HOTD ガンサバイバー   作:ゼミル

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―――――新しい銃の入手と弾の補給が終わってからの道のりも、結構平和だった。

 

きっと避難する人間が確実に集まる主要道路を避けて、なるべく通れそうな脇道を利用してたのが功を奏したんだと思う。

 

予想通りデカい道路は橋方面に逃げる車でギュウギュウ詰めになってて、むしろ歩道や車の間を通って歩いた方が速いのが、遠目から見ても分かった。

 

というかクラクションとか怒号とか泣き声とか、<奴ら>を引き寄せる『音』という要素で溢れてるという点から考えると、余計に脇道選んで良かったと思う。

 

実際見かけた<奴ら>の数は少ないけども、どれも騒々しい広い道路の方に向かってたし。

 

 

 

 

でも結局川を渡るには橋に繋がる主要道路を通らなきゃならない。

 

こんな事態だから橋の近くで検問や封鎖も行われてる筈だ。下手すりゃ強行突破をしなきゃならなくなる可能性も否定できないのだ。

 

その時は、山ほどある得物の数々が役立ってくれるだろう。

 

・・・せっかく走破性に優れたSUVに乗ってんだから川の浅い場所を選んで車で渡河する、って選択肢もありだな。

 

 

 

 

「向こう(主要道路)の方はかなり足止めされてるみたいだね。何だか銃声や爆発音も結構するけど・・・・・・あの音はショットガンだな。まぁ猟銃程度なら民間でも手に入るし」

 

 

助手席から平野の呟きが。現在ハンドルを握ってるのは俺だ。里香は後部座席で銃声と爆発音が聞こえる度に小さい身体を一際縮こませている。

 

平野も装備を整え、学生服の上からベストを着用していた。メインアームはMP5SD6に決定。膝の上に乗せ、何時でも構えれるようにしている。射内での暴発防止の為、薬室に装填はされてないけれど。

 

俺ももちろん薬室から弾を抜いたM4を運転の邪魔にならないような角度で股の間に突っ込んである。

 

念の為に里香にも武装させといた。小柄なコイツ用に同じ位小型なアサルトライフルであるSG552。正直まったく似合わない。

 

コイツの馬鹿力を考えるとむしろ棍棒かバットでも持たせりゃ良かっただろうか。うってつけの金属バットはここには居ない小室の手の中だ。

 

 

「それにしても段々荒れてきたな・・・」

 

「どうもここらへんも一度<奴ら>に襲われたんじゃないかな・・・」

 

 

道を塞ぐ捨てられた車が増え、逃げるのに邪魔で手放した荷物が散乱し、それでも逃れられなかったのか道の至る所に血だまり。

 

ここまで来るともっと<奴ら>がうろつきまわっててもおかしくなさそうだけど――――ここで<奴ら>の仲間入りになった人間も、橋方面の騒動に誘われて離れた可能性は高い。

 

 

「とにかく<奴ら>が少ない内にさっさと橋に近づこう。もしかしたら小室達も渋滞で足止めされてるかもしれないから、橋を渡る前にまた合流できるかも」

 

「仮にそうなったとして、そのままあっさり橋を渡れるかが問題だけど」

 

「だね、この分だと間違いなく橋の辺りで検問なり封鎖なりしてるだろうし」

 

 

2人一緒に、釣られて里香まで一緒に車内の後部に顔を向けた。荷物用スペースが銃火器の入ったバッグで満杯になっている。

 

 

「・・・流石に警官を撃つのは、不味いよな?」

 

「だ、ダメに決まってるよマーくん!」

 

「少し会わない間にえらい過激になったね、真田って・・・」

 

「そりゃこんな恰好して学校に来たのだって、俺を見捨てた担任やクラスの連中皆殺しにするつもりだったからなんだぞ?そんな奴がイカレてない訳無いだろーが」

 

 

俺は視線を前方に戻しながら吐き捨てる。

 

平野はシリアスな顔に、里香はあからさまにショックを受けた表情で俺を見つめていた。何だ、分かってなかったのか。

 

ま、今となってはどうでもいい。獲物を横取りされたのは悔しいが、それは<奴ら>を撃って撃って撃ちまくる事で鬱憤を晴らさせてもらおう。

 

