ますます場面転換でグダグダしていますが完結です。
「覚悟なさい。」
この場には場違いな声だと一瞬思ってしまった。
救援に駆けつけてくれたと思うセシリアはなのはさんと怪物のどこか泥臭さを感じる激闘と比べて優雅過ぎたからだ。違和感が体を駆け巡りさっきまでの不甲斐なさも忘れて俺はセシリアの方をISのハイパーセンサーを活用して見た。
ハイパーセンサーの恩恵でよく見えるセシリアの表情は実に恐ろしかった。別に怒っていたわけでは無い。ただ怪物を見つめる。それだけなのに動作の簡単さからは想像できない程の大量の黒いナニカを感じた。
怖い。
今朝まで俺の健闘を幼馴染と一緒に応援してくれた友人だとはとても思えなかった。
そんな俺の心境など知らずにセシリアはブルー・ティアーズを今度こそ完全に展開して怪物に襲いかかった。
ーー
セシリアが加わった事で拮抗していた状況は完全に引っくり返った。空へと飛び上がったセシリアはアリゲーターオルフェノクが間を詰めるより速くビットを飛ばし四方八方から囲むようにビームを撃った。
一夏戦で見せた動きとは比べものにならないくらい速く、アリゲーターオルフェノクに無数の青い閃光が襲い来る。
アリゲーターオルフェノクはそれを最低限の動きで装甲の厚い部位で受ける。衝撃がモロに体にくるがこの程度はオルフェノクの外骨格の前には文字通り水鉄砲レベルだ。問題は次。
「ディバインバスター‼︎」
上空から到来する桜色の光は最初の段階より明らかに威力が違う。受けられないと判断したアリゲーターオルフェノクは直撃点から離脱する。轟音を響かせながら硬い地面を穿つディバインバスター。しかしそこにアリゲーターオルフェノクの姿はない。数メートル離れた地点で再びファイティングポーズを決める異形の怪物に上空から撃ったなのははやはりとする。改めて見ても信じられない加速だ。なんの動力もない、筋力だけで叩き出したその猛ダッシュは加速だけでいえばフェイトと比べても見劣りしない。またそれにきちんと付いてこれる肉体も驚きだ。束からも聞いてはいたが彼らの身体能力の高さと肉体の強靭さになのはは驚愕する。生物としての差。人類では到達し得ない頂きにある。
しかし。
「ディバインシューター!」
新たに放った弾丸は計八つ。
砲撃魔法ばかりが取り上げられるがこちらも9歳の頃より特訓してきた射撃魔法の発展系。威力や弾速は劣るが術者が技の行使中も動けるという利点が有る。セシリアのビットと協力しアリゲーターオルフェノクを追い立てる。アリゲーターオルフェノクはそれを縦へ横へと飛び跳ねて交わす。空中で尻尾や体を上手く使い落下の軌道を変える。重力を物ともしない四次元殺法もオルフェノクの身体能力の高さゆえだ。しかしなのはの思惑からは逃れられない。アリゲーターオルフェノクを引き離した所でなのはは本来の目的である一夏と鈴音の救出に向かう。
「2人とも平気?」
「な、なのはさん。」
未だに混乱が冷めないらしい一夏。といってもそれはオルフェノクの事とは別のことらしく。
「その格好どうしたんだよ……」
年齢的に少し心に引っかかるなのはのバリアジャケット姿に一夏は生死の境を経験しても尚気になっていた。
「後で話すよ。それよりピットへ待機して!」
なのはのそれなりに切羽詰まった気迫に押され一夏は白式の残存エネルギーを確認する。前に、
「あっ、」
待機状態に戻った白式に一夏は間抜けに声を漏らす。高低差で当然落ちてくる一夏をなのはは咄嗟に受け止めた。お姫様抱っこで。
「仕方ないね。鈴音ちゃんは平気?」
「え、ええ平気だけど。そ、そ、それ……」
何故か顔を赤らめる鈴音。彼女からしてみれば好きな男が変な魔女っ子コスの女にお姫様抱っこをされているという状況。こっちはこっちでかなり大問題なのだがなのはには関係ない。ならついて来てと一言言うと直ぐさま飛行魔法で浮かび上がる。腕の中の一夏がいきなり重力から切り離されかなり混乱して騒いでいたが生憎あまり親切にしてやれる事態ではない。ピットへと誘導したなのはは一夏を優しく下ろしついでやって来た鈴音を確認すると驚くクロエに声をかける。
「この子たちよろしくね!クロエちゃん。」
そう、ガジェットドローンの総数が不明な以上より安全な所をと思い自分達がいたピットへと誘導したのだ。部外者の存在に益々混乱する2人を尻目になのはは3人に対してシールドを張る。セシリアにいつまでも任せて置くわけにはいかない。
「じゃあ直ぐに帰ってくるから。」
言うが早いかなのはは再びアリーナへと戻っていった。
暫しの沈黙の間クロエは困ってしまう。すると思わぬ人物から助け舟が出た。
「ハロハローいっくん。久し振り〜平気だった?」
「た、束様?」
不干渉を望んでいた束からの通信にクロエは驚く。それは一夏も同じで数年ぶりの幼馴染の声に驚きを露わにする。
「束さん?なんで束さん?」
