全て終わった。
アリーナ襲撃事件は死者0、怪我を負ったものも軽症で済み観客席に閉じ込められていた生徒達も無事救出。遮断シールドを破り突撃して来た謎の侵入者は学園側の方針で嘘の情報が発表された。その内容は『たまたま宇宙から落下してきたスペースデブリが、たまたま大気圏で燃え尽きず、たまたまIS学園のアリーナの、たまたまクラス対抗戦時に落ちてきた。』というものだった。流石に突拍子も無さすぎるとSHRで話す各クラスの教師達は怪訝を示したが、人間、本気で「そうだ!」と言われれば案外信じるもの。一部の目撃していた生徒にも箝口令が敷かれ教師達の迫真の演技で1日たった現在では既に生徒の間にそう定着している。昼休み時間の今はその話で持ちきりとなっている。ここ職員室でも取り敢えず安堵して張り詰めた空気をほぐし何時もの日常が戻り始めていた。
乾巧はその中を歩いていた。
目に入った教師に場所を聞き指を指された部屋に入っていく。生徒指導室と描かれたそこに脇目も振らず入っていく巧に職員室の大半から注目が寄っていく。そんな彼女らを煩わしく思いながら巧はこの目線から外れたい一心で速い刻みでノックする。その思いが通じたのかドアの向こうの人物は比較的早くドアを開いてくれた。内開きのドアから現れたその人物の姿を見て職員室に軽い戦慄が走る。黒のスーツにタイトスカート、黒のストッキングに当然黒い髪と目、黒づくしのその若い女教師は巧の顔を見るなり一言。
「乾か、入れ。」
IS学園の顔とも言える1年1組の担任教師、織斑千冬は徹夜で若干熊が入って二割り増しとなった眼光で巧を中に入れる。巧はそれを受け無言で入っていきドアをやや乱暴に閉めた。バタンという音が弾け、室内がピリピリとして来る。一体あの2人目の男性操縦者はなにを仕出かしやがったんだ?そんな思いもドア一つ隔たれただけの向こうに態々入っていくほどの勇気は徹夜か寝不足で疲れ切った今の彼女達には無かった。
ーー生徒指導室
質素な机と迎え合わせの椅子、それから後は棚と資料で構成された空間で2人の目付きが悪い人が向かい合っている。巧が向かいの席に座った途端千冬はガラガラとなってよりドスの効いた声で話す。
「昨日の一件、お前の知っている事を話せ。」
巧は箝口令が敷かれた生徒の1人だった。保護された場所こそアリーナと離れた選手控え室だったが、それは言うなれば襲撃の際動こうと思えば自由に動けた人物になる。実際同席していた簪は巧が途中で確かに退出していたと述べている。教員による取り調べの結果、結局巧はちょっと外の様子を見て来ようと思ったとしか言わずに昨日は打ち切られた。しかしファイズを知る千冬によって昼休み開始時に呼び出され今に至る訳だ。巧は千冬の威圧もどこ吹く風で黙っている。無論そんな生意気な生徒に合わせて優しく言い直す程、千冬は甘くないわけで。
「耳が腐ったか?答えろと私は聞いてるんだがな。」
より一層おっかない口調で巧を睨みつける。しかし巧は構わず横の棚の脇に置かれてある急須に目を付けた。そして横の湯のみも確認すると千冬に構わずそれらを取った。ズシリと急須から重みを感じる、中身が入っている証拠だ。しかも急須に触ってみるとどうやら冷めていると来たもんだから巧は早速湯のみに注ぐ。丁度いい頃合いになって急須を自分の近くに置き茶を喉に流し込む。すーっと渇いた喉に通っていく冷たい感覚に巧は機嫌を良くする。再度お茶を注ごうと急須を持ち上げたところで千冬。
「なにをしている。」
「飲んでる。」
見ればわかる。
千冬は青筋を立てながら……ため息を吐き、もう一つの湯のみを棚から取って巧に差し出した。
「昨日から飲んでない。私にもくれ。」