今気付いた事がある。<奴ら>を相手に生死をかけた戦いや駆け引きを繰り広げなければならない事に、俺はある種の楽しみを覚えているのだ。

 

文字通り死が歩き回るこの世界を気に入り出した、と言っても良い。

 

ははっ、マジで頭のネジが飛んできたな俺。

 

 

「・・・もう、普通を続ける意味もないんだもんね」

 

 

隣でSD6の銃身を撫でながら平野が小さく、けどハッキリとそう漏らしたのが聞こえた。

 

次第に平野の唇の端がゆっくりと上がっていく。フロントガラスに反射する俺と平野の顔は笑っていた。確かに笑っていた。楽しみで堪え切れないみたいに笑っていた。

 

わざわざ鏡で自分の笑顔を見た事なんてないが、こんな壮絶で笑顔に見えない笑みなんて浮かべるのは初めてに違いない。

 

背後の里香が、恐ろしい物を見た顔を俺と平野の間で行ったり来たりさせている姿がバックミラーに映っている。俺達が狂人にでも見えてるんだろうか。それは否定できない。

 

 

 

 

だが、いい加減里香も気付くべきだ。

 

人を食う死者が歩き回るこの狂っちまった世界で、何かしら狂わずにいない事こそが今じゃ異常なんだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうやって思考に囚われてたもんだから、里香が「止まって!」と叫ぶまで前方すぐ目の前に現れた存在に気づくのが遅れた。

 

<奴ら>かと思ったら傷どころか着てるワイシャツは血で汚れてもいない。れっきとした人間だった。右手にはレンチ。左手には小さな女の子。

 

・・・危うく轢き殺しかける所だった。ブレーキが間に合って良かったと割と本気で思う。

 

幾らなんでも<奴ら>じゃないれっきとした少女を殺すのは気が引ける。逆に言うと<奴ら>だったならお構い無しなんだけど。

 

 

「お願いです、安全な場所まで連れて行ってくれませんか!せめて子供だけで良いんです!」

 

 

運転席の所まで駆け寄って来るや否やそんな事を男性に言われた。見て分かる通り、女の子の父親と思われる。

 

学生服姿の高校生―――『元』高校生が運転してるにもかかわらず必死な様子で頼み込んでくる。ま、今じゃ何処ででも似たような光景が繰り広げられてそうな気がする。

 

俺らの格好や何時でも撃てる場所に置いてある銃に関してはスルーか気付いてないのかそれとも改造銃の類とでも考えてるのか、それともそんなの気にしてないぐらい切羽詰まった状況なのか。

 

どうしたもんか。とりあえず他の乗客の意見を聞こう。

 

 

「どうするよ?」

 

「小さな女の子もいるんでしょ?だったら乗せてあげようよ。まだ乗れるし小さな女の子を助けないのは流石に酷過ぎるし」

 

 

大事な事だから2回言ったんですね分かります。そんなネタが一瞬思い浮かんじゃったけど口には出さない。そんなキャラでも無いよ俺は。

 

とにかく平野の意見はハッキリしていた。視線で里香にも問いかける。

 

 

「た、助けないと。子供を連れた人を見捨てる訳にはいかないよ」

 

 

賛成票1追加。流石に頭の大事な線がプッツン切れてると自覚してる俺でも、こうして助けを求める親子連れを見捨てるのは心が痛む。

 

・・・特に、こんな小さな子供から如何にも大事にしてくれてる親が奪われるなんざ、何よりあっちゃならない事だと思う。

 

あんなのは、最悪の気分だ。

 

 

「里香、そこのドアを開けてやってくれ」

 

 

俺がそう指示すると、えらくホッとした様子ですぐさま後部ドアを開ける。

 

 

 

 

 

 

――――ここまでは、狂った世界の中でなけなしの良心を満足させる些細な善行を実行に移したに過ぎなかった。

 

もうちょい早いタイミングで起きてれば、ハイ終わりでさっさと走り去るだけで済んだんだろうに。

 

 

 

 

 

 

里香が女の子の身体を軽々持ち上げ、車内に入れた瞬間だった。

 

唐突に、ガラスか何かが砕ける音がかなり近くで響いた。窓ガラスや車体に破片がぶつかる音も。

 