混乱続きのIS学園一年生。それを納めたのも幼馴染であった。
「ああ、もう!なにがどうなってんのよ!取り敢えずアンタ説明しなさいよ!」
通信の声の主。即ち束に対し鈴音が叫ぶ。
「鈴音ちゃんだっけ?いいよ。」
アッサリとした返答に彼女の人となりを知る一夏は驚く。人の名前を覚えていることも驚きだが鈴音の傍若無人とも取れる命令口調に極めて大人な対応ができる人種だっただろうか。
「初めまして。いっくんは久し振り。私は篠ノ之束です。」
おわり〜と最低限しか話さない面倒臭がりは間違いなく彼女だ。
鈴音は篠ノ之束という言葉に驚く。
「篠ノ之束って、ISの生みの親の?」
「そそ。よろしく。」
やはり変だ。良識ある大人からすれば素っ気なさすぎるが篠ノ之束に限って言えば可笑しすぎる。そもそも
「束さんも成長するんだよ。いっくん?」
ーー
実況席を背にしたアリゲーターオルフェノクは既に一夏達から大分離された。再び戦闘に参加したなのはの火力が加わりアリゲーターオルフェノクは明らかに劣勢に立たされた。人質が消えたことでフルに力を使えるようになったなのははまさに砲台だった。数秒の間をおいて特大の砲撃魔法が自身を襲いさらに彼女の常套手段、バインドがアリゲーターオルフェノクの四肢を捉えようとする。オルフェノクの膂力を持ってすれば次の射撃が来る前に引きちぎって離脱するのは容易だがそれを防ぐためセシリアのビットが殺到する。集中して放たれるレーザーが硬い外骨格の上からアリゲーターオルフェノクを束縛する。ブルー・ティアーズの武装では本来アリゲーターオルフェノクには太刀打ち出来ないがそこはブリュンヒルデやヴァルキリークラスの力を誇るセシリア。なのはの性質を瞬時に見抜き柔軟に対応してアリゲーターオルフェノクを追い詰める。その手腕にはなのはですら驚嘆する。
(この子凄いな。実力もそうだけどキチンと周りが見えてる。そういう意味ではティアナ以上かな。)
教え子をつい引き合いに出してしまうほどセシリアの戦法は理に叶っていた。そんなことを考えているとそのセシリアが近づいて来る。それでもビットは正確に操作出来ている所は流石だ。セシリアはなのはの格好に特になにも言わず提案を持ちかけてきた。
「なのはさん。少し聞きたいことがあるので出来れば奴は生きたまま無力化してほしいのですけど。」
「え、別に構わないけど。」
なのはとて不要な殺生は好まない。一夏達が離脱した今アリゲーターオルフェノクの命を絶つ気はない。それになのはも彼には色々と聞きたい事があった。
それが一瞬の隙。
なのはの意識が一瞬。とても落ち度とまでは認識できない程の本当に一瞬。
アリゲーターオルフェノクはここ一番の底力を発揮した。ディバインバスターの直撃で砕けて転がったアリーナの石。それをアリゲーターオルフェノクは手頃に取りそれを投擲しようとしたのだ。
ピットに待機した一夏に向かって。
「っ、けど。」
無駄だとなのはは断じた。
一夏達に張ったシールドはそれこそ今のようにアリゲーターオルフェノクの攻撃力を想定して調整している。
プロテクションと比べれば劣るものの、砕けて物質同士の繋がりがさらに脆くなった石ころ程度で破れる代物ではない。セシリアも同感らしく最後の足掻きとして見つめる。
しかし彼女達は再び見誤る。
ーー
力を入れる。
一般的には筋肉をフル稼働する前の準備期間として用いられる。バネを押し込むように筋肉を張り詰め一気に解放する。ここぞという時に使用する生物の知恵だ。
オルフェノクの場合も大まか同じ概念だがこれは違う。
溜め込むのは筋肉ではなく
オルフェノクの元来である進化という力。
游泳体を一時解除して一点に集中する。
流動させて一点に貯め伝染させる。
変化は直ぐに訪れた。
手に持つ弾の感触が変わる。
力を込めれば直ぐにでも砕けてとても投げられなかった頼りない石ころがより強固に性質を変える。適当に選んだだけありとても適しているとは言えなかった形が
オルフェノクの力を与えられ文字通り砲弾と化した石ころをアリゲーターオルフェノクは力の限り投擲した。
ーー
『Master、
相棒の言葉で事の異常さに気づいたなのはは、しかし直ぐに行動を起こす。
「シュート!」
先程まで待機させておいたアクセルシューターを一つ全速で飛礫へとぶつける。
弾丸以上の威力を誇る魔力弾はなのはの練度の高さもあり寸分違わず飛礫に命中し砕ける。
変化した飛礫の硬度はアクセルシューターを上回っていたのだ。
とたんになのはに焦りが起こる。
「セシリアちゃん!」
叫ぶ前に彼女は撃っていた。
彼女の幅広い戦技の中でも特に得意分野である狙撃。スターライトmkⅢによる遠距離狙撃はみごとに弾を直撃した……が。
「ちっ…」
彼女には珍しい舌打ちも今は後回しだ。
飛礫はレーザーを掻い潜り一夏の脳天を正確に狙い飛ぶ。今からではとても間に合わない。なのはは背筋が冷えるのを感じた。
どんっ!!