巧は千冬の湯のみに注いでやった。千冬は注がれたお茶をぐいっと勢いよく流し込む。少し口内に残して噛み締め、それから飲み込んだ。そして暫くして長い息を吐いたと思うと熊を湛えた目でもう一度巧を見た。
「すまない。少しイライラしていた。」
「話してくれ巧くん。」
巧は2度目のお茶を飲んでから話した。
ーー食堂
早くも決めたお気に入りの定食を席に持って来たなのはは何時もの簪の他に新顔が1人、共に食べていた。
「簪ちゃん専用機完成おめでと〜。」
簪と同じ水色の髪を外ハネで赤い瞳をした女生徒が上機嫌で簪に絡む。絡まれる簪は何とも微妙な表情をしている。
「なのはちゃんもありがとね、この子あんまり人に弱みとか話さないから苦労したでしょう?」
「感謝」と書かれた無地の扇子を開く。
「いえ、どうも。」
当たり障りの無い言葉で答えるなのは。そんななのはに簪がなにやら助けを求めるような目を向けてくる。しかし彼女の一つ違いの姉、更識楯無はそんな事知ったか知らずか簪に抱きつく。
「活躍の場は台無しになっちゃったけど宇宙の悪戯なら仕方ないわね?あ、そうだ聞いてなのはちゃん!簪ちゃんね、あの試合の中でチンピラに絡まれてたのよ。酷いでしょ⁉︎」
今は貴方に絡まれてるけどね。の思いとは別にして初耳だ。見るからに怪訝な表情で楯無の胸に抱かれている簪に今度はなのはが聞く。
「どういう事?話してくれる?」
優しさと少しの義務感を内包しながらなのはは簪に真意を問う。楯無もこれに関しては真面目なのかうんうんと何度も頷いている。2人ぶんの目を受けながら簪は少し低いトーンで口を開いた。
「別に絡まれてた訳じゃ、道を聞かれただけです。」
うそ。と楯無が叫ぶ。
「じゃあなんで泣いてたのよ⁉︎お姉さん見てたのよ。」
泣いていたという単語でなのはも少しギョッとする。しかし楯無は嘘を付いている様子では無かった。今度は楯無に聞く。
「詳しく聞かせてもらえます?先輩。」
「もう、みずくさいー。なのはちゃんなら特別に楯無で良いわよ?」
「じゃあ楯無さん。」
「よしきた。」
束とは別ベクトルで我が道を行く楯無もなのはからすれば子供のする事だ。教育者として個性の一つとして受け止めるなのはは構わずその先を聞き出す。
「私がダクトから見た時にはもうそのチンピラが簪ちゃんの胸倉を掴みあげてたのよ。」
ダクトとはなんだろうとは思ったがそれが彼女の個性なんだろうと納得する。
「簪ちゃん、本当?」
楯無の話を聞いた上で簪に確認を取る。簪はコクリとだけ頷く。
「でもそのダクトはキチンと閉じられてたから出れなくて、ゴメンね簪ちゃん。」
楯無は申し訳なさそうな顔を見せる。簪は特に答えないが楯無はそれで良いのか続ける。
「それで簪ちゃんを前に立たせて行っちゃうから慌てて追いかけてって、それで開きそうなダクトをぶっこw、開けて助けたのよ。」
なにを言いかけたのかわからないが人間少し噛む事もあるだろうと納得する。
「忘れもしないわ。顔が青ざめるを通り越して赤くなるまで怯えた簪ちゃんの顔‼︎」
「恥ずかしかっただけ。」
「それを悪びれもせずあたかも被害者ヅラして私を睨んで来たあのチンピラ‼︎」
「良い歳して恥を忍ばない痴態を無理矢理見せられたという点においては立派な被害者。」
さっきから姉と妹で意見が食い違い過ぎる様を見せられながらなのはは冷静に情報を組み立てていく。そんなやり取りの末遂に姉妹喧嘩が始まった。
「なによ!さっきからあのチンピラの肩持って!」
「別に、主観の情報を述べているだけ。」
「どうして!おねーさんなにかいけないことした?直すから言って。」
