痕 -きずあと- After side story 作:三方真白
俺達4人は無言でテーブルを囲んでいる。
チッチッチッチという時計の秒針の音が静かに流れていく中、時折、パサっという軽い音がする。
とにかく俺達は緊張していた。何が起こるか分からないスリリングな展開に。
「フッ、甘いな梓・・・・」
「何ィ? げっ、謀ったな耕一ィ!」
「・・・・・・・・・」
「梓お姉ちゃんが持ってるんだね、ババ」
そう、『ババ抜き』。初音ちゃんが持ってきたトランプで遊んでいたのだ。千鶴さんが帰ってくるという騒ぎもあったが、気づいたらこうなっていた。
一度ゲームをはじめれば初音ちゃん楓ちゃんと上がり、残るは―――
「勝負!」
俺と梓になっていた。そして俺が引く番。
「来た・・・・・」
「ああああーーーーー!!」
梓の手にあった二枚のうち、俺が引いたのはハートの6。
ムンクの叫びの勢いで、JOKER(ババ)を手にしたまま悔しがる梓。
「勝った・・・・・・」
俺はメンコのように、クローバーの6と一緒に叩きつけて感涙した。
只今の戦績、30戦12勝18敗で梓が勝ち越している。あと7回勝てば勝ち越しである。
そして、最下位になった梓がトランプをきろうとしたとき、全員の動きが止った。
「!」
一番最初に、ピクンと猫耳と尻尾(俺には見える)反応し落ち着かなくなる楓ちゃん。
「来た・・・・・」
さっきの俺のセリフと寸分違わず梓が言った。
「・・・・・・・来たって・・・・・千鶴お姉ちゃん?」
微妙に半泣きのような怯えた声で訊ねる初音ちゃん。
その問いに俺と梓、そして楓ちゃんはコクンと頷いた。
「耕一、分かってるよね」
梓がコチラを見ずにボソッと打ち合わせをしてくる。
嫌なんだがなぁ。コレだけは・・・・・。
「・・・・・・・本気でやるのか?? アレを」
そう、アレだ。
「今の千鶴姉には周りが見えていない。だが、アンタがその一言を言うだけであの暴走を止められる。確実に、だ」
それは俺に「死ね」と言っているようなものだ。
「耕一がそれを言わない限り、私はまだしも、楓と初音にまで被害が及ぶ可能性がある」
「・・・・そうか・・・」
「ねぇ」
と、そこへ初音ちゃんが話しを割ってきた。
「わたし考えたんだけどさ、千鶴お姉ちゃんの料理って、鬼化して食べればおいしいよね」
「そうか! ナイス初音」
「ヘヘヘ」
ポンっと梓が手を打つ。
「ふむ、あれは絶品だった。まさにこの世の究極の料理だね」
そう、『柏木家の食卓2』でそれが判明した。これなら嗜好の料理にも勝てるほど美味い料理だった。
「なるほど、なんで考えなかったんだよ俺! むしろそうして食べたい!!」
「いや、やっぱ却下」
突然、思いも寄らない一言が飛び出した。
「いきなり何を言うんだ梓。人間の状態のままではあの料理の真の味はわからないんだぞ?」
俺の食いつきにも関わらず梓の態度は冷静そのものだった。
「・・・・そのあとの事態を覚えてないとは言わせないよ耕一」
「う”・・・・」
そうだった。確かに千鶴さんの鬼料理は美味い。そのため俺達も鬼化して食べないといけないという・・・・そして、そこから招かれた結果は――――。
「あの後、『おいしかった』ってわたしらは言ってたけど、隣近所中じゃ、あの晩化け物でも出たんじゃないかって噂が広がりまくったんだよ。みんなそろって叫びまくるから、ウチの窓ガラスは割れるし、大震災でも起こったように家具は倒れるしで・・・。ウチが被害にあったんじゃないかって思われて、その時間、『化け物の足音で地面まで震えてなかった?』なんて言われてたんだぞ」
「そういやそんな事があったなぁ・・・・」
確かにあった。俺も「大丈夫でしたか?」なんて近所のおばちゃんに心配された覚えもある。
「『あったなぁ・・・・』じゃ、な~い!! わたしは顔から火が出るほど恥ずかしかったんだから!」
「わたしも・・・」
「おいしかったけど、恥ずかしかったです・・・」
食べたいが、その後の事を考えて全員一致の意見だ。
「と、なると今回はその手は却下か・・・なら、俺にどうしろと」
梓が俺の肩にポンッと手を置いた。
「耕一、尊い犠牲は無駄にはしないよ」
「やっぱり。そうくるか・・・・」
俺は引きつった声だと、自分でもわかるくらいビビッてる。あの千鶴さんの『鬼による、鬼のための、鬼料理』に。人間のままアレを食したらどうなるかということくらい・・・・。
梓はともかく、楓ちゃんや初音ちゃんにもかぁ・・・。
「今、余計なこと考えなかったか? 耕一ィ」
「い、いや・・・・まかせろ」
俺は、嫌々ながらのOKサインを出した。可愛い妹(梓を除く)のためだ。
「・・・・・お願いします」
「耕一お兄ちゃん・・・・」
ズン・・・・・ズン・・・・ズン・・・・
来る。破滅の足跡がすぐそこまで来ている。
「普通に出迎えた方が良いんじゃないか・・・・?」
ふと思った事を口に出して見た。
「ドア開けた途端に誰かが食われる・・・」
「そうか・・・」
千鶴さんって、そこまで酷かったか・・・・? まあいいや。
にしても、この緊張感をまた味わうとは思ってもいなかった。しかも今回の相手は千鶴さん。こっちから手を出すわけにはいかない。
目線で梓が合図を送ってくる。しかも、まだ千鶴さんが家に入っていないのにGOサイン。「ほんとにいいのか?」とこちらも合図を送るが、目が「行け」としか言っていなかった。・・・・相当焦ってるな、梓のヤツ。
すーっと一呼吸おいて、俺は玄関にゆっくりと歩み寄る千鶴さんに聞こえるようにワザと大きな声で言った。
「あ~~千鶴さんの手料理が食べたいなぁ~~~!」
すると、
「はい! ただいま!!」
夜中に不釣合いなハイテンションな声で千鶴さんがガラっと玄関をあけた。
「あら~、耕一さん来てたんですかぁ? 来てるなら来てるって速く連絡くれればよかったのにィ。あ、ご飯ですか? 今用意しますから少し待っててくださいね」
一通りまくし立てると、スタスタと奥に入っていった。問答無用で向かう先は台所。
かくして死のカウントダウンが今始まった。