そして、「ぐッ!?」と呻き声を漏らして男性の顔が俺の視界からフェードアウトする。崩れ落ちて車体の陰に隠れたのだ。

 

パパ!!?と少女が悲鳴を上げて、里香が慌てて自分が開けたドアから外へ飛び出す。

 

 

「真田!前方、距離15!」

 

 

平野の警告。規則的な咆哮がえらい盛大に聞こえてくる。顔を上げて前を見ると、いつの間にか現れた大型スクーター数台によって道が塞がれていた。

 

2人乗り3人乗りで全部で10人前後。改造によってスクーターのマフラーが取り外されているのがこの大音量の原因らしいけど・・・・・・

 

ハッキリ言わせてもらおう。乗って現れた連中は明らかにバカでろくでなしにしか見えない連中だった。

 

 

「・・・後方10に5人追加だ」

 

 

前後を封鎖した連中が手からぶら下げてるのは角材に鉄パイプ、釘バットにナイフに―――――

 

破裂音。紛れもない銃声だけれど、発生源は俺でも平野でも増してや里香でもなく。

 

 

「動くんじゃねぇぞ!コイツで撃たれたくなかったらよ!」

 

 

明らかに理性が飛んでる目をしたバカの手には拳銃。

 

 

「この銃はなぁ、マッポからかっぱらってやった本物なんだぜぇ?撃たれなくなけりゃさっさと車から出てこいよ!オラ、とっとと出てきやがれ!」

 

 

バカが持ってるのはリボルバー。警官から奪ったって事はニューナンブか新しいのだとS&WのM37だろうけど、ちょっと遠くてバカが振り回してるもんだから詳細までは判別できない。

 

 

「これだから素人は・・・脅すなら脅すでちゃんと銃を肘から手首まで真っ直ぐ直線上に置いて構えなきゃ思いっきり照準がぶれるのに。そもそも拳銃の有効射程は7mぐらいしかないんだし、あんな素人の腕じゃ当たる物も当たらないよ」

 

 

平野のそんなぼやき。持ち主から奪われてバカの手に握られてる拳銃を憐れんでるみたいだ。

 

 

「たまんねぇ、女まで居るぜ!」

 

「さっさとそこの女と車と荷物を置いて行っちまいな!そしたら痛い目見ないで済むぜ!」

 

「安心しろって、お前らの女も車もたっぷり俺達が有効に使ってやっからさぁ!」

 

 

何という世紀末。いや、核の炎に包まれてなくても世界が崩壊してなくてもコイツらは同じような事やってそうな気がする。最期の言葉に里香が情けない声で息を呑むのが聞こえた。

 

改造スクーターから離れた何人かが、前後から車へと近づいてくる。

 

 

 

 

俺達はどうするのかって?

 

決まってるさそんなの。

 

 

 

 

「平野、やれるか?」

 

「――――やれるさ。僕が何人学校で<奴ら>を倒したと思ってるんだい?僕らや小さな女の子を襲おうとしてる時点で<奴ら>もコイツらも大差ないよ」

 

 

オーケイ、そう言うと思ったよ。それでこそ親友だ。

 

M4を股の間から引っこ抜き、ストック根元近くの棹桿を引く。マガジンから機関部に弾丸が送り込まれる手ごたえ。安全装置解除。

 

 

「後ろの連中を頼む」

 

「Yes,sir!!」

 

 

ドアを開けて路上に立つ。すぐ足元で父親に縋りついていた女の子と里香に伏せておくようハッキリと命令し。

 

銃口を向ける。照準は拳銃を持ったバカ。飛び道具を持って調子に乗ってるのかリーダーみたいに振舞ってスクーターの傍から離れてないけど、まともに狙いも付けれないとはいえ拳銃を持ってる以上脅威度は近づいてきてる連中よりソイツの方が一応高い。

 

 

 

 

 

 

ショータイムだ、踊らせてやる。

 

 

 

 

 

 

「ロックン――」

 

「ロール!!」

 

 

掛け声に合わせて初めて生者に向けて引いたトリガーも、学校で<奴ら>を最初に撃った時と一緒でとてもとても軽かった。

 

