今回は千冬さんの話となります。また一夏以外の描写には三人視点を用いることにしました。
改変を多用する作品なのでできる限り原作に似せたいと思います。
原作開始前 1 織斑千冬の遭遇
ーーお前の家族は私だけだ。
いつの頃だったか、弟に対してそんなことを言った。
そう言いたかったのではない、そうとしか分からなかっただけだ。
物心ついた時には親は居なかった。そう弟は認識している。
だから姉に尋ねた。
姉なら知っている、姉ならば顔が分かる、姉ならば彼等の事を解っている。
不安と期待の入り混じった表情で自身を見上げる弟に対し、千冬は全く予想外の思いを抱いていた。
(私も知りたい)
姉は両親の事を微塵も知らなかった。
覚えはある、共に遊んだこと、家事を手伝ったこと。
褒められたことも叱られたことも確かにあった。
だが思い出せない。
同時期の他の記憶、友達との楽しい思い出は今も摩耗しながらも残っている。
なのに家族との思い出は弟以外は全てカケラも引っかからない。
「家族とは一番大切なものだ。」
彼女自身確信していること、弟の一夏は自分が愛情を注ぐ唯一の存在だ。
彼についての記憶は最も強く精彩なものだ。
記憶とは大切なものから記憶していく、なのに大切なはずの家族である両親の記憶はない。
彼女の精神はその疑問を追求するよりも解決することを選んだ。
思い出せないということはそれは大切ではないという事、彼等は家族ではないからだ。
そうして織斑千冬は両親についての思考を一切切り捨てた。
彼女にとっての家族は織村一夏 唯1人なのだ。
腕時計はちょうど10時を示したところ
「………」
懐かしい、煩わしい。
相反せずとも混じり合いにくい思いを抱きながら、織斑千冬は久しぶりの家族が待つ自宅への道に着いていた。
受験シーズンも近くなり会場の手配や問題の作成などに追われながら普通なら帰れるわけが無いのだが、気の利く同僚に試験官の肩代わりを受け、時間が空いたのだ。
心の中で同僚の、この春副担任として自分とクラスを受け持つ彼女に対して礼を告げ脚を速める。
弟はどんな反応をするだろう。
日の高い内に帰ったことなどいつぶりだろう、きっと驚く。
久しぶりにあいつの料理に舌鼓をうって、常に貯蔵してくれている酒を昼間からかっ喰らい、小言を言ってくる弟をからかう。
うん良い。
楽しそうだ。
きっと強い思い出になる。
千冬はこれからの一家団欒の光景を思い浮かべ、軽く笑みを浮かべる。
彼女の人となりを正しく理解していなければ見逃してしまうほどの小さな違いだったが。
「うん?」
ふと、高揚していて見逃すところだったが職業柄目に入ってきた。
自分の進行方向の先に佇むコンビニ。
平日の駐車場には地理的な影響もありガランとしており、他ではよく見かける屯する若者も見えない。
1人を除いて。
男はポツンと佇んでいた。
特に気を引く服装でも無い、容姿も絶世だの讃えられるほどのものでも無し。
なのになぜこんなに違和感を覚えるのだろう。
千冬は帰りのことなぞ忘れその男に視線をやった。
茶の長髪、目つきは鋭く…見ればまだ若い。
十代後半程、高校に通っていてもおかしく無い年の頃。
これはいかん。そう思った千冬はその少年に近づく。
本当はもっと別の要因があったのだが今の彼女は義務感に溢れておりついぞ気付かなかった。
「きみ、」
声をかけると弾かれたように此方に向く少年。
……目つき悪いなこいつ
「少しいいかな。
きみ年は?学校はどうしたんだ?ここで何をしている。」
「あ?…あぁ……ん?」
少年は質問には一切答えず代わりに、しきりに疑問形を漏らすのみだった。
若干癪に感じながらも辛抱して続ける。
「名前を聞いてもいいか?」
いきなり踏み込んだ質問だと思うが、どうやら状況理解が追いついていないらしい少年には丁度良いかもしれない。
「乾巧」
思いの外アッサリと答えてくれたことに拍子抜けしながらも状況は進展した。
「乾君だな。
私は織斑だ。教師をやっている。」
軽い自己紹介に乾は小さく頭を頷かせる。
わりと礼儀正しいところがあるもんだ、そんな事を思いながらも千冬は乾と話を進めた。
「学校へは行ってないだと?」
「はい、そもそも通ってません。
中学卒業が最後っす。」
どうやらこの少年、高校へはそもそもにして入学すらしていないらしい。
乾によるとこれまではアルバイトで食いつないでいたらしい。
「何というか…親御さんはどうしている?」
「死にました。」
更なる衝撃。
家出少年だと思っていたが、彼の親は2人とも既にこの世を去っているようだ。
(同じか、私たちと。)
妙な親しみを覚えながらも余り誉められるような共通点でも無いため軽く流す。
「火事が原因で、高校へは資金面で問題あったんで辞めたんす。」
「バイトして野宿して、んで暇なんで色々旅してて。」