「落ち度の方向を行動だと仮定しても現在の人類の叡智では不可能。」
「そんなに⁉︎」
「人格形成には基盤があると言われてるけどお姉ちゃんの場合はそこから間違い。」
「姉の存在、全否定⁉︎」
ギャーギャーと叫ぶ(楯無が)2人に年相応な無邪気さを感じ微笑ましく思うなのは。しかしここは食堂、公共の場所だ。当然他の生徒や教師だっている。微笑ましいと見ていたがこれ以上はいけない。なにより2人の仲が悪くなってしまう。まあまあと2人の間に体を入れ手で制す。
「2人とも落ち着いて。他の人にも迷惑だし。」
「妹と学園の平和、どっちが大事だと思ってんの⁉︎」
「生徒会長としてどうかと思いますそれ。」
興奮状態の楯無をなんとか宥める。やはり楯無が突っかかっていた事が発端だったため楯無が黙ると収まった。ジュースを飲む簪は至って冷静だ。しかしだからといって彼女にはお咎めなしという訳にはいかない。たとえ周りの迷惑になっていなくとも姉妹の関係を悪化させる原因となる。
「簪ちゃん。お姉さんきみの事が心配なんだよ。大好きなんだ。」
冷静な相手は逆に興奮した相手より自分の非を認めにくい。興奮した方はその場の怒りが収まれば自分の非を認めるが、冷静な方は既に倫理的、理論的に結論を出しているからだ。下手にお前が悪いと言えば反感を買うことになると分かっているなのはは敢えて悪いとは触れず、楯無への印象を変えることにした。
「……分かっています。」
簪がジュースを弄りながら答える。不貞腐れてはいたが要するに楯無の事を嫌っている訳では無いらしい。それが分かり安堵するなのは。最悪の結末は回避しているようだ。しかし、と引っかかる。やはりどこか、確かにしこりが存在するようで簪の態度は変わらない。一時的な苛立ちなら既に収まっていても良いのだが、矢張り複雑な関係だ。ゆっくりと解消していけばいいと判断したなのはは取り敢えず置いておく。今は簪とチンピラの話だ。
「まず最初から聞かせて?簪ちゃんが思う最初からで、チンピラさんの事。」
どっちみちチンピラの行為は立派な問題行為だ。簪が良くてもその子の為にならないとなのはは簪に聞いた。
「チンピラ……」
ふと、簪の逸らされた目が急に冷めた気がした。
「なのはさんまでそんなこと……」
えっとなるなのはに簪が目を向ける。明らかに怒りが入っていた。何のことだか分からず混乱するなのはと簪の合理主義的な性格を知っている楯無は揃って驚く。
「違います……!あの子は、乾君はチンピラじゃない!」
今度こそ驚くなのは。
「乾……、巧君?」
「簪ちゃんの胸倉掴んだチンピラって乾巧君なの?」
信じられないという気持ちで思うがままの言葉で聞く。
「またチンピラ……っ」
「あ、いやこれは…」
別に悪気があった訳では無かった。確かに仲の良い簪についてだという事もありなにも込み上げてこなかった訳では無かったが、なのはは会ってもいない人間の陰口を叩く事はしない。ただ巧の名を知らなかったからと場を和ませる為そう言っただけだったのだが、それが簪には琴線に触れた。
(楯無ちゃんに対しての壁はこれだったんだ。)
納得したなのは。簪が抱いていたしこりとは姉への劣等感からではなく楯無が巧のことを悪く言ったためだったのだ。慌てて誤解を解こうとしたが簪は途中まで食べた料理をお盆に乗せて。
「ご馳走様でした。」
そのまま立ってしまった。
ーー屋上
