だと言って難を逃れようとするが、優花里が意図的に外された感覚がありましたと言ってマッコイにセクハラ摘発の片道切符を提供する。

 

「……もうしないでくださいね」優花里の鋭い視線がマッコイを攻撃する。

「……はい」今日はセクハラをし過ぎてセクハラOKな日だと体が勘違いしていたようだ。

 

 許されたが、仲の良い女友達に不信感を与えたのはマッコイ最大の誤算だった。

 

 

【おまけ】

 

 角谷杏は歴代の生徒会長達が残した書類に目を通していた。歴代と言っても、ここ十数年のものではなく、戦車道がまだ盛んだった頃の生徒会長達が残した書類。現代の紙よりずっと安っぽい紙が使用されている。彼女はこの紙の中に戦車の情報が無いのかと思って詮索している。

 

「うちの学校、戦車道に特化した時期もあったんだねぇ……」

 

 歴代の生徒会長の一人が戦車に乗っている写真がファイルの中に挟まっていた。それを見て彼女は素直に「楽しそうだなぁ」そう呟く。マッコイ達は楽しんで戦車に乗っている。マッコイ達のおかげで身動きがとれる金額が学校側に入る。味をしめてしまっているのだ。

 何の魅力もない学校、「大洗女子学園」将来的には「大洗学園」になる予定。だが、男子生徒を四人入れただけで偉い人が頑張りなさいと言ってくれるという確証はない。戦車道、それを復活させるタイミングは来年度だ。来年度に戦車道を復活させる。綺麗な状態の戦車をオープンスクールなどで展覧したら少数だろうが、アンツィオなどに行くような戦車道目当ての生徒も集まるかもしれない。

 

「杏、そんなに気を詰めたら熱出しちゃうよ」小山柚子が心配そうに彼女のことを見つめる。

「おっと、いけないいけない。松本ちゃんを見習って緩くやらないと」会長は頬を赤くして頭を掻いた。

「杏って年上が好みだと思ってたけど、年下もイケるのね」会長は顔を真赤にする。

「そ、そそ、そんなわけないにゃいしゃん!」顔を両手で隠してそっぽを向いた。

 

 何度も言うが、マッコイはハンサムである。日本人の平均身長を十センチ近く上回り、体は鍛えられ、容姿は男らしく整っている。濃ゆい日本人の色男を想像した時、浮かび上がるのがマッコイの顔。性格も良くも悪くもひょうきんで人見知りしない社交的な性格、男女に分け隔てなく好かれるタイプ。家柄も恵まれている。戦車道が続く限り食いっぱぐれは絶対にしないであろう戦車整備工場の息子、親族経営なので将来的には実家の経営者に連なる可能性が高い。

 一言で言えば、理想の高い女性が求めている男性像にドンピシャなのである。

 

「確かに……松本ちゃんは色男だけどタイプじゃないかなぁ……」

 

 会長の嘘に柚子が笑みを溢した。

 

「松本浩二……死すべし……」河嶋桃は強い嫉妬の念をメラメラと沸き立たせていた。




 短くてセンセンシャル。

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