石飛礫では考えられない衝撃がシールドを襲う。
暫しの拮抗の後両者は同時に弾け飛ぶ。
なのはの願いが効いたのかシールドはその身を砕かれても尚守りし者としての責務を果たした。
アリゲーターオルフェノクが再び石を拾った。
ーーピット
「きゃっ⁉︎」
鈴音が軽く声を上げる。
なのはのシールドは優秀であった。
想定外の一点集中にも庇護者を守り抜いたのだ。しかし強襲の手は緩まない。ハイパーセンサーを用いずともハッキリと確認できる。別段なのは達の追撃を交わすならば鈴音やクロエでも構わない筈だが、当初の予定に引きずられているのかアリゲーターオルフェノクの色の無い瞳はハッキリと自分を映していた。今一度投擲の姿勢を見せるアリゲーターオルフェノクはその傷ついた身体と反し一夏にはこれまで以上に強大に見えた。
「一夏様!」
クロエが咄嗟に前へ出ようとする。しかし間に合わない。黒鍵の展開より速くアリゲーターオルフェノクは一夏を殺す。鈴音が甲龍を展開しようとするが長い戦いは如何に燃費の良い甲龍とてISの弊害からは逃れられなくしていた。エネルギー不足によりもたつく。桜色の帯がアリゲーターオルフェノクに巻きつく。なのはがこれ以上はさせぬとバインドを展開したのだ。漸く止まった強撃も本当に少しであった。箍の外れたオルフェノクの腕力はなのはの強固なバインドをも一瞬で引きちぎってみせた。シューターでは威力が足りない。同じ理由でセシリアも無力。砲撃には時が足りなすぎる。
間に合わない。
ー
ーー
ーーー
ーーーー
ーーーーー
ーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
「いちかああああああああああああ!!!!!!!」
大声。
スピーカー越しで思いっきり叫んでいるらしく音割れが鼓膜を揺する。そうそう体験しないレベルの騒音でも彼らは不快にはならなかった。最低でも1週間。最高で15年。聞き慣れたという事実が声の主を特定させた。
「箒?」
「箒ちゃん!」
特に親しい2人が声を出し出どころを見やる。役割上アリーナの全貌を見られるように設計された場所。実況席のマイクを拝借した篠ノ之箒がそこに居た。そして一同の驚きの中一番近くにいたソイツが視線を向ける。
ーー丁度良い
飛礫の方向をなのはに変え投擲する。無論その程度彼女には通用しないすぐさまバリアを張り砕く。その時間の間を突き。
アリゲーターオルフェノクは非情にも突撃する。
ーーSide 『キャラ』『地』
ー走る
千冬さんにはなにも言わずに出て行ってしまったが後で謝ろう。
ー走る
直ぐに先に避難誘導に当たっていた先生に見つかり怒鳴られる。
ー出される手を跳ね除ける
ー普段は決してしない不良的行動に自分でも驚く
「すいません!」
取り敢えず叫んでみたが後でこっ酷く怒られるだろう。
ー見つける
急に飛び出してきた。
ーガジェットドローンだ
ーモノアイで観察する
気味が悪くなったけれども行かなくては。
ー怯えながらも移動を開始する
ー付いてくる
「来るな!」
構わず付いて来る錠剤オバケに私は叫ぶ。
ー叫んで走る
兎に角一夏が見える所へ行かないと。
ー追いかけて来るだけで何もしない
そこまで速く飛べないのかどんどん遠ざかって行く。
ー安堵
「わっ」
ーぶつかる
恐らく実況席に居た生徒達だろうすまないと言う暇もなく走り去って行く。
ー痛みに耐えて歩き出す
「はあ、はあ。」
痛い。
一歩一歩歩く事に鈍く痛む。
何処か変に痛めたらしい。
ー長い時間を掛けて到着
慌てて逃げ出したのか椅子が倒れ机の上に有ったんだろう紙コップが床に転がって居た。
ー最初からそんな機能は無いため窓はそのままだ
シャッターが作動して居なかった。
誤作動かな。
ー恐る恐る覗き込む
またあのオバケがいるかもしれない。
ー予想はずれ
ーアリゲーターオルフェノクが見える
「化け物?」
なんだアレは。
それより一夏はなぜISを着ていない。
ーエネルギーが完全に切れてしまった
ーアリゲーターオルフェノクがシールドを破った
ー一夏の生身の体が曝け出される
やつはまた石を投げようとしている。
彼奴はまた一夏に手を出そうとしている。
ここからではどうしようも出来ない。
ー青ざめた顔色で辺りを見回す
ーふとマイクが眼に入った
これだ。
ー切れたままの息で思いっきり叫ぶ
ーー