突き抜ける反動にコンクリートの路上に当たって撥ねる空薬莢。胸元に喰らったバカは間抜け面を晒しながら衝撃でたたらを踏んで、後ろのスクーターを巻き込みながら倒れる。

 

状況が全く理解できない様子の取り巻きにも掃射。まず照準を切り替えて接近中だったバカどもに数発づつお見舞い。心臓を吹き飛ばされ大して使ってなさそうな頭の中身を道路にぶちまけ、自分の血だまりに沈む。

 

スクーターの周囲に居た連中ももちろん忘れない。未だ突っ立ったまんまのそいつらの血で改造スクーターの車体に鮮血の赤が新たにペイントされた。

 

最後の1人がようやく再起動に成功して手近なスクーターに乗って逃げようとしたけれど―――逃すものか。しっかりと構え、呼吸を整え、息を吐き切った瞬間に人差し指以外の全ての身体の動きを抑え込み、そっと引き金を絞る。

 

見事命中。後頭部から突入した弾丸に逃げようとした最後のバカの顔面は消失した筈だ。

 

 

「クリア!」

 

「クリア!ターゲットフルダウン!」

 

 

平野の報告。そっちを見てみると確かにピクリとも動かず横たわってる死体が5つ。

 

たかが10m、平野の腕なら外す訳無いか。

 

俺は自分の考えに納得しながら、たった今撃ち殺したばかりのバカどもの死体の元に近づいた。

 

戦利品として、コイツらが持っていた拳銃と金属バットを頂いて行く事にしよう。拳銃はM37エアーウェイトだった。嫌々ながら持ってた奴の死体を弄ってみたけど予備の弾は持ってない。

 

足元で呻き声。腹から血を溢れさせたピアスと入れ墨だらけの男が腹を押さえて苦しんでいる。間近で見て気付いたけど、歳は俺とかと大差ないと思う。

 

何だ、まだ生きてたのか。<奴ら>みたいにいちいち頭狙ったりしなかったから仕方ないか。それでも長くは持たないに違いない。

 

 

「た、助け、て」

 

 

血で染まった震える手を俺に向けて伸ばしてくる。

 

俺はそいつに向けて笑みを向けてやった。笑いながらM4をそいつの額に当てる。

 

発砲したばかりで高熱を帯びた銃口を押し当てられて、掠れた悲鳴を振り絞るソイツに俺は、こう質問してみた。

 

 

「もし逆の立場で同じ事を言われたら、そっちならどうした?」

 

 

返事は、目を見開きながら嫌だ、止めてくれという懇願。

 

答えにはなってないけど、その時のコイツらの行動は想像はつく。

 

だと思ったよ、クソったれ。

 

乾いた銃声、止む呻き声。

 

 

「平野、手伝ってくれ。さっさと死体やバイクをどかして通れるようにしよう。今ので間違いなく<奴ら>が集まってくる筈だし」

 

「・・・・・・へ、へっ!?わ、分かった」

 

 

呆けていたのか、反応が遅い――――まがりなりにも親友だ。何だか心配になってきたから、死体を路肩にどかしながら聞いてみる。

 

 

「で、結局の所、初めて人を殺した感想はどうだった?」

 

「・・・真田はどうだったんだい?」

 

 

質問に質問で返すのはマナー違反だって聞いたけど、俺は律義にありのままを答える事にする。

 

 

「そうだな――――悪くない気分だよ」

 

 

これが俺が学校を辞める事になった元凶であるあの野郎や俺を嵌めた教師だったら、さぞや爽快だったに違いない。

 

・・・また腹が立ってきたな。本当に、アイツらをこの手で殺せなかったのが口惜しい。

 

でも学校ではノリノリで<奴ら>撃ち殺しまくった上に、初めての人殺しにも嫌悪もショックも感じてない自分に、割と本気で危機感を覚えてたり。

 

イカレてるどうのこうの以前に快楽殺人者の素質でもあったんだろうか自分。それは幾らなんでもちょっとイヤだなぁ。

 

そう思いながら平野と一緒に2人がかりで道の端に死体を運んで積み上げていると。

 

 

「・・・・・・そう、そうだね・・・・・・・・そうさ、意外と、悪くないや」

 

 

そう、確かに聞こえた。紛れもなく平野はそう言った。

 