そう言うと乾は後ろを指す。
コンビニの角の部分にオフロードタイプのバイクが止められていた。
なるほど位置的に見えなかったが、彼は屯していた訳ではなく立派な客だったようだ。
「そうか、偉いな。」
純粋にそう思う。
「呼び止めて済まなかったな、少ないがお詫びだ。」
そう言うとポケットから財布を取り出し5000円ほど手渡す。
それと同じくメモとペンを取り出し走らせる。
「それから私の連絡先と勤め先だ。
なにか合ったら頼りなさい。」
乾は相変わらず仏頂面のまま小さく頭を頷かせている。
愛嬌のない奴だと苦笑しつつも彼の肩をばんばんと叩く。
「頑張れよ。」
激励。
こんな事しか出来ないが、せめてやらなければ済まない。
頷く乾に微笑みかけながらその場を後にしようとし………
自動ドアの開閉音。
振り向くとコンビニの中からスーツ姿の男性が見えた。
どうやら乾以外の客らしい。
割と繁盛してるんだなと思うと ふと、
様子が変だ。
男性は何故か自動ドアの前から動こうとしない。じっと佇んだまま此方を見つめている。
変だ。見れば見る程男性の相貌は余りにも生気に欠けすぎていた。
まるで動く死体。
そこまで考えて千冬は更なる異変に気付く。
コンビニが営業中だという事は当然店員などどうしても人の気配がする筈なのだ。
だというのに店内は明かりが全て消えており、営業している様子にはみえない。
そして男性が佇んでいるお陰で開きっ放しの自動ドア。その向こうのレジ。
店員がいない
「巧くん、少し下がっていろ。」
何か言おうとする巧を無視し、無理やり自分の後ろへ下がらせる。
男性が遂に歩き出した。
「! 退がれ‼︎」
危険だ。
巧に激を飛ばし自分も下がろうとしたところで。
男性が変わった。
「な、に、?」
異様な光景だった。
男性だったものがそこに立っている。
背丈は2メートル以上。
体色は灰色でほかの色は無し。
人型で頭からは角を生やしていた。
「鬼?」
鬼が動く。
ゴウッと音が聞こえそうな急加速。
棒立ちの状態から予備動作も一切無しの文字通り瞬間移動のような猛ダッシュ。
かつて世界の舞台でISの
「逃げろ‼︎」
自分の後ろの少年の肩か胸を渾身の力で突き飛ばした。
次の瞬間千冬の身体は宙に浮いた。
「がああぁぁぁ⁉︎ぐ、かはぁ‼︎」
ピンで貼られた蝶。
鬼の巨大な手で肩口ごと首を鷲掴みにされた千冬は経験したことの無い苦痛を味わった。
窒息ー
そんなこと等生易しい。
鬼は驚異的な膂力で千冬の首を肩の骨ごと砕く勢いで締め上げた。
反撃など考える暇もない。
眼は絞られ、なんとか引き剥がそうと両手をかけるも巨岩の如き腕は小揺るぎともしない。
「あ、がっ……‼︎」
メキメキ………
薄れる意識の中自分の骨が軋む音が聴こえてくる。
ーあぁ死ぬのかー
やたらと冷静になった頭でそれを受け入れた千冬は少しだけ瞼を開いた。
何時もよりだいぶ高い目線からの景色は意外と悪く無かった。
(今年から担任教師……割と楽しみにしてたんだがな………山田先生済まない、折角気を利かせてくれたのにな……巧くん……彼はしっかり逃げただろうか?
彼はちゃんと生きねばならない。)
首から下が途端に冷えてくる。
腕がダラリと落ちる。
「い………ち…夏」
死の間際だからだろうか、
何時もより鮮明に聴こえ
(赤……いや、紅か)
何時もより美麗に、映えて見えた。
浮遊感の内千冬の身体は投げ出された。
「がッ‼︎……っ……はぁ‼︎がはっごほっ……」
急な解放に混乱しつつも、未だ激痛走る喉と肩を抑え新鮮な空気を貪る。
なにが起きた?
酸素を途絶されたことで未だ回らぬ頭を巡らせ鬼を睨む。
紅が居た。
角があるという点では鬼と同じだが、鬼と違いその質感は人目で人工物である事が解った。
紅の戦士は無手で鬼と睨み合っていた。ついで、
鬼が燃えた。
地味な体色とは対照的に艶やかな青い炎を上げ、次の瞬間にはあの屈強な巨体が嘘のように崩れ落ちた。
比喩ではなく本当に灰のように、ぱらぱらと宙に舞いながら。
死んだ。
「はあ、はあ。」
ようやく落ち着いてきた千冬に戦士は、目も向けようともせずに自身のベルトからデバイスを取り外し何か操作をする。
再び眩ゆいばかりの紅が戦士を包み込んだ。
それは一瞬のことで直ぐさま光は収まり人影が見え……
「巧くん⁉︎」
戦士の居た場所には代わりに自分が先程逃がそうとした少年が立って居た。
「………」
千冬の驚愕にも乾巧は相変わらず必要以上反応しなかった。
第2話は千冬さんとたっくんの出会いのシーンです。
自分ではたっぷり5,000字以上書いたつもりなんですが、まだ3600字しか使ってないことに驚愕。
スマホで打ってるんですが、イマイチもたもたしてしまう……
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