痕 -きずあと- After side story 作:三方真白
18禁要素は含まれませんのでご了承ください。
※※筆者注※※
10年以上前に書きあげた作品をテスト投稿としてアップロードいたしますので、拙い点は何卒ご了承頂けると幸いです。
さすがに本人も忘れている内容が多々御座います。
今、俺―柏木 耕一―は電車の中にいる。
窓の外を眺め、流れる景色を見ながらボーっと昨日の電話の事を考えていた。
ついこの前は親父の四十九日で向こうに一週間ほどいたのに、まさか半年も経たないうちに呼び出されるとは思わなかった。
実際のところ大学の冬休みを利用して年末年始にでも行こうと考えていたのだが、それよりも早く連絡が来たのだ。
「耕一お兄ちゃん! あのね、あのね、梓お姉ちゃんと、楓お姉ちゃんが大変なの!!」
そう言って電話をくれたのは、末っ子の初音ちゃん。この子は優しくて甘えん坊で、理想の妹をそのままにしたような女の子だ。栗色の髪を揺らしながら、いつまでも俺のことを「お兄ちゃん」って呼んでくれるのは嬉しいものがある。
彼女の話にあった、梓は次女。短気、単純、暴力的な女で、俺の方が年上なのに「耕一」呼ばわりする女だ。しかし、意外にもしっかりした性格で柏木家の家事は全てコイツが取り仕切っている。時折みせる女のコっぽいしぐさは俺でもグッとくる事がある。(多分)
三女、楓ちゃんは物静かで、あまり喋らないコだ。夏に久しぶりに会った時なんか、ほとんど口すらきいてもらえなかったが、今は大分喋るようになってくれている。少し毛色が違うコだが、とっても良い子だ。
ここまできて忘れちゃいけないのが、長女、千鶴さんだ。二十代前半(正確には言えない)の若さでの柏木家の家長、さらには彼女らの地元で経営しているホテル『鶴来屋』の社長をやっている。艶やかな黒髪はいつ見ても綺麗だと思うが、少し子供っぽいところがあって、しょっちゅう梓と言い合いになっている。
彼女らは俺の従姉妹で、この前の夏に俺の親父が死んだ時に再会したのだ。
彼女らの両親が死んでから、俺の親父が彼女らの親代わりになり、俺は女手一つで育てられた。
あの夏まで親父の事を嫌っていたが今はむしろ誇りに思う。
(何があったんだろう・・・?)
冬休み初日の晩、いきなり初音ちゃんから電話があった時はさすがに驚いたが、初音ちゃん自身も混乱しているらしく、あまり要領を得なかったので、昨日の明日、つまりは翌日にこうして向かっているわけだ。
「あのね、梓お姉ちゃんと、楓お姉ちゃんがおかしくなっちゃったの! 千鶴お姉ちゃんは社員旅行とかいうのに一緒にいっちゃってるし!!」
「おかしいって、何が!?」
「お兄ちゃん、とにかく来て! お願い!! あっ、楓お姉ちゃんダメだよ!! 梓お姉ちゃんも手伝って!!」
そこで電話は途切れた。なんかやたら、ドタバタと騒がしい音や、泣き声とか聞こえたような気がする。
まあ、行けば分かるだろう。あの様子だとかなり修羅場のようだったが、何か悪いモンでも食ったかなぁ? でも食事は、梓が・・・・。
そこで、ハタっと気づいた。残された絶対唯一最悪の可能性。
「まさか・・・・ね・・・」
どうか、間違いでありますように。俺は曇り空の上にいるかも分からない神様に強くお願いした。
胸の前で十字も切ったし、これで安心だ。
「ふ、ふわぁーあ」
大きな欠伸一つ。そう言えば、夕べはいきなりの荷造りで遅かったし、朝は始発で早かったし、あまり寝ていない事を思い出した。
疲れているから考えが悪い方向へ行くんだな。
(うんうん、きっとそうだ!)
