痕 -きずあと- After side story 作:三方真白
目の前にどっかと腰を下ろすようにたたずむ門を見上げる。
「やっと着いた」
あの後は、本のおかげですこぶる快調に過ごせた。時間も経ち、大分気が楽になっていたせいもある。
今、俺の正面にあるのは誰が何と言おうと柏木家の門だ。いつ見ても、ココに入るときは奇妙な感じがする。
古風な歴史を感じさせる建物。時代が変わってもこの建物だけは絶対に変わらなそうなそんな重みがある。
両方の扉合わせて四トンなんて事はないので難なく開く。ちなみに番犬もいない。・・・・筈だった。
「にゃーん、耕ちゃーーん!!」
犬ではなく猫(?)。しかも『にゃーん』?? 飛びかかって来たのは誰だ!! 顔に引っ付かれては何も見えない。聞き覚えがある声だったのは確かだ。そして、大きいとは言えないが柔らかいものが顔に当たっている。
「おっかえりィーー」
だが、それより何より。
(く、苦しい・・・)
思いっきり締め付けられて、呼吸もままならない。
「んがああああ!」
両手で捕まえ引っ剥がす。
「きゃいん」
何が『きゃいん』だ何が。そう思いつつさっきまで俺に引っ付いてた奴の正体を拝んだ。
「っ!・・・・か、かえ・・・でちゃん??」
マンガなら、さしずめ俺の頭に『ガーン』という囲み文字があったに違いない。
嘘だ、あの大人しい楓ちゃんがこんな事するはずがない。いつもの楓ちゃんなら、うつむきながら
「耕一さん、おかえりなさい・・・」
のはずだ。そうか! 俺は又、夢を見ているんだ。そうだ、そうに違いない
(そうに、決まったー!!)
自分の中で判決が下された。
「お花の名前と掛けまして、耕ちゃんの、お帰りィーと解く」
そんな俺の心内を知らないで、目の前の楓ちゃん(と、思われる)は、謎掛けを始めた。
「その心は・・・ききょうー!! アハハハ・・・」
(多分)楓ちゃん、いつの間に笑○みたいな事が出きるようになったんだ・・・・。
「楓お姉ちゃん! 外出ちゃダメだよー!!」
大きな声で言いながらも疲れた様子で、走って来たのは初音ちゃんだ。
やっぱりコレは楓ちゃん本人なのか!?
まだ、敷地内にいる事を確認したのか、トテトテと歩き出す
「よかった、まだ・・・・っ お兄ちゃん!!」
「ただいま、初音ちゃん」
天使の微笑みで迎えてくれるが、やはり疲れているようだ。少し影がさしている。
☆ ☆ ☆
「つまり、梓が作った夕飯を食べた後からおかしくなった。と・・・」
これまでに起こったいきさつを詳しく初音ちゃんから聞き出した俺は、そう結論を出した。
「うん」
俺の向かいがわにちょこんと座り、初音ちゃんはうなずく。
要約するとこうだ。
千鶴さんが社員旅行に出かけた日に、梓が作った料理にやばいモノが混じっていた。
・・・・短すぎる? わかりやすいと言ってくれ。
恐らくは、夏に出くわした『アレ』もんのキノコであろう。
「初音ちゃんは食べなかったの?」
俺は当然の疑問を投げかけた。
「・・・・食べたよ」
頬を恥ずかしそうに赤めて初音ちゃんは言う。
「私も食べて、・・・気がついたら商店街にいたの。おまわりさんに追いかけられてたらしくて、『耕一ィィィ!』って、叫んでたって。それで、赤い制服を着た緑色の髪の女の子に頭からぶつかったって・・・・」
ぽつり、ぽつりと今にも泣きそうな顔でをしている。よっぽど恥ずかしかったのだろう。
「気づいた時は、ぶつかった後だったらしくて・・・・・その人は怒ってなかったけど、警察の人は、今後は気をつけてねって言ってた・・・・・・でも私、何がなんだか・・・」
おそらくそのとき、『オラオラァァ! 邪魔だどけェー』『はわわー!!』という会話が行われたに違いない。・・・・なぜ、HM・・・・・・・。じゃなくて、よっぽど恥ずかしかったのであろう。初音ちゃんはずっとうつむいたままである。そして、俺がいない間にこの二人の世話。創造を絶する苦労があったのだろう。泣きたくなる気持ちもわかる。
