HOTD ガンサバイバー   作:ゼミル

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今後の事について話し合うべきだという訳で集合する事になった。

 

 

「何もここに集まってくる事無いじゃない・・・・・・」

 

「お前がまともに動けないんだ、仕方ないだろ」

 

 

尤もな理由を小室に告げられて不満そうな唸り声を漏らす宮本。

 

会話から大体分かる通り、宮本に割り振られた部屋に俺達は集まっていた。ベッドでうつ伏せな宮本がほぼ全裸で薄手の布団以外何も身に着けてない理由は知らん。

 

当たり前だが里香も一緒だった。俺の顔を見た途端顔を真っ赤にしたかと思うと、微妙な表情のまま俺と目を合わそうとしない。

 

短いながらも俺達と行動を共にしてきた希里さん親子も加わっている。

 

と、1人だけ呑気そうにバナナの皮を剥いていた鞠川先生。偶々隣に居た里香の方に中身の先っぽを突き付けて、

 

 

「ほら古馬さん、あ~ん♡」

 

「え?ふぁ、あ~むふぅ・・・こふぇおっひぃぃ・・・」

 

 

あむあむちゅぷちゅぷ。そんな擬音がえらくハッキリ盛大にこの空間に響く。

 

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「え、え~っと先生?古馬?」

 

「パパ、何でありすのおめめを隠すのー?」

 

「見なくていいんだよありす、お前にはまだ早い事なんだからね」

 

 

すぐ隣からは大きく喉の鳴る音。とりあえず生唾呑み込む位無駄に興奮してる親友にヘッドロックかけておいた。

 

 

「痛い痛い痛い!?ゴメン悪かった僕が悪かったからもうギブ止めてアッー!!」

 

「ああもう!CEROの制限ギリギリな描写狙ったギャルゲーみたいな真似してんじゃないの其処の牛乳コンビ!」

 

「ふえっ!?ご、ごめんね~高城さん」

 

 

高城が突っ込んだ所で本題に入る。

 

 

「こうして集まった理由は他でもないわ。アタシ達がこれからも仲間で居るかどうか決める為よ」

 

 

高城が言い切った途端、空気が張り詰めた。

 

小室や宮本は戸惑い、毒島先輩と希里さんは来るべき時が来たかといった風情、里香は鞠川先生と驚いたように顔を見合わせていて、予め内容の見当が付いていた俺と真面目な顔の平野は視線を交わすだけ。

 

そして高城の議題の意味が分かって無いのか、純粋に不思議そうな表情で首を傾げているありすちゃん。ひどく浮いて見えた。

 

 

「仲間って・・・・・・」

 

「当然だな。我々は今、より大きく結束の強い集団に合流した形になっている。つまり―――」

 

「そう、選択肢は2つっきり!飲み込まれるか!」

 

「・・・・・・別れるか」

 

 

小室が締めくくる。だけどすぐに疑問を呈してきた。

 

別れる必要なんてあるのか?と小室が問いかけると、ただでさえ急角度を描く眦(まなじり)を更に吊り上げて、高城はバルコニーへと飛び出した。

 

 

「ここで周りを見渡せばいいわ!それで分からなければ、アタシの事名前で呼ぶ権利はナシよ!」

 

 

その言葉と彼女の放つ雰囲気に引っ張られる形で、小室以外にも俺や平野、里香に希里さんまで出る。

 

平野から渡された双眼鏡で敷地の外側一帯を見回していたが、一々使うまでもない。

 

少なくとも俺には、道路という道路中に広がる少なくない数のどす黒いシミや、不規則にゆっくり動き回る存在の数々の正体を看破するのは肉眼で十分だった。

 

 

「酷くなる一方だな・・・・・・」

 

「でも―――前に見た時よりも増えてないかな・・・?」

 

「確かにね。段々こっちに集まってきてる様な気もするし」

 

 

少なくとも全ての道を塞ぐバリケードが機能している以上、敷地内への侵入に成功してる<奴ら>は存在していない。

 

 

「でも、手際が良いよな親父さん。右翼のエライ人だけの事はあるよ。お袋さんも凄いし」

 

「小室君の言う通りだよ。この短期間にこれだけの人々を保護して統率している上に、一帯の安全や必要な物資の確保までここまで完璧に行えるなんて、警察や消防の様な各機関でもそうそう達成するのは――――」

 

 

小室と希里さんの、高城の両親を称える言葉が途切れる。

 

高城が震えていたからだ。歯を食いしばって、今にも爆発しそうなのを堪えてる高城の目に浮かんでいるのは怒りだ。

 

いや、多分それだけじゃない。嫉妬、とは違うな。

 

これは悔しさと悲しさ、か?