心の中の俺が言う。
と、言うわけで、まだあっちにつくまでには時間があることだし少し眠ることにした。
おやすみー・・・・・。
* * *
「ただいまー!!」
俺はこの家に帰ってくる時はいつもこう言う。ココはもう一つの俺の実家だからだ。
「あっ、お兄ちゃん。おかえりー」
トタトタ軽快な足音で一番最初に玄関まで来てくれたのは、初音ちゃんだ。よっぽど喜んでくれているのだろう、その眩しい笑顔はまさに天使の微笑み。
「おっ、はやかったねぇ、耕一」
「おかえりなさい、耕一さん」
後から続いて来たのは、梓と楓ちゃんだ。梓は「もう帰ってきたのか?」みたいな顔をしながらもやはり嬉しそうに。楓ちゃんは大きく表現しないものの、穏やかな笑みを浮かべて。
「ただいま」
「さあ、お兄ちゃん。早く上がって。梓お姉ちゃんと、楓お姉ちゃんと三人でご飯作ったんだよ」
まだ靴すら脱いでいない俺の手を掴んで初音ちゃんは急かす。
「今日は腕によりをかけて耕一のために作ったからね。残すなよ」
ニヒヒと梓が少し照れながら笑う。
「私も手伝いました。上手く出来てるか分かりませんけど・・・」
「ありがとう、そう言えば千鶴さんは??」
俺は当然の疑問を口にする。俺がココに帰って来るときは会社を休んででも出迎えてくれる千鶴さんがいないのだ。
「ん? あぁ、千鶴姉なら、どっか行っちまったよ。アタシが『絶対アンタは台所には立たせない』って言ったモンでさ、いじけてどっか行っちまったよ。」
アハハと、笑いながら梓は言う。
「そうか、今日は死なずに済みそうだ・・・。助かったよ梓」
「まかしとけって」
初音ちゃんも楓ちゃんも両脇で困ったような顔をしつつも微かに笑みを浮かべる。やはり、己の身は大事なのであろう。俺もそう思う。
「そういえばさ、昨日、初音ちゃんから、『大変なの、すぐ来て』って電話もらったんだけど、あれは??」
「ああ、あれか」
後ろを歩く俺の顔を見ながら、梓はニヤニヤと嫌らしい顔をしている。隣を見ると、初音ちゃんは「エヘヘ」と言わんばかりの照れ笑いを、楓ちゃんは俯きながら頬を真っ赤にしている。
「ドッキリだよ、ドッキリ!」
そう言う梓に合わせ、どこに隠していたのか、楓ちゃんがプラカードを俺に見せる。
そこには、『おかえり耕一(さん、お兄ちゃん)記念、キノコバーベキュー大会』と書かれていた。
当然俺は俺は驚かないはずがない。
しかも、俺は以前の事件で極度の『キノコ恐怖症』となってしまい、市販の店で売られている物ですら疑うようになってしまっているのだ。つい最近にそうなってしまったので、そんな事は彼女達が知るはずもなく。
「そうか・・・・・はは・・・・」
としか言いようがなかった。
「いや、まさかこんな早く帰ってくるとはなぁ」
「楓お姉ちゃんの勝ちだね」
「勝ちって? 何か賭けてたの?」
「お金を賭けてたわけじゃないよ。お兄ちゃんがいつ帰って来るか予想してたの。それで楓お姉ちゃんが見事的中したの」
楓ちゃんに目線を送ると、少し恥ずかしそうに笑みを作る。この子は俺に関してならかなりの確立で予感が的中することが多い。
だが、今はそんな事が重要ではない。
「・・・・ちょっとストップ!!」
居間の椅子に座りながら俺は言う
「?」
「?」
「・・・・・」
三者三様の反応で俺を見る。
「つまり、だ。昨日の初音ちゃんの電話は俺を騙すための芝居だったと言うわけだな? そして主犯は・・・・」
三人を順番に見ていくと、一人に定める。
「梓! おまえか!」
ビシッっという効果音さえ付きそうな、俺の推理力だ。
「へっへー、あったりぃー。サスガだなアケチ君」
どっかの本にあったような台詞を棒読みする梓。
「今の俺は金田一だ」
「まあいいじゃん、どっちでも。みんな待ってたんだぜ。だから、あんな芝居までうって耕一を呼んだんだからな」
「ネコ、恥ずかしかったです・・・」
「私も緊張したんだよー」
電話では初音ちゃんの声しかほとんど聞こえなかったが、思い返せば泣き声、いや『鳴き声』らしきものも聞こえたような気がする。あれが楓ちゃんか。
一人でウンウンと納得する。
「こ・う・い・ち・さん」
「うわぁ!!」
いきなり背後から声をかけられた俺は思わず変な格好をして驚いてしまった。
犯人は今まで姿の見えなかった、長女千鶴さんだ。この人は俺より年上なのに、可愛い仕草がとてもよく似合う。手には土鍋らしきモノを持っているみたいだが・・・。
「千鶴さん・・・脅かさないでくださいよ」
「どこいってたのさ、千鶴姉」
千鶴さんがなんか言う前に梓が言った。