箒と鈴がお弁当と中華を奢ってくれ、すっかり親しくなったセシリアとともに談笑をする。最近は良くここに集まる。多分なぜかと聞かれれば俺は秘密と答えるだろう。実際クラス対抗戦に備えて特訓していた時は俺がうっかり秘策を食堂で、しかも普通のトーンで話してしまい近くの生徒に聞かれてしまった事があった。あの時は1組の子だったから内緒にしてくれたけどあれ以来見兼ねた箒の提案でなにか秘密の事をした後はこうして屋上で飯を食うことにしている。IS学園は態々家庭科室に行かなくとも寮の部屋に最新のシステムキッチンを備えているという凄い所。しかし同時に食堂のクオリティも凄い所なので殆どの生徒がただの物置き場として使っているらしい。ましてこんな歩く所に来る人は滅多に居ないので秘密の話には打ってつけなのである。そして今日もその秘密の話をしていた。
「箝口令はよろしいので?」
サンドウィッチを作ってきたセシリアがキチンと飲み込んでからそう言ってくる。
昨日駆けつけた教員たちの中に千冬姉の姿があった。
『一夏!凰!無事か⁉︎』
他のISを纏った教員達に先駆けいの一番に走って来る千冬姉はピットに着くと俺の肩を掴む。あの時と同じ、滅多に見ない必死なこの人の顔。違うとすれば今回は鈴もその対象という事。初めて見る顔に鈴も戸惑っている。そして俺が大丈夫だと伝えると本当に安心したように「そうか」と言った。
その直ぐ後だ。
俺があの怪物の事を話すと少し固まって一言だけ「この事はここに居る人間以外には黙っておけ」とだけ言ってその後だった………
「私、優等生で通っておりましたのに。」
「今までで一番痛い打撃だった……」
不服そうにするセシリアとまだ痛むのか頭を撫でる箒を見て俺は苦笑し鈴が自業自得だと笑う。
あの後セシリアと箒は千冬姉に雷を落とされていた。特に箒は専用機持ちでは無いのに危険地帯に飛び出し、しかも自ら囮になるようなあのマイクアピールだ(アリーナ全体に響き渡っていたらしく教師も知っていた)。千冬姉、避難誘導中に飛び出して行った所を目撃したらしい教師、それから後から来た山田先生に其々お叱りと千冬姉からは拳骨が下された。アレは怪物よりも威力有ったんじゃ無いかと思う。箒は鈴のイジりに自嘲気味にそうだなと答える。
「何より山田先生のが一番堪えた。」
……そうだな。
今までなんだかんだと我慢できていた山田先生が本気で泣いてたんだもんな。アレは俺も見ていて辛かった。箒に抱きついて涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら何度もよかった、よかった、ってんだもん。改めて思い出すと箒、いや俺もだよな。いろんな人にとんでもない心配かけてたんだなと今更ながらに後悔する。
「……ああ、もう。なにしんみりしちゃってんのよアンタ達。」
会話の止まった一瞬が息苦しかったのか鈴が箸を俺たちに突き付ける。行儀悪いぞ。
「折角生きてご飯にありつけてんだから、もっと喜びなさいよ。」
そう言って鈴は大口で酢豚を頬張ってみせた。頬っぺたをパンパンに膨らませている鈴を見るとなんだか可愛らしくて不思議と笑いが全員から溢れた。
「なによ。なんか文句あんの?」
不機嫌そうな口調だが得意げな笑顔で話す。セシリアとは違い口の中のものをモゴモゴさせながら。それにセシリアが顔を顰める。
「鈴さん……まったく。」
なにかを言いかけたセシリア、だがもう一度サンドウィッチを小さく噛み切る。正反対の2人が益々可笑しくてもう一度箒と一緒に吹き出してしまう。
「なに笑ってんのよアンタら。」
「見世物ではありませんことよ?」
またしても正反対。鈴が頬っぺを膨らませて、セシリアがキチンと飲み込んで、ここまで極端になるのも珍しい。
「極端ではなく当たり前の礼節ですわ。」
「それと時間通りに行動するのもね。」
きっぱり言い切った鈴に我に帰るとすっかり時間が過ぎてしまった。えっマジかよ。殆ど食ってねえぞ!