箒の決死の思いはアリゲーターオルフェノクの注意を一夏から逸らす形となった。見事、彼女の目的は達成されたのだ。ただ問題があったとすれば彼女が自身のことを勘定に入れていなかった事とアリゲーターオルフェノクにとってもはや一夏は本来ならば価値が無くなっていたという事。当初の目的では彼も織斑一夏の殺害が目的ではあったがそれ以上に彼は生還を重視した。そして一夏殺害の計画はなのはが加わった時点で破綻してしまった。AMFを解除されさらにセシリアまで加わり人質を取り戻されてしまった彼がそれでも一夏を狙った理由は単にたまたまというものだ。だからこそ閉鎖された空間でのいきなりの第三者の登場というイレギュラーにも誰よりも速く対応していた。舞い降りて来た生存の活路をアリゲーターオルフェノクは逃さなかった。
ブンッと風切り音を鳴らしながら変化させた飛礫を最も厄介ななのはに対して投げつける。無論その程度でエースオブエースが落ちることはない。右手にバリアを張り受け止める。投擲の腕力とバリアの強度により容易く粉々に砕けただの石へと戻る。
それで充分。
地を蹴り実況席へと飛び上がる。穴には届かずともあの程度の高さ、オルフェノクの脚力を持ってすれば二歩で足りる。
学園の見取り図は全て頭に叩き込んである。あの女を人質に取り残るガジェットドローンを寄せ集めて逃走する。まだ奴らには人間としての顔は知られていない。その後は用意したアパートでほとぼりが冷めるまで隠れていよう。女は用済みになればデメリットしかない。仲間に迎え入れるのも有りだが裏切らないとも限らない。殺そう。
これからの目論見を頭で組み立てながらアリゲーターオルフェノクは閉められた強化シャッターへと四肢を掛けようとする。
ーー実況席
アリゲーターオルフェノクが自身に狙いを定めた事に気付いた箒は自身の思い違いに気付き恐怖した。直ぐに逃げようと出口に走ろうとしたが視線にずっと映って離れない。一夏の顔。
「なんてザマだ」と最初は場違いと感じながらもそう思った。全てを諦め理不尽に身を任せた表情。彼は自分は事なかれ主義だと言うが箒は初めてあった時からそういうどうしようもない事にこそ、いの一番に立ち向かって行く人間だと尊敬していたし、心から好いていた。そんな一夏があんな顔をしていて見逃せる程
自分の想いは軽くない。
「男なら…」
マイクに対してもう一度向かう。
理性では逃げろと叫んでいるが………………………ではない。
本能で想い理性でそれを言語化して箒は話す。
「男ならっ
そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」
出来るだけ彼に恥ずかしくないような凛とした姿で箒は語る。
ーーピット
「箒!!」
あの馬鹿っ!なんで逃げねぇんだよ⁉︎
奴は今にもシャッターに足を掛けんとしている。ダメだ!やめろ!
「一夏!」
鈴の声が聞こえて足が止まる。鈴、それから『クロエちゃん』なる女の子が二人掛かりで止めている。何してんだよ⁉︎
「ばっ、箒!箒‼︎」
「ほうきちゃぁん‼︎」
通信越しで束さんが叫ぶ。セシリアもビット、なのはさんが杖を構えるが間に合わない。俺が行かないといけないのに。
「一夏ーー」
名を呼ばれる。箒は優しく笑いかけている。
「生きてくれ」
……っ
なんだよそれ、
俺の心配してる場合じゃねえだろ。
お前が生きてくれないと駄目だろうが。
「箒‼︎」
奴はついに箒を覆い隠した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー1
ーー0
ーー3
Enter
《Single mode》
それを目にした時は信じられなかった。
あの狂った学者や幽霊達の情報でも、同胞達ですら聞かされなかった。
興奮状態で鋭敏になった五感とそれでも冷静な頭が己の種族の叡智の結晶の一つを突きつける男と。その男の顔をかつて見た情報から引き出させた。
男の引き金と共に飛び出した光弾がアリゲーターオルフェノクの胸に直撃した。火花が散り体制を崩して背中から落下したアリゲーターオルフェノクは受け身も取れない程驚愕していた。刀剣などの物理的な攻撃とも魔力弾による攻撃ともビームのようなエネルギー攻撃とも違う。目を見やるとオルフェノクの硬い外骨格が一部的に朽ちている。
「フォトン、ブラッドだと……⁉︎」
オルフェノクに対して最も効果を発揮する攻撃。
通常は単にエネルギーとしての姿だがオルフェノクに対しては体を蝕む毒物になる。取り扱いが非常に難しくもしエネルギーが高まりすぎ暴発すればオルフェノク以外にも有害な物質となるためベルト以外ではまず使用されていない。その上現在では2本目のベルトは破壊され初期型と最後機のみとなった。あれは最新型の方だ。
嵌められた。
ここまで来て漸く自分の求められた立ち位置を理解した。
威力偵察だ。テストだ。自分は捨て駒だったのだ。
「ふざけやがって……」
易々と死んでたまるか。ゆらりと立ち上がり実況席を見上げる。
