HOTD ガンサバイバー   作:ゼミル

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・・・・・・手の平に伝わってくる感触と体温が非常に落ち着かない。

 

 

 

 

「そうか、いつの間にかこんなに大きくなってたんだな・・・」

 

「真田、子供の成長を見守る父親みたいなセリフ言うのは別に構わないけど、今この状況で言うのはちょっと・・・」

 

「分かってるよ、コンチクショウ」

 

 

勝手にニギニギワキワキ動きだしそうな己の手を必死に自制しながら、里香を背負って下の階へ。ああ、1段1段が遠い。

 

一緒に居る小室の背中にも鞠川先生が。アルコールの混じった入浴直後独特の湿っぽい空気にどこか甘い匂いも混じってて、ああもう。

 

 

「まさか1日で世界が壊れて殺人童貞まで捨てた上にまさしくエロゲなイベントまで発生するなんてなぁ」

 

「密度濃過ぎるよな本当。でも、やっぱり真田でもこう、何ていうか、その、女の人に興味あったりするんだな」

 

「そりゃ俺だって男だし。家にだって親に黙って買った平野にだって秘密のエロゲの1本や2本―――」

 

「まあ、それぐらいなら」

 

「――――5本6本7本8本9本10本」

 

「多いな!」

 

「冗談だよ冗談」

 

 

小室にはガックリと脱力された。鞠川先生から「あ~、高校生なのにいっけないんだ~♪スケベなんだから~♪」と言われた。俺だって男なんです。

 

大体こっちだって健全な高校生相手にアンタの身体は過激すぎるんだと思うんですがと小一時間説教したいんですが。あ、俺もう学生じゃないんだった。

 

あと里香、頼むから無駄に俺の首に廻した腕に力込めるな。閉まる以前に極まって折れそう。

 

 

「あー・・・真田って実はそういう性格なのな。ちょっと意外だった」

 

「親が死んで学校から追い出された上に何日も誰とも接しようとせずに過ごせば、性格の1つや2つ変わるに決まってるさ」

 

「そりゃあ、な・・・」

 

「仲良さそうねえ、お2人さん?」

 

 

階段の途中で宮本と遭遇。彼女も彼女で、下はパンツだけで上はタンクトップ1枚だけ。でもって確実にノーブラ。

 

そしてやっぱり風呂上がりにしても不自然に顔が赤い。お前もか以下略。

 

宮本は小室にズイッと顔を近づけ、急接近にたじろぐ小室をしばらく目を細めて見つめてから、こうのたまった。

 

 

「あ~孝が3人いる~!!」

 

「はあああぁぁぁ?」

 

「小室、多分宮本も酒飲んでる」

 

「やっぱりか・・・お前も飲んでるのかよ?」

 

「だって疲れちゃったんだもん。たった半日で何もかもおかしくなっちゃうし―――――永も死んじゃうし」

 

 

永、というのは誰だろう。

 

恐らく小室とも宮本ともそれなりに深い関係の人間だった筈だ。小室は苦い顔を浮かべてるし、宮本に至ってはそのままへたり込んでべそまでかき始めた。

 

けど失礼ながら、これだけは言わせてもらおう。

 

 

「悪い、そこ降りるの邪魔だから」

 

「っ、おい真田!」

 

「いや事実だろ」

 

 

階段の幅は狭くは無いが、こちとら人を運んでるんだ。邪魔過ぎる。

 

 

「・・・・・・」

 

 

宮本は俯いたまま、黙って場所を空けた。

 

俺達は無言で下まで降りた。小室が背中の鞠川先生をリビングのソファーに寝かせる。

 

ソファーには先客がいた。高城である。

 

ツインテールを解いて眼鏡を片手に持ったまま、静かに寝息を立てていた。見る度にツンツンした表情を張り付けてるとは思えないぐらいあどけない顔で寝息を漏らしている

 

こうしてじっくり見てみると、高城も小柄な割に中々立派なスタイルの持ち主だと分かる。比率でいえば里香の方がより凄まじいのを現在進行形で身を以って味わってるんだけれども。

 

 

「何で生唾呑み込んでるんだ小室君や」

 

「飲み込んでないって!真田も古馬を下ろしてやれよ!」

 

「それが、ちょっと問題が生じてだな」

 

「何だよ?」

 

「―――里香の方が離してくれない」

 

 

