「
「……それ、黒霧さんにも言われましたよ。全く、ありがたくないんですけどね。それに、私は
画面の向こうから、聞こえてくる“先生”の言葉に少しだけ眉を寄せて応えれば画面の向こうから耳障りのいい、笑い声が聞こえてくる。
画面の向こうは初めて話した時と同じで、真っ白で今私と話している“先生”と呼ばれる人物は絶対に姿を見せてはくれない。
死柄木くんと黒霧さんに慕われている(?)人だから、堅気の人ではないんでしょうねと薄々感じてはいましたが、
きっと、“先生”も死柄木くんの言う
「
……何を聞いてくるんですか、この人は……。
「先程も申し上げた通り、私は
少しの苛立ちを込めて言葉を紡げば、画面の向こうから“先生”の笑い声が聞こえてくる。
今の私の話のどこに笑いの要素があったのかは解りませんが、“先生”の笑い声は直ぐに止みまた、話し掛けてくる。
「そう言えば、外には出てみたかい?」
「
先程から解りきっていることを聞いてくるのですが、もしかして“先生”はかなりのご長寿で、ボケが始まっているのでは……。
「何か凄い、失礼なことを思われた気がするが」
……例え“先生”がご長寿だったとしても、ボケは始まりそうにないですね。
勘が鋭いのか、元々このような人物なのか……今のところ外の世界や外で活躍している
「例え
「それは、それは。随分と間抜けなのですね、その方たちは。私にそのような、
私の言葉に“先生”だけでなく、後ろで私と“先生”の会話を聞いていた死柄木くんまでもが笑い出した。
“先生”の笑い声は今までの会話の中で聞き慣れてきましたが、死柄木くんの笑い声だなんてここ初めて会った時から今日まで聞いたことありませんでした。
「そう言う訳ではないさ。でも、もし外の世界が気になるなら、死柄木弔に案内させてもらうといい」
「……は?……何でですか、先生」
今まで私と“先生”の話を聞いていた死柄木くんが、座っていた椅子から立ち上がってこちらへと近付いてくる。
「……案内なら、死柄木くんよりも黒霧さんの方がいいと思うのですが」
「黒霧にやらせればいいだろうが。あとお前は何で俺には“くん付け”なのに黒霧には“さん付け”なんだよ」
今そこ、気にする所ですか。
私が人に対して敬称をつける際は基本第一印象のようなもので、つけます。
死柄木くんはどちらかというと子供っぽくて“さん”よりも“くん”の方が似合うと思ったからで、黒霧さんは死柄木くんと一緒にいるせいか更に大人っぽく見えるんですよね。
まぁ、そんな事はどうだっていいのです。
どうして、案内をしてくれる人が死柄木くんなのでしょうか。
個性的にも黒霧さんが適任だと、思われるのですが……。
そんな私の胸中を察してか、画面の向こうから“先生”の声が聞こえてくる。
「ここら周辺なら、死柄木弔、一人だけでも大丈夫なだけさ。それに、
もし、君が逃げようだなんて馬鹿なことをしようとした所で、君に、死柄君弔に対して勝ち目なんてこれっぽっちもないからね」
……………。
「……私はもうすでに
彼等によって、施設が襲撃されここに連れて来られた時には、もうすでに何もかもが遅かったんですよね。
私には、“施設”という逃げ場所が無くなって仕舞ったのだから。
国から追われる身と成った今、私にはどんな“居場所”があるのでしょう。
例えここから逃げ出したとしても、私にはもう、
……居るべき場所がない。
“先生”との会話の後、項垂れるように両腕を置き顔を埋めた移之は、自分が今、どれほど足場が不安定な場所にいるのかを実感した。
施設は死柄木たちにより襲撃され、施設から連れ出され、
外に出られた事はとても嬉しく、喜ばしいことではあったが、移之自身はこのような形で外に出ることを望んだ訳ではない。
自由はなくとも、施設で暮らしていれば一応は保護されていた頃と今とでは、あまりにも立場が違い過ぎる。
――
どちらが敵視されるかなんて、解りきっている。
憎らしげな視線を注がれようとも、理不尽過ぎる暴力を振るわれようとも、施設という“居場所”があるだけで良かったのかもしれない。
「……貴方たちは、私から“居場所”を奪ったんですね……」
彼等の言葉に従うことが、生きていくためには必要なのかもしれない。
「カミサマは、よっぽど、私のことが嫌いなようですね……」
思わず乾いた笑い声が口から零れた。
産まれた時から今に至るまで、
窓の外から入り込んでくる日差しは仄かに暗く、外の天気は晴天、とは言い難いものだった。
暗く沈んでいる気持ちをどうにか落ち着かせようと、顔を上げて天井を見上げれば、木材で出来た綺麗な木目調の天井が見えた。
「……施設は、もっと暗かったんですよね……」
ポツリと吐き捨てるかのように、呟くと瞼を降ろして目に見えるもの全てを見えなくする。
これがまさに、“ほーむしっく”、“のすたるじあ”という物なのかと胸中で考えているとふっと視界が僅かに暗くなる。
薄目を開けて、視界が暗くなった原因を探せばすぐ近くに、死柄木弔がそこにいた。
「先生との会話で、精神的に死んだと思ったがどうなんだ?今、死にてぇ?殺してやろうか?」
ニタニタと笑みを浮かべて問い掛けてくる死柄木に対して移之は口元に薄く笑みを浮かべ、死柄木に視線を向けた。
薄く開かれていた之の目は今はきちんと開かれており、どことなく霞んでいるような濁っているような、丸い黒目が死柄木を映し出していた。
「……さぁ?少なくとも死にたいと、思ってはいませんね」
「つまんねぇ……」
死柄木の応えが予想の範囲ないだったのか、之はクスクスと笑い声を上げて笑う。
「ですが、施設に対して“ほーむしっく”、“のすたるじあ”には成っていますね」
移之の応えがあまりにも意外だったせいか、死柄木は怪訝そうな表情で移之を見下ろす。
「あまり良い思い出は無くても、あそこが私の育った“場所”……。だったんですから」
感傷に浸るような物静かな声に、移之と死柄木との間に暫くの沈黙が流れた。
その沈黙を打ち破ったのは、移之ではなく死柄木の方だった。
「行くか」
「え?どこにですか?」
どこに行くのか解らずに上記の言葉を口にした移之に死柄木は片方の口角を上手に吊り上げて笑った。
その笑みは先程まで移之を馬鹿にするかのように浮かべていた笑みとは全く違う笑みだった。
かさついた死柄木の口から紡ぎ出される言葉に移之は目を見開いた。
「施設にだよ」
次回、加渡少(ry青年が、お出かけするぞ!!