吾輩は魔剣である。 作:シノアちゃんprpr
吾輩は魔剣である。
名前は特にない。
どこで打たれたかとんと見当がつかぬ。なんでも妙に偉そうでまぶしそうでステータスが高そうな輩がトンテンカンテン打っていたのだけは記憶している。
吾輩はそこで己が魔剣であると知った。
しかも後でよくよく聞いてみると超一級の代物だそうだ。
ここまで良い代物など神代ぐらいにしかありはしないという話である。
当時はフーンとしか思わなかった。ただ鍛冶師の娘であろうヒューマンの美人から柄に丁寧に布をきつく巻き付けられていた時妙な興奮があった事を記憶している程度である。
打たれた後、カタンコトンと納品の為か運ばれる最中にゴブリンに襲われたのがゴブリンという種族の見始めだろう。
ヒューマンの美人が"いやーんあっはーん"な目に会っている光景を見てこれ以上なく興奮していた事ばかり覚えている。
真っ白な布地に泥をかけるような有様とでも言うべきか、この種族の容赦の無さとそれによって広がる光景にはなるほど彼らの幼子の如き狡猾さと己の扱いの悪さを補って余りある敬意を持たざるを得なかった。実にいい。こういうの好きかもしんない。
このゴブリン達の扱う武器の一つとして暫くは浚ってくる女達の痴態を眺めて心地よい心持に浸っていたが、しばらくすると冒険者なる者たちがひゃっはぁあたらしいきゃんぺぇんしなりおだぁと侵攻してきた。
彼らはけいけんちよこせぇけいけんちもってるんだろおまえぇと吾輩を持つゴブリンの首を泣き別れさせぼぉるはともだちだのと言って蹴っ飛ばして吾輩を手に入れた。
吾輩を手に入れ、扱っていた冒険者の彼は持ち手としてはゴブリンとは甲乙つけ難いものがあった。
いぇすろりぃたのうたっち、などと公言し、ゴブリンらとは比べ物にならないほど"いやーんあっはーん"な行為を吾輩に見せてくれなかったし、やれドラゴンだの祈らぬ者だのなんだのと危うく吾輩欠けてしまうやもしれぬ相手とばかり戦わされた。
だが、様々な処の様々な身分の美人と会えたのは良かった。
あのゴブリンに"いやーんあっはーん"な目に合わされていた美人ヒューマンの有様を思い出し中々妄想が捗……もとい居心地が良かった事は記憶している。
そんな冒険者の彼と共に鼻の下を伸ばしていた(伸びる鼻はないのだが)日々は彼の寿命によって割とあっさりと終わりを告げた。
それからは流転の日々であった。
やれ祈る者や祈らぬ者やゴブリンに扱われれば扱われるほど、吾輩自身の性能の良さは隔絶していると断言出来るようになっていた。どうも剣は普通切り付けた相手の血を吸う事も吸った血を用いて持ち主を回復させる事も一撃を強化する事も手入れも出来ないらしい。
どうにも吾輩見てくれは普通のショートソードと同じだった為に吾輩自身気づくまで時間がかかったが。
さて、吾輩が暇つぶしの一つである過去の回想にふけっていると、どうにも騒がしくなってきた。
今回の使い手は取るに足らぬ普通のゴブリンである。今の吾輩は年月を経て使えるようになった見た目の偽装を用いて錆に錆びたショートソードの姿をしている。
吾輩のもう一つの趣味である"いやーんあっはーん"を多く見たいならば煌びやかな外見にして群れの長に持たれるのが経験則による最適解ではあるのだが、彼のような"いやーんあっはーん"の機会に恵まれぬ奴がこっそりと"いやーんあっはーん"しに行った時の様は中々趣がある惨状になるので、たまにこうして普通のゴブリンに持たれるようにする事がある。
要するに量より質をとったのである。
それはさておき、そんないじらしい惨状を吾輩に見せてくれるであろう彼は唐突に背後から突き刺されて死んだのである。ええい今日は彼が忍び込めそうだったのに、なんてことをしてくれると下手人を見やれば、そこに居たのは変な奴だった。