ーー
「い、乾?……くん」
箒はまさかという風に巧を見る。巧の腰にはまずお目にかかれないような形状とサイズをしたベルトが光っておりそれが何ともこの場に似つかわしくない。巧は箒に眉間に皺を寄せながら言った。
「さっさと逃げろ。」
そして巧はフォンブラスターの一撃で完全に砕けてしまった窓から顔を乗り出させる。下ではアリゲーターオルフェノクが爪を構えながら此方を睨みつけているが余程不機嫌なのかその目に怒りが入っている事を長い経験から何となく知った巧はなにをと憤慨する。
「上等だ。面倒くせぇ事に付き合わさせやがって。」
憎まれ口を叩く巧は何時もとなにも変わらない。ファイズフォンを戻してコードを入力する。
「変身!」
閉じたファイズフォンをベルトの窪みに入れ倒した。
《Complete》
紅い閃光がアリーナを包み晴れた頃にはファイズへと身を変えた巧が居た。アリゲーターオルフェノクが雄叫びを上げて飛びかかると同時にファイズも実況席から飛び降り蹴りかかった。
ーー
胸中を驚愕が巡る。
突如現れた2人目の男性操縦者が見たこともない姿に変わり戦闘を始めた事に全員が驚く。
ーー
「IS……?」
「いえ、フルスキンとも違う……全く別のパワードスーツ?」
ISに詳しくないなのはにセシリアが訂正しながら観察する。
「アレなんだよ鈴。」
「知らないわよ!専用機じゃ無いの⁉︎」
率直な一夏の問いに鈴音が叫ぶ。
「束様…アレは。」
「あんなの作った覚えない。」
クロエの困惑に束はハッキリと関係を否定する。
数瞬の中漸くなのはが箒の救援に頭が回った事でこのどよめきは取り敢えず落ち着く。なのはが箒を抱きかかえて再びピットへ戻って来て再度飛び出していった所で既に謎のマスクマンと怪物の肉弾戦は優勢が決まりだしていた。
ーー
アリゲーターオルフェノクが振りかぶる。右腕を大きく腰まで回して180度以上の巻き込みを使う。爪を出し軌道が丸わかりの超大振りでファイズに振り下ろした。素人目から見てもなってない動きだがオルフェノクの肉体から繰り出されるとなると意味合いは変わる。実際観戦していた一夏には今の一連の無駄な動作は文字通り目にも止まらなかったし、なのはですら攻撃の軌道を正しく理解するのに一瞬の間を要した。剛腕の遥か上。予想外内でも許容不能な威力。バリアジャケットや絶対防御などそのまま五本の空白を作られてしまいそうな攻撃が無防備なファイズの胸元に叩きつけられる。壮絶な火の花が咲きわたる。あまりの威力が地面にまで伝わり陥没する。しかし心臓まで抉り出しそうな一撃にもファイズの胸部装甲フルメタルラングには微かな傷しか付かない。
『ソルメタル』
スマートブレインが開発したこの特殊金属はヌープ硬度9000を誇るダイヤモンドに限りなく近い硬度を持つと発表されている。ライダー達の装甲に使われるそれらは更に実戦用に改良を加えられたものであり特にカイザやオートバジンに使用されるソルメタル228ともなれば単一元素では最も硬い物体だろう。柔軟性を重視しているとはいえファイズもそれに漏れずアリゲーターオルフェノクの硬い爪とコンマ数㎟に圧縮された数トンクラスの衝撃からも装着者を護った。そして渾身の打撃が通じず驚愕する敵をファイズが逃すはずもなく。
「らあっ!」
右のボディブローをアリゲーターオルフェノクの腹部に叩き込む。2.5tを基調としたファイズの拳は硬い表皮と筋肉層の盾を貫き脂肪層のクッションを突破し内臓に衝撃を伝え、勢い余ってそのまま数メートルまでアリゲーターオルフェノクを吹き飛ばした。
しかしそこは生物上で最も優れた進化。地面に叩きつけられながらもダメージを感じさせずに立ち上がり再びファイズに飛びかかる。ファイズはもう一度拳を叩き込もうと構え待つ。あくまでも冷静なファイズにアリゲーターオルフェノクは感謝した。
そのまま動くな
アリゲーターオルフェノクは回転する。空中で姿勢の効かないままそれを筋力とバネで強引に前へと体を回らせる。恐るべき滞空時間と回転率にファイズも面を食らった。このまま拳を突き出しても回転で流されそのままボディプレスの要領で攻撃を食らうのは自分だろう。ファイズは思案はしない。頭で考える前に体が次の動作を敢行するのだ。ファイズは腕を広げ腰を下げた。ファイズの体は受け止める事を決断した。アリゲーターオルフェノクは2度笑う。
回転しながらオルフェノクの力を解放したアリゲーターオルフェノクは長い尻尾を生やし游泳体の姿に変わる。そして回転そのままアリゲーターオルフェノクは自身で最も硬い部分をファイズの頭蓋に叩き込もうとした。思案して戦わないファイズの体はその脅威を判断できない。そして、
インパクト!
