IS:ボンド   作:田中ジョージア州

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初夏のまだまだ涼しかったあの日が懐かしい……








10話 襲撃者

IS学園が誇る防空レーダー範囲の遥か上空からの自由落下にもアリゲーターオルフェノクは着地の衝撃によるダメージなどまるで感じさせない。奇襲の瞬時加速の出鼻が挫かれ唖然とする一夏へと白く濁った双眼を向ける。

 

なんだ?

 

突如アリーナの遮断シールドを突き破り地面に大穴を開けた謎の侵入者に誰1人として説明が付かなかった。

 

ーー管理室

ようやく晴れた土煙の奥から現れた異形にオペレーターの面々も息を飲む。コンソールから指が離れる。図面や画面から目を離し注目した。思考が護るべき生徒から離れた。

釈明を上げれば彼女達が無能なわけではない。

まるでセオリーにないアリーナ破りという掟破りの暴挙だけでも混乱に足るものも彼女達はそれでも冷静に対処していた。

 

()()

 

容易い原因の特定。選択肢の極狭感。アリーナの遮断シールドを物理的に破れるとなればソレ即ちISだと。誰もがそう結論付けたからこそ、全会一致の周知の事実だからこそ予想外の展開にも対応出来たのだ。実際オルフェノクの存在を知っていた千冬やセシリアですら本能的にISによる襲撃だと断定していた。

 

ISとはそれ程重要であり。

オルフェノクとはそれ程()()だったのだ。

現れたのは予想の範疇を突き抜けた未知。

 

それもその筈。

 

そもそも彼女達が生涯賭けようが本来なら消して目撃出来ない異世界の存在。感知不能の境界の向こう側ですら未知の対象であった循環逆流の進化物。この世界の常識では例え人類史の終わり間際でも槍玉に挙げられることは無いだろう存在がよりにもよって襲撃という形で我が身を晒したのだ。

 

驚く

 

 

ーー

「先輩……アレってなんですか……?」

 

浮かばない解決策に刻々と危険に晒される取り残された生徒達という事実に真耶の教師としての自尊心は揺らぐ。

 

「I…S?」

「というか人間じゃ無い?」

「怪物……」

 

学園の誇る精鋭達がうわ言に頼る。

 

それは千冬も同じく。違ったのは正しい解答を持っていた事。

 

「なぜ学園にオルフェノクが……」

 

弱ったように消え入りそうな声。しかしそれが幸いし他の教師陣には聞かれなかった。事前に巧からの説明でオルフェノクという名称だけは知っていた千冬は同時にその脅威も知っていた。

直ぐに混乱するオペレーター陣に檄を飛ばす。

 

「状況確認!」

 

ハッとしたようにオペレーター達が動き出す。千冬は立て続けに指示を投げる。

 

「客席に取り残された生徒の避難を最優先に行動!教師部隊はアリーナ内に突入!対象の撃退。場合によっては破壊も視野に入れろ。山田君!」

 

「はい!」

 

二言目に返事をする真耶には完全に怖れの色はない。

 

「織斑と凰に開放回線(オープンチャネル)。」

 

「はい!」

 

再び奔走するオペレーター達を前に箒は画面に映る上空を煽るアリゲーターオルフェノクに何かを感じる。画面外の景色に先程までの想い人の奮闘が重なる。

 

「一夏っ…!」

 

アリゲーターオルフェノクの狙いを感覚的に確信した箒は管理室を飛び出す。職務に専念する千冬達は誰1人として気づかない中セシリアだけがそれを一瞥し、自身も管理室を後にする。

 

 

ーーアリーナ

なんなんだアレ……

 

「ちょっと、なによアレ⁉︎」

 

隣を見ると鈴もおんなじ気持ちらしい。しかし、本当になんだアイツ。見るからにISとは違うようだし……

 

「ん?なんだなんだ⁉︎」

 

なんだこれ?おれ変な操作したか。すると鈴が呆れたように言う。

 

「オープンチャネルよ早く出なさい。」

「早く!」

 

「はいぃ!」

 

オフになっていたオープンチャネルを開くと千冬姉の声が聞こえてきた。

 

『織斑!凰!無事か⁉︎』

「ち、千冬姉!」

 

『織斑せん……いや良い。直ぐにピットに離脱しろ近い位置でいい!』

 