慌てる俺と箒に大口で平らげた鈴とマイペースに片したセシリアが弁当箱を持って立ち上がる。
「私ら先戻るからアンタらも早く食べないと織斑先生に怒られるわよ?」
なんだかんだ言って相性の良いらしい2人はそのまま教室に戻っていった。残された俺らは何とか飯を口に放り込み、チャイム前に教室に戻る事が出来た。
結局一番話したかった事は出来なかったな。
ーー生徒指導室
千冬は公私を切り替える時には敬称を変える。数週間ぶりに見る織斑千冬の教師としてではない顔に巧は緊張をほぐす。千冬はそうとう眠いのか目元を押さえたまま重い瞼を細めている。少しするとこちらに向き直りふっと笑う。
「心配するな、仕事はしゃんとするさ。」
千冬は再び湯のみを今度は自分で注いで飲み干す。そして真剣な顔に戻る。
「それで、オルフェノクは倒したんだな。」
「ああ。」
巧が語った内容は本当に短く「オルフェノクが現れそれを倒した」以上の事は語らなかった。なのはについても、特に理由が有った訳でも無いが優先度が低いと判断した。だから今の段階で千冬はなのはの事を知らない。彼女が魔導師を知るのはもう少し先の話。
「……すまない。」
危険を肩代わりしてもらう形となった事への謝罪と
「ありがとう。」
生徒と弟を救ってくれた事を教師として姉として礼を言う。それだけ言って千冬は取り敢えずを良しとした。礼だけして生徒指導室から出ようとした巧に千冬が待てをかける。振り向く巧にポイっと袋を投げ渡す。学園の売店で売っているサンドイッチだ。
「今から食堂に行っても間に合うまい。自分用に買っていたものだ。育ち盛りには少ないだろうがそれで我慢してくれ。」
目を丸くする巧に千冬は笑って言った。
「時間を潰させたのは私だからな、気にするな。」
有り難い。巧は再度礼をして指導室から出て行った。同時に教員たちから注目を浴びる。中には心配して声をかけてくれる教師もいたが巧は気にするなとだけ伝えて教室に貰ったサンドイッチを持って戻って行った。
ーー1年4組
結局簪の機嫌は直らず終いだった。教室に着いてもそっぽを向かれたままでそんな簪になのはも必要以上な事は何も話しかけない。瞬間的な感情の爆発で、一時的なものだと思ったからだ。今はこちらから要らぬ世話をかけず簪自身に反省をしてもらう事にして、やはり原因はなのはの失言だ。これを解消するためにもいつか乾巧に会って当時の事を聞く事は絶対必要な事である。
(アリーナの事も有るし、一夏君たちにも説明の機会を設けないと。束さんとも調整して、今まで通り護衛もしないと。忙しくなるなぁ。)
内心そうなりながらもキチンと予定を組み立てていくなのは。じきに来たチャイムと先生により一時中断されてしまうがそれでも纏まった計画を頭の隅にしまい、授業に集中した。
ーー吾輩は猫である
怪奇。
なのはがちゃっかり持って来たアリゲーターオルフェノクの灰を鑑定しながら天災 篠ノ之束は抱く。
「如何ですか束様。」
クロエが運んで来た紅茶を振り向かずに引っ掴み口に流し込む。
「おいしいよクーちゃん!」
そのまま抱きつく。いつものスキンシップ。束はそのままのテンションでうーんと唸ってみせた。そしてもう一回モニタに目を向け言ってのける。
「灰だね。」
見たまんまだった。クロエが真意を測りかねた顔をするとすかさず束が補足を入れる。
「正確には灰が一番近かった。」
「つまり厳密には違うと?」
しかしまたもうーんと唸る束。
「灰ってのは草木、動物を燃やして残ったものの事だけど。クーちゃん、灰の主成分って知ってる?」
思ってもみない質問にクロエは面食らいながらも束の問いかけなら全力で応える。しかし人には分野というものがある。どうやらクロエの得意分野に灰関連の事は含まれていなかったようで、申し訳なさそうに頭を下げるクロエを撫でながら束が口を開く。