そして笑ってもいた。さっき以上に凶悪な笑みを浮かべていたのを、俺は真正面から覗きこむ形で目の当たりにした。

 

―――本当、とことん気の合う親友だ。

 

 

 

 

死体をどかし、スクーターも片付ける。懸念通り、喧しいエンジン音と銃声に誘き寄せられた<奴ら>が、未だ遠くとはいえ着実にこっちに近づいてきているのが見える。

 

里香や女の子は気付いていないのか、車の外で固まったまま。女の子の父親は気絶してるっぽい。頭に瓶が直撃したんだ、そうなってもおかしくない。

 

問題は単に軽い脳震盪を起こして気絶しただけなのか、それとも見た目だけじゃ分からないもっと酷い状態なのか、俺には判別できない事。場所が場所なだけに気になる所だ。

 

このまま呆気無く死なれても困る。親なのに小さな子を置いたままあっさり死なれて堪るものか。

 

 

「パパ、パパっ、起きてよパパ!」

 

「ダメだ、頭を打ってるから揺らさない方が良い!」

 

 

平野が車にもたれかかる父親の身体を揺らす女の子を抑える。

 

素人目には、呼吸とかに異常は無いと思う。脈を測ってみてもちょっと速い位。直前までパニックで興奮していたと考えれば大丈夫だと思うけど。

 

 

「君の名前は何て言うんだい?」

 

「・・・ありす。希里ありす」

 

「ありすちゃんか。良い名前だね。安心してありすちゃん、約束するよ、君のお父さんは僕達がありすちゃんと一緒にお医者さんの居る安全な所まで必ず連れってってあげるから、安心して」

 

 

ありすちゃんと同じ位の視線までしゃがみ込んで、平野がそう断言した。

 

反対意見を出すつもりは無い。俺だって同意見だ。

 

まだ動き出さない里香を余所に、俺と平野と2人がかりでありすちゃんの父親を車内に運び込む。出来れば横に寝かせたいけど、荷物が多過ぎて背もたれを後ろに倒せなくなってたのは誤算だ

 

次にありすちゃん。そして最後に里香。俺は里香に手を差し出す。

 

 

「何時まで呆けてんだ。ほら、立てよ」

 

「ひ、ひっ!」

 

 

里香は、俺の手を取らなかった。

 

逆に小さな悲鳴を上げて、俺から離れようとしても腰が抜けて動けなかったのか失敗していた。

 

微妙な空気が俺と里香の間に流れる。

 

 

「古馬さん・・・」

 

「お姉ちゃん?」

 

 

そりゃそうか。相手がろくでなしの極みみたいな連中であれ、幼馴染が目の前で躊躇い無く<奴ら>じゃない紛れもない人を殺すのを目撃したんだから。

 

そもそも人を殺して笑ってられる存在が目の前に居れば、まともな理性を持つ人間なら誰だって怯えるか、逃げ出したくなるか。

 

 

 

 

けど、里香の心中なんぞどうでもいい。

 

 

 

 

「ひゃなゃっ!!?」

 

 

めんどくさくなったんでまた逃げようとする里香に接近すると、制服の襟を掴みで丁度いい感じに膝が曲げ気味で腕が入るスペースがあった膝裏に腕を突っ込んでそのまま持ちあげた。

 

いやだって説得するにも時間がかかりそうだし、<奴ら>も目が届く範囲まで近づいてきてるから時間もないし。

 

それにしても軽いなコイツ。銃や装備を身に着けててもそう感じるぐらい軽々持ち上げれた。この体格でどうしてあんな怪力が出せるんだか。

 

ついでに言うと、タクティカルベストのジッパーが途中までしか上げられないぐらい飛び出た膨らみが目の前で揺れてるけど平常心平常心。目に毒だとはしみじみ感じてるけどね。

 

丁度残り1人分余っていた座席のスペースに里香を置く。

 

・・・恐怖で引きつってた筈の顔が、今度は真っ赤になって目が渦巻きを描いている。まるでマンガだ。

 

 

「本当、真田って時々大胆だよね・・・」

 

「?」

 

「あうううううううううううううう」

 

「お姉ちゃん大丈夫?お熱でもあるの?」

 

 

 

 

訳が分からん。とにかく出発しよう。

 

 

 

 

 


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