 

 

「・・・ええ凄いわ。それが自慢だった、今だってそう、これだけの事を1日かそこいらで・・・!」

 

 

声も揺れている。矛先の分からない憤怒の表情を間近で見て、驚いてひっくり返りそうな勢いだった。お化けに出くわした子供みたいだ。

 

まぁ、今の高城はそれぐらいの迫力はあるけど。

 

 

「でも、それが出来るなら!」

 

「高城・・・」

 

「名前で呼びなさいよ!」

 

 

甲高いソプラノでの絶叫が喧しい。

 

ここは小室に任せよう。きっと高城は高城で家族に対して何か抱えてるみたいだけど――――正直言ってどうでもいい。

 

ヒステリックに叫ばれるのは御免だが、割り込む気にもなれないし興味が持てない。精々小室相手に叫び散らしてスッキリすればいいさ。

 

これは高城自身が折り合いをつけるべき事柄なんだろうから。

 

 

「あ、あの、家族の事をそんなあんまり悪く言っちゃダメだと思うよ。大変だったのは皆同じだったんだし」

 

「うるさいちんちくりん!如何にもママが良いそうなセリフね!」

 

「ひっ!?」

 

「おい、高城!」

 

「分かってる、分かってるわ!私の親は最高!!妙な事が起きたと分かった途端に行動を起こして、屋敷と部下とその家族を守った!凄い、凄いわ、本当に凄い!!」

 

 

血を吐く様な高城の叫び。俺以外の誰もが絶句して彼女の言葉を聞いて固まっている。

 

あの高城の目には涙すら浮かんでいた。コイツも泣いたりするんだな、と割とどうでもいい事しか俺の心には浮かばない。

 

 

「もちろん娘の事を忘れてたわけじゃない。むしろ1番に考えた!!」

 

「高城、それくらいに―――」

 

「流石よ!本当に凄いわ!!流石アタシのパパとママ!!」

 

 

 

 

 

 

―――――生き残っている筈がないから、即座に諦めたなんて!

 

 

 

 

 

 

つまりはそういう事だった。

 

高城の両親は確かに娘の安否を心配したんだろうが、残酷なぐらい理性的で明晰に物事を割り切れる人物だった訳だ。

 

だから状況が混乱して全く安否が分からない非力な娘の生存に人手を割く事よりも、手近に居る自分の部下達の安全を優先した。

 

小を殺して大を生かす。指導者としては正しい判断には違いないけど、切り捨てられる小からしてみればたまったもんじゃない。

 

特に、実の娘である高城からしてみれば。両親に裏切られ、見捨てられたも同然。

 

まるで悲劇のヒロインだ。独白だけ聞けば、誰もが高城の怒りと絶望に納得するに違いないだろう。けど。

 

だけど、高城の独白に反応した人間がここに1人居た。

 

 

「止めろ、沙耶!!」

 

 

小室が、高城の胸倉を彼女の爪先が僅かに浮くぐらいの勢いで掴みあげる。

 

小室の行動に誰もが驚愕の表情だった。高城に惹かれてる平野に至っては思わず小室を止めに飛びかかろうと身構えたのを抑えておく。これ以上ややこしくする意味はない。

 

 

「お前だけじゃない!同じなんだ!皆同じなんだ!!」

 

 

小室の口からも叫びが迸る。小室の声もまた、張り裂けそうな痛みに満ちていて。

 

 

「いや、親が無事だと分かっているだけ、お前はマシだ・・・マシなんだ」

 

 

そう吐き捨て、力無く俯く。

 

小室や里香、宮本達の家族が無事なのかまだ分かってない。1度携帯で里香の自宅や両親の携帯に掛けてみたけど繋がらないままだ。

 

聞いた所によれば平野や毒島先輩の家族は海外で、鞠川先生の両親は俺と同じで世界がこうなる以前にこの世から去った。だからまだ諦めはつくだろう。海の向こうの事は手軽に掴める訳ないんだし、俺と鞠川先生に至ってはあの世への連絡手段すら存在しない。

 

 

 

 

里香や小室達は違う。

 

 

 

 

家族が働く職場や暮らしている家は目と鼻の先な筈なのに、<奴ら>がそこら中に跋扈している現実が歩いて1分の距離を何キロ分もの遠さにしている。近いのに遠い、だからこそのジレンマ。

 

いつの間にか里香が俺の傍らに居た。服が引っ張られて乱れるぐらい強く俺の服を握りしめてくる。里香の手も怯える様に震えてた。

 