「カリウムとカルシウム。あとはマグネシウムとか燃えても気体にならない金属類が灰の主成分だよ。」
束は微笑みながら元素を口にする。
「普通の人間は灰にはなにも残っていない燃えカスだと思っているみたいだど、灰はあくまで火で変化しなかった物が残っただけで、灰も利用価値があるんだよ?」
科学者として言わせてもらえば灰は立派な化学物質だ。手軽に手に入る事で古来から利用されて来たキチンとした化学物質なのだがそれは別の機会にでも話す。束はでもと付けたし機械の上に置かれたアリゲーターオルフェノクの灰をひとつまみする。
「これにはなにも検出されなかった。」
人差し指と親指をゆっくりと回すように擦り合わせる。サラサラと細かい粒が落ちていく。
「生物なら必ず出来るはずのミネラルも、僅かな貴金属もなに一つこの体積の中には含まれていない。この粒子の一つ一つに該当する元素が存在しないんだ。」
生憎主人と違い科学、化学に疎いクロエには事の重大さを正しく理解できなかった。束はそんなクロエに愛しさを抱きながら出来るだけ分かりやすく説明した。
「要するに凡人が言うように本当に残りカスって事だよ。」
「分かりました。有難う御座います束様。」
浅く丁寧にこうべを垂れるクロエ。そんなクロエを抱き締めながら束は深まる謎に科学者として冷静にしていた。
そもそも存在事態が生物学として有り得ない彼ら灰色の怪人達。そっち方面は専門ではないがそれでも奴らの身体能力と外皮硬度、そして形態を変化させる力に炎を上げて灰になるというSFチックな最期は異常だ。なのはとの戦闘を見てもより生物外じみたという印象が深まるだけだった。そしてなのはにマークさせていた巧が変身したあの強化服。現物を調べなければどうとも言えないが、なのはの魔法同様この世界の技術体系とは異なるもので構成されたものだろう。恐らく
『とぉきぃをー超え刻まれた、かーなぁしーみの記憶〜♪』
急に流れる場違いなメロディに束の機械仕掛けのうさ耳が上下する。
「あ、この着信音は…」
束はポケットから携帯を取り出し着信に出る。一つの連絡先しか持たないその携帯は束のお手製だ。
「なぁになのはちゃん。」
もすもすひねもすは止めたらしい。電話の向こうのなのはは困ったように言った。
「実は簪ちゃんに嫌われちゃって……」
「……なのはちゃん。これさ、この携帯さ、そういう日常生活レベルのこと報告させるために渡したんじゃないんだけどさ。」
珍しくまともな事を言う。
「?」
それに対しなのはは少し間を置いて直ぐにケロッとした口調で言った。
「知ってます。」
「喧嘩売ってる?今束さん神経張り詰めててさ、ちょっとそういう冗談聞き流せない精神状態なんだけど。」
青筋を立てながら携帯を握る力を強める。音声越しにも分かる怒りの感情をなのはに向ける。なのはは少しも怯む様子は無い。
「私の問題ですから気にしなくて結構です。」
じゃあ言うな。
優しく気にしないでと言える明るさは普通はプラス要素だが今回はマイナスだ。
「それでその解決の為には巧君と話し合う必要が有るんですけど、ついでにアリーナの事も聞いておきましょうか?」
だから知らねぇっつの……ん、ちょっと待て。
「なのはちゃん、誰と話すって?」
「巧君です。」
「なんでやねん⁉︎」
厳密にはもっと別のことが言いたかったが取り敢えず叫んどいた。
ーー放課後 屋上
『丁度良かったよ。私も話したいことが有ったから、それも踏まえて予定作っといて。場所は束さんがなんとかするから。」
「分かりました。話しときます。」