ちなみに、梓と楓ちゃんはどうしているかと言うと、隣の部屋で大人しく寝てもらっている。多少不本意ではあったが、手刀で気絶させているだけだ。まあ、起きれば元どおりになっていることであろう。
「それにしても、何がどうなっているんだ? 梓が千鶴さんのような事をするはずが無いし・・・・」
「恐らく、千鶴姉の仕業だよ・・・・」
後ろから声がした。
「お、お姉ちゃん!」
「梓、起きてたのか・・・・?」
「今さっき・・ね」
立ち上がった梓は、「イテテテ・・」と首(俺が手刀を入れた場所)を抑えて、食卓の椅子に座る。
「話しは少しだけど聞かせてもらったよ。前例もあるらしいことだし、恐らくは、いや絶対! 千鶴姉が犯人だよ」
そう、確かに前例はある。そして、『茸イコール千鶴さん』説は正しい気がする。さすが梓、鋭い読みだ。
「んで、耕一。何でこっちいるの?」
「お前なあ・・・・」
俺は思いっきり力が抜けた。
「あ、わ、私が呼んだんだよ。私一人じゃ大変だっただから、つい・・・・・」
初音ちゃんが悪いわけではないのだが、なんかばつが悪そうに言う。
「そう。・・・別に怒ってないよ、初音。ありがとう」
お姉さんらしく振舞う梓。さすが、家事担当。
「初音ちゃんは何も悪い事してないから大丈夫だよ」
俺も初音ちゃんを励ます。
「うん」
「そうそう、悪いのはあの偽善者ぶった年増な千鶴姉なんだからさぁ!」
いないのを良い事に、梓は言いたい放題大声で力説する。
「あ、梓。お前、本人に聞かれたら確実に殺されるぞ」
「いいんだよ、どうせ今ごろ温泉にでもつかってくつろいでんだろうからさ」
俺が如何に危険かを説いていると言うのに、ケラケラと笑いながら返す。神出鬼没、壁に耳あり障子に目ありという様々な言葉を知らんのか! 本人の耳に入ったら誰も救うことはできないぞ。
「あ・ず・さ・ちゃぁぁぁん?」
ビクッッッッッ!!
初音ちゃんのアンテナも反応している。一瞬だったが確実に妖気の反応を示していた。
まさか・・・・帰って来たと言うのか? この家の家長にして、怒らせると梓ですら手出しできない恐怖の鬼と化した千鶴さんが・・・・。
「こ・・・・こういちぃ・・」
梓が凍りついたまま俺の名前を呼んだ。さすがに恐ろしいのだろう、俺も指一本動かせない。殺気はまるで感じないが、『あの一声』で確実に恐怖のどん底まで落ちている。
初音ちゃんに至っては、あの瞬間に顔を机に伏せてぴくりともしない。あの恐ろしい千鶴さんの形相は見たくないのであろう。
誰もが「この状況はまずい・・・・」と思っていたその直後、
「きゃはははははははは・・・」
笑い声が部屋を覆った。
「???」
「似てたぁ、似てた? 『あ・ず・さ・ちゃぁぁぁん?』って。モノマネだけに二点(似てん)。なーんちゃって! アハハハハハハハハ・・・」
「か、楓ぇ?」
「楓お姉ちゃん・・・・」
「か・え・で・ちゃん・・・・?」
そこにいたのは千鶴さんではなく、楓ちゃんだった。どうやら彼女のモノマネだったらしい。しかも元に戻っていない。
「なんで、戻ってないんだぁ?」
マジで怖かったのだろう。半分涙声な梓がもっともな事を口にする。
「そう言えば、楓お姉ちゃんおかわりしてたよ・・・・」
ちょっと困ったねって仕草を初音ちゃんが見せる。
「それが原因か・・・」
梓とそろって安堵のため息を漏らした。千鶴さんじゃなくてよかった。
「もう一回寝かせてもらえると、ありがたいんだけど・・・」
梓が俺に耳打ちする。
まあ確かに、今度起きた時は多分元に戻っているだろうしなあ。
心が痛いのだがここはやむをえないかな・・・。
「しょうがないか・・・・」
ゴメン楓ちゃん・・・(泣)。
ヒュッ
トン
バタ・・・
なんて事はない。
以前、俺が自分に打ち勝って身につけた鬼(エルクゥ)の力を少し開放して、楓ちゃんの背後に瞬時に移動し、手刀で眠らせたわけだ。以上説明終わり。
「お見事」
にしても、こんな事をする自分の心が痛む・・・・・。