先よりも高く上がった土煙が2人を隠す中アリゲーターオルフェノクは自分の勝利を確信した。如何に強固を誇るソルメタルといえども落下と遠心力に付与されたあの一撃は防ぎきれない。確かな感触を尻尾に覚えながら
アリゲーターオルフェノクは回った。
煙が晴れた時圧倒されっぱなしの一同が見たものはアリゲーターオルフェノクの尻尾を掴みながらジャイアントスイングさながら振り回すファイズの姿だった。
ーー
乾巧は戦いの素人だ。特に喧嘩慣れしている訳でもないし格闘技を習っている訳でもない。それは長い期間オルフェノクと死闘を続けた後でも変わらない。それでも巧が性能的に格上相手に渡り合えたという事実にはファイズになるという行為が起因している。ファイズは確かに思案しない。思考→行動のプロセスに伴うタイムロスを排除して戦いが出来るのだ。だがそれではあわやの危険まで見逃してしまう。しかしファイズにはそれが無い。考えず戦っていてもそういう事にはしっかりと意識を向けられる。何故そんな事か出来るのか、それは巧が
巧はファイズとして戦っている時、自分がまるで別人になったと感じる。どれだけ怒っていても変身してファイズになってしまうと今までの怒りがスッと引いていく。正確には頭と体が切り離された感覚で動けるのだ。まるで脳と体で別々に分担して行動が出来るような感じで巧は戦っている。だからこそ巧はファイズが体を勝手に動かしている間もそれ以外に頭が回す事が出来た。
例えば回転する敵の形状が微妙に変化した事を。
分業する特殊な戦闘スタイルによってより高められた脳の判断力が隠された敵の思惑を看破し体が反応した。
直撃の瞬間ファイズは姿勢をずらし尻尾の一撃を肩と両手で抱きかかえるように受け止め衝撃を逃した。あまりの威力に今度はダメージを負うがその結果アリゲーターオルフェノクの秘策を破る事が出来たのだ。
ーー
目を回されその上投げ飛ばされたアリゲーターオルフェノクは上か下かも分からないまま地面に頭から落ちた。あまりのダメージに游泳体が解除される。ヨロけながらなんとか立ち上がる姿に異常なまでの回復力が認められるが堅牢な鎧はひび割れ見る影はない。一方のファイズは受けた肩を回している以外特に損傷は見受けられない。ファイズ含めて全員が決着を予見した。ファイズは肩で息をするアリゲーターオルフェノクに言う。
「おい、もう諦めろ。別に殺したい訳じゃない。」
もうオルフェノク化を保っているだけでも辛いはずだ。基本的にはお人好しである巧にはトドメを刺す意味は無かった。ここでアリゲーターオルフェノクが降参しそのままIS学園を去るのならばファイズは見逃す。その旨を伝える。
それでも足掻こうと爪を構えるアリゲーターオルフェノクに箒を預けて来たなのはが続けて言う。
「あなたにはもう勝ち目は有りません。武装とガジェットドローン達を解除して投降すれば私も彼も危害は加えません。」
懇願するようにしかし厳しく言い放つ。その空気感が巧にも伝わる。悲痛な面持ちに見えるが決して甘くない。恐らく抗議を挙げて立ち向かおうものなら間違いなくなのはは今度こそ全力で命を断ちに行くだろうと感じた。それはアリゲーターオルフェノクにも充分伝わった筈だ。大きすぎる代償に降伏してくるかどうかはしかし思えなかった。
沈黙
果たしてアリゲーターオルフェノクは四肢を地面に4本全て付ける。外向きに出した脚と膝を曲げ本物のワニのように地面に腹がくっつきそうなほど姿勢を低くさせる。
ーーピット
「土下座……?」
ーー
ピットで見ている其々が謝罪や服従と受け取る。しかしなのはと巧にはそんな思いは過ぎらない。寧ろ更に濃厚な意欲が張り詰めている。疑う余地なくこれがアリゲーターオルフェノクにとっての最強の切り札。彼は徹底抗戦の道を選んだと理解した。
ギリリと。
なのはがレイジングハートを握りしめる。何故の想いが冴え渡る。それを寸断するのは義務感。彼はそれを選択したのだ。なら自分はそれに返答するのみ。向ける掌はしかしすんでで乱入者が入る。
「途中から言い出してきて勝手に決めんな。退がってろよ。」
振り返る仮面の中は読めない。
「巧君…私は別に平気だよ。きみこそ……」
今一度游泳体になる。
「勘違いすんなお前の為じゃねえ。」
何言ってんだと巧。再度退がっていろと今度は無理矢理突き飛ばす。強化された腕力で簡単に体が浮かぶがなのはは危なげなく着地する。
「お前の為じゃねえ。」
もう一度言った巧にアリゲーターオルフェノクは疾走した。
爆音!
決着は直ぐに着いた。
ーー
四足歩行から進化した人間は、当然二足の方が速く走れる。人型の四肢を持つオルフェノクもそれは同じく、勿論人間よりは速いがそれでも非効率だ。
アリゲーターオルフェノクは
四足の爬虫類の如く体を横にくねらせながら地を蹴る。骨格と長さが適していないため足は殆ど地を踏めておらず、手も掴めていなかった。無茶な移動法で脚が縺れる。空気抵抗など気にせず全力で無茶苦茶に悶える。ぶつかる腕、
片腕で。
掌で。
指で。
爪で。
地面を掴んで飛び掛かる。攻撃手段は見たまんま。恐らく彼の脳裏に爪や尻尾での攻撃など無いだろう。一番最初にファイズに届いた部位を
生物の動きとして有り得ない関節の動き方、ハッキリ言って気持ち悪い動き方を見ても彼らの神経はごく自然な想いである筈のそれを恥だとした。
敬意の念。
同じ生物として抱かねばならぬ事だと違和感なく彼らは受け入れた。決して綺麗でも無いその突撃が見ている者にはとても崇高な行為だと感じた。
10メートルは有った距離が既に1メートル切った。
ーー
速い。
思案してからでは間に合わない。かといって体で動いたからどうにでもなる一撃では無いだろう。迎撃しようにも受け止めようにも今度は威力が違いすぎる。下手な攻撃ではそのまま持っていかれ、下手な受けではそのままやられてしまう。アリゲーターオルフェノクの最後の切り札はファイズの装甲を持ってしても脅威だった。通常手段では話にならない。巧は瞬時に思考を巡らせる。
残り5メートル
ー
オートバジンが居なければ使えない。
ー
ファイズショットを取り出す暇がない。そもそもメモリーを挿入している暇すらない。同上の理由から蹴り技も無理だ。
残り1メートル
ならばーーー
ファイズは上体を仰け反らせる。
残り30センチ
アリゲーターオルフェノクの口がばかっと開く。極限状態で新たな進化の力が開花したのだ。アリゲーターオルフェノクは鋭い牙でファイズの頭を狙う。
残り15センチ
反りを戻して振る。
残り1センチ
牙を突き立てる。
残りーーー
ドゴン!!