「会社に行ってたのよ。梓が台所に立たせてくれないから」
「あたりまえだよ、自分の腕前わかってんの?」
「失礼ねえ、私だってこう見えても練習してるのよ! 今回のは自信作なんだから」
ふんっ、と手に持っているものを見せつつ胸を貼る千鶴さん。俺はその手の土鍋が気になって仕方がない。
「千鶴さん・・・あの、手に持っているソレは・・・・」
本当は聞きたくないのだが、恐る恐る訊ねる。
「ああ、これですか?」
待ってましたと、「んふふ」と楽しそうな、俺達にとっては極めて不気味な笑みを浮かべる。その怪しい空気を感じ取ったのだろう。初音ちゃんと楓ちゃんが立ち上がる。
「私、先にお風呂入ってくるね」
「私は宿題があるから」
二人とも去り際に、
(ごめんねお兄ちゃん)
(耕一さん頑張って生き延びてください)
という顔をしながら部屋から出ていく。
「耕一さんのために、旅館の食堂をお借りして作ったんですよ! 一生懸命!! 食べてくれますよね!!」
眼をウルウルさせて言う。
千鶴さんは多少、料理ベタなのを自覚しているようだが、実際本人の腕は多少どころではない。あの『鬼殺し』という名の酒をそのまま現実に出きるのだ。アレは鬼すら酔わせて倒れるくらい強い酒という意味らしい(だったはず)、だが、千鶴さんの料理は、それを読んで字の如く! その名の通りの事を一口で決行させる程の効果を持っているのだ。
俺は唯一の頼みの綱にアイコンタクトする。
(あ、梓ぁぁ)
「さ、ワタシは料理の仕込みでも・・・・」
そそくさと逃げるように台所に消える。
「耕一さん?」
俺らのやり取りに全く気づかない様子の千鶴さんが首をかしげた。
「さぁ、食べてください。あっ、ワタシが食べさせてあげますね?」
土鍋の蓋を開けるとそこには、ホカホカと湯気を上げる真緑色の汁にまみれたご飯がある。一見、変わったおかゆのように見えなくもないが、それは甘い考えと言うもの。コレは一口で鯨すら昇天させる事ができる代物なのだ。嫌だ、まだ死にたくない。仮にエルクゥである俺の力を使っても生き残ることは出来ないのは確実。
そして、具としてちりばめられているキノコのような物。絶対に柏木の家で密かに栽培してある毒キノコの類に決まってる!
千鶴さんは、標準装備としてついていたレンゲでそれを一口すくうと、ふーふーと冷ましてから俺の口の前に持ってくる。
「はい、耕一さん。あーん」
満面笑顔の千鶴さんだが、冷や汗がタラタラと俺の体から流れているのには全く気づいていない。
「あ・・あーん」
小さく小さく口を開く。何か、この危機を打破する方法はないか。懸命に考えるが、浮かばない。
「もう少し開けて下さい」
「あーん」
畜生! 死を覚悟するしかないのか・・・・涙すら浮かぶぞ。
ゆっくりと、ゆっくりと劇薬が俺の口に入ってくる。
こんな死に方はしたくねぇ――――――!!
* * *
「うわああああああああああぁぁぁぁ!!!」
絶叫マシンに乗った時以上という位の雄叫びを上げ俺は目を覚ました。
目の焦点が合わず、肩で息をしている。
なんつー夢だ。縁起でもない。
段々意識がハッキリしてくると、ひとつの事に気づく。
(見られてる・・・・)
地方の私鉄とはいえ、乗客はいる。その視線が全て俺に注がれるのはかなり恥ずかしい。
「あんちゃん、大丈夫かい? 随分とうなされたみたいだねぇ」
心配の声をかけてくれたのはボックス席の向かいに座っていたお婆ちゃんだ。その横にはお婆ちゃんの倍の大きさはあろうかという荷物がある。どうやっても持ち運びは無理そうにしか見えない。
「はい、大丈夫です。お騒がせしてスイマセン」
よりによってあんな生々しいモノを見てしまうなんて・・・。
(ははっ、考え過ぎだ。電話では千鶴さんは出かけてるって話だったんだぞ!)
夢の内容を思い返すだけで悪寒が走る。
ブルッ
(大丈夫大丈夫・・・・)
しばらくして、やっと落ち着いてきた。
そうだ、と思い返しカバンの中をごそごそと漁る。
おお、あったあった。俺の手にあるのは一冊の本。こういう時は本でも読んで気を紛らわせるのが一番だ。
内容は、現代ファンタジーで人間の姿を持ちながら異質の能力を秘めた少年達が、社会に棲みつく化け物と戦うという話なのだが、その主人公の中の一人と、名前が似ているので奇妙な縁を感じてしまっている。元々は大学の友人の家に置いてあったのを見つけて、読み出したのが始まりなのだが、柏木家の力と似てるような話なのでそのまま借りてしまった。
それをしばらく読むことにして、残りの時間を過ごすことにした。