不安なのは誰もが一緒、って事か。

 

 

「・・・分かったわ。分かったから離して」

 

 

ようやく高城の目に何時も通りの高慢そうな知性の光が戻っているのを見て取った小室は、「悪かった」と謝罪しながら言われた通りにした。

 

 

「ええ本当にね。でもいいわ。さ、本題に入らないと。アタシ達は――――・・・」

 

 

高城がようやく本題を進めようとした時だった。

 

近づいてくる車の音。それも複数で大型トラックの機関砲にも似たエンジンの重低音が嫌でもここまで届いてきた。何だ何だと動けない宮本以外の他の皆までバルコニーに出てくる。

 

学校の正門みたいなゲートから屋敷の敷地内に入ってくるのは黒塗りスモークガラスな数台のSUVに幌付きの大型トラック、タンクローリーにオフロードバイクで構成されたコンボイだ。

 

車から降りてきたのはこの屋敷を守ってる人々と全く同じ恰好の武装した男達。

 

銃器を持っているのを見て、車列の正体よりも反射的に男達の武装に注目するのはマニアの性なんだから仕方ない。

 

明らかに屋敷を守る人員よりも輪をかけて重武装だった。AK系統にイスラエルがそのAKをパクって造ったガリル・アサルトライフル、南米辺りで人気のサブマシンガン、ベレッタ・M12や映画のストリートギャングがよく持ってるMAC11・イングラムサブマシンガンも持っている。

 

もう、明らかに単なる右翼団体ってレベルを超えている。でもこれだけ資金力や統率力があって尚且つ高城の両親であるのを考えるとどっか納得できてくるのは何でだろう。

 

車の中の1台の前で、誰かを出迎える様に慄然と整列している。

 

男達の中に混じっている露出高めのドレスに身を包んだ美女は、確か高城のお袋さん。

 

・・・・・・本当に高校生の娘持った母親なのか?と俺でも思ってしまうぐらい若々しい。

 

何となく、誰を出迎えようとしているのか見当がつく。

 

 

「あれは?」

 

「そう、この県の国粋右翼の首領(ドン)!正邪の割合を自分だけで決めてきた男!!」

 

 

車から、1人の男が姿を現す。

 

鷲の様に鋭く重みを感じさせる眼差し。服の上からでも分かるぐらい鍛えられた体躯。手には刀。遠目から見ても感じる威風堂々とした威圧感。

 

旧日本軍の歴戦の将兵の生まれ変わりと言われても違和感が感じない。まるで戦時中か戦国時代の人間だ。

 

 

 

 

「――――――アタシのパパ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい友、愛する家族、恋人だった者であろうと躊躇わずに倒さねばならない。生き残りたくば・・・・・・・・戦え!!!」

 

 

屋敷に避難してきた人々を集めて行われていた高城の親父さんの演説がそう締めくくられる。

 

その間。<奴ら>から仲間を救おうとして逆に噛まれ、<奴ら>の仲間入りを果たした自分の親友だという男の処刑を、高城の親父さんは自分自身の手で行ってみせた。

 

一部始終を俺達は、バルコニーから最後まで見降ろしていた。首を撥ねる瞬間希里さんがありすちゃんに見せない様にしていたが。

 

皆一様に、高城の親父さんの演説に中てられているみたいだ。その場に立ちつくしている。

 

 

俺は俺で、今の演説の内容を思い返している。

 

最後の言葉。生き残る為には、友人だろうが家族だろうが恋人だろうが<奴ら>になった以上戦わなきゃ生き残れない・・・・・それこそが『今』なんだと、高城の親父さんは宣言した。

 

 

 

 

なら、戦う事に、殺す事に楽しみを感じて、戦い続ける為に生き延びようとしている俺は―――――どんな存在だというんだろう、一体。

 

答えはとっくに自分でも理解してる。それは一種の狂人だ。

 

それがどうしたっていうんだ?自分がイカレてる事を自覚していながら一々苦悩する程俺は殊勝な性格じゃない。

 

それで良いじゃないか、そもそも世界そのものがもはや狂ってるんだから。

 

 

 

 

「―――――なあ、真田もそう思うだろ!!?」

 

「うおっ、悪い何の話だ?」

 

 

目の前に何やら必死な形相の親友のどアップがあったんでちょっとビックリした。

 

意外と深く考えを巡らしちゃってたみたいだけど、何かあったのか?