ーー
数十メートル離れたピットからの観戦者達には2人が抱き合っているように見えただろう超至近距離。なのはに頼まれ一夏達の護衛のためISを纏うセシリアだけがファイズのぶっ飛んだ行為を正しく認識した。
「H、Headbutt……(頭突き)」
インパクトの瞬間の少し前。
ファイズは自身の額をアリゲーターオルフェノクの頭蓋に思いっきり叩きつけた。
直撃のもっとも威力が伝わる瞬間をそらされたアリゲーターオルフェノクは無防備にその一撃を貰ってしまった。
牙はへし折られ游泳体も解除される。
脳が潰されヨロヨロと後退をする。
それでも立っていた。
治癒力の全てを回しよろめく足を踏ん張らせ再度突っ込もうとする。
恐らく既に人間としての命は途絶えたのだろう今のアリゲーターオルフェノクを支えているのは持ち主を失ったオルフェノクの力だった。
そんなアリゲーターオルフェノクをファイズは見つめながら右腰に付けられたサーチライトを取り外す。
ファイズフォンからミッションメモリーを取り外しサーチライト式のポインタ射出機『SB-555 L ファイズポインター』にはめ込む。
《Ready》
先端が伸び戦闘モードへと移行したファイズポインターをファイズは右脹脛の外側付近のホルスターにはめ込む。
中腰姿勢となり力を抜きダラける。
そしてメモリーが外れて少し物足りなくなったファイズフォンを開きEnterボタンを押した。
《Exceed Charge》
これまで聞いてきたファイズの電子音でもそれは一際力を感じさせる音声だった。
ベルトを元に紅のフォトンブラッドが目に見える程の濃度でファイズのフォトンストリームを辿っていく。ベルトから腰へ、腰から太腿へ、太腿から脹脛へ、そしてファイズポインターの先端へとフォトンブラッドが収束されていく。充填音と共にキラリと先端が光る。
完了だ。
ファイズは再び立ち上がると全力で走り出す。
100メートル5.8秒の俊足で大地を踏みしめアリゲーターオルフェノクの手前3メートルの所で跳んだ。
空中で一回転、軌道を修正しながら両足を突き出す。するとー
バシュッー
ポインターから射出された一筋の紅い線がアリゲーターオルフェノクの手前で円錐状に展開される。
アリゲーターオルフェノクももがくがポインターに拘束され動けない。
そしてファイズは落下のエネルギーを加えながら光り輝く右足を突き出す。
必殺の蹴り技。クリムゾンスマッシュがアリゲーターオルフェノクの体を貫いた。
自らも高濃度のフォトンブラッドと化しアリゲーターオルフェノクの体を突き抜け後方に着地したファイズは右手首をカシャリと鳴らした。
残留したフォトンブラッドがφの文字を浮かばせたと同時にアリゲーターオルフェノクの体が青い炎を上げあの巨躯が灰となる。
それを肌で感じながらファイズはベルトからファイズフォンを取り外し解除キーを押す。
鎧が解除され元の不機嫌そうな巧が現れる。
暫し静寂がアリーナを包んでいた。
「巧君。話聞かせて貰えるかな。」
後ろから尋ねるなのははまだバリアジャケット姿だ。巧は少し考えて、
「上に連れてってくれ。」
上というのは実況席の事だろう。なのはは理由を聞かず巧を連れて行った。ガラスが散乱していたため注意しながら巧を降ろす。そして自身もバリアジャケットを解除して制服に戻り振り返ると巧はサッサと退出しようとしていた。
「ちょっとちょっと、どこ行くの?」
慌てて止めようとするなのはに構わず巧はズンズンと実況席から消える。
「待ってよ。」
『Master戻って。急速接近する反応多数感知。教師陣が来ます。』
追いかけようとするなのはだが急にレイジングハートからの念話で不味いとなる。
もしクロエが見つかってしまえば厄介ごとになる。惜しいが巧は諦めよう。バリアジャケットを再度展開し猛スピードでピットへと戻る。一夏達は急に戻って来たなのはに驚くがなのははクロエを抱えると一夏達に一言
「内緒にしててね。後で説明するから。」
そしてクロエを連れてアリゲーターオルフェノクが開けた穴から出て行った。残された一夏と鈴音と箒はポカンとし、ISを解除したセシリアは金髪をさらりと搔き上げ灰となったアリゲーターオルフェノクを見る。灰は穴から吹き込んだ風により巻き上げられ空に消えた。間も無く教師陣が到着した頃には巧もなのはもオルフェノクも全て消えていた。
ーービル街
高層ビルが立ち並ぶ。
天に一番近い一本のビルの一室に2人の男女が居た。テーブルと椅子以外に家具のない質素な部屋だ。テーブルにはワインと二人分のワイングラスが置かれており女がそれをグラスに注ぐ。