コイツ、学生服のボタン部分をまとめてがっしり掴んでるから脱いで脱出も出来ないと来たもんだ。

 

 

「おい里香、頼むから離れてくれ」

 

「や~だ~~~~~、会ってくれなかった分一緒に居てくれなきゃやだ~~~~~~」

 

「お前もそんなキャラじゃなかっただろうが・・・」

 

 

正確には、小学校ぐらいまでは俺にべったりくっついて離れようとしなかったけど、もう昔の話だ。

 

本当、割と本気で離して欲しいのに。ちょっと動く度に背中に感じる物体が形を変えて存在感を伝えてくるもんだから居た堪れないというか、その、えっと。

 

 

「男扱いされてないのかな、俺」

 

「むしろその逆だと思うけど・・・」

 

「?」

 

 

こうなりゃヤケだ。意地でも離してくれないってんなら、このままぶら下げといてやる。そして思う存分背中で味わってやろうじゃないかコンチクショー!

 

 

 

 

 

 

後ろに引っ張られる重みと感触を我慢しつつ、久々にお喋りし続けたせいか喉が渇いてきたのでキッチンへ。小室も付いてきた。

 

ジュースか何か、冷蔵庫に無ければ水でもいいけど。

 

 

「小室君と真田君か。もうすぐ夕食が出来る、朝食もな」

 

 

両開きの冷蔵庫を一緒に漁っていると、背中(with里香)に声をかけられた。

 

毒島先輩の言葉を証明するかのように、煮物らしい和食っぽい良い匂いが鼻に届く。そういえば腹も減ってきた所だ。

 

 

「助かります先輩、面倒ばっかり押し付けてええええええぇぇぇぇぇぇええぇぇぇっ!!!?」

 

 

小室絶叫。何だよ耳元で喧し―――――

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

( ゚д゚)

 

 

(つд⊂)ゴシゴシ

 

 

(;゚д゚)

 

 

oh・・・・・・

 

 

 

 

「・・・ホント、何このエロゲ」

 

 

リアルで裸エプロンやる女がここに1人。しかも堂々とし過ぎて違和感も感じねぇ。

 

里香っぽく艶やかな黒髪を後頭部に簡単にまとめた毒島先輩が上半身裸に直接エプロンを羽織って料理の真っ最中だった。下は黒。先輩らしいというべきか先輩にしては過激と感じるべきか。

 

 

「どしたんですかその格好」

 

「ああこれか。合うサイズの物が無くてな。洗濯が終わるまで誤魔化しているだけだが、はしたな過ぎたようだな。済まない」

 

「えっ、いや、そんな事無いんですけど・・・」

 

「なら何故に鼻と股間を押さえてるか」

 

「違っ、そんなつもりじゃ!?そうじゃなくて、いつ<奴ら>が襲ってくるか分からないのに!」

 

 

単なる誤魔化しかと思ったけど、小室の言葉も尤もだ。

 

 

「君達が警戒しているからな。評価すべき男には絶対の信頼を与える事にしているのだ、私は」

 

 

評価すべき男、か。

 

この俺もその中に含まれてる、と思っていいのかもしれないけど、こうして直接言われると何だか気恥しくなってくる。

 

こちとら元は何もかも失って周りの人間からも裏切られた結果生まれた銃乱射未遂犯だ。この期におよんで誰かを信頼するのは自分の勝手だけど、俺自身が誰かに信頼されるに値する人間かと問われると――――――・・・

 

自分でも首を捻りたくなる。つまりはその程度の人間だ。しかも少なからず狂ってると自分でも自覚している。

 

 

「そんな顔をしなくても、君の事も信頼しているから安心したまえ」

 

 

顔に出てたのか、笑いながら毒島先輩はそう言った。綺麗な笑顔だと、心の底から思える表情だった。

 

きっと隣の小室も見とれてるに違いない。俺だって「はあ、ありがとうございます」と半ば上の空で答える事しか出来なかったし。

 

 

 

 

階段の方から、宮本が小室を呼ぶ声が聞こえた。

 

見てやった方が良いぞ、と毒島先輩は彼に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喉を潤し終えて一息ついてみてからふと、自分が暇を持て余している事に気づく。

 

この家に置いてあった分の弾薬の弾込めは終わってるし、上では涼さんや着替えたありすちゃんと一緒の平野が見張りについている。

 