まず格好がみすぼらしい。今の吾輩を持てばある意味で実に似合うであろうほどみすぼらしい彼は男のようであった。鉄兜に皮鎧、鎖帷子を身に着けた男は、あろうことかそれなりに位の高い銀等級であると認識票は伝えている。
この変な奴は元吾輩の持ち主を殺して切れ味の落ち切った剣を捨てると、吾輩を手に取った。
「……ふむ?」
どうやら吾輩の異様さに気が付いたらしい。切れ味を見るためか、軽く錆びた刃先を検分し、錆びた部分で元吾輩の持ち主を軽く切る。すると、錆びているにも関わらず研ぎたてのように切れる。
「……こんななりだが、魔剣か」
そう言うなり、吾輩を元持ち主の体にぴったりと埋まり、吾輩があると分からぬほどに深く突き刺し、どこかから(おそらくは別のゴブリンの物だろう)別の武器を持って奥へと消えていった。
なんだこいつ。
吾輩がちょっと嫌な生臭さを放ちつつあった元持ち主の体から救出されたのは、それから少し経っての事であった。
「魔剣じゃろうなぁ」
「魔剣、ですか」
「魔剣、ねぇ」
「魔剣、であるか」
「やはり魔剣か」
気が付けば、吾輩は酒場のテーブルの真ん中に置かれ、五人の祈りし者達に囲まれていた。
ドワーフ、エルフ、蜥蜴、人、人。
「しっかし、あなたもまた妙な魔剣を見つけてきたものね?
こんな錆びついて……まさかあなたの恰好に似合う魔剣がこの世にあるとは思わなかったわ」
「これだからエルフは駄目なんじゃ。
こりゃ錆じゃねぇ、偽装よ」
「偽装……ですか?」
「おうよ、元よりこの剣がそう出来るように打たれたか、それとも年月を経て出来るようになったかは判らんが」
「……錆びついた部分でも研ぎたてのように切れた」
「それは何とも不可思議ですなぁ」
吾輩はいつこの錆の偽装を解除しようか思い悩んでいた。
こういう会話をするならばまず吾輩を所持しようとする。
だが錆びついたままだと気持ち悪がられて女が寄ってこない。
吾輩の趣味的にそれは惜しいので時を見て錆を取らねばならない。
これで吾輩の正体に気づいていなければ幾星霜の年月によって磨かれた"研磨連動偽装解除術"によってあたかも研ぐ事によって錆が落ちているように見せかけられたのだが、こうなるとそうはいかない。
状況を見計らって錆偽装を解除しなければ……吾輩が意志ある魔剣だとばれてしまう。
そうなれば……いつぞやの時のように"いやーんあっはーん"な時に傍らから見物出来ないやもしれぬ!
なんか見られてるようでやだ、と言われて箱に仕舞われ音だけ聞こえたあのこうふ、もとい屈辱……今でも忘れてはいない!
「……で、かみきり丸。
お前さん、こいつをどうする?」
「ちょっと、そんな事聞いたら……!」
「売るつもりでいる」
「……ほら、こう言うに決まってるじゃない」
「駄目か?」
「自分で使えばいいじゃない!
あなたのその格好でも、魔剣があればまだマシになるってものよ!」
「そうすれば、俺が死んだ時魔剣持ちのゴブリンが出現する事になる。
……危険だ」
「えーと、その、その見た目なら偉いゴブリンが使う事も無いでしょうし、大丈夫なんじゃ……?」
「そうなれば、群れの長のゴブリンと魔剣持ちのゴブリンの二匹が現れる事になる」
「しかし、売るにしてもこの見た目では、売った所ではした金が関の山でしょうや。
そう、仮にも魔剣、売り払うならば今しがた来たこの甘露を山ほど買えるほどの値でなくては!」
「……!
そうねぇ、そうしたらどこぞのやっすい店で叩き売りされて、新米冒険者が買って、またゴブリンの手に渡るでしょうねぇ~?」
「ふむ……」
どうやら吾輩は売られずにこのパーティーで使われるようである。
ふむ……どうにも彼は凄まじく偏屈なようだが、そういう輩が女性にちやほやされる事もままある。
となれば吾輩も"いやーんあっはーん"を見るべく力を貸すのもやぶさかでは
「ならば折る」
「「「……は?」」」
「おお、甘露! 甘露!!
……む、申し訳ない、聞いておらなんだ」
……ヒエッ