それだけ伝えて私は取り敢えず通信を切る。それにしても束さんが来るなんて、よっぽど気になったんだろうな。伝えることは伝えたので私はすっかり定位置となった放課後の屋上から出ようと魔力で作ったサーチャーを解除してドアノブを回し、
回った。
「え、」
誰かが向かい側に居る。私は外開きだった筈のドアから慌てて離れる。退がって直ぐにドアが勢いよく開け放たれた。
「痛。」
避けきれず顔を庇った右手に鉄製の扉が容赦なく当たる。それ程のものでは無かったが思わず大きい声が出る。
ーー放課後 屋上扉前
「痛。」
ガツンと扉が止まって女の声が聞こえる。どうやら向こうに居たみたいだ。俺と同じ理由かは知らないがともかく悪いことをしてしまった。昼間やはり足りなくて放課後に売店で買ったパン。早く食べたかったからかなり勢い付けて開けたからな。空いた隙間から屋上に出てその女性に声をかける。
「すいません。」
「あ、大丈夫です。」
横で髪をくくった女は同級生。そして何処かで見たことがある。昨日オルフェノクと戦ってた変なISに乗ってた女だ。
「魔女っ子か。」
「たく…え、魔女っ子?」
ーーーーーーーーーーーー
放課後になると生徒は当然バラける。要因は変われども授業が終わりHRが終わり、鞄を持って校舎を出れば皆そこに一瞬でもパアッとした開放感を感じる。直ぐに別の感情や用事に流されてしまう事も珍しく無いだろうがそのままのテンションが続く事も有る。その少女も正にそれであり同級生の薄茶色のミディアムカットで前髪を右に流し、頭に帽子を浅く被った少女に慣れくっ付く。少女自慢の美しい金色の長髪が親友の左顔にふぁさっと被さる。しかし親友は嫌がる様子は無く無言で少女の好きにさせている。一頻りじゃれついた後で少女は口を開く。
「どう?なのはちゃんと巧くんの日程。聴けた?」
親友は顔を向けず校舎の屋上の方は文字通り聞き耳を立てながら言う。
「次の日曜日だそうです。」
親友は少し間を開け帽子を取る。少女はそれを聞いてわっと明るくなる。
「日曜?どこどこ!場所どこ!」
テンションの高い少女に構わず自分のペースで親友は教える。
「篠ノ之博士が用意するって言ってました。」
少女は益々にやける。
「そっか、日曜日だったらお母さんも一緒に聞けるよね?」
「私がいれば別に現地で聞かなくても良いと思いますが。」
「駄目だよ。ちゃんと自分の目で見ないと、為にならないんだよ。」
「伝えておきます。」
親友の言葉にうんと頷き少女は跳ねる。
「じゃあ私達も準備しなくちゃねーー
リニス!」
「そうね、アリシア。」
おまけ 次回予告集
IS編
「待ちに待った帰省日!なにしよっか?」
「ねえねえ、それより聞いた?2人目の男が4組の女子とその日2人で出かけるんだって!」
「えぇ!それってデート⁉︎」
「こうしちゃいられないわ主役通しの婚約!見逃せないわね。」
「え、主役って織斑くんじゃないの?」
『だって…ねえ。』
「次回、『秘密の会談』
影が薄くても負けるな!フレー、フレー、お、り、む、ら、」
リリカルなのはStrikerS編
窮地を救った謎の仮面の姿
深まる謎に対する疑惑
これで全て取りさらわれる事はない
それでも
次回 魔法少女リリカルなのはStrikerS、第14話
『秘密の会談』
テイク、オフ!
仮面ライダーファイズ編
Open your eyes for the next φ's
「驚いた」
「こっちのセリフだ」
「初めまして、乾巧くん」
「オルフェノク?」
「どう母さん?」
「興味深いわね」
最後に出てきた3年生の2人組は当初から予定していました。
キャラ増やしてストーリー破綻しないか今更ながら不安になってきましたが頑張ります。
次章、統合編が始まります。
応援、叱咤激励、大歓迎
※人気投票の開催。詳細は活動報告にて