鞠川先生と高城は寝てるし毒島先輩は料理中で親が居なくなってからもコンビニ弁当で生き長らえてた様な俺に手伝える事も無く、小室と宮本に至っては階段で口論中なのはどうでもいい。

 

 

「もっぺん持ってきた銃のチェックでもしとくか」

 

 

背中にひっついたまま離れない里香が、背後でぶらぶら揺れている。子泣き爺かお前は。

 

リビングに運び込んであった残りの武器入りバッグの中身を床に広げていく。BGMは高城と鞠川先生の微妙に熱っぽい寝息。落ち着かないけど他に場所が無い。

 

コルト・M4コマンドー。SIG・SG552。H&K・MP5SD6。イジェマッシ・AK102。MPS・AA12。その他様々な銃、専用のマガジン、共通の弾薬、コンバットナイフ、マチェット、爆破用キット、エトセトラエトセトラ。

 

1丁1丁マガジンを付けず、棹桿やボルトを引いて薬室が空なのを確認しつつ異常が無いかどうかチェックしていく。これから命を預ける存在だ。確実に狙った所へ弾丸を発射しなければ無用の鉄クズでしかない。

 

ああ、何だか肩の力が抜けていく様な、段々リラックス出来ってってるのが自分でも分かる。やっぱ学校からこっち、色々と怒涛の展開で興奮してたんだろうきっと。

 

・・・・・・そういうのとは近いのか遠いのかはともかく、理性的にも肉体の一部分的にもまた興奮させかねない存在が背中に張り付いてるんだけど。

 

 

「里香、ホントいい加減離せ」

 

 

どういう姿勢を取ってるのかとにかく背中にひたすら体重をかけてくる幼馴染に文句を言う。返事は「やだ~」やっぱりかチクショウ。

 

いい加減胸擦りつけてくるの止めろ。自分の格好分かってるのか?いや、酔っ払いにそういう理性的な判断求めるのが間違ってるか。痴女的な意味で襲いかかっていた鞠川先生が良い例だ。

 

 

「まだ足りないよ~ぅ・・・」

 

 

一体何が足りないってんだ。そろそろ胸元の圧迫感も辛くなってきたし、俺はそこまで包容力も器も大きくないと自認してる。

 

銃を握ってからこっち、溜め込んでたのを一気に爆発させてやったお陰でこれまで以上に短気になってんだ。もうそろそろ我慢の限界だ―――――男性的な意味合いでも。

 

せっかくの銃を散らかさないよう、使用弾やマガジン毎にまとめてバッグに再分配して片付けてスペースを確保。

 

そして、強引に後ろを向く。

 

頬が触れるぐらい近く、視界一杯に広がる幼馴染の紅潮した顔。

 

触れ合う顔同士、伝わってくる肌と吐息がとても熱い。

 

微かに焦点の合わない瞳が、次の俺の行動を待ち構えている。無理やり腰を捻じったまま、里香の腰を抱きすくめてこっちから里香が離れられないように固定してやった。

 

 

「あのなぁ、里香」

 

 

俺は、一言一句ハッキリと告げてやる。

 

 

 

 

「――――犯されたいのか?」

 

 

 

 

世界から音が消えた。そう思ってしまう位の静寂がこの空間に広がった・・・・・・そんな気がした。

 

もちろん俺の錯覚だ。女2人の悩ましい呼吸音や遠くから聞こえる騒ぎの喚声、犬の吠える声までさっきから聞こえっぱなしだ。

 

でも、だって、俺がこんな事言ってやりたくなるのも仕方ないじゃないか。

 

小室とバカ話してたように、俺だって男なんだ。ここまで間近で裸寸前の女に様々なアプローチ(?)を受けて、何も感じないほど朴念仁でも鋼の精神の持ち主でもないんだよ。

 

そんな時に、一番身近な異性でで、尚且つ俺にとって最も御し易いと思える相手(実際の腕っ節の強さはともかく)である里香に、ここまで絡まれようものなら。

 

どんな形でもいいからこの状況を打開したいという点でも、<奴ら>相手に暴力を振るい続けたが為に滾ってしまった血を抑えきれず、性欲という別の形で発散したいという本能に負けてしまうという点でも、決壊してしまうのはきっと仕方が無い事なんだと思う。いや、思いたい。

 

ああもう、御託なんてどうでもいい。俺のやりたいようにやってやる。プッツンキてる野郎に常識を求めるな。

 