つまり逃げろって事らしい。

もちろんおれも不安でいっぱいだが、それ以上にシャッターの向こう側の観客席に意識が行く。

クラスのみんな他の同学年の子たち先輩たち全員が逃げられたとはとても思えない。もしこいつが観客席に狙いを定めたら……

 

「一夏!なにボーっとしてんの⁉︎」

 

鈴の叱咤で正気に戻る。ダメだこんな体たらくじゃあ真っ先にやられちまう。おれがみんなを守るんだ。

 

「鈴!先に行ってろ!」

 

白式のスラスターを吹かせ侵入者に突っ込ませる。

 

 

ーーピット

 

「はあ⁉︎」

 

呻くのは束の声。クロエを通して送られてくる映像に目を疑う。

 

「にゃはは……」

 

クロエのデバイスから聞こえてくる束の狼狽も無理なき事だと思いなのはは額を押さえたくなる。この数日で彼の性格は一通り理解したつもりだ。恐らく客席への被害を避けるためだろうが、正直褒められた行為ではない。オープンチャネルはこちらでも傍受しているため会話の内容はなのはも聞いている。あそこは千冬の言う通りにするべきだ。

 

ーー吾輩は猫である

空中モニタに映し出される特攻シーンに暫し悶える束。コンマ少しして。

 

「ーー!…ま、いっくんらしいかぁ。」

 

ころっと態度を変えた束はしかし依然厳しい評価を崩さない。

 

「白式本来の出力に急降下での衝撃をプラスしての零落白夜。ISじゃないから意味ないけどゴーレムの耐久値程度なら楽に振り切っちゃうだろうね。」

 

行動は評価出来ないが手段としては充分効果的だ。灰色の怪人相手にも充分太刀打ち出来るだろう。

束の思惑どおり出鼻を挫かれたアリゲーターオルフェノクは完全に面を食らったようで防ぐことも避けることも出来ずに肩口から勢いそのまま袈裟斬りにされる。

金属音と共に火花が散った。

そう、火花だ。

狼狽する一夏を一瞥し束は憎らしげに毒づく。

 

「かったいねぇ。」

 

 

ーー

弾かれる刃。

双天牙月より細身といえどもISの武装。一夏の身の丈を超える大刀は白式のポテンシャルを活かした猛加速と重力というおよそ生物が受けうる最大級の恩恵を受け凄まじい威力を誇る一撃と化した。数値にすれば数トンクラスの文字通り必殺の斬撃はしかしアリゲーターオルフェノクの肩に触れた途端アッサリと跳ね返された。

 

「なっ!」

驚愕に固まる一夏。

 

アリゲーターオルフェノクにはそれで充分。

 

振り抜かれた剛腕が白式の肩付近の有翼にぶち込まれる。先の突撃宜しく思い切り吹き飛び、なんとかアリーナの壁に激突する直前で鈴音に受け止められる。

 

「一夏!ーーっんのバカ!何やってんのよ⁉︎」

 

一夏の無事を確認するも同時に込み上げる怒りをぶつける。対する一夏は未だ困惑した表情で無傷で佇むアリゲーターオルフェノクを見やる。

 

完璧に捉えた筈だった。

 

振り下ろされた雪片の威力は自分が一番理解している。シールドエネルギーが存在しないため零落白夜は役には立たないとはいえそれでも量産機程度ならば零落白夜無しでも戦闘不能に追いやれる威力だった筈だ。それが肌に触れた途端アッサリと弾かれた。

 

あり得ない。

 

そんな想いでハイパーセンサーを通して見ても直撃した肩には血の一滴どころか僅かな傷一つない。どれだけ耐久値が高かろうとあの激突でこの現状は幾ら何でも理不尽過ぎる。

 

「何しやがったアイツ……」

 

ハイパーセンサーですら判別不能の超高速。

手か頭突きかは知らないが目の前の侵入者はあのインパクトの刹那雪片の攻撃をなんらかの手段で阻止したのだ。

いざとなれば迎撃も出来たろうに。どこか馬鹿にされたように感じ一夏は悔しがる。

 

もう一度雪片を構えたところで鈴音から引っ叩かれる。

「イテェ⁉︎」

 

雪片が手から離れて粒子化する。頭を押さえながら一夏が悶える。しかし鈴音はそんな程度で許しはしない。無理矢理立たせてこちらに向かせるとマシンガンのように罵倒する。

 