 

 

「刀じゃ効率が悪過ぎるんだよ!真田だったら分かるだろ!?」

 

「別に。そういうのはあんまり考えた事無いし、時と場合の問題だろ」

 

 

うぐっ、と何やらショックを受けた様子で言葉を詰まらせる平野。恐らく武器に関する議論っぽいけど。

 

 

「結局武器なんてのは使う人間の相性の問題じゃないか?刀剣とかは毒島先輩や高城の親父さんとかが上手いけど、銃の方は俺やお前の方が得意だったりするんだし」

 

「真田君の言う通りだよ。私も刃物の扱いに関しては聊か自負しているが、君達の様な銃の扱い方に関しても一目置いているからね」

 

「そ、そうだよ平野!それはそれこれはこれだって!僕なんか銃も刀もまともに扱える自信なんてないさ」

 

 

どういう流れだったのかよく分からないけど、どうやら正しい着地点に収まりそうな気配。

 

険しかった平野の顔が安堵したように緩む。

 

 

「そうですよね、結局は刀も銃も使う相手の腕前次第ですよね。すいません、声を荒げちゃって」

 

「気にしなくていいよ。実際平野も真田も銃の腕は凄くて頼りになるって、僕は本気で思ってる」

 

 

苦笑の交じった屈託の無い笑顔を浮かべてあっさり言い切る小室。どういう経緯なのかはともかく、こうも純粋に褒められて悪い気はしない。

 

小室の良い点は良くも悪くも正直な部分だと俺は思う。小室のそういう所、少なくとも俺は好みだ。

 

 

「あ、勿論毒島先輩の剣術とか沙耶の頭脳も頼りにしてますよ?鞠川先生のお医者さんとしての知識とか、銃も車の運転も出来る希里さんとかも」

 

「ねえ孝、どうして私だけ抜けてるのかしら~?」

 

「ありすもー!」

 

「いや別に他意は無いぞ!?」

 

「はいはい呑気なお喋りはそこまで!また話がズレたけど、今度こそ今後の方針を決めるわよ!」

 

 

手を叩いて高城が注目を集める。

 

飲み込まれるか別れるか。今後を決める重大案件。

 

俺の選択肢は当に決まっているが。だから軽く手を上げると俺はこう皆に問いかけた。

 

 

「近所に親が居るのは里香と小室と宮本だったな。行くんだったら俺も一緒に付いてって良いか?」

 

 

一斉に俺に注目が集まった。最初っから出ていく奴との同行を希望するなんて選択、普通ならありえないだろうし仕方ないか。

 

 

「え、良いのか?確かに真田も一緒に探すの手伝ってくれるんなら心強いけど・・・」

 

「本当に良いの?別に無理して付き合ってくれる必要は―――」

 

「気にしないで良い。単に、ここでぬくぬく守られて閉じ籠ってるのが逆に会わないだけだからさ。それに里香の親父さんとお袋さんも無事も気になってたし」

 

 

本当は違う。

 

俺が求めるのは血と闘争。少なくともここでジッとしてちゃすぐにやってくる気配は無い。

 

向こうから来ないなら、こっちから行ってやればいい。

 

里香や小室達の為じゃない、自分の快楽の為の選択だ。到底胸を張れない理由だってのも自覚してる。

 

・・・・・・だもんだから、小室と宮本から注がれる感動した様子の眼差しがくすぐったくてしょうがない。毒島先輩や鞠川先生も止めて下さい頼んますから。

 

里香も、そんな潤んだ目で見上げて縋りついてくるな!お前の場合抱きつくというよりサバ折り痛い痛い割と本気で痛い!?

 

自己嫌悪の念が湧いてくるぐらいには、皆が浴びせてくる視線が眩しかった。

 

 

 

 

「・・・・・・私は、娘と一緒に高城さんの親御さんの元に残らせてもらえないか」

 

 

そう言ったのは、ありすちゃんを抱いた体勢の希里さん。

 

 

「助けてもらった上にここまで一緒に連れてきてくれたのは本当に感謝しているよ。だが私は、娘の安全を何よりもしたいんだ」

 

「いえ、別に気に病まなくても良いですよ。これは僕達の都合ですし・・・・・・」

 

 

まあ、やっぱり希里さんの反応の方が普通だよな。誰が好き好んで安全地帯から出ていきたがるもんか。そんな奴がここに1人居るんだけどさ。

 

それにハナっから希里さんの事は期待してない。戦力にならないとかそういうのじゃなくて、そもそも子連れなんだしってのが希里さんがここに残ると踏んだ理由。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、俺の今後の行動予定は決まった訳なんだけど。

 

―――――今度はここからあっさり出ていく事が出来るのか、というのが微妙に困難そうな課題だった。

 

何となく、一筋縄で出れない気がする。

 

 

 

 


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