腰に廻していた手を下にずらした。そのままその手は割れ目を覆う布地の内側へ、もう片方の手はシャツの裾から一気に胸元へと突っ込んだ。半径3m以内に女性2人が寝てるのもお構い無し。知った事か。

 

里香の素肌を俺の手が這いまわる。左右に感じるそれぞれ別種の柔らかさ。手の平に感じる体温は、頬や吐息よりもよっぽど熱い感じがする。

 

 

 

 

――――里香の抵抗は無い。

 

ただ、更に熱を含んだ吐息と手の位置を動かす度大きく震えるだけ。

 

俺の服を掴む手からも力は抜けている。俺を突き飛ばそうとする気配も無い。

 

 

 

 

「抵抗、しないのか」

 

 

何も言わない。聞こえてるのか、言葉の意味が理解出来てるのか、それさえ分からなくなってきた。

 

 

「――――――」

 

「何・・・・・・?」

 

 

里香が唇を動かした。何か言葉を口にしたんだと思うけど、それを俺がちゃんと聞き取って見せる事は出来なかった。

 

何故ならまさしく蚊の鳴くような音量だっただろう里香の声を、外で轟いた散弾銃の銃声が掻き消したんだから。発生源はかなり近い。犬の吠える声もだ。

 

厄介事の接近を感じ取った瞬間、一気に頭が冷えていった俺は手近に置いてあったM4とマガジンを持って階段を駆け上った。

 

何も言わず、里香をその場に残したまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベランダには平野と涼さん以外にも音を聞いて駆け付けたらしい小室も一緒に、外の光景を睨みつけていた。

 

 

「今のは何だ?」

 

「見れば分かるよ」

 

 

ああ確かに、ちょっと顔を出してみれば嫌でも目に入る。

 

<奴ら>がこの家の周囲を取り囲もうとしていた。でもそれは犬の鳴き声に釣られただけじゃないらしい。

 

悲鳴が聞こえる。<奴ら<に混じって、生きた人間が包囲されて次々食われていってる様を街灯が照らし出している。中には門前に明かりのついた家の前に辿り着きながらも結局中には入れないまま襲われてる人も―――――

 

 

 

 

――――ちょっと待て。

 

<奴ら>は音に引き寄せられる。

 

なら、生きた人間の場合は?

 

 

 

 

「クソっ!明かりを消せ、今すぐ!」

 

「な、何でだよ真田」

 

「あそこで襲われている者達は光と我々の姿に群がってきた、という事だよ、小室君」

 

 

何時の間にやら部屋の中に居た毒島先輩が、俺の考えをそっくりそのまま小室に告げてくれた。

 

興味を惹かれたのかベランダに近づこうとしていたらしいありすちゃんを片手で押えている。下の様子を見せたくないのだろう、涼さんはありすちゃんを抱き上げると階段の方へと消えた。

 

 

「なら、僕らに気付いてここまで来たんなら<奴ら>を撃ってあの人達を助けないと!」

 

「忘れたのか?<奴ら>は音に反応するのだよ、小室君」

 

「っ!!で、でも確かほら、音がしないサイレンサー付きの銃もあるんだから、それを使えば――――」

 

「たとえ最初から消音銃として開発した銃でも、完全に無音って訳にもいかないよ。逆に機関部の作動音の方が大きく響く場合だってあるんだから。

それに幾ら一杯弾があるからって今この場で使うにはリスクが高過ぎるし、専用弾を使ってる銃もあるからこの日本国内ではもうその弾を補給できないと考えた方が良い。それを今から消費する訳にもいかないよ」

 

 

そもそもこれだけの武器を日本の一個人が持っていた事の方がおかしい。

 

 

「むろん、我々は全ての命ある者を救う力などない!」

 

 

冷静にそう断言しながら、毒島先輩は壁の明かりのスイッチに触れた。

 

部屋が暗くなり、代わりに外から入る街灯の明かりが俺達の影を作り出している。

 

 

「彼らは己の力だけで生き残らねばならぬ。我々がそうしているように―――」

 

「なら・・・・・・それなら、何で」

 

 

毒島先輩の言葉を俯き気味に黙って聞いていた、黙って聞く事しか出来ていなかった小室が、不意に顔を上げる。

 

コイツが睨みつけてきた相手は毒島先輩ではなく、隣に居る俺と平野だった。

 

 

「何でお前らは、ありすちゃんを助けたんだ!!」

 