「バカ!アホ!ボケ!デク!クズ!あんぽんたん!うど!脳足りん!単細胞!ミジンコ並みの単細胞!心配かけさすだけはギネス級ね。この唐変木の大バカヤロウ‼︎」

「ミ、ミジンコは多細胞生物だぞ…それになんで唐変木なんて……」

 

「うっさいダボ!」

 

もう一発。

 

「グヘェ⁉︎」

 

追い打ちでさらに頭が揺れる。一頻り殴った後で鈴音が口を開く。

 

「いい⁉︎アンタも気付いてると思うけど。アイツはさっきの攻撃をどうやったかハイパーセンサーにも捉えられない速度で弾いた。つまりその気になれば殺せるってことよ。なのになんでまた突っ込もうとしてんのよ!」

 

怒鳴る鈴音に一夏はなんとか反論しようとする。

 

「だ、だって悔しいじゃないか。」

「悔しいなら殺されても良いわけ⁉︎」

「ご、ごめんなさい。」

 

漸く謝った一夏だったが鈴音は再度溜息をつきトントンと耳を指す。咄嗟に似たようにすると。

 

 

 

『この馬鹿者が‼︎』

 

鬼教師からも怒号が響く。

スッカリ固まる一夏に千冬は込み上げる怒りを抑えて指示を飛ばす。

 

『直ぐにピットに逃げろ!生徒の避難は教員に任せておけ。』

 

続けるように鈴音が繋がる。

 

「分かったでしょ。アンタの出番はこれでお終い。」

 

それでも思うところは無かった訳では無いがこれ以上我儘を押し通す程一夏も命知らずではない。直ぐに頷く。無論相手も許してはくれない。

 

ゴウッ

 

ここに来てアリゲーターオルフェノクが初めて動き出す。

ナーホアルオルフェノクと同じくノーモーションからのフル加速。しかしその速度は前者の遥か上を行く。一歩一歩踏みしめるごとに硬いはずのアリーナの土が砕かれ陥没する。

 

一瞬で距離を詰めると一夏の頭を掴む。

その前に白式のスラスターが一夏の体を上昇させる。

上空へと飛び上がった一夏は続いて並んだ代表候補生の冷静な判断を聞く。

 

「こりゃ、ピットまで降りて行くのは無理っぽいわね…」

 

最高速ならば甲龍と白式の方が遥か上だが、アリーナの範囲の狭さではその7割も出せない。しかもアリゲーターオルフェノクもそれを理解しているのかピットとの位置関係を意識した位置取りをされておりそれでも上回る速度でも逃走は困難。地上に降りた途端あの剛腕が打ち込まれる状況が容易く頭に浮かぶ。

 

「クソっ、ガタイのわりに速いな。」

 

毒づく一夏は再び雪片を取り出し覚悟を決める。しかし鈴音は尚も冷静だ。

 

「だから態々付き合おうとすんなっての。」

 

嗜めた後にこの戦闘で初めて笑みを見せる。

 

「確かに逃げるのは無理になったけど助からなくなった訳じゃ無いでしょ?」

 

試すように笑う鈴音に一夏は首をかしげる。

 

「それってつまり……やっぱ戦うって事か。」

 

「もう一発殴ろうか?ここで待っとくに決まってるじゃない。」

 

一瞬青筋を立てた鈴音の説明に一夏は面食らう。どういう事か理解できない一夏に今度はプライベートチャネルで千冬から通信が飛ぶ。

 

『奴は飛べない。教師部隊が来るまでずっと飛んでいろということだ。』

漸く理解した一夏は成る程と相打つ。

 

今までカウンターや不意打ち気味に攻撃して来たアリゲーターオルフェノクだが、思えばそれは全てこちらが向こうの射程内に入ったから。自分は先程まで攻撃されない事に舐められていたと感じていたが本当はしないのではなく出来なかったのだと分かった。

 

そうと分かれば言う通りにしよう。

 

幸いシールドエネルギーが尽きてもISは使用可能。燃費が悪いISだがホバリングだけするぶんには教師部隊が突入するまで充分持つ。万事揃った所で後のことは任せれば良い。少し後ろ髪を引かれるが一夏とて命知らずでは無いのだ。

 

ーー

不味い

 