「作戦失敗ですわね博士。今野さんは死亡ーガジェットドローンも全部破壊された上織斑一夏は殺さずじまい。」
ワインを傾かせた後、胸元を強調させたドレスに身を包んだ女は男に話しかける。博士と呼ばれた白衣の男は椅子に腰掛けたまま黙ったままだ。そしておもむろにグラスに手を伸ばし言った。
「言ったはずだよ雨女。これはあくまで威力偵察なんだ。彼らと私はこの世界の事を知らないんだ。主役がどれほどのものか知りたいだろう。」
にやけながらグラスに口を付ける。女はやや呆れながら話を続ける。
「その呼び方はやめて頂けるかしら。それにその妙に洒落た言い回しも良いとは言えないわね。彼は確かに今世界から注目されているけど……」
女は男のやけに芝居掛かった言い回しの数々が苦手だった。何処かズレている所も理由の一つだ。確かに女から見ても一夏の存在は興味深いものだったが彼が死んだ所で世界は明日も回り続ける。ISがたとえ無くなってもこの世界は問題なく進み続けるのだから。
「……なにか愉快なことでも?博士。」
クスクスと男が笑う。
癪に触った訳ではないがいい気はしない女が尋ねる。すると男は益々にやけた顔で謝罪をした。
「いや、済まない。きみを馬鹿にした訳ではないんだ。」
そう言うが女にはどう見ても馬鹿にされたとしか映らない。これ以上付き合っていても仕方がないと女はワインを口に含んで無視をする。しかし男はまるで意に返さず愉快な声色で言う。
「きみの言う通り彼が死んでもこの世は回る。しかしISは止まるんだ。」
?
「ISの稼働理由は織斑一夏の生死とリンクしているって言うの。」
「いや全く?」
「………」
言うことが理解できない。仕方なく観念して男に向き直る。
「きみ達には理解できないだろうが外から来た我々にはわかる。織斑一夏が死んだ時、この世は終わるんだ。」
「あなたが言う『特異点と基準』というやつに関係しているの?」
その通りと男は満足そうに言う。子供のように生き生きとした顔で女に語りかける。
「それらは時間とともに変化する。数ヶ月前姉の方が入って来た仲間に危うく殺されそうになったが実を言うと我々的には特に構わなかったんだよ。彼女と世界の繋がりは10年前に既に終わっているからね。」
「そして今回は新たに入って来た2人と我々の介入によって改変された要素のテストだ。特に改変の方はデータもなにも無いからね。」
改変。女は覚えがあった。
「父親殺しのお嬢さん?私もガジェットドローンからの映像で見ていたけど可愛らしいお顔の割にエゲツない子よね。もう少し早く生まれていたら第一回のブリュンヒルデの行方も変わっていたかもしれないわ。」
同じIS操縦者として女はセシリアを高く評価していた。それこそ同年代なら千冬にすら並び立つ程に。
「もっとも大きな改変だからね彼女は、どうしても見ておきたかった。」
グラスを傾け中のワインを飲み干す。
「それにしてもライダーシステムというものは本当に素晴らしいな!」
そう言う表情はおもちゃを与えられた子供のようだった。男の嬉しそうな姿に女は冷めた目を向ける。
「ISの粒子変換の技術とワンオフアビリティも興味深いものがあったが魔法と似通っていた。しかしこちらは想定外だ!」
「身体能力の強化という単純な用途だがクオリティが違う!ボディスーツというコンパクトな外骨格でしかも粒子変換の技術を搭載しながら戦闘機人を超えるスペックを装着者に与える。しかも装着者のステータスに依存せず些細な後遺症に目を瞑れば誰でも使用できるのだから兵器としてこれ程優れたモノも無いだろう。」
椅子から立ち上がり割れるグラスにも気にせず熱弁する男は狂気を感じさせた。女はその狂気にも平然とワインを傾ける。
「魔法、IS、そしてライダーシステム、異なる技術体系らが今こうして我らの前に揃った。ISについては10年の月日で大方理解できた…スマートブレインの協力もある……これらを統合させそして……」
ぶつぶつと顎に手を当て独りごちる男は、暫くして女に向き直る。飛び切りの狂った笑みだ。
「スコール。面白いことになるぞ。」
男の問いにこちらも飲み干したワインをこちらはキチンとテーブルに置いたスコールは男を見る。
「私は貴方がちゃんと仕事をこなしてくれるなら好きにしてくれて構いませんわ。スカリエッティ博士?」
嗜められたスカリエッティは尚もニヤリと笑って見せた。
ファイズに興味津々なスカさん。
セシリアさんの実力がどんどんうなぎのぼりに成っていっているような……
次回は後日談的な形です。
※人気投票の開催。詳細は活動報告にて