 

そう、怒鳴られた。思わず、平野と顔を見合わせた。

 

八つ当たりか何かのつもりだろうか。

 

 

「えっと、いや、その、それはさ、ありすちゃんは小さな女の子なんだし・・・・・・」

 

 

お前あの時もそればっか言ってなかったか?と突っ込むのは今は止めにしとこう。

 

さて、その時の様子を思い返し、自己分析し、結論を出す。この間3秒ほど。

 

 

「――――その場の勢い?」

 

「ふざけんなよ真田・・・!」

 

「だけどな、実際問題そんな感じだったんだよ。涼さんとありすちゃんを助けるメリットはともかくデメリットは特に思いつかなかったし、頭の線が2~3本切れてても小さな子供連れを見捨てられないだけのちっぽけな良心はまだ残ってたもんで」

 

 

基本、そんな感じの思考であの親子を助けたんだった筈だ。

 

その結果、火事場泥棒的なゴロツキ共を平野と一緒に10人ばかし始末する羽目になった訳だけど、そこら辺はもう気にしてない。

 

 

「<奴ら>相手に銃片手に暴れ回るのも俺は悪くないけど、俺は自殺志願者でもないんだよ。少なくとも<奴ら>に食い殺されるのは勘弁願いたいし――――

小室、お前とは会って1日も経っちゃいないんだから説得力無いかもしれないけど、俺はお前は良い奴だと思ってる。だからわざわざ自殺しに行かせる訳にもいかないんだ」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「小室だってまだ死にたくないんだろ?なら名前も知らないどうでもいい他人なんて切り捨てればいい・・・・・・人間、自分の為に他の誰かを切り捨てなきゃ生きていけないんだよ、きっと」

 

 

だから、下手に首を突っ込んで自分達のこれから損なわない為に、『僕』のクラスメイトは見ざる言わざる聞かざるを貫いて『僕』が追い出されるのを黙って見送ったんだろうか。

 

『俺』はそれが我慢出来なかった。見捨てた連中を憎んで殺そうとした。

 

けど今、その『俺』もまた、助けを求める人達を見殺しにして自分達の保身を図ろうとしている。

 

――――人間なんてそんな生き物だ。そう考えると、少し楽になれた。

 

 

「私も、真田君と同じ考えだよ」

 

「毒島先輩・・・」

 

「宮本からも話は聞いたよ。君は過去一日に対して厳しくはある者の男らしく立ち向かってきた。私も君のこれまでの行動は立派な男として好意を覚えるよ」

 

 

だが、と毒島先輩は双眼鏡を小室に差し出す。

 

 

「よく見ておけ。慣れておくのだ、もはやこの世界はただ男らしくあるだけでは生き残れない場所と化した」

 

「・・・毒島先輩はもう少し違う考えだと思ってた」

 

「間違えるな小室君、私は現実がそうだと言っているだけだ。それを好んでなどいない」

 

 

それだけ言い残して、毒島先輩も階段へと消えた。

 

残されたのは野郎3人のみ。御大層な事小室に向けて吐いてしまった分、正直気まずい。

 

でもアレなんだよ、だからってハイサヨナラとその場から離れられそうな雰囲気でもないし。

 

うんどうしよう、激しく困った。と思ってたら、

 

 

「――――ゴメン、真田、平野。怒鳴ったりして」

 

 

だしぬけに、小室に頭を下げられた。

 

見えた顔は心底申し訳なさそうな表情をしていて、毒気が抜かれてしまう。

 

 

「気にすんな。自分でもまともな事言ってないのは自覚してるから」

 

「そうでもないさ。でも、これからどうするんだよ」

 

「少なくとも今夜は籠城した方が良いよ。銃があってもアレだけの数、車に乗って脱出できるかどうか分からないし、とにかく<奴ら>や他の人間が集まってこないよう全ての照明を落として、静かに<奴ら>が離れるまでやり過ごすんだ」

 

「どうやらその方が良さそうだな・・・・・・」

 

 

すぐ下から聞こえてくる、<奴ら>の呻き声の大合唱。

 

その中に紛れて聞こえるのは犬の鳴き声。きっと<奴ら>は喚き立てる犬の鳴き声に集まってきたに違いない。

 

<奴ら>に埋もれて姿は見えなくても相変わらず煩い。撃ち殺してやろうか。俺は猫派なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着かない夜になりそうな、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 


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