ホバリングを始めた二機を見上げアリゲーターオルフェノクは内心で毒づく。

最初の雪片での一撃の際決められれば良かったのだがまさかの突撃に不意を突かれて攻撃を弾くだけに留まってしまった。向こうの出力がこちらを上回っている事は先程のダッシュを躱された事で理解済み。なんとかピットへの離脱を防ぐことは出来たがこのままあの上空で待機されれば彼の脚力ではあの高所への攻撃は不可能。このまま攻めあぐねて教師部隊に突入されれば敗色は濃厚。さしものオルフェノクといえども複数のISを相手にするのは分が悪い。

………

 

少しの思案の内アリゲーターオルフェノクはその巨体を丸めた。

 

相性が悪い上あまり情報は露呈したくはなかったがそうも言っていられない。アリゲーターオルフェノクは全身に力を流動させ自らの進化の恩恵を晒し出した。

 

ーー

跳んだ

 

2メートルを越すアリゲーターオルフェノクの急な跳躍とその高さに一同は一瞬固まる。予想を上回る侵略高度に次いで到来した一撃に反応が遅れた。

 

「がっ!」

「ぎゃん!」

 

2人纏めて叩き落される。

通常時の許容を超える衝撃に絶対防御が発動しシールドエネルギーが大幅に削られる。稼いでいた高度のお陰でなんとか地面への激突は免れる。再び距離を取る2人の目にアリゲーターオルフェノクの全容が明らかにされる。

 

「尻尾か?」

「尻尾ね。痛つつ…」

 

殴られた箇所を摩りつつ鈴音が答え一夏もより確かな確信を持って理解する。遅れて着地したアリゲーターオルフェノクの背後から伸びる生物的に揺れ動く長いナニカ。所謂『尻尾』を生やしたアリゲーターオルフェノクがそこに居た。

 

「そうか、雪片を弾いたのもアレか。」

 

一夏がそう悟る。

 

雪片を弾かれたカラクリだ。

恐らくインパクトの瞬間あの尻尾を出現させ雪片の一撃を防いだのだ。腕に反撃の集中を向けていたため気づかなかった。

しかしこれで頭上の利がなくなってしまった。これからあの健脚から逃げつつ有利と思われた空中にも気を払わなければならないのだ。

緊張に身を包ませ強張る一夏。

 

勢いに乗せてラッシュをかけるタイプである彼にとって相手にペースを握られることは死活問題だ。いざとなれば無理矢理にでも主導権を握る必要が…

 

「無いわよバカ。」

 

「ぐえっ」

 

首根っこを引っ掴み勢いよく上に推進する鈴音。

 

「鈴……」

 

多少恨めしげに目を向けるも鈴音は少しも答えず冷静にアリゲーターオルフェノクを見下ろす。アリゲーターオルフェノクは先程までと違い積極的に追随して来る。尻尾を地面に叩きつけ跳躍しながら。狭い空間もあり徐々にその距離は詰まってくる。

 

「……」

 

逃げ切れない。

 

 

とっさに判断した鈴音は一夏に早口で話かける。

 

「一夏。最悪な事二つだけ言うわ。」

 

えっとなる一夏に鈴音は苦虫を潰したような表情で言う。

 

「先ずこのままだとアンタのIS、エネルギー不足になるわ。私のは燃費が良いからまだ行けるけど。」

 

ハッとしてモニタを表示させる。シールドエネルギーとは別のもっと根本的なエネルギー。白式の稼働限界時間はもう後数分程度を示していた。

 

「だったらどの道闘わないといけないじゃないか!」

もしこのままエネルギーが無くなればあの剛腕から逃げる術は無い。生身であの人知外の力を受けるとなると一夏とて遠慮する。

しかし続く言葉がそれを飲み込ませる。

「ま、それしか出来なくなったしね。」

「二つ目。」

「助けが来なくなったわ。」

 

なぜと聞く前に空が覆われた事に気付く。

思えば当然のことだった。

アリゲーターオルフェノクは先の通り飛行能力は皆無。尻尾による跳躍があるとはいえ所詮地に足の着いたもの、IS学園の防空レーダー範囲外の高度からのダイブなど不可能。ならばそれを可能にする移動手段がある筈。

 

形は縦に長くカプセル型。青を基調とした装甲に金色の目玉のような物体を取り付けている。それだけなのに何故か宙を浮くそれは次々とピットへと殺到していた。

 

『ガジェットドローンI型』

 

天才科学者ジェイル・スカリエッティが作成した対魔導師用自立型無人兵器。作成者本人からの評価は低いものの学習システムと小柄な体躯から見えない多彩な武装。物量による戦闘能力は高く機動六課も何度も煮え湯を飲まされた機体が学園内に進入している。

唖然とする一夏に鈴音は再び言う。

 

「さっき急に現れた。光学迷彩でも使われてたのか全然気がつかなかったわ。」

 

「多分救援の教師達も足止め食らってるでしょうね。」

 

にやっと何時もの勝気な笑顔が浮かぶ。

 

「というわけで先に逃げなさい。私が押さえとくから。」

「んな!」

 

何言ってんだというセリフは一睨みで潰される。

 

「わかんない?邪魔なのよアンタ。」

 

幼馴染からハッキリと言い渡される戦力外通告。頭を殴られたような衝撃を覚える。

 

「ピットはもう無理っぽいけどアイツがブチ破ったお陰で今空は空いてるわ。ピットがああなった以上もうあそこからしか出られない。アイツのジャンプじゃあそこまでは届かないようだし。」

 

アリゲーターオルフェノクの攻撃を受けた上で鈴音が分析し分かったことだ。

 

「だったらお前も一緒に出れるだろう!なんで……」

 

悲痛な面持ちに少し鈴音も表情を和らげる。想い人からのそんな顔に場違いながら和んでしまった。

 

「まあ、代表候補生としての義務っていうのかしら?一応軍属みたいなもんだし私。ピットはそのまま学園に繋がってるからあの青豆軍団が生徒襲ったりするかもだし。」

 

「なによりアイツだってそこを通る。それだけは何としても阻止しないと。だからーー」

 

逃げなさいー

 

ーー

「ーっ!」

 

まだなのか。

ISを動かせても、専用機を手に入れても。

俺は誰も守れないのか。

 

「惨めか?」

 

響く声が聞こえてくる。

 

低い声。

 

心の扉の隙間からくぐってこちらに侵略して来る震える声。

 

該当者は1人だけ。

俺は奴を見る。

 

「なんなんだお前…なんでみんなを襲う⁉︎」

 

奴は抑揚の付けない喋り方で答える。

 

「お前だけだ。」

 

そう言うやつの目は本当に俺しか写していなかった

 

「織斑一夏を狙うだけ。織斑一夏を殺すだけ。

他はどうでもいい。」

「随分好かれてるじゃないアンタ。」

 

鈴が俺の前に出る。

 

「させないわよ化けもん。一夏、行きなさい。」

背中越しだが鈴の言葉には今の俺が入り込む余地なんてまったくないほど強く、そして俺は途轍もなく弱かった。

奴の言う通り惨めだ。

 

「く…そぉ」

どうしようもなくどうしようもない。

そんな中。

 

《Bind》

 

 

 

「っ…初めてだが……」

 

 

 

 

「ディバィィィン………」

 

 

 

強く。

 

 

 

「これが……」

 

 

 

どんな絶望の中にも折れないだろう不屈の闘志。

 

 

 

 

 

「バスタアアァァァ!!!!」

 

 

その意思の強さを示しているように力強い。桜色の光が濁流となって奴を飲み込んだ。

 

 

 

ーーアリーナ

 

先進国の国家予算を投じて出来たIS学園が誇る第1アリーナは数分程度でその活気を失っていた。

観客席や来賓のための特別席には分厚いシャッターが外界を遮断している。音も漏れぬその向こう側では取り残された生徒がいる。教師部隊がその救援に向かいその道中に突如現れたガジェットドローンとの戦闘をしている。彼女達がいたピットにも集中的にガジェットドローンの大群が向かって来たから間違いない。

恐らく阿鼻叫喚だろう無音のこちら側から想いを向けるも今はそれだけ。

 

「……」

届かなかった。

その事実。

直ぐに駆けつけられなかった。

その事実。

全てを受け入れ次に進む。今はまだ向かえない。ここで止めなければ間違いなく2人死ぬ。

 

粉塵の中からゆらりと立ち上がる影が見える。

 

「……これが魔法か。」

庇った尻尾が焼け焦げ所々朽ちながらもアリゲーターオルフェノクは健在だった。

 

こいつを倒さねば(殺さねば)ならない。

 

ナチュラルに浮かんで来る苦渋の決断にもなのはは迷わない。そこには確かな強さが見えていた。

 

「行くよレイジングハート。」

《Yes master》

 

代打だ。

 




変な時間に投稿。
もう直ぐ用事が出来るので少し投